書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『読者はどこにいるのか――書物の中の私たち』石原千秋(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 評者:高野優(フランス語翻訳家) 今回は書評をお届けします。フランス語翻訳家の高野優さんが、創刊ラインナップ『読者はどこにいるのか』について書いてくださいました。高野さんは、ヴェルヌ『八十日間世界一周』やファンタジー『ア…

『定年からの旅行術』加藤仁(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「老いた人の旅は、過ぎゆく時間を抱きしめながら」 先日、会社の仕事で「名古屋モーターショー」に行ってきました。車中泊仕様にカスタマイズした車両を2台展示。1日中、車両の横に立ってお客さんの様子をみていますと、小さなお子さ…

第11位『神様のカルテ』夏川草介

→紀伊國屋書店で購入 (小学館/1,260円) ある病院の1人の医師を通して忙しく生活していると忘れがちな、でもきっと「ずっと忘れてはいけないもの」が見えてくる。読んだ後、胸が熱くなりました!! 本当に、自信を持ってオススメする一冊です。何年ぶりだ…

第12位『ねたあとに』長嶋有

→紀伊國屋書店で購入 (朝日新聞出版/1,785円) みんなもおいでよ! コモローの待つ山荘に。虫に驚き、お風呂にまごつき、コモロー家族が作ったなんだかなってゲームを、ゆるゆるとガチンコ勝負!! 絶対行きたい! でもあんまり人が来ちゃうのも困るから教…

第13位『半島へ、ふたたび』蓮池薫

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,470円) 旅の一番いい点は、以前よりこの世を肯定的に見られるようにしてくれること、と著者は言う。奪われた24年の拉致の中にも、少しでも肯定はあったのだろうか? 蓮池さんのソウル紀行「半島へ、ふたたび」を読んで、…

第14位『学問』山田詠美

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,575円) 海辺の町で成長していく四人の少年少女たち。方言のかわいらしさや大好きな故郷への思い、かけがえのない幼なじみへの気持ち・・・ その日々はきらきらと輝きに彩られているけれど、やがていつかは訪れる死の影も静か…

第15位『獣の奏者 〈3〉探求編・〈4〉完結編』上橋菜穂子

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 (講談社/各1,680円) 〈1〉〈2〉で終わったはずの物語、確かにここまでだと児童書としても充分でした。でもこの〈3〉〈4〉で完結したことで完全に大人のものにもなりました。何て深く何という衝撃を与えてく…

『一箱古本市の歩きかた』南陀楼綾繁(光文社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 職業として古本を扱っていない人たちが、おのおののコンセプトで古本をセレクトし、段ボール一箱ぶんを持ち寄って集まり、市場をひろげる。「一箱古本市」なるイベントは、著者が住む谷中界隈で二〇〇五年の春に開催した「不忍ブックス…

『転身力』小川仁志(海竜社)

→紀伊國屋書店で購入 「山口県に面白い哲学者がいる!」 それまでの生き方から、がらりと変身した人に興味があります。 「人生でひとつだけのことに専心して、そのことによって生活ができ、家庭を養うことができる。それが幸福である」 その価値観が日本の高…

『I’m sorry, mama.』桐野夏生(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「「唐突」な恐怖」 今夏一時帰国したときにお誘いを受けて、紀伊國屋サザンシアターで、福岡伸一と斉藤環の対談を聞く機会があった。どちらも旬で活躍している人達なので、大変に興味深かったのだが、その中で斉藤環が桐野夏生を高く評…

『漢字廃止で韓国に何が起きたか』 呉善花 (PHP新書)

→紀伊國屋書店で購入 幕末から1980年代まで漢字廃止運動という妖怪が日本を跋扈していた。戦前は「我が国語文章界が、依然支那の下にへたばり付いて居るとは情けない次第」(上田萬年)というアジア蔑視をともなう近代化ナショナリズムが、戦後は漢字が軍国…

第16位『日本人の知らない日本語』蛇蔵 海野凪子

→紀伊國屋書店で購入 (メディアファクトリー/924円) 日本語学校の先生と生徒のやりとりを見ながら「日本語って何だろう?」を知ることができます。日本人なのに初めて知ることや外国人の日本語の使い方が載っていて、学びながらも笑って読んでしまう一冊…

第17位『ダブル・ジョーカー』柳広司

→紀伊國屋書店で購入 (角川書店/1,575円) たぶん私は結城中佐に魅了されている。陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。主たる結城中佐は(私の勝手な想像では)渋い美中年で恐ろしいほど頭はキレる。魔王・スパイマスターの側面しか知ることは出来…

第18位『きのうの神さま』西川美和

→紀伊國屋書店で購入 (ポプラ社/1,470円) 「ゆれる」の西川美和監督が僻村の医療の現実を見つめた、新たな傑作「ディア・ドクター」・・・ 本書は、映画という時間軸では語りきれなかった取材の成果や思いをすくいあげてみたという短編小説集。この人ならで…

『文字史の構想』 杉本つとむ (萱原書房)

→紀伊國屋書店で購入 国語学者で語源と異体字の研究で著名な杉本つとむ氏が多年にわたって書きためた文字学に関する論文をまとめた本である。杉本氏には本欄でもとりあげた『漢字百珍』という好著があるが、文字学の本は意外にも本書がはじめてだそうである…

第19位『世紀の発見』磯崎憲一郎

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/1,470円) 先日「終の住処」が芥川賞を受賞した磯崎憲一郎ですが、僕にとっては「終の住処」よりもこっちです。冒頭の、主人公の少年の前に、大きな機関車が音も無くやって来るシーンだけでも読んでみてください。日常…

第20位『読んでいない本について堂々と語る方法』ピエール・バイヤール

→紀伊國屋書店で購入 (筑摩書房/1,995円) 読まないことこそ真の知性!? 「読んでいない本が沢山あるのに、また買ってしまった・・・!」と日々“つんどく”に精を出す読書家諸子(毎度ありがとうございます)を救済する、禁断の書! 本書を読んで読むのをやめ…

第21位『植物図鑑』有川浩

→紀伊國屋書店で購入 (角川書店/1,575円) “料理万能”― それも楽しくて美味しい“道草”料理を作ってくれる“躾のできたよい子”でイケメンな彼が落ちていたら絶対に拾っちゃうでしょう! 読み終わった後は、“本物”の植物図鑑を片手に美味しそうな“道草”を求め…

第22位『1Q84 〈book1〉・〈book2〉』村上春樹

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 (新潮社/各1,890円) 「説明しなくてはわからないということは、説明してもわからないということ。」 先入観なしでまず読んでみてください。 〔梅田本店第五課・福田直也〕 →紀伊國屋書店で購入

『思い出を切りぬくとき』萩尾望都(河出文庫)

→紀伊國屋書店で購入 今年六十になる友人知人を思い浮かべてみる。彼らについていちどは、この人は萩尾望都と同い年、と思ったものである。自分がまだ二十代の頃は、二十一年長の人はとてつもなく大人にみえたもので、その頃から萩尾望都は私のなかではこの…

『国字の位相と展開』 笹原宏之 (三省堂)

→紀伊國屋書店で購入 ソシュールが文字を研究対象からはずすと宣言したことに代表されるように、言語学では文字はまま子あつかいされてきた。欧米の言語学の移入からはじまった日本の国語学(最近は「日本語学」と呼ぶようであるが)もそうである。 言語とは…

『にっぽん劇場』『何かへの旅』森山大道(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「森山大道はこうして出来上がった」 いま書店の写真コーナーには森山大道のたくさんの写真集が売られている。大判のものからペーパーバックまで、サイズも厚みも装丁もさまざまな写真集がところ狭しと置かれており…

第23位『つみきのいえ』加藤久仁生【絵】 平田研也【文】

→紀伊國屋書店で購入 (白泉社/1,470円) 海の高さが高くなるごとにつみきのように重ねた家にすむおじいさん。おばあさんとの思い出を取りもどすため、沈んだ部分にもぐります。あたたかい色調に愛がつまったストーリーです。フランス・アヌシー国際アニメ…

第24位『夜想曲集』カズオ・イシグロ

→紀伊國屋書店で購入 (早川書房/1,680円) ひとりきりの静かな夜、お気に入りのソファに座り、薄暗い灯の下、ゆったりとしたジャズをBGMに読むなら、この本しかないでしょう!! 登場人物に感情移入し、現実逃避できること請け合いです。 〔浦和パルコ…

第25位『動的平衡』福岡伸一

→紀伊國屋書店で購入 (木楽舎/1,600円) 「生命」とは何だろうか、「生きる」というのは一体どのようなことなのだろうか。人間に限らず、地球上の全生物は何万という細胞から成り立っており、細胞は決して単独で存在することはできない。何故か。細胞は相…

『質的データの2次分析――イギリスの格差拡大プロセスの分析視角――』武田尚子(ハーベスト社)

→紀伊國屋書店で購入 「2次分析を通してみえる魅力的な世界」 社会学の(おそらく他の学問分野でも)質的研究においては、自分自身でデータを<もぎとってくる>ことの大切さが、しばしば言われます。実際、苦労してフィールドノーツを書き溜めたり、インタ…

第26位『図書館 愛書家の楽園』アルベルト・マングェル

→紀伊國屋書店で購入 (白水社/3,570円) ホルヘ・ルイス・ボルヘスの友人でもあるマングェルが描いた、図書館にまつわるあらゆる事柄を収めた本。失われた伝説のアレクサンドリア図書館やボルヘスが勤めた図書館、ラブレーの掲げた実在しない書物やジュー…

第26位『日本語が亡びるとき』水村美苗

→紀伊國屋書店で購入 (筑摩書房/1,890円) インターネットの圧倒的な英語の世紀のなかで日本語が存続することは可能か。<普遍語>と<国語>の位相に思いをめぐらした著者の挑発的な提言はネットで賛否両論の反響をよんだ。それにしても青い空のアイオワ…

第28位『ハーモニー』伊藤計劃

→紀伊國屋書店で購入 (早川書房/1,680円) 心と身体を変容させていく未来の人々を描いたこのSF小説を刊行して間もなく、作者の伊藤計劃は若くして病に倒れた。彼はもうこの世にない。しかし、遺されたこの小説は、彼が追い求めた問いの答えを、永久に探…

第29位『恋文の技術』森見登美彦

→紀伊國屋書店で購入 (ポプラ社/1,575円) この本を読めば、いかなる美女をも手紙一本で籠絡できる技術が身につけられる! …という保証はまったくできません。ある一人の男子大学院生が始めたのは、名づけて「文通武者修行」。“成就した恋ほど語るに値しな…