書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『昭和ちびっこ未来画報—ぼくらの21世紀』初見健一(青幻舎 )

→紀伊國屋書店で購入 「未来の子供たちはこんな道具で遊んでるんだ!」ドラえもんはよく言います。ものすごい技術を集結してつくられたはずの「タケコプター」も「どこでもドア」も22世紀では子供の遊び道具。未来ってすごいなあ! 1980年代に子供時代を過ご…

『富士塚ゆる散歩―古くて新しいお江戸パワースポット』有坂蓉子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 江戸の町のことを思うとき、まっさきに心に浮かぶのは、空気のおいしさ、そして、何にも遮られることのない富士の眺めだ。今の私たちとはくらべものにならないくらい、江戸の人たちは富士山と親密だったろう。けれども、実際に富士を詣…

『パリ南西東北』ブレーズ・サンドラール著 昼間賢訳(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「写真に触発されてパリ郊外を歩いたドキュメント」 買って!買って!と声高に叫ぶ昨今の書籍とちがい、『パリ南西東北』というタイトルといい、白地にその文字をあしらった簡素(で簡潔)な装幀といい、きわめて控えめな書物だが、ここ…

『弔辞 劇的な人生を送る言葉』文藝春秋編(文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 「メディアとしての弔辞」 私事になるが、先日弔辞というものと向き合う機会があった。辞書を引くまでもなく、弔辞とは「死者を弔うことば」のことである。冠婚葬祭のマナーについて書かれたサイトや書籍は数多く存在しており、そこでは…

『男子校という選択』おおたとしまさ(日本経済新聞出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「ホモ・ソーシャリティにアイデンティティ形成の基盤を求めるという選択」 本書は、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、男女共学化が進む今日においてもなお、いわゆる中高一貫男子校に進学することのメリットを説いた著作…

『不安の種+』中山昌亮(秋田書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ジワジワとくる、「説明のつかなさ」が怖いマンガ」 「とにかく怖いんですよ。何とも言えないんですけど、後から来るんです」と、学生から進められて読んだマンガである。 なるほど、と思った。たしかに、最初読んだときは「それほど…

『FANDOM UNBOUND』Mizumo Ito, Daisuke Okabe, Izumi Tsuji(Yale University Press)

→紀伊國屋書店で購入 「「オタク・オリエンタリズム」を超えて」 今日、われわれは「日本のオタク文化は海を越えて世界的に評価されている」と思っている。 ジブリに代表されるアニメ作品に対する評価や、あるいは海外出張の際に現地の書店に入ると「Manga」…

『情報の呼吸法』津田大介(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「「ソーシャルメディアのフロンティア」にしか見えない風景」 本書は、ジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介氏が、ソーシャルメディアについての現状に触れながら、今後の向き合い方や使いこなし方について、実践的な提…

『新しいASEAN-地域共同体とアジアの中心性を目指して』山影進編(アジア経済研究所)

→紀伊國屋書店で購入 半信半疑でミャンマーの「民主化」報道を見聞きしている者に、本書はそれを確信させるひとつの材料を提供してくれる。ミャンマーの「民主化」に、ASEANが大いにかかわっているのである。本書は、そのASEANが「一九六七年の設…

『つながらない生活――「ネット世間」との距離のとり方』ウィリアム・パワーズ(プレジデント社)

→紀伊國屋書店で購入 「『つながり過剰』の時代に読んでおくべき一冊」 現代社会はあらゆる分野で「つながること」に価値が置かれている。友人、恋人、家族とのプライベートなコミュニケーションからビジネスまで。「いかにつながるか」が社会のなかでの重要…

『不可能』松浦寿輝(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「三島由紀夫は生きている?」 1970年11月25日、三島由紀夫は本当に死んだのだろうか。私は当時高校一年生で、三島がバルコニーで演説する姿をテレビのニュースで見、新聞社がヘリコプターから撮影した、割腹自殺した後の首が転がってい…

『The End of Illness』David B. Agus(Free Press)

→紀伊國屋書店で購入 「未来の医療である個別化医療の話」 僕の人差し指は薬指よりも短い。もし男で、薬指の方が長かったら、その人が前立腺がんにかかる確率は3割り減るという。 女性の場合、人差し指より長い薬指の持ち主が骨関節症を発症する確率は、短…

『追悼の達人』嵐山光三郎(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ―嵐山光三郎という死に物狂い― 嵐山光三郎といえば、タモリのTV番組に出演するひょうきんな髭のおじさん、というイメージが拭えない。思えば30年近くも昔のことになる。矢継ぎ早にエッセイを執筆していたことなど露知らなかったわたしは…

『暇と退屈の倫理学』國分功一郎(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 紀伊國屋じんぶん大賞2011『大賞』、 キノベス!2012『第14位』、 阿部公彦先生による書評(書評空間)と、紀伊國屋では大評判の本書を、さらに推薦したい。 偉大なる先人たちによって自由を求める闘争が成し遂げられた後、私たちはいっ…

『竜の学校は山の上 — 九井諒子作品集』九井諒子(イ−スト・プレス )

→紀伊國屋書店で購入 「勇者」という言葉を、私たちの世代に広めたのは、1986年に第1作が発売されたRPGゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズではなかったでしょうか。このゲームが瞬く間に全国の小学生を魅了したのは、単にゲームとして完成度が高かったから…

『両インド史 東インド篇』ギヨーム=トマ・レーナル著、大津真作訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 本書を、わたしはどのように読んだらいいのだろうか。本書の出版されたフランス革命前夜の研究なら、それなりの読み方があるだろうが、17世紀の東南アジア史研究のために本書を読むとなると、どのように読んでいい…

『歴史を変えた火山噴火』石 弘之(刀水書房)

→紀伊國屋書店で購入 「過去は警告する」 「近い将来、関東や東海地方を大地震が襲うことはほぼ確実だ」という認識が定着してきた。わからないのは「それがいつか」ということだけだ。環境ジャーナリスト、そして環境問題研究者である著者も「過去半世紀近く…

『英国メイド マーガレットの回想』マーガレット・パウエル/村上リコ・訳(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 村上リコ『英国メイドの日常』では、さまざまな元メイドたちの回想録から当時の彼女たちの生活が紹介されていたが、そのなかでも英国でもっとも広く知られているのが、このマーガレット・パウエルの回想録である。 1907年、マーガレット…

『Indecision』Benjamin Kunkel(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「優柔不断の現代の若者を描いた作品」 この小説は、辛口書評家として有名なミチコ・カクタニが『ニューヨーク・タイムズ』紙で、彼女にしては本当に珍しく、ほとんど手放しで褒める書評を載せた作品だ。ニューヨークの作家であるジェイ…

『深沢七郎外伝』新海均(潮出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「天才作家の苦い味」 何しろ、あの深沢七郎である。伝記的事実の記述だけで十分スキャンダラス。実際、本書からは深沢の破天荒な生き方が生々しく浮かび上がってくる――そういう意味ではすぐに作品を手に取りたくなるような格好の「深沢…

『メディアとジェンダー』国広陽子+東京女子大学女性学研究所(勁草書房)

→紀伊國屋書店で購入 「『メディアとジェンダー研究』の最前線」 「メディアとジェンダー」。両者は相互に密接に関わり合っている。メディア研究、ジェンダー研究の双方で多くの蓄積と広がりもある。だが、深く関係しつつも一筋縄ではいかない両者の関係を正…

『海に降る』朱野帰子(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 面白いお話の要素というものを考えてみると、大筋として何か困難が乗り越えられていくプロセス、個性きらめくキャラクター、それから、その話で初めて知る豆知識というか新奇な知見や薀蓄の体系、といったところが、まずは鉄板ではない…

『いちばんやさしい地球変動の話』巽好幸(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 去年の3月に大きな震災が起きて以来、呼吸が浅くなっている気がします。「○ヶ月以内に大地震が起きる可能性が○%と専門家が言っている」「富士山が噴火するらしい」「浜辺に鯨が打ち上げられた」「大地震の予知夢を見た」…。不穏な情報…

『これからの日本のために「シェア」の話をしよう』三浦展(NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 「シェア型消費からシェア型社会へ」 奥付によると、本書の発行日は2011年2月25日となっている。つまり東日本大震災が起きる2週間前である。「シェア」という消費形態への移行を踏まえつつ本書は書かれているが、3・11により、「シェア…

『世界史の中のアラビアンナイト』西尾哲夫(NHKブックス)

→紀伊國屋書店で購入 2011年11月、フィギュアスケートNHK杯ショートプログラムで、浅田真央は青いハーレムパンツ衣装で登場した。曲は「シェヘラザード」。1888年夏に完成されたニコライ・アンドレイェヴィチ・リムスキー=コルサコフ作曲の交響組曲である。…

『「統治(ガバナンス)」を創造する――新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』西田亮介・塚越健司【編著】(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「現実的で漸進的な改革のために」 TIME誌の選んだ2011年のパーソン・オブ・ザ・イヤーは、匿名の「抗議者たち」だった。中東のジャスミン革命に始まり、ヨーロッパ金融危機に際し頻発したデモ、アメリカでのウォール街占拠デモなど、確…

『きなりの雲』石田千(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 作家の中には見るからにおっかない顔つきの人がいる。下手に質問すると、イラッとした目つきで睨まれ「さっき言ったでしょ?」と露骨な不機嫌をつきつけられる。こういう人の作品もたしかにのぞいてみたくはなるが、ちゃんと読むにはそ…