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プロの読み手による書評ブログ

2013-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『江戸の献立』福田浩 松下幸子 松井今朝子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 日本橋「にんべん」の髙津家に伝わる『家内年中行事』、尾張徳川家の御畳奉行の残した『鸚鵡籠中日記』、水戸光圀が生母のために建立した久昌寺住職・日乗上人の日記、伊勢参りの道中記、大名の献立表等、江戸時代の記録に残された献立…

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』古賀史建(星海社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「今すぐ書くための文章術」 『20歳の自分に受けさせたい文章講義』では、プロのライターである古賀史健が、今までに培った文章を書くためのノウハウを、惜しげもなく披露している。非常に分かりやすく、時には思い切った切り口でヒント…

『発達障害 ヘンな子と言われ続けて――いじめられてきた私のサバイバルな日々――』高橋今日子(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「発達障害当事者の語り手になるということ」 21世紀に入ったころから「発達障害」という言葉が人口に膾炙するようになってきています。教育を専門とする人や実際に経験した人などを除けば、内容的にはまだなじみの薄い言葉かもしれませ…

『スタッキング可能』松田青子(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「黄胆汁型」 ご存じの人も多いだろうが、人間の性格をわけるのに「四つの気質」(four humours)という分類法がある。もともと古典古代からあった考え方がルネッサンス頃になって再び流行したもので、人間の気質が四つの体液のバランスで…

『村を癒す人達-1960年代フィリピン農村再建運動に学ぶ』フアン・M・フラビエ著、玉置泰明訳(一灯舎)

→紀伊國屋書店で購入 訳者の玉置泰明は、「今ごろなぜ一九六〇年代のフィリピンの農村開発の記録を取り上げる価値があるのか」、気にしている。しかし、副題にある通り、「学ぶ」ことがあり、それを他人にも説明できて「学ぶ」ことを共有できるなら、古い新…

『小商いのすすめ―「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』平川克美(ミシマ社)

→紀伊國屋書店で購入 「経済成長」と「縮小均衡」 私は1960年代から70年代の初めにかけて10歳までの子供時代を過ごした世代なので、まさに高度経済成長時代の申し子といってもよい。一昨年、総合雑誌『中央公論』が「私が選ぶ『昭和の言葉』」という特集を組ん…

『鉄旅研究-レールウェイツーリズムの実態と展望』旅の販促研究所(安田亘宏、中村忠司、上野拓、吉口克利)(教育評論社)

→紀伊國屋書店で購入 「鉄道そのものを楽しむ、成熟した旅行文化へ」 本書は、JTBグループのシンクタンクである、旅の販促研究所が刊行している「旅のマーケティングブックス」シリーズの第6冊目にあたる。そうしたシンクタンクの存在そのものもさること…

『マンガでわかる社会学』栗田宣義/著  嶋津蓮/作画  トレンド・プロ/制作(オーム社)

→紀伊國屋書店で購入 「日本初のマンガで読む社会学テキスト」 本書は、おそらく日本で初めてのマンガで読む社会学テキストである。といっても、100%のページがマンガで占められているわけではないが、各章ごとにマンガでのイントロダクションや概略説明が…

『ポピュラー文化ミュージアム―文化の収集・共有・消費』石田佐恵子・村田麻里子・山中千恵[編著](ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「ポピュラー文化のミュージアム化/ミュージアムのポピュラー文化化」 待望の一冊である。子どものころ、博物館に出かけて、いつまでも飽きることなく展示物を眺めていたような興奮に近い感覚を持って読んでしまう著作である。 日ごろ…

『PLANETS vol.8』PLANETS編集部(第二次惑星開発委員会 )

→紀伊國屋書店で購入 何ヶ月か前のことです。私は雑誌「ダ・ヴィンチ」に、NHK大河ドラマ「平清盛」の評論が掲載されているのを目にしました。「平清盛」の熱心な視聴者だったこともあって、興味を抱いた私は、読みはじめるやいなや、抑制された、柔らか…

『本にだって雄と雌があります』小田雅久仁(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 古い衣装箪笥が入り口のナルニア国、あかがね色の書物の中にあるという果てしない物語、高速道路脇の階段を降りた先に待ち受ける1Q84年…。ファンタジー、それは普段暮らしている世界のすぐそこにありそうでいて、同時に私たちには想…

『Shopgirl』Steve Martin(Hyperion Book)

→紀伊國屋書店で購入 「人気コメディ俳優スティーブ・マーティンの小説」 コメディ俳優でもあるスティーブ・マーティンのノベラ(中編小説)『Shopgirl』。この作品はマーティン自身の脚色・主演で映画化もされている。 作品を紹介すると、主人公はビバリー…

『月山山菜の記』芳賀竹志(崙書房出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ゼンマイはこんなところで芽吹いていたのか!」 3月中旬にもなると、ビニールハウスで育ったものだとわかっていても山菜を売りにしたメニューを注文してしまう。水煮缶詰を堂々使う店に驚いたこともあるけれど、「採りたて」とも「今…

『共在の論理と倫理-家族・民・まなざしの人類学』風間計博・中野麻衣子・山口裕子・吉田匡興共編著(はる書房)

→紀伊國屋書店で購入 「本書は、清水昭俊先生から教えを受けた学生有志によって編まれた文化人類学の論文集である」。本書を読み終えて、個人的にはまったく存じあげない清水昭俊先生が、いかに優れた研究者であり、教育者であったかがわかった。さまざまな…

『落語の国の精神分析』藤山直樹(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「先生、この噺を聞くと笑ってしまうのはなぜでしょう」 精神分析の先生が書く落語の登場人物論なんて読みたくないな。あの与太郎は○○病、この与太郎は□□症候群、江戸の昔からひとびとの心は病んでおり……そんなことで落語を聞く楽しみを…

『ウィーン・フィルとともに』ワルター・バリリ著、岡本和子訳(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 「古き良き時代」という言葉がある。自分の人生をふり返ったときに多くの人が感じる、「あのころは良かった」「あの時は幸せだった」という郷愁に似た思い出だ。辛かったこと、不自由だったこともたくさんあったはずだし、おそらく幸せ…

『ひとりフラぶら散歩酒』大竹聡(光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「そこに至るまでの道」 グルメ本・飲酒本というとまずは高級志向の「通」を謳ったものが目につく。ちょっと背伸びをした読者が、必ずしも自分では実現できないことを案内役の描写をとおして味わい、上等な時間をすごした気分になる。い…

『ナチ・イデオロギーの系譜-ヒトラー東方帝国の起原』谷喬夫(新評論)

→紀伊國屋書店で購入 ヒトラーといえばユダヤ人虐殺というイメージがある。しかし、著者、谷喬夫は「あとがき」で、つぎのように述べている。「もし<ホロコースト>だけを単独で考察してしまうと、ヒトラーの蛮行は政治思想の対象というより、結局かれの人…

『記念碑に刻まれたドイツ-戦争・革命・統一』松本彰(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 東西ドイツの統一から丁度1年後の1991年10月3日に、ブランデンブルク門を見に行った著者松本彰は、「統一後にドイツ人の歴史意識がどのように変化していくか確かめたいと思い」、「記念碑のハンドブック」「記念碑の通史」を手に入れ、…

『The Bookseller of Kabul 』Asne Seierstad(Back Bay Books )

→紀伊國屋書店で購入 「アフガニスタン社会の女性の地位が分かるノンフィクション」 もともと2003年にノルウェーで出版された『The Bookseller of Kabul』はアフガニスタン・カブールにある本屋の主人と彼の家族の暮らしを追ったノンフィクションだ。発刊さ…

『わたしは目で話します』たかおまゆみ(偕成社)

→紀伊國屋書店で購入 「伝えることをあきらめない」 著者のたかおまゆみさんとは何度かお会いしたことがある。都内のALS患者さんのお宅に見学に来られた時、同席したのが最初の出会い。車椅子から立ちあがって、まだ歩けていた頃だ。彼女のブログの愛読者に…

『いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか』内藤朝雄(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「世に棲む寄生虫」 数ヶ月前、何気なくテレビの報道番組を見ていた時のこと、出演中のコメンテーターの奇趣に思わず目を奪われた。発語はつんのめるような早口に加えて迂遠。語彙は過激で煽情的。感情的なのにもかかわらず漂う機械的ギ…