書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

根井雅弘

『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』菅野恵理子(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「音楽とリベラル・アーツを考える」 アメリカには、ジュリアード音楽院のようなプロの演奏家を育成する教育機関とは別に、有名大学に音楽学科や音楽学校が存在している。本書(菅野恵理子著『ハーバード大学は「音楽」で人を育…

『宇沢弘文のメッセージ』大塚信一(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「編集者のみた宇沢弘文」 著者は岩波書店の元社長で、長い間、同社の著作物の編集に携わってきたが、とくに経済学者の中では世界的な数理経済学者だった宇沢弘文(1928-2014)と懇意にしてきたひとである。宇沢氏の主要著作は…

『心理学で文学を読む 困難を乗り越える力を育む』山岸明子(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「心理学と文学の協同」 本書(山岸明子著『心理学で文学を読む―困難を乗り越える力を育む』新曜社、2015年)のまえがきは、心理学と文学の協同を示唆する興味深い文章から始まっている。 「優れた文学作品は人間性や人間の心理…

『世界史の中の日本国憲法』佐藤幸治(左右社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「立憲主義の本質は政治に対する法的統制である」 本書(佐藤幸治著『世界史の中の日本国憲法』左右社、2015年)のメッセージは、一言でいえば、上のタイトル「立憲主義の本質は政治に対する法的統制である」ということに尽きる…

『天才を生んだ孤独な少年期 ダ・ヴィンチからジョブズまで』熊谷高幸(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「天才と孤独」 本書(熊谷高幸著『天才を生んだ孤独な少年期―ダ・ヴィンチからジョブズまで』新曜社、2015年)の存在を知ったのは地元紙の読書面に短い紹介が出ていたからだが、「天才と孤独」というテーマには惹きつけられる。…

『戦国史を歩んだ道』小和田哲男(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「幼き日の城・武将・合戦好きから歴史の世界へ」 ミネルヴァ書房の自伝シリーズに高名な歴史家の一冊が加わった(小和田哲男『戦国史を歩いた道』ミネルヴァ書房、2014年)。著者は現在放映中のNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」の時…

『国家と音楽家』中川右介(七つ森書館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”音楽家には国境がある”」 「音楽に国境はない」というのは真実だろうが、過去の歴史をひもとけば、「少なくとも、音楽家には国境がある」。これが、本書(中川右介著『国家と音楽家』七つ森書館、2013年)の重要なメッセージ…

『徳川慶喜』家近良樹(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”捉え難き”最後の将軍」 徳川慶喜(1837-1913)という江戸幕府「最後の将軍」は、日本史上あまり人気のある人物ではない。鳥羽伏見戦争のあと、江戸に「逃げ帰った」とみえる彼の行動がマイナスのイメージを創り出すのに大い…

『グローバル・スーパーリッチ 超格差の時代』クリスティア・フリーランド(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”プルトクラート文化”とは何か」 経済格差について書かれた本は多いが、本書(クリスティア・フリーランド著『グローバル・スーパーリッチ~超格差の時代』中島由華訳、早川書房、2013年)は、「フィナンシャル・タイムズ」の…

『フルトヴェングラーを追って』平林直哉(青弓社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「フルトヴェングラーの真の音を求めて」 著者の名前は、Grand Slamのフルトヴェングラーの復刻盤CDで知っていたが、改めて本書(平林直哉著『フルトヴェングラーを追って』青弓社、2014年)を読んで、フルトヴェングラーのCDを…

『自由論』J・S・ミル(光文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「改めて「自由」を考える」 J.S.ミル(1806-73)の『自由論』(1859年)の新訳が出ている(斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫、2012年)。後期に一年生向けの少人数ゼミを担当したので、ミルを取り上げることにした。翻訳は数種類…

『ウィーン楽友協会二〇〇年の輝き』オットー・ビーバ イングリード・フックス(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ウィーン楽友協会の200年」 ウィーン楽友協会といえば、その合唱団を20世紀の名指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンがベートーヴェンの第9などの名曲の録音に起用したことが思い浮かぶが、本書(オットー・ビーバ、イングリー…

『黒田官兵衛』小和田哲男(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「軍師の実像」 2014年のNHK大河ドラマは、豊臣秀吉の軍師をつとめた黒田官兵衛が主人公だという。街の書店には、すでに官兵衛関連の本がたくさん並んでいる。そのなかで、本書(小和田哲男著『黒田官兵衛』平凡社新書、2013年)…

『アメリカ遊学記』都留重人(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「在りし日のアメリカ遊学記」 都留重人(1912-2006)が1950年に書いた『アメリカ遊学記』(岩波新書)がアンコール復刊された。今となっては古いところもあるかもしれないが、約11年間に及ぶアメリカ滞在記は、20世紀前半のアメリ…

『足利尊氏と関東』清水克行(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「歴代足利一族への招待」 京都に住んでいる者にとっては、足利将軍家は身近な存在だが、本書(清水克行著『足利尊氏と関東』吉川弘文館、2013年)は、書名にもかかわらず、全体として足利尊氏のみならずその歴代一族への最良の…

『リッカルド・ムーティ自伝』リッカルド・ムーティ(音楽之友社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”音楽に境界はない”」 イタリアのナポリ出身の指揮者リッカルド・ムーティ(1941年生まれ)を生で聴いたのは、フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督として来日した1980年代の初め頃だったと思う。若々しい姿と指揮ぶりが今でも…

『危機の女王 エリザベスⅡ世』黒岩徹(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「英女王を知らずして英国社会は語れない」 長く毎日新聞のロンドン特派員や欧州総局長として英国社会を観察してきた著者によるエリザベス女王論が登場した(黒岩徹『危機の女王 エリザベスⅡ世』新潮選書、2013年)。著者はすでに…

『ケネーからスラッファへ―忘れえぬ経済学者たち』菱山泉(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「経済学における客観主義―スラッファ没後30年」 今年は、イタリア出身の経済学者ピエロ・スラッファ(1898-1983)没後30年の年でもある。彼は若き日にイギリスの経済学界を揺るがした論文「競争的条件の下での収穫の法則」(1926…

『宮澤賢治の聴いたクラシック』萩谷由喜子(小学館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「宮澤賢治とクラシック音楽との接点」 宮澤賢治(1896-1933)について書かれた本は多いが、賢治の生涯や作品とクラシック音楽との接点に的を絞った本を初めて読んだ(萩谷由喜子『宮澤賢治の聴いたクラシック』小学館、2013年)。…

『反逆する華族 「消えた歴史」を掘り起こす』浅見雅男(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”赤化華族”とは何だったのか」 著者は、すでに戦前の華族について何冊も本を書いており、私もその一冊はかつてある新聞で取り上げたことがあるが、本書(浅見雅男著『反逆する華族―「消えた昭和史」を掘り起こす』平凡社新書…

『オーケストラは未来をつくる マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦』潮博恵(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「MTTとサンフランシスコ響の挑戦」 マイケル・ティルソン・トーマス(しばしばMTTと略称される)は、レナード・バーンスタイン亡きあと、アメリカのクラシック音楽界を担ってきた鬼才のひとりだが、本書(潮博恵『オーケストラ…

『シャルル・ドゴール 民主主義の中のリーダーシップへの苦闘』渡邊啓貴(慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「フランスの「偉大さ」を演出した権力者の生涯」 シャルル・ドゴール(1890-1970)のバランスのとれた評伝(渡邊啓貴著『シャルル・ドゴール』慶應義塾大学出版会、2013年)が出版された。ドゴールは、「救国の英雄」や政党政治を…

『カザルスと国際政治 カタルーニャの大地から世界へ』細田晴子(吉田書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「音楽はビジネスではなく、聖職(カザルス)」 パブロ・カザルス(1876-1973)は、20世紀最大のチェリストである。クラシック音楽のファンなら、そのことは誰でも知っている。しかし、本書(細田晴子著『カザルスと国際政治-カタ…

『「幸せ」の経済学』橘木俊詔(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「幸せ」とは何か」 「幸せ」とは何か――この問題に答えるのは難しい。経済学者は国際比較をするとき、一人当たりの所得に注目しがちだが、この方法は昔から経済学者以外の人たちから批判されてきた。それゆえ、経済学者も過去…

『レナード・バーンスタイン わが音楽的人生』レナード・バーンスタイン(作品社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「優れた知性を備えた音楽家レナード・バーンスタイン」 先日(8月25日)、レナード・バーンスタイン(1918-90)がもし生きていれば95歳になることを知った。彼が亡くなったのは72歳のときだから、もう20年以上も経ってしまったこ…

『ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス 生涯とその思想』イスラエル・M・カーズナー(春秋社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ハイエクの影に隠れたネオ・オーストリア学派の先駆者」 まだ大学院生の頃、ネオ・オーストリア学派についての書評論文を書いたことがあった(注1)。四半世紀も前のことだが、その頃、オーストリア学派の流れをくむルートヴィ…

『オットー・クレンペラー あるユダヤ系ドイツ人の音楽家人生』エーファ・ヴァイスヴァイラー(みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「現代音楽から古典音楽の大家へ―クレンペラー没後40年」 今年はドイツの名指揮者オットー・クレンペラー(1885-1973)の没後40年の年でもある。クレンペラーといえば、私がクラシック音楽を聴き始めた頃は、ベートーヴェン、ブラ…

『資本理論とケインズ経済学』J・ロビンソン(日本経済評論社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ジョーン・ロビンソン没後30年」 今年は、イギリスの女性経済学者ジョーン・ロビンソン(1903-83)没後30年の年に当たっている。ケインズの愛弟子のひとりで、生前は「ノーベル経済学賞」(注1)の受賞候補に何度も挙げられなが…

『捕虜が働くとき―第一次世界大戦・総力戦の狭間で』大津留厚(人文書院)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「総力戦の狭間で「働く捕虜」」 本書(大津留厚著『捕虜が働くとき―第一次世界大戦・総力戦の狭間で』人文書院、2013年)は、従来ほとんど取り上げられなかった第一次世界大戦中の「働く捕虜」たちの実態を詳細に紹介した好著…

『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』青山通(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ウルトラセブンの「音楽」を探して」 本書(青山通『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』アルテスパブリッシング、2013年)の内容は、装幀から受ける印象とはずいぶん違っている。いや、ウルトラセブンと関係はあるのだ…