書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

辻泉

『テレビ報道職のワーク・ライフ・アンバランス』林香里・谷岡理香【編著】(大月書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「何を伝えているか」だけでなく、「誰がどのように伝えているか」を問うこと」 数年前まで地方の私大に勤務していたころ、報道関係の方々とお話しする機会がよくあった。大学は県庁所在地にあったので、各新聞社の支局も中心…

『アフター・テレビジョン・スタディーズ』伊藤守・毛利嘉孝【編】(せりか書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「新しいメディア理論に向けての待望の一冊」 まさに待望の一冊である。 本書は、早稲田大学の伊藤守、東京芸術大学の毛利嘉孝、両氏を編者とする、新しいメディア理論の探求を企図した論文集である。 その名が示すように、メデ…

『ケータイの2000年代―成熟するモバイル社会』松田美佐・土橋臣吾・辻泉【編】(東京大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「モバイル社会はどのように成熟していくのか」 日本社会でケータイの本格的な普及が進んだのは1990年代中盤以降のことである。すでにそれから20年近くがたとうとしており、今では大学生たちも、ほぼ100%がケータイを持ち、その…

『友活はじめませんか?―30代からの友人作り』木村隆志(遊タイム出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「再帰化する友人関係」 本書のタイトルに含まれている「トモカツ」という言葉。これは決して人の名前などではない。漢字をあてはまると「友活」、すなわち「友達活動」の略である。 基となっているのが「婚活」という言葉であ…

『就活は最強の教育プログラムである』稲増 龍夫/法政大学自主マスコミ講座(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「伝説の自主ゼミの全貌が明らかに」 本書は、「伝説のゼミ」としてその名を知られる、法政大学自主マスコミ講座のこれまでの軌跡をまとめたものである。 同講座は、稲増龍夫教授を中心に1988年に立ち上げられ、これまでに送り…

『オタク的想像力のリミット―“歴史・空間・交流”から問う』宮台 真司【監修】/辻 泉/岡部 大介/伊藤 瑞子【編】(筑摩書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「再び「オタク・オリエンタリズム」を超えるために」 本書は、2012年2月28日の書評空間でも詳細させていただいたオタク文化に関する論文集『Fandom unbound : Otaku Culture in a Connected World』(Yale Unversity Press)の日…

『黒鉄ボブスレー』土屋雄民(小学館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ガンバレ、町工場!」 本作は、『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載中のマンガを単行本化したものであり、作者の土屋雄民氏はこれが初の連載作品だという。 タイトルからもわかるように、本作は、下町ボブスレープロジェ…

『ふるさと銀河線 軌道春秋』作画 深沢かすみ/原作 高田郁(川富士立夏)(双葉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「公共空間で交差する多元的現実」 「このマンガ、面白いですよ」 そういって薦めてくれたのは、地方空港の売店員の女性であった。無論、知り合いでも何でもなく、まったくの初対面に過ぎなかったが、そうした相手とコミュニケ…

『雑誌の人格』能町みね子(文化出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「雑誌を元にした人格類型論」 とにかく楽しい一冊である。 『装苑』の人気連載が書籍化されたものだが、まえがきにもある通り、その内容は、女性向けの雑誌を中心としながら、その読者像を、著者の「独断と偏見で想像」したも…

『JR崩壊―なぜ連続事故は起こったのか?』梅原淳(角川書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「長期スパンで考えるべき重要な社会問題」 かつて山本七平は、この国の行く末に大きな影響を及ぼすような重要な選択が、しばしばその場の雰囲気(=空気)に流されて決められてきたことを指摘した(『空気の研究』)。 思い返…

『我妻さんは俺のヨメ』原作:蔵石ユウ/漫画:西木田景志(講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「再帰的な自己形成という新たな成長物語」 本作品は、講談社の『マガジンSPECIAL』で2011年から連載が開始されたのち、現在は『週刊少年マガジン』で連載中の少年マンガである。 主人公の青山等は、バレー部でも補欠のさえない…

『「親活」の非ススメ―“親というキャリア”の危うさ』児美川孝一郎(徳間書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「親になるのが困難な時代の到来」 成人式が終わり、センター試験も過ぎ、いよいよ大学入試本番に突入すると、まさに本書が扱っているようなテーマを、考えさせられる季節が今年も来たなと実感させられる。 現在の勤務先が大学…

『アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた―シャイな息子と泣き虫ママのびっくり異文化体験記』小国綾子(径書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「これからの時代の、「子育て/親育ち」を少年野球に学ぶ!」 いきなり私ごとで恐縮だが、また以前の私をご存知の方ならば大いに驚かれることだろうが、今年度初めから、地元の少年野球チームでコーチをやっている。毎週末は、…

『ほつれゆく文化―グローバリゼーション、ポストモダニズム、アイデンティティ』マイク・フェザーストン著/西山哲郎、時安邦治訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「変化し続ける、プロセスとして文化をとらえること」 本書は、イギリスの社会学者マイク・フェザーストンが、1980年代末以降、各所で記してきた現代文化に関する論考をまとめたものである。 本訳書の出版当時、フェザーストー…

『1995年』速水健朗(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「日本の現代史を語る上で、新たな必読の一冊」 社会(科)学を学ぶ上で、現代史の知識は必須である。だが、大学で講義していても、年々その前提知識を持たない学生と接することが増えてきた。 教えているこちらも歳を重ねてい…

『格付けしあう女たち―「女子カースト」の実態』白河桃子(ポプラ新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「女子カースト」に対する社会学的分析と処方箋」 見つけた途端に、すぐにでも講義で紹介したくなる本というのがある。加えて、紹介した途端に、学生からも非常にいい反応が返ってくる本というのもある。本書はまさにそうした…

『キャラクターとは何か』小田切博(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「キャラクターの/をめぐる社会史」 本作は、キャラクターそのものの歴史と、それをめぐる社会背景とが手際よくまとめられ、かつハンディで読みやすい著作である。 キャラクターについての著作はいくつかあるものの、その登場…

『ネメシスの杖』朱戸アオ(講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「個人への報復か、システムの改善か」 いきなり私ごとで恐縮だが、実験的なマンガが好きである。本作についていえば『アフタヌーン』(講談社)に、あるいは最近でいえば『COMICリュウ』(徳間書店)などに掲載されているよう…

『PiNKS』倉金篤史(徳間書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「“異床異夢”な日本の男女に対する問題提起作」 エロ本がなぜか落ちている、という光景を見なくなって久しい。 評者の実家近くには大学があり、その構内の雑木林には、きまってエロ本が捨てられていたのを思い出す。見つけた所…

『ブ活はじめます―すべての女に捧げる「気持ちいい!」ブス活動のススメ』安彦麻理絵(宝島社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「女性たちがすべてをさらけ出す・・・それがブ活(ブス活動)」 「実はどんな女の中にも「ブス」はいる。 世の中の、あらゆる女が、自分の中に「ブスを飼っている」のだ。」(P16) 衝撃的だが、でもどことなく納得のいく指…

『n次創作観光―アニメ聖地巡礼/コンテンツツーリズム/観光社会学の可能性』岡本健(NPO法人北海道冒険芸術出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「新しいリアリティ、新しい観光の可能性」 かつて、アメリカのダニエル・ブーアスティンは『幻影(イメジ)の時代』において、現代社会を批判的に捉えた「疑似イベント論」を展開した。その要点は、いうなればマスメディアが作…

『さとり世代―盗んだバイクで走りださない若者たち―』原田曜平(角川書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「何事にも、そこそこに入れ込んで、そこそこに満足する若者たち」 さとり世代とは、今日の若者たちの特徴をうまく言い表したフレーズだと思う。もちろん「若者たち」といってもその内実は多様だし、ひと括りにすることに慎重な…

『私たちが、すすんで監視し、監視される、この世界について―リキッド・サーベイランスをめぐる7章』ジグムンド・バウマン+デイヴィッド・ライアン  著 /伊藤茂 訳(青土社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「道徳的中立化」され、「液状化」した監視社会」 本書は、『リキッドモダニティ』などの著作で知られ、現代社会に鋭い批判の視線を送り続ける社会学者ジグムンド・バウマンと、監視社会論の第一人者として知られるデイヴィッ…

『腐女子実録24時―FJS24―』種十号(エンターブレイン)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「虚構の現実化」と「現実の虚構化」の合わせ技」 本書は、いわゆる腐女子を対象とした、昨今流行の「あるある」本の一つでありながら、それらの多くがせいぜい一コママンガを交えた細切れのエピソード集であるのに対し、四コ…

『遊びの社会学』井上俊(世界思想社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ゲーミフィケーションを考えるために、読み返したくなる名著」 何度となく読み返したくなる名著というものがある。この社会の何がしか、本質的で重要な点を言い表しているような著作、評者にとっては、この『遊びの社会学』が…

『社会を超える社会学―移動・環境・シチズンシップ』ジョン・アーリ著/吉原直樹監訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「移動性(モビリティ)の社会学」への期待的な展望」 本書はイギリスの社会学者、ジョン・アーリが2000年に出した著作“Sociology beyond Societies: Mobilities for the twenty-first century”の翻訳である。原著が出されて…

『凡人のための仕事プレイ事始め』中川淳一郎(文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「すべてが「プレイ」化する社会」 本書は、現在ではネット上のニュースサイト「NEWSポストセブン」の編集長として知られる中川淳一郎氏が、仕事に対する心構えを記したものである。 だが、堅苦しくとらえる必要はない。本書は…

『「若者」とは誰か―アイデンティティの30年』浅野智彦(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アイデンティティをめぐる問いの軌跡」 本書は、若者のアイデンティティをめぐって、特に現代の日本社会におけるその変容について描き出したものである。 そこで問われているのは、まずもって次のような2つの問いである。すな…

『無印都市の社会学―どこにでもある日常空間をフィールドワークする』近森高明・工藤保則編(法律文化社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「郊外化」空間における日常生活を記述する方法」 この夏、とある地方都市の若者調査に出かけて、いろいろと驚きがあった。まず、驚いたのは、中心市街地の廃れた様子である。いわゆる「シャッター街」化は日本の至る所で進ん…

『鬱ごはん』施川ユウキ(秋田書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「個食化した自己」 本作は、主人公である就職浪人生・鬱野たけしが、一人ぼっちで鬱鬱としながら食事をとるそのプロセスばかりを描き出したマンガである。 今月(2013年7月)に紹介したマキヒロチ氏の『いつかティファニーで朝…