『Handle With Care』Jodi Picoult(Atria Books)
「家族の愛の形を考えさせられる作品」
僕の通ったマサチューセッツ州の大学では、2年生から3年生にあがるとき論文ライティングの技能試験があった。大きな講堂に集まり、渡された命題と資料をもとに論文を仕上げるというもので、回答時間は確か2時間だった。
その試験の命題は決まってモラル的に選択が難しいもので、資料の方は新聞記事や誰かの論文だったりした。命題は例えば、死刑を存在さすべきか廃止すべきか、延命措置の解除はいかなる状況で正当となるかなどだった。
今回読んだニューヨーク・タイムズ紙ベストセラーリスト第1位となった『Handle With Care』もそんなモラル的選択の難しさを読者につきつける作品だった。
物語の中心となるのはオキーフ一家。家族構成は、警察官のショーン、以前はケーキ職人をしていたがいまは専業主婦のシャーロット、長女のアメリア、そして次女のウィローの4人だ。
この家族の抱える問題は、次女のウィローが先天性の骨粗しょう症で、生まれる以前にすでに7カ所の骨折があったことだ。
「最初の7カ所はまだあなたが産まれる前、次の4つは産まれてから数分のうち。そしてその病院で蘇生中にまた9カ所」。この文章に心が痛んだ。
その後もシャーロットの骨折は続き、寝返りを打つだけでも骨折する彼女は、5歳までにすでに大腿骨を含む30回を超える骨折を経験する。
物語が始まってすぐに家族はフロリダ州のディズニーランドに出かける。楽しみにしていたバケーションだったが、ウィローが床に落ちていたナプキンに足を滑らせ骨折してしまう。病院に運ばれ、X線で多くの骨折の形跡を発見した医者は幼児虐待の疑いがあると警官に連絡し、その結果シャーロットとショーンは逮捕され、アメリアは養護施設に送られる。
ウィローを看ている掛かり付けの医師と翌日に連絡が取れ、家族は再び一緒になるが、怒りが収まらないショーンはフロリダ警察を訴えようと弁護士のところにいく。
この弁護士との話し合いが物語の大きな転機となる。弁護士は出産を担当した産科医を訴える道があることを示す。しかし担当産科医は家族同士のつきあいがある女性であり、その上訴訟となった場合はウィローの病気を事前に知っていたらウィローを中絶したはずだと証言しなければならない。
だが勝訴すればその多額のお金を使ってウィローの将来を安定させることができる。家族はすでに経済的に苦しく、いつか彼女を支えきれなくなることは目に見えている。
ウィローが産まれてこなかった方がよかったと証言するか、彼女の将来に不安を残したままの生活を続けるかの選択を迫られた家族は大きくきしみ始める。
裁判は母親が原告側、父親が弁護側に別れ争われ離婚の危機さえ向かえる。長女は自傷行為に走り、家族は崩壊の一歩手前まで追いつめられる。
家族の愛とは何か、なにが正しい道なのかを考えさせられる作品だった。