書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

加藤弘一

『2052 今後40年のグローバル予測』 ランダース (日経BP社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 これも2012年に出た未来予測本である。個人が書いているだけに今回とりあげた三冊の中では読物として一番面白かったが(翻訳も一番こなれている)、バイアスも大きそうである。 著者のヨルゲン・ランダースは物理学者だったが、…

『2050年の世界 英『エコノミスト』誌は予測する』 『エコノミスト』編集部 (文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 英国の『エコノミスト』誌が総力をあげておこなった未来予測で、原著は2012年に出ている。 冒頭で「世界人口にまつわるトレンドは、残りの章のほとんどに影響を与える」と宣言しているように、人口動態論による予測が軸となって…

『2030年 アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」』 米国国家情報会議編 (講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 アメリカに国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)という機関がある。もともとはCIAの一部門だったが、1979年に独立して現在の形になった。 NICは大統領の任期にあわせて4年ごとに15~20年先の世界情勢を予測した …

『神話論理〈4-1〉裸の人〈1〉』 レヴィ=ストロース (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『神話論理』の第四巻だが、この巻は邦訳で800頁を越えるために二冊にわけて刊行された。本書は第一分冊で、序から第四部までをおさめる。 800頁という分量にたじろいだが、読みはじめるとすいすい読めた。神話が一巡して元にも…

『各界著名人セレクション best13 of ゴルゴ13』 さいとう・たかを (小学館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 13人の著名人が選んだ傑作集。各編の後に推薦者のインタビューがあり、思いのたけを語っている。各界のエキスパートの弁だけに面白い。 自選集は地味な作品が多かったが、こちらは大仕掛けでスカッとして、ゴルゴ13本来の面白さ…

『さいとう・たかをセレクション best13 of ゴルゴ13』 さいとう・たかを (小学館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 連載開始35周年にあたる2003年に出たさいとう・たかを氏自選の傑作集で、ゴルゴ13にちなんで13編をおさめる。読者だったら選ばないような渋い話が多い。派手ではないが、情念が内側でたぎっているような深みがある。 1200頁近く…

『太平記』 さいとう・たかを (中公文庫)

→上巻を購入 →中巻を購入 →下巻を購入 「マンガ日本の古典」シリーズから出ているさいとう・たかをによる『太平記』である。 漫画だから吉川英治版をもとにしているのかなと思ったが、そうではなかった。オリジナルの『太平記』をかなり忠実に漫画化というか…

『神話論理〈3〉食卓作法の起源』 レヴィ=ストロース (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『神話論理』の第三巻である。 四巻本の三巻目になると普通なら読む速度が速くなってくるところだが、『神話論理』は巻を追うごとに速度が遅くなってくる。難解でもないし、つまらないわけでもない。書いてあることは実に簡単明…

『光秀の定理』 垣根涼介 (角川書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 さわやかな読後感に驚いた。 光秀ものというか本能寺ものの小説の結末は重苦しいと相場が決まっている。討たれた信長も無念、討った光秀も無念、そこに大の大人が殴る蹴るのイジメを受ける場面がくわわったり、どす黒い陰謀がく…

『とまどい本能寺の変』 岩井三四二 (PHP)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本能寺の変はもちろん謎だが、変の後に起こった出来事もよくわからないことが多い。 毛利は一杯食わされて領土割譲を含む和議を結ばされたとわかったのに、なぜ秀吉軍を追撃しなかったのか? 信長の三男の信孝は四国攻めのため…

『光秀曜変』 岩井三四二 (光文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 表紙には二代目中村鴈治郎のような陣羽織を着た老人が描かれている。ずいぶん老けた光秀だなと思ったが、本作は光秀の享年として67歳説をとっており、老けているのがポイントなのだ。 二つのストーリーを平行して語るカットバッ…

『王になろうとした男』 伊東潤 (文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 織田家を社員を使いつぶすブラック企業にたとえた人がいたが、ブラック企業でもすべての社員がつぶされるわけではなく、出世の道をひた走って高い地位にのぼりつめる社員もいれば、カリスマ経営者に心服して、出世とは関係なし…

『織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代』 武田知弘 (ソフトバンク新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 武田知弘氏は国税庁職員から物書きに転じた人で、『ヒトラーの経済政策』や『史上最大の経済改革“明治維新”』などの経済的視点の歴史物で知られている。 本書も信長の天下統一を経済的視点から見直そうという試みであり、経済力…

『信長の政略 信長は中世をどこまで破壊したか』 谷口克広 (学研)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 谷口克広氏は『 " target="_blank">織田信長合戦全録』や『信長と消えた家臣たち』、『織田信長家臣人名辞典』など、信長関係のレファレンス本を精力的に執筆してきた人である。本欄でも『検証 本能寺の変』をとりあげたことが…

『神話論理〈2〉蜜から灰へ』 レヴィ=ストロース (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『神話論理』の第二巻である。表題の「蜜」とは蜂蜜、「灰」とはタバコの灰をさす。 レヴィ=ストロースは本巻では「神話の大地は球である」ことを証明すると大見えを切るが、その前に蜂蜜について説明しておかなくてはならない…

『シンメトリーの地図帳』 マーカス・デュ・ソートイ (新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今回、途中で放りだしたのも含めると群論関係の本を13冊手にとったが、1冊だけ選べといわれたら、迷わず本書を選ぶ。わかりやすいというだけでなく、文章に含蓄があり、天才たちのエピソードの紹介にも人間的な奥行が感じられる…

『シンメトリーとモンスター』 マーク・ロナン (岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 群論の研究者が書いた一般向けの本だが、内容はかなり高度である。 日本版の副題は「数学の美を求めて」だが、原著では「もっとも偉大な数学の探求の一つ」となっていて、著者自身が参加した「アトラス(地図帳)計画」をさす。…

『もっとも美しい対称性』 イアン・スチュアート (日経BP社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書の表紙には左右対称の美しい蝶の写真が大きくレイアウトされている。原題は Why beauty is truth: The story of Symmetry(なぜ美は真実か――対称性をめぐる物語)で、エピグラフに掲げられたキーツの詩の「美は真なり、真は…

『なぜこの方程式は解けないか』 マリオ・リヴィオ (早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 題名は『なぜこの方程式は解けないか』となっているが、方程式にふれているのは9章のうち3~5章で、全体の1/3ほどにすぎない。それ以外はすべて群論と対称性の話で、量子力学から生物学、さらには宇宙論にまで話がおよぶ。群論…

『数学ガール ガロア理論』 結城浩 (ソフトバンククリエイティブ)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 わかりやすいといわれているガロア理論の解説本をもう一冊読んでみた。ライトノベル風の物語にしたてた数学書として非常に人気のある『数学ガール』の五冊目である。 このシリーズは高校生の「僕」と、同じ高校にかよう秀才のミ…

『13歳の娘に語るガロアの数学』 金重明 (岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 方程式の研究は16世紀に急激に進んだ。まず3次方程式の解法が発見され、すぐに4次方程式が解かれた。次は5次方程式だが、多くの数学者が挑戦したもののどうしても解けなかった。そこで解けない理由があるのではないかという疑い…

『ガロアの時代 ガロアの数学』時代篇&数学篇 彌永昌吉 丸善出版

→『ガロアの時代 ガロアの数学〈1〉時代篇』を購入 →『ガロアの時代 ガロアの数学〈2〉数学篇』を購入 百歳の天壽をまっとうした日本を代表する数学者が93歳と96歳の時に上梓した本である。こういう言い方は失礼かもしれないが、よくある回想録の類ではな…

『ガロアの生涯』 インフェルト 日本評論社/『ガロア』 加藤文元 中公新書

→『ガロアの生涯 神々の愛でし人』を購入 →『ガロア 天才数学者の生涯』を購入 数学に群論という新分野を切り拓きながら、20歳で決闘に倒れたエヴァリスト・ガロアの劇的な生涯はある年齢以上なら文系の人間でも知っている。1970年代に高校生だった人はイン…

『神話論理〈1〉生のものと火を通したもの』レヴィ=ストロース(みすず書房)/『アスディワル武勲詩』(ちくま学芸文庫)

→『生のものと火を通したもの』を購入 →『アスディワル武勲詩』を購入 レヴィ=ストロースの大著『神話論理』の第一巻である。視力が落ちないうちに読みきりたいと思い、手をつけることにした。 レヴィ=ストロースには『アスディワル武勲詩』という神話研究…

『それからのエリス』 六草いちか (講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『舞姫』のエリスのモデル、エリーゼ・ヴィーゲルトをつきとめた『鷗外の恋 舞姫エリスの真実』の続編である。著者がついにエリーゼの写真にまで行き着いたことは新聞の報道などでご存知だろう。本書はこの奇跡ともいえる発見の…

『森鷗外の『うた日記』』 岡井隆 (書肆山田)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 森鷗外は明治37年4月、第二軍軍医部長として日露戦争に出征した。以後2年近くを満洲の荒野ですごすが、そのおりおりに書きとめた詩歌をまとめ、明治40年に『うた日記』を出版した。 本書は『鷗外・茂吉・杢太郎 「テエベス百門…

『鷗外・茂吉・杢太郎 「テエベス百門」の夕映え』 岡井隆 (書肆山田)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 医者にして文学者を兼ねた三大家――鷗外・茂吉・杢太郎――の明治の終りから第一次大戦にいたる10年に思いをはせた随想である。 副題の「テエベス百門」とはルクソール神殿や死者の谷があるエジプトの古都テーベのことで、木下杢太…

『演劇場裏の詩人 森鷗外―若き日の演劇・劇場論を読む』 井戸田総一郎 (慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 鷗外は芝居好きの家に育った。千住時代は家族そろって近所の芝居小屋や寄席にくりだすことがよくあった。弟の篤次郎は三木竹二の筆名で歌舞伎評論の草分けとなった。 ドイツ留学時代も鷗外はオペラから場末の見世物まで、さまざ…

『親族の基本構造』 レヴィ=ストロース (青弓社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『親族の基本構造』は1947年に刊行されたレヴィ=ストロースの主著である。レヴィ=ストロースの名を文化人類学の世界で一躍高めるとともに、構造主義の出発点ともなった。 日本では刊行から40年もたった1987年になってようやく…

『理性の不安』 坂部恵 (勁草書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本語で読めるカントの研究書として有名な本である。初版は今から30年近く前に出たが、何度か改版をくりかえしてロングセラーをつづけている。 よく言及されるので気になっていたが、はじめて読んだ。意外だったのは読みやすい…