書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『三島由紀夫 幻の遺作を読む』 井上隆史 (光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 著者の井上隆史氏は三島由紀夫の遺稿を保存する山中湖文学の森三島由紀夫文学館の研究員で、「幻の遺作」とは副題に「もう一つの『豊饒の海』」とあるように、同館が収蔵する創作ノートと草稿の研究から想定された『豊饒の海』の別の結…

『東京高級住宅地探訪』三浦展(晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 「理想の住宅地のなれの果てを歩き回った記録」 本書は、消費社会研究家の三浦展氏が、東京西郊のいわゆる高級住宅地について、いくつもの文献を参照しながらその成立の経緯を辿るとともに、実際に歩き回った記録に基づいてその現状を記…

『水戸岡鋭治の「正しい」鉄道デザイン ― 私はなぜ九州新幹線に金箔を貼ったのか? 』水戸岡鋭治(交通新聞社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「JR九州の鉄道デザインはなぜあんなにも「奇抜」なのか」 鉄道を趣味とする人々にはすでに知られた情報だが(一般の新聞にも記事として掲載されていたが)、昨年末、国鉄で副技師長を務められた星晃氏が亡くなられた。星氏といえば、…

『パリ愛してるぜ~』じゃんぽ~る西(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 「「日常化」したフランス」 フランスについて書くのは勇気がいる。日本には、この国に対して異様なまでに思い入れの深い人々がたくさんいるからだ。 かつて永井荷風は、『ふらんす物語』の中で、帰国日の嘆きを次のように書いていた。 …

『右岸』辻仁成(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「「右岸」と「左岸」はどこで交わるのか」 辻仁成は器用な作家である。ミュージシャンであり、詩人であり、作家であり、映画監督でもある。しかし、我々はそういったカテゴリーから人を判断するために、ずいぶん「器用」な人だと思って…

『三島由紀夫』 ルシュール (祥伝社新書)

→紀伊國屋書店で購入 フランスではじめて出た三島由紀夫の評伝の邦訳である。 ガリマール書店といえば岩波書店と新潮社をあわせたようなフランスの老舗出版社だが、「ガリマール新評伝シリーズ」という入門的な評伝を出していて、祥伝社から7冊邦訳が出てい…

『ライジングサン』藤原さとし(双葉社)

→紀伊國屋書店で購入 「今どきの若者からみた自衛隊」 本作は、自らも自衛隊入隊経験のある漫画家、藤原さとし氏によって書かれたマンガであり、現在『漫画アクション』で連載中である。 主人公の甲斐一気は、「夢もとりえもない平凡な日々を送る」(裏表紙…

『評伝 梶井基次郎』 柏倉康夫 (左右社)

→紀伊國屋書店で購入 梶井基次郎の評伝である。著者の柏倉氏はマラルメの研究家で(本欄では『生成するマラルメ』をとりあげている)、フランスの現代批評に親しんでいる人なので作家の人生べったりの評伝とは異なり、批評として読みごたえのある一冊となっ…

『医療におけるナラティブとエビデンス:対立から調和へ』斎藤清二(遠見書房)

→紀伊國屋書店で購入 「医療者と患者の新しい関係に向けて」 以前の当ブログで(2008年04月30日)、近年、医師の経験と勘による判断よりもむしろ疫学的根拠(エビデンス(evidence):詳しくはさきほどの2008年04月30日のブログをご覧ください)を重視する医…

『<small>哲学の歴史 10</small> 危機の時代の哲学』野家啓一編(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第10巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本シリーズでは20世紀を現象学と西欧マルクス主義をあつかった…

『説得』ジェーン・オースティン作、中野康司訳(ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「驚嘆すべき地味さ」 卒論や修論のテーマが話題になる季節である。英文学界隈で相変わらず人気を保っているのは、シェイクスピアとならんでジェーン・オースティン。今年はおなじみの『高慢と…

『ハーバード白熱日本史教室』北川智子(新潮新書)

→紀伊國屋書店で購入 「ハーバード生を魅了した授業!」 『ハーバード白熱日本史教室』というタイトルを見て、マイケル・サンデル教授の二番煎じかと思ったのだが、内容は全く違った。いや、学生の好奇心を刺激し、教室が受講生で溢れんばかりの授業であると…

『哲学原論/自然法および国家法の原理』トマス・ホッブズ(柏書房)

→紀伊國屋書店で購入 「近代的なものの原典」 ついに出た。ホッブズの哲学体系三部作の完訳。哲学要綱草稿付き。2012年の読書界の収穫と言えば、本書を挙げなくてはならない。総計1700頁に及ぶ大冊(!)の重みは、優に大辞典に匹敵する。持ち運びには不便こ…

『日本統治時代台湾の経済と社会』松田吉郎編著(晃洋書房)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、兵庫教育大学東洋史研究会を前身とする史訪会の会員13名からなる論文集で、「新たな研究成果を盛り込んで体系的に日本統治時代台湾の社会経済史を述べる必要がある」との考えから企画されたものである。 その13の論文(章)は、…

『Wasted : A Memoir of Anorexia and Bulimia 』Marya Hornbacher(Perennial)

→紀伊國屋書店で購入 「ブリーミアにかかった少女の話」 昔ニューヨーク・タイムズ・マガジンでシカゴに住む16歳の女子高校生の話を読んだ。その女子高校生は金髪にグリーンの瞳そして長身。チア・リーダーでもある。 だが、彼女には秘密があった。それは「…

『ベルリンの壁-ドイツ分断の歴史』エトガー・ヴォルフルム著、飯田收治・木村明夫・村上亮訳(洛北出版)

→紀伊國屋書店で購入 「壁が倒れたとき あなたは何歳でした? なぜ人びとは壁に慣れてしまったのか? その壁がどうして、1989年に倒れたのか? 建設から倒壊までの、冷戦期の壁の歴史を、壁のことをよく知らない若い人にむけて、簡潔かつ明瞭に解き明かす。…

『ドビュッシーと歩くパリ』中井正子(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 昨年のコンサートステージでは積極的にクロード・ドビュッシーの作品がとりあげられていた。パリを愛し、フランス印象派を象徴する魅力的な作品を数多く創作したドビュッシーの生誕150周年を意識してのことである。ドビュッシーが創作し…

『No Easy Day 』 Mark Owen, Kevin Maurer (CON)(E P Dutton)

→紀伊國屋書店で購入 「ウサマ・ビンラーディン急襲作戦の回想録」 2011年の5月、国際テロ組織アルカイダの指導者「ウサマ・ビンラーディン」がアメリカの米海軍特殊部隊(ネイビー・シールズ)の急襲作戦により殺害された。 この作戦遂行はネイビー・…

『星を撒いた街』上林暁(夏葉社)

→紀伊國屋書店で購入 「〈である〉と私小説」 私小説が話題になるとき、上林暁は必ずしも筆頭にあがる名前ではないだろう。でも、4、5人のうちには入っているかもしれない。10人に枠を広げればまず当確。つまり、知ってはいても、意外に読む機会の少ない…

『学校を災害が襲うとき 教師たちの3・11』田端健人(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「震災をプラスに変える」 あの日から二年が経とうとしている。今も引きも切らず出されている3・11関連本の中で、本書にめぐり会えた読者は幸せである。ここには、東日本大震災の経験が明らかにし、今後も伝えていくべき何かが、記され…

『幻談・観画談 他三篇』幸田露伴(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「露伴という不易流行」 幸田露伴は、大政奉還の年に生まれ(漱石・子規・熊楠と同じ歳)、明治・大正・昭和の戦後に至るまで、文筆業を貫いて80歳の天寿を全うした。言文一致の揺籃期から無頼派の隆盛までの歳月は、昭和・平成の80年間…

『東大講義 東南アジア近現代史』加納啓良(めこん)

→紀伊國屋書店で購入 「あとがき」で、著者加納啓良は「国や地域ごとに民族や言語が大きく異なる東南アジア全体の歴史を1人で描くという冒険をしている」と述べている。長年、東京大学で「東南アジア近現代史」や「東南アジア経済史」の講義を担当してきた著…

復刊リクエスト募集のご案内

◉ご案内 毎年恒例の〈書物復権〉共同復刊、第17 回目の2013 年は、ご紹介する115 点120冊の品切書が復刊候補としてあがりました。今回は、8 出版社にプラスして、本年創業95周年を迎える春秋社もあらたに加わり、さらに充実したリストをそろえることができま…

復刊候補一覧① 《哲学・思想・言語・宗教》

哲学・思想・言語・宗教 1 岩波書店 ギリシア語文法 高津春繁 初版1960・最終版2010年◆A5判◆496頁◆予価7875円(本体7500円) 引例が豊富で、精密なギリシア文法書である本書は、文章論に詳しく、方言も取り入れ、ギリシア文学に親しもうとする人々にも便利な…

復刊候補一覧② 《社会》

社会 34 勁草書房 性と文化の革命 W.ライヒ/中尾ハジメ訳 初版1969・最終版1993年◆四六判◆336頁◆予価4200円(本体4000円) 性の置かれた普遍的な状態と、長年にわたる性経済の医学的経験から生まれたライヒの性社会学。フロムやマルクーゼの先駆をなす人間…

復刊候補一覧③ 《歴史・民俗》

歴史・民俗 39 岩波書店 考証 福澤諭吉(上) 富田正文 初版1992・最終版2001年◆A5判◆456頁◆予価6720円(本体6400円) 考証 福澤諭吉(下) 初版1992・最終版2001年◆A5判◆432頁◆予価6720円(本体6400 円) これは、福沢研究に生涯をかけた著者にして初めて描…

復刊候補一覧④ 《心理・教育》

心理・教育 72 みすず書房 災害の襲うとき カタストロフィの精神医学 ビヴァリー・ラファエル/石丸正訳 初版1995・最終版2004年◆四六判◆512頁◆予価3675円(本体3500円) 災害時の恐ろしい体験をした人々、さらに救援に当たる人々までが精神的打撃を受けること…

復刊候補一覧⑤ 《文学・芸術》

文学・芸術 73 岩波書店 奥村土牛 近藤啓太郎 初版1987・最終版1990年◆A5判◆254頁◆予価6510円(本体6200円) 独自の画境を拓いて日本画に革新をもたらした奥村土牛。度重なる土牛自身への取材をもとに、その芸術の核心に迫った画期的評伝。読売文学賞受賞。 …

復刊候補一覧⑥ 《法律・経済・政治》

法律・経済・政治 105 岩波書店 戦後日本経済と経済同友会 岡崎哲二、菅山真次、西沢保、米倉誠一郎 初版1996・最終版2001年◆A5判◆352頁◆予価4305円(本体4100円) 企業民主化論、自主調整論、企業の社会的責任論など、経済同友会の活動を軸に、日本経済の戦…

復刊候補一覧⑦ 《自然科学・医学》

自然科学・医学 114 紀伊國屋書店 何のための数学か 数学本来の姿を求めて モーリス・クライン/雨宮一郎訳 初版1987・最終版1989年◆四六判◆232頁◆予価2940円(本体2800円) 数学は単なる記号操作の技術ではない。その目標は自然から知識を引き出すことにあ…