書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2005-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『巨大バッタの奇蹟』室井 尚(アートン)

→紀伊國屋書店で購入 「昆虫が世界を救う?」 教授会がめずらしく早く終わったとき、同僚で現代中国文学が専門の山口守さんが「せっかく本もってきたのに読む間がなかったよ〜」とぼやきながら、妙に赤と銀のカバーのめだつ本を見せてくれた。バルーンでバッ…

『芸術と貨幣』マーク・シェル(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「貨幣と芸術、貨幣とキリスト教の親密な関係」 芸術に描かれた貨幣というと、ついティツィアーノの描いたダナエの裸体にふりそそぐ金貨を思いだすが、絵画だけにかぎってみても、貨幣はさまざまに異なる顔で登場していることに驚かされ…

『生きて死ぬ智慧』柳澤桂子(文)堀文子(画)(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「崩れ落ちる気持ちを拾いに しゃがみこんだまま 頭をかかえてうずくまる」 強烈なストレスの毎日です。この数年、安眠という言葉から見放されていて、レムとノンレムの周期の90分おきに目が覚めては、寝言にもならない唸り声のような感…

『急がば廻れ’99』鶴岡雄二(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 「青春とポップスの甘い思い出に負けない大人になる?」 新しいことに出会ったとき、大きく分けて人は二通りの反応をするようです。1つは、「ああ、世の中そんなものだと思ってた」というもの。もう1つは「え! まさかそんなことだっ…

『Winnyの技術』金子勇(アスキー)

→紀伊國屋書店で購入 昨年5月、ファイル共有ソフトWinnyの作者、金子勇氏が、京都府警により著作権侵害幇助容疑で逮捕され、起訴されるという事件が起きた。ソフトウェア作者が逮捕・起訴されるのは異例であり、ゆゆしき事態だが、その金子氏がこのほどWinny…

『アンコール・王たちの物語-碑文・発掘成果から読み解く』石澤良昭(NHKブックス)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「今は遺跡どころではない。食糧供給が先だ」と言われた1980年代初期の疲弊したカンボジアで、…

『The Curious Incident of the Dog in the Nighttime』Mark Haddon(Vintage Books)

→紀伊國屋書店で購入 「The Curious Incident of the Dog in the Nighttime by Mark Haddon」 Despite its intricately effusive title, Mark's Haddon's first novel is a simple suburban whodunit. If the mystery is trivial, Haddon's achievement cert…

『聖パウロ : 普遍主義の基礎』アラン・バディウ(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「刺激的なパウロ論」 パウロは哲学的に深いものをもっているだけに多くの思想家が考察の対象にしている。キリスト教がナザレのイエスの教えから分岐して、キリスト教となるためにはパウロの思想が非常に重要な役割をはたしているからだ…

『森敦との対話』森富子(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 今回はちょっと心理学関連の本から離れてみよう。 みなさんは森敦の『意味の変容』を読んだことがあるだろうか?我々の世代で『意味の変容』といえば、ニューアカブームの頃、柄谷行人が何度も取り上げていたので知っている人も多いかも…

『CREAM Royal Albert Hall 2005』<br>(ワーナーミュージック)<br>『LEGENDS Live at Montreux 1997』<br>(コロムビアミュージック)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「where the shadows run from themselves 来週はマジソンスクエアガーデン 行けそうもないおやじロッカーの宿命」 CREAMとはエッセンスという意味精華、粋(すい)、凄い…という意味もあるけど、初めからのLEGENDS…

『だれが中国をつくったか-負け惜しみの歴史観』岡田英弘(PHP新書)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 独創的な歴史観で知られる著者、岡田英弘の新刊とあって、まず目次を開いた。「序章 中国人の…

『マヴァール年代記(全)』田中 芳樹(創元推理文庫)

→紀伊國屋書店で購入 あまりにも有名な田中芳樹の作品であるが、一般的にはどのシリーズを最初に手に取るのであろう? 私の場合は、大学で政治学の講義を取っていたとき「政治を理解したければ、『銀河英雄伝説』か『ゴルゴ13』を読まなければだめだ」と言わ…

『生き方の人類学──実践とは何か?』田辺繁治(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「ぼくたちは「知」を生きている」 全部で260ページほど。なんてことない、ごくごくありふれた背格好の新書本だ。だが、「実践」にかんする文献の森で迷子になりかけていたぼくにとっては、この本との出会いは、一葉の地図を手にいれた…

『思想のケミストリー』大澤真幸(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](9) わたしはこれまで同時代の思想家の発言に注目してきた。なかでも社会学者、大澤真幸の著作には幾度もうならされた経験がある。彼特有の原理的思考によって対象の本質が鮮やかに浮かび上るとき、わたしは上質…

『中国の歴史09 海と帝国 明清時代』上田信(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 前回、「中国制度史と社会史の乖離を埋めることによって、全体史が現れ、また違った中国史が出…

『ひなちゃんの日常』南ひろこ(産経新聞ニュースサービス)

→紀伊國屋書店で購入 幼い頃に夢中になったもののひとつにプラモデルがあった。そしてマンガ。マンガは今でも驚くほどの数が出版され、書店の棚を埋めている。 マンガが嫌いになったわけではないが、以前のように根をつめて読むだけの余裕がなくなってきた。…

『81−1』夏木マリ(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「サルトルとボーボワール突然炎のごとく体内時間じかけのオレ・・必ずアイルシートに座る」 六本木の芋洗い坂にストライプハウスという個性的なギャラリーがあって、一 昨年だったか、サルトルとボーボワールの写真展があった。http://…

『脳の中の幽霊』ラマチャンドラン(角川)

→紀伊國屋書店で購入 2000年以降で最も売れた科学書はといえば、おそらくラマチャンドランの「脳の中の幽霊」だろう。数多くの実験と事例を含むこの刺激的な本は、間違いないくこの10年を代表する科学書だ。 まずはタイトルがいい。原題は「Phantoms in the …

『スローなユビキタスライフ』関根 千佳(地湧社)

→紀伊國屋書店で購入 「本当のユビキタスコンピューティング」 「ユビキタスコンピューティング」という言葉が流行している。最先端技術の開発で有名なXerox PARCの研究者が将来の計算機環境を予言した言葉だとか、いつでもどこでも計算機が使えるようになる…

『コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判』Hubert L. Dreyfus(産業図書)

→紀伊國屋書店で購入 「できることの範囲に含まれないこと」=「できないこと」は必ずしも正しい認識ではない。エンジニアは、それがシーズからニーズを作り出すのであれ、その逆であれ、「できること」に着眼して発想する。開発現場で「できないこと」を主…

『中国江南の都市とくらし-水のまちの環境形成』高村雅彦(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 ハリケーン・カトリーナがニューオーリンズを襲い、スープ皿といわれる街が水に覆われた。人び…