書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『奪われた性欲』今一生(毎日コミュニケーションズ)

→紀伊國屋書店で購入 「性欲減退男子よ、どこへ行く?」 近年、マッチョな文体で社会起業を語ることに専念しているフリーライター、今一生の最新作である。 今一生のマッチョ信仰は強固でシンプル。尊敬する人は漫画家の本宮ひろし。サラリーマン金太郎のよ…

『小さな生きものたちの不思議なくらし』甲斐信枝(福音館書店)

→紀伊國屋書店で購入 受粉を手助けしてくれる蝶の到来を待つオオイヌノフグリ、きゃべつの葉裏で静かに成長するモンシロチョウの蛹、田んぼのあぜ道に燃え立つように咲くヒガンバナ、綿毛を風に乗せてまき散らすオオアレチノギク、捕獲したアオムシを巧みに…

『荷風と東京』川本三郎(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「街歩きと日常」 川本三郎の街歩きエッセイが好きだ。夜中に灯りをつけて読むのもいいが、旅先の各停車中で読むのもまたいい。じぶん自身の旅と、著者の語る街歩きとが重なりあって、愉しみが二乗される気分になる…

『怒らないこと』アルボムッレ・スマテサーラ(サンガ)

→紀伊國屋書店で購入 「怒らないという生きるスキル」 ブロガーの小飼弾さんの著書『働かざるもの、飢えるべからず』小飼弾(サンガ)のなかで、弾さんと対談していた仏教者、アルボムッレ・スマテサーラの語りである。 弾さんのベーシックインカム論を補強す…

『I Was Told There’d Be Cake 』Sloane Crosley(Riverhead Books)

→紀伊國屋書店で購入 「若い独身女性とニューヨークの街が引き起こす不協和音」 ニューヨーク郊外のホワイトプレーンズで子供時代を過ごし、ニューヨークで働き出した20サムシングの女性スローン・クロスリー。この本は彼女のユーモラスなエッセイ集「I wa…

『ガリツィアのユダヤ人-ポーランド人とウクライナ人のはざまで』野村真理(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 ドイツとロシアの2つの大国に挟まれたポーランドの悲劇は、一般によく知られている。しかし、そのポーランドが逆の立場に立っていたことを知る日本人はそれほど多くはない。そして、そのことを知ることによって、ヨーロッパの歴史と社会…

『コスモスの影にはいつも誰かが隠れている』藤原新也(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 「都会に追い詰められない、静かな語り」 浜松から東京に行く用事があった。私は、新幹線なのかなでiPhoneをいじり、ツイッターでつぶやきを仮想空間に発信していた。静岡県内の風景は美しい青空だった。小田原駅から空がガスに覆われて…

『中国近世文芸論:農村祭祀から都市芸能へ』田仲一成他編(東方書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中国大衆文化の底面」 巷には「中国四千年の歴史」などという表現があるが、これはいささか誤解を招く言い方である。というのも、こうした言い方は、中国の文明がずっと等質の歴史を刻んできたような印象を与えてしまうからだ。しかし…

『バブル女は「死ねばいい」 婚活、アラフォー(笑)』杉浦由美子(光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「出産と仕事にゆれるアラフォー女と団塊ジュニア女の生きる道」 団塊ジュニア世代の著者が、1960年代に産まれたバブル世代の女性を批評している。30代の女性から見た、10歳ほどの上の世代の女性を評論している。 まずバブル女…

『いのちの選択――今、考えたい脳死・臓器移植』小松 美彦、市野川 容孝、 田中 智彦 (編) (岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「いのちの選択・・・自分の頭で考えよう」 昨年7月13日、臓器移植法が改定になった。 これにより、日本でも脳死を一律に死と認めたことになった。そして、本人の意志はなくても家族の判断で生きている身体から臓器を提供できるよう…

『肴(あて)のある旅─神戸居酒屋巡回記』中村 よお(創元社)

→紀伊國屋書店で購入 「居酒屋という街の文化を味わい尽くす」 絶品である。実に味わい深い本だ。そして何とも不思議な読書体験だった。いったい何でこんな本を私が読まなければならないのだろうと何度も訝りながらも、あまりの面白さについつい頁が進んでし…

『深い謎―ヘーゲル,ニーチェとユダヤ人』ヨベル,イルミヤフ(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「ユダヤ人問題の謎」 この書物のタイトルは、ヘーゲルのユダヤ教とのかかわりについて、伝記作者のローゼンクランツが「ユダヤ教はヘーゲルをひきつけるとともに、彼に不快な思いをさせる不快な謎だった」(p.27)と語っていることによる…

『巨大建築という欲望――権力者と建築家の20世紀』ディヤン・スジック著/五十嵐太郎監修/東郷えりか訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「建築と政治の密接な関係」 宇波 彰(評論家) 巨大な構築物は、権力・財力を持つ者の「欲望」の表現である。スジックは本書で、その欲望の醜さと、彼らの欲望に応じて巨大な建築を作る多くの建築家に対する痛烈な批判を繰り広げる。ス…

『先生とわたし』四方田犬彦(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 日本に一時帰国して、地方を回ってきた。驚かされるのはどこに行っても水田があることだ。日本は水と緑の国であり、基本は農業であると再認識させられた。そんな中、一冊の本を持ち歩いていた。ニューアカデミズムの旗手と言われている…

『インターネットと中国共産党―「人民網」体験記』佐藤 千歳(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「中国での記者体験記+α」 本書は、北海道新聞の記者だった著者が、人民日報社のネット部門「人民網」に出向した一年間の記録、および事後談をまとめた滞在記である。 「階層によって見える世界がまったく違う」というのは、インドにつ…

『イスラームへの回帰-中国のムスリマたち』松本ますみ(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「そんなテーマなんてそろそろやめて上海の近代史研究にでも本腰をいれなさいよ。大体、沙漠ばかりの貧しい西北の研究なんかして何かいいことでもあるんですか」と、「中国の民族・宗教問題を研究している」著者、松本ますみに、「ご親…

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックス(ランダムハウス講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「1冊のヘブライ語の古書、その物質的な豊かさ」 ジェラルディン・ブルックスの作品で最初に読んだのは『マーチ家の父』だった。これは『若草物語』に着想を得て、四人姉妹の父アーチが家庭を離れているあいだに戦地でどんな体験をした…

『ミドルワールド―― 動き続ける物質と生命の起原』マーク・ホウ著/三井恵津子訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ライスプディングにジャムを混ぜちゃうと、元にもどせない理由」 竹内 薫(サイエンスライター) まず、読後感から言わせてもらうと、「ミドルワールドにかかわった科学者たちの悲喜こもごも」がものすごく面白かった。 「この本は、…

『仕事にすぐ効く魔法の文房具』土橋正(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 私はステーショナリーが大好きだ。見ているだけでも楽しく、わくわくしてくる。世の中、とりわけ男性諸氏の中には私のような人が多いのではないか、と密かに感じている。ポケットマネーで買えるものが多いのも、うれしさのひとつだろう。…

『悪魔くん』/『悪魔くん千年王国』 水木しげる (ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 悪魔くんは貸本漫画時代の1963年に誕生したキャラクターである。悪魔くんの物語も何度も描き直されているが、ちくま文庫には「少年マガジン」版の『悪魔くん』と「少年ジャンプ版」の『悪魔くん千年王国』がはいっ…

『河童の三平』 水木しげる (ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 河童の三平も紙芝居時代にさかのぼるキャラクターで、貸本版は1961年から翌年にかけて兎月書房から8冊出ている。メジャーになってからは「月刊ぼくら」(講談社)に「カッパの三平」として1966年1月号から7月号まで最初の部分が改作され…

『鬼太郎夜話』 水木しげる (ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 水木しげるは鬼太郎、河童の三平、悪魔くんという三大キャラクターを生みだしたが、筆頭は鬼太郎だろう。紙芝居時代にさかのぼる最古のキャラクターである上に現在にいたるまで描きつがれ、アニメ・シリーズも1968年版をはじめとして5度…

『 Everything Ravaged, Everything Burned 』Wells Tower(Picado)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーカー誌が選んだ「40歳以下の作家20人」のひとり、ウェルズ・タワーの短編集」 ニューヨーカー誌が最近発表した「20 Under 40(40歳以下の作家20人)」の一人に選ばれたウェルズ・タワーのデビュー短編集。 タワーは…

『ヘーゲルにおける理性・国家・歴史』権左 武志(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「久々の本格的なヘーゲル論」 ここ数年は本格的なヘーゲル論をあまり見掛けなかったので、本書のようにまとまったヘーゲル論の刊行は、ヘーゲリアンにとっては嬉しいかぎりである。ぼくもしばらくヘーゲルから遠ざかっていたので、ブラ…

『水木しげる 怪奇 貸本名作選―不死鳥を飼う男・猫又』 水木しげる (ホーム社漫画文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「恐怖」編につづく京極夏彦氏が選んだ貸本名作選の二冊目で12編をおさめるが、どれも文句なしの傑作ぞろいだ。 「不死鳥を飼う男」 1963年に貸本誌「黒のマガジン」(東考社)第5号に掲載。 森の中のあばら家に住む貧乏な漫画家夫婦の…

『拒食症・過食症を対人関係療法で治す』水島広子(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「治療が有害となるとき」 水島広子(精神科医) 一九八二年に米国で患者が起こした訴訟がある。 患者は精神療法の名門であるチェストナットロッジ病院で「自己愛性パーソナリティ障害」という診断を受け、約七カ月間入院して週四回の個…

『水木しげる 恐怖 貸本名作選―墓をほる男・手袋の怪』 水木しげる (ホーム社漫画文庫)

→紀伊國屋書店で購入 熱烈な水木しげるファンで知られる京極夏彦氏が選んだ貸本時代の名作選である。「恐怖」編、「怪奇」編の二分冊にわかれ、「恐怖」編は10作品をおさめる。どちらか一冊ということなら、「怪奇」編の方を勧める。 京極氏の解説は貸本漫画…

『大空戦―水木しげる戦記選集』 水木しげる (宙出版)

→紀伊國屋書店で購入 貸本時代の航空戦漫画7編とメジャーになってからの1編をおさめた戦記漫画短編集である。巻末に戦記ものの発表の舞台となった貸本誌「少年戦記」について聞いたインタビューを載せる。 「ごきぶり」 「サンデー毎日」(毎日新聞社)1970…

『日中戦争期中国の社会と文化』エズラ・ヴォーゲル・平野健一郎編(慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 8月6日、9日の広島、長崎の「原爆の日」の前あたりから、テレビでは連日、戦争特番が組まれる。この毎年8月に集中して繰り返される報道が当たり前のようになっているが、これらの番組のうち、いったいいくつが国際的に耐えられるものだ…

『鬼軍曹―水木しげる戦記選集』 水木しげる (宙出版)

→紀伊國屋書店で購入 貸本時代の作品11編とメジャーになってからの作品2編をおさめる戦記漫画短編集である。 タイトルの「鬼軍曹」とは貸本誌「少年戦記」の編集をまかされていた時代に作った陽気なキャラクターで、ぐうたらぞろいの部下を救うために獅子奮…