書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

杉原厚吉

『だまされる視覚 --- 錯視の楽しみ方』北岡明佳(化学同人)

→紀伊國屋書店で購入 17世紀のオランダを代表する画家レンブラントは、その作品の中で光を効果的に表現したことでも有名である。たとえば、彼の作品「愚かな金持ちの譬え」では、薄暗い部屋の中央に置かれたろうそくの光が周りを照らす様子がありありと描か…

『BEYOND TALENT: 音楽家を成功に導く12章』アンジェラ・マイルズ・ビーチング著、箕口一美訳(水曜社)

→紀伊國屋書店で購入 私たちのように大学の技術系にいるものにとっては、科学技術の研究開発が仕事の大きな部分を占める。そして、世界の同じ分野の研究者を相手に、少しでも前に出ようと常に競争をしている。そんな私にとって、大きなカルチャーショックを…

『奇跡のリンゴ』 石川拓治(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 よく売れている本だと聞いて読んでみたのだが、うわさどおりにすごい本であった。青森県津軽平野のリンゴ農家の木村秋則さんという方が、無農薬農業というものがあることを偶然に知って、自分もそれをリンゴ栽培でやってみようと思い立…

『行動ファイナンスで読み解く投資の科学』大庭昭彦(東洋経済新報社)

→紀伊國屋書店で購入 だまし絵や立体錯視を研究している私の経験では、人は目の前の状況をありのままに見ているようでも、さまざまな思い込みをそこに投入して“勝手に”見ている場面が驚くほど多い。いわゆる錯覚現象である。聴覚や味覚でも同様の錯覚がたく…

『科学者として生き残る方法』フェデリコ・ロージ、テューダー・ジョンストン(著)、高橋さきの(訳)(日経BP社)

→紀伊國屋書店で購入 小学校・中学校・高校の先生になるためには、それなりの教育を受け実習もこなして、教職免許を取らなければならない。そのような関門があることは、煩わしいかもしれないが、先生になるために何をすればよいかが明確で、目標に向かって…

『つっこみ力』パオロ・マッツアリーノ(ちくま新書645)

→紀伊國屋書店で購入 タイトルの中の「つっこみ」とは、漫才コンビのボケ役とツッコミ役のあのツッコミのことである。そしてこれは、ボケ役が発する言葉の中で笑うべきポイントがどこかをわかりやすく際立たせ、笑いを盛り上げる役である。で、この本の著者…

『人を動かす情報術』春樹良且(ちくま新書671)

→紀伊國屋書店で購入 現代は情報化社会で、私たちの周りには大量の情報が溢れている。したがって、それを利用したいと思ったら、自由に情報を選んで享受できる。こんな風に私たちは思いがちである。 しかし、この本の著者はその逆であるという。私たちに届く…

『塵劫記』勝見英一郎・校注(寛永11年・小型4巻本)<br>~江戸初期和算選書<第1巻>に収録~(研成社)

→寛永11年・小型4巻本 (「江戸初期和算選書」に収録) を購入 →寛永4年初版 を購入 江戸時代の数学書として有名なこの本を、最近手に取る機会があった。私の目的は、「もしもこの世に数式がなかったら、どれほど不便なことであろう」という議論を展開するた…

『夢に日付を!~夢実現の手帳術~』渡邉美樹(あさ出版)

→紀伊國屋書店で購入 著者は、居食屋「和民」チェーン店をはじめとするワタミグループを作り上げた今をときめく実業家である。著者の主張は、タイトルに端的に要約されている。すなわち、夢を、漠然としたものではなく、いつまでに実現するという期限付きで…

『グーグル Goole-既存のビジネスを破壊する』 佐々木俊尚 (文春新書501)

→紀伊國屋書店で購入 1998年にインターネットの検索エンジン技術を携えて設立されたグーグルが、あっという間に、米国ハイテク企業の中でマイクロソフトに次ぐ第2位の地位に駆け上がり、さらに拡大しつつある実態と、その背景に流れているインターネット社…

『無限と連続-現代数学の展望』遠山啓(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 名著として定評のあるこの古い本を、最近読みなおす機会があった。学生時代に読んで、数学へのあこがれをかき立てられた本であったが、今読みなおしても、なお感動できることにあらためて驚かされた。実は、ちょっと調べたいことがあっ…

『思想なんかいらない生活』勢古浩爾(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 私が通った中学や高校の図書室の壁には、世界の名著と銘打った推薦図書のリストが貼ってあり、その中には思想に関するものもたくさん含まれていた。これは読まねばと手にとってみたけれど、字を追うばかりで内容が全く頭に入ってこなく…

『やめたくてもやめられない脳-依存症の行動と心理 』廣中直行(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 夜遅くなると何となくお酒が飲みたくなって、今日こそは少しだけにしておこうと思いながら飲み始めると、ついつい深酒になってしまうという毎日を送っている。自分では明らかにアルコール中毒だと思うのだが、人に話すと中毒とはそんな…

『もし「右」や「左」がなかったら-言語人類学への招待』井上京子(大修館書店)

→紀伊國屋書店で購入 いままで、あるのが当然のことと思い、それがない世界など想像できなかったということがらが、実は当然あるものなどではなくて、それがない世界もちゃんとあるのだということを知らされると、心地よい衝撃を受ける。この本は、そんな衝…

『科学的思考とは何だろうか-ものつくりの視点から』瀬戸一夫(ちくま新書)

→紀伊國屋書店で購入 このごろ気になっていることの一つは、占いの流行である。科学が発展し広く浸透してきている現代に、科学とは相容れないように見える占いの流行は、私には不思議である。我が家でも家族が朝のテレビで星占いなどの番組を見ながら、今日…

『構想日本〈第1巻〉日本再考』構想日本J.I.フォーラム[編](水曜社)

→紀伊國屋書店で購入 構想日本とは、政策の立案・実現を目的として中立的なNPO活動を行っているシンクタンクだそうである。このNPOが、J・I・フォーラム(JIは、構想日本の英語名 Japan Initiative の頭文字を並べたもの)を毎月開催してきており…

『マンガの描き方』手塚治虫(光文社)

大学で教壇に立つ者にとって、何とかしたいと思う問題の一つは、生徒の私語をいかに防止するかである。そのための正攻法はもちろん、私語をするより先生の話を聞く方が得だと思わせるだけの充実した内容を講義することであろう。 しかし、90分の講義時間の…

『サイバー経済学』小島寛之(集英社新書)

→紀伊國屋書店で購入 数理工学・数理情報学を専門とする私にとっては、実社会の問題を理解したり解決したりするために数学が効果的に使われている場面に出くわすとわくわくする。そこで使われている数学がそれほどむつかしくない場合には、特にそうである。…