書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『シンメトリーの地図帳』 マーカス・デュ・ソートイ (新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今回、途中で放りだしたのも含めると群論関係の本を13冊手にとったが、1冊だけ選べといわれたら、迷わず本書を選ぶ。わかりやすいというだけでなく、文章に含蓄があり、天才たちのエピソードの紹介にも人間的な奥行が感じられる…

『シンメトリーとモンスター』 マーク・ロナン (岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 群論の研究者が書いた一般向けの本だが、内容はかなり高度である。 日本版の副題は「数学の美を求めて」だが、原著では「もっとも偉大な数学の探求の一つ」となっていて、著者自身が参加した「アトラス(地図帳)計画」をさす。…

『黒田官兵衛』小和田哲男(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「軍師の実像」 2014年のNHK大河ドラマは、豊臣秀吉の軍師をつとめた黒田官兵衛が主人公だという。街の書店には、すでに官兵衛関連の本がたくさん並んでいる。そのなかで、本書(小和田哲男著『黒田官兵衛』平凡社新書、2013年)…

『アメリカの少年野球 こんなに日本と違ってた―シャイな息子と泣き虫ママのびっくり異文化体験記』小国綾子(径書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「これからの時代の、「子育て/親育ち」を少年野球に学ぶ!」 いきなり私ごとで恐縮だが、また以前の私をご存知の方ならば大いに驚かれることだろうが、今年度初めから、地元の少年野球チームでコーチをやっている。毎週末は、…

『<群島>の歴史社会学-小笠原諸島・硫黄島、日本・アメリカ、そして太平洋世界』石原俊(弘文堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「捨て石」ということばが気になった。第4章「冷戦の<要石>と<捨て石>」の「おわりに」で、著者、石原俊は、つぎのように繰り返し「捨て石」ということばを使っている。「小笠原諸島・硫黄諸島はアジア太平洋戦争において、…

『もっとも美しい対称性』 イアン・スチュアート (日経BP社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本書の表紙には左右対称の美しい蝶の写真が大きくレイアウトされている。原題は Why beauty is truth: The story of Symmetry(なぜ美は真実か――対称性をめぐる物語)で、エピグラフに掲げられたキーツの詩の「美は真なり、真は…

『なぜこの方程式は解けないか』 マリオ・リヴィオ (早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 題名は『なぜこの方程式は解けないか』となっているが、方程式にふれているのは9章のうち3~5章で、全体の1/3ほどにすぎない。それ以外はすべて群論と対称性の話で、量子力学から生物学、さらには宇宙論にまで話がおよぶ。群論…

『数学ガール ガロア理論』 結城浩 (ソフトバンククリエイティブ)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 わかりやすいといわれているガロア理論の解説本をもう一冊読んでみた。ライトノベル風の物語にしたてた数学書として非常に人気のある『数学ガール』の五冊目である。 このシリーズは高校生の「僕」と、同じ高校にかよう秀才のミ…

『13歳の娘に語るガロアの数学』 金重明 (岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 方程式の研究は16世紀に急激に進んだ。まず3次方程式の解法が発見され、すぐに4次方程式が解かれた。次は5次方程式だが、多くの数学者が挑戦したもののどうしても解けなかった。そこで解けない理由があるのではないかという疑い…

『ほつれゆく文化―グローバリゼーション、ポストモダニズム、アイデンティティ』マイク・フェザーストン著/西山哲郎、時安邦治訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「変化し続ける、プロセスとして文化をとらえること」 本書は、イギリスの社会学者マイク・フェザーストンが、1980年代末以降、各所で記してきた現代文化に関する論考をまとめたものである。 本訳書の出版当時、フェザーストー…

『1995年』速水健朗(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「日本の現代史を語る上で、新たな必読の一冊」 社会(科)学を学ぶ上で、現代史の知識は必須である。だが、大学で講義していても、年々その前提知識を持たない学生と接することが増えてきた。 教えているこちらも歳を重ねてい…

『格付けしあう女たち―「女子カースト」の実態』白河桃子(ポプラ新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「女子カースト」に対する社会学的分析と処方箋」 見つけた途端に、すぐにでも講義で紹介したくなる本というのがある。加えて、紹介した途端に、学生からも非常にいい反応が返ってくる本というのもある。本書はまさにそうした…

『ガロアの時代 ガロアの数学』時代篇&数学篇 彌永昌吉 丸善出版

→『ガロアの時代 ガロアの数学〈1〉時代篇』を購入 →『ガロアの時代 ガロアの数学〈2〉数学篇』を購入 百歳の天壽をまっとうした日本を代表する数学者が93歳と96歳の時に上梓した本である。こういう言い方は失礼かもしれないが、よくある回想録の類ではな…

『This Is How You Lose Her (Deluxe)』 Junot Diaz(Riverhead Books)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「今のアメリカを映し出す作品」 僕の最も好きなアメリカン・ライターのひとりジュノ・ディアズの新刊短編集『This is How You Loose Her』。 デビュー作品となった『Drown』が短編集で、彼は短編集が得意なのだろうと僕は勝手…

『ガロアの生涯』 インフェルト 日本評論社/『ガロア』 加藤文元 中公新書

→『ガロアの生涯 神々の愛でし人』を購入 →『ガロア 天才数学者の生涯』を購入 数学に群論という新分野を切り拓きながら、20歳で決闘に倒れたエヴァリスト・ガロアの劇的な生涯はある年齢以上なら文系の人間でも知っている。1970年代に高校生だった人はイン…

『ボブ・ディランという男』デイヴィッド・ドールトン/菅野ヘッケル訳(シンコーミュージック・エンタテイメント)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アメリカの地にボブ・ディランのうたが聴こえる」 聴き手がボブ・ディランをどのように受けとめているかを知る最良の方法は愛聴盤を列挙してもらうことである。いや、この方法は前提に無理がある。ダウンロードやストリーミン…

『フランス文学と愛』野崎歓(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「フランス苦手症のあなたに」 以前から持っていた印象――というか「常識」――をあらためて確認した。やっぱりフランス文学はきらびやかだ。フランス文学を語ることばは華やかで、フランス文学を語る人は颯爽と美しい。英文学の本…

『ジヴェルニーの食卓』原田マハ(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「印象派の画家達の光と影」 当たり前だが、画家も人間である。しかし、私たちは絵を通してしか巨匠達の姿を垣間見ることはできない。マティス、ドガ、セザンヌ、モネ、印象派の画家達は若い時を、そして晩年をどのように過ごし…

『神話論理〈1〉生のものと火を通したもの』レヴィ=ストロース(みすず書房)/『アスディワル武勲詩』(ちくま学芸文庫)

→『生のものと火を通したもの』を購入 →『アスディワル武勲詩』を購入 レヴィ=ストロースの大著『神話論理』の第一巻である。視力が落ちないうちに読みきりたいと思い、手をつけることにした。 レヴィ=ストロースには『アスディワル武勲詩』という神話研究…

『残夢整理 —昭和の青春ー』多田富雄(新潮文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「残夢から一人の人生を読む」 年末になると、その年の10大ニュースが発表されたりして、一年を振り返ることが多い。また大晦日の前に残務整理に追われる人も多いだろう。多田富雄の『残夢整理』は、晩年に自己の一生を振り返っ…

『アメリカ遊学記』都留重人(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「在りし日のアメリカ遊学記」 都留重人(1912-2006)が1950年に書いた『アメリカ遊学記』(岩波新書)がアンコール復刊された。今となっては古いところもあるかもしれないが、約11年間に及ぶアメリカ滞在記は、20世紀前半のアメリ…

『ビルマ・ハイウェイ-中国とインドをつなぐ十字路』タンミンウー著、秋元由紀訳(白水社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 こんな本が、東南アジア各国・地域の人、あるいは東南アジア出身の人によってもっとたくさん書かれれば、東南アジアのことがもっとよく理解してもらえるのに、とまず思った。つぎに、こんな本を書いてみたいとも思ったが、外国…

『考証要集』大森 洋平(文春文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「時代劇通になれる」 書物を刊行する者にとっては、校正者は頼みの綱である。400字詰原稿用紙でいえば、300枚以上ときには500枚を超える量を書いていると、念には念を入れたつもりでも思わぬところで、勘違いやケアレ…

『座談の思想』鶴見太郎(新潮選書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「座談会をバカにしてはいけない」 「座談会」は日本独特の催しだ。もちろん外国でも対談、鼎談などないわけではないが、日本の文芸誌などで企画される、どことなく雑談めいたあのいきあたりばったりの会合は、参加者のニヤニヤ…

『民主化のパラドックス-インドネシアにみるアジア政治の深層』本名純(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 著者、本名純の専門は、「インドネシア政治・東南アジア地域研究・比較政治学」である。欧米をモデルとした近代政治学ではない。著者は、終章「民主化のパラドックス-アジア政治の深層をみる目」をつぎのことばで結んでいる。…

『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?──人種・ジェンダー・文化資本』吉原真里(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 アジア人にとって、西洋音楽であるクラシック音楽は特異なものではない。日本の環境もそうであるように、若者は西洋音楽の中で生まれ、育ち、教育される。彼らにとっての音楽は西洋音楽なのだ。そうした環境の中、音楽にのめり…

『足利尊氏と関東』清水克行(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「歴代足利一族への招待」 京都に住んでいる者にとっては、足利将軍家は身近な存在だが、本書(清水克行著『足利尊氏と関東』吉川弘文館、2013年)は、書名にもかかわらず、全体として足利尊氏のみならずその歴代一族への最良の…

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター【著】/田村 哲夫【訳】 (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「知性主義・脱知性主義・スーパー知能主義」 橋下旋風は、最近は鳴りをひそめているが、氏の言う「ふあっとした民意」がいまの日本になくなったわけではない。ひとつはポピュリズムであるが、もうひとつは「本を読んで」「くっ…

『リッカルド・ムーティ自伝』リッカルド・ムーティ(音楽之友社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”音楽に境界はない”」 イタリアのナポリ出身の指揮者リッカルド・ムーティ(1941年生まれ)を生で聴いたのは、フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督として来日した1980年代の初め頃だったと思う。若々しい姿と指揮ぶりが今でも…

『中国抗日映画・ドラマの世界』劉文兵(祥伝社新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「中国では、なぜ抗日をテーマにした映画・ドラマが製作されつづけるのか?」「中国人が抱く日本へのネガティヴなイメージを作り上げた根本的な原因が、両国のあいだの政治的摩擦よりも、そもそも日中の歴史問題にあったのはい…