書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『ぼくらの頭脳の鍛え方』 立花隆&佐藤優 (文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 分類からいうと読書案内ということになろうが、副題に「必読の教養書400冊」とあるように、すぐに役に立つ本ではなく、教養というか知の基礎体力をつけるための指南書である。 同じ方向の本としては立花氏の東大での講義をまとめた『脳…

『ロシア 闇と魂の国家』 亀山郁夫&佐藤優 (文春新書)

→紀伊國屋書店で購入 『カラマーゾフの兄弟』の新訳で一般読書界にも知られるようになった亀山郁夫氏との対談本である。 亀山氏も佐藤氏も今ではジャーナリズムのスターであるが、もともとロシア語業界というマニアックで狭い世界の住人だけに、『罪と罰』の…

『本格小説』水村美苗(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「救いの無い絶望」 仕事でハンガリーのブダペストに行ってきた。幸いバカンス時期だったので、会議が終ってから数日間私的滞在を続けた。温泉で有名な町なので、日本とはまた違った形の温泉を楽しめた。偶然同じホテルに滞在した、同僚…

『論語』孔子著 金谷治 訳注(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「孔子もつぶやいていた。」 twitterが流行しています。このミニブログのシステムは、気軽にできるブログのようなもの、と思っていたのですが、実際に使ってみると、ブログとはまったくの別物。mixiよりも適度な距離感があって、ストレ…

『通話』ロベルト・ボラーニョ(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 失うもののない人生の「落後者」が放つ聖性 ロベルト・ボラーニョという作家を、この本ではじめて知った。本邦初訳だし、知らない作家はこの世にたくさんいるものだが、彼の場合は「こういう作家がいるとは知らなかった」と言ってみたい…

『私小説のすすめ』小谷野敦(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「私小説を断固として擁護する、小谷野節が炸裂!」 先日、はじめて浜松文芸館に行ってきた。浜松市の文芸活動を紹介する公的な施設である。とくに、浜松に約半世紀住んで、眼科医を営みながら作家活動をした藤枝静男の存在をアピールし…

『読まず嫌い』千野帽子(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 読み巧者は幼いころから本の虫、と思っていたら、「児童文学に漂う『お子さんには山葵抜いときました』的な感じが気持ち悪くて」小学生時代は漫画以外の本はほとんど読まなかったという著者が小説に目ざめたのは十三歳のとき、きっかけ…

『マキァヴェリアン・モーメント―フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統』ポーコック,ジョン・G.A.(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 良い行為もしくは正しい行為は、たとえ、それが神と人間に知られることなく、隠されたままだとしても、良い行為、正しい行為であるだろうか?(ハンナ・アレント「政治の季節」筑摩書房) 再びマキャヴェベリが静かなブームである。どう…

『なぜ私は生きているか』 フロマートカ (新教出版社)

→紀伊國屋書店で購入 佐藤優氏が私淑するチェコの神学者、ヨゼフ・ルクル・フロマートカの自伝である。佐藤氏自身が翻訳しているが、佐藤氏の本のようにすらすら読めるわけではない。本文わずか140ページだが、読みきるのに三日かかった。 本書が読みにくい…

『神学部とは何か』 佐藤優 (新教出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「非キリスト教徒にとっての神学入門」という副題がついているが、佐藤優氏が母校の同志社大学で非キリスト教徒の学生に神学に関心をもってもらうためにおこなった講演がもとになっており、神学がいかにおもしろいか、神学部の勉強がい…

『「坂の上の雲」と日本人』関川夏央(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「司馬を読まずして司馬がわかる、日本がわかる」 司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んだことがありません。ですが、一読して、これは出色の本であると感じたのは、書き手が関川夏央さんだから。私にとっての関川といえば、『戦中派天才老…

『野蛮人のテーブルマナー』 佐藤優 (講談社)<br />『「諜報的生活」の技術』 佐藤優 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 昨年8月に休刊した若者向け雑誌「KING」の連載を二冊にまとめた本である。佐藤優氏は右から左まで来るものは拒まずで仕事を引き受けていると聞くが、こんな軟らかい雑誌にまで書いていたのである。 中味であるが、…

『国家の崩壊』 宮崎学&佐藤優 (にんげん出版)

→紀伊國屋書店で購入 突破者こと宮崎学氏が主宰する研究会で、ソ連崩壊について佐藤優氏が八回にわたって講演した内容をまとめた本である。毎回、宮崎氏の前ふりがあり、それに答える形で話がはじまるが、宮崎氏の部分はピントが呆けており無視して差し支え…

『ほっとけよ。』田原牧(ユビキタスタジオ)

→紀伊國屋書店で購入 「異形である生を引き受けるということ。」 顔面の手術を受けることにした。30代から、右顔面にある血管腫が、年を経ることに膨張していた。44歳になった今は、右頬骨の上に小さなイボに成長している。このイボは血管の塊。傷をつけると…

『甦る怪物 ― 私のマルクス ロシア篇』 佐藤優 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 表題からすると『私のマルクス』の続編のようだが、実際は『自壊する帝国』の続編である。 前著は歴史の現場に立ち会った人の証言として圧倒的な迫力があったが、本書では崩壊の必然性が本格的に考察されるとともに、崩壊の瓦礫の下から…

『豆腐屋の四季 ある青春の記録』松下竜一(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「テレビに出ることの喜びと恥ずかしさを取り戻すために」 本屋の文庫本新刊コーナーで、本書が平積みにされているのを見た瞬間、鈍い予感が身体のなかを走った。これは何だか、とんでもなく面白そうだぞ、と。本書について何かの知識が…

石原千秋×紅野謙介 対談「今、「教養」を呼び戻すために」その3

河出ブックス創刊に際して行われた『文藝』誌上での対談の第3回(最終回)です。 ::::: 【発想の奥行きに応えていく選書として】 石原●選書と新書は書き手にとってどのように違うのかなと考えた時に、本屋さんに長く置いてもらえるというメリットは大…

『フードジョッキー その理論と実践』行友太郎・東琢磨(ひろしま女性学研究所)

→紀伊國屋書店で購入 「フードジョッキーとは、食物を騎手が馬を乗りこなすように使用する人のこと。一般的に、フードジョッキーは食物の選択を行い、料理方法を決定し、料理を実行することで、表現活動や空間演出を行う。Food JockeyがDisc Jockeyと対比し…

『私のマルクス』 佐藤優 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 佐藤優氏の思想的自伝である。いくら『国家の罠』がすごい本だからといって、自伝を書くのは30年早いんじゃないかと思ったが、これはこれで腹にこたえる読物になっていた。 両親の経歴にはじまり、生い立ちから高校時代、同志社大学神学…

『ドイモイの誕生-ベトナムにおける改革路線の形成過程』古田元夫(青木書店)

→紀伊國屋書店で購入 まず、「お帰りなさい」と言いたい。ここ数年間、研究科長・学部長、副学長、附属図書館長を歴任し、校務多忙だった著者、古田元夫が「注がついた本」を出版したことを心から喜びたい。もう何人、研究への未練を残しながら、管理職につ…

『自壊する帝国』 佐藤優 (新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 佐藤優氏は1987年にロシア語研修のためにモスクワ大学言語学部に留学した後、そのままモスクワに在勤する。途中、中断はあるが、モスクワ勤務は1995年まで7年8ヶ月にわたる。この間、1991年のソ連崩壊やエリツィン政権の成立があった。…

『国家の罠』 佐藤優 (新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 先日、最高裁で有罪が確定した元外務省主任分析官、佐藤優氏の手記である。 本書は右から左までさまざまな立場の人に絶賛されたベストセラーであり、今さら感があるが、読むタイミングを逃していたので(みんなが読んでいる本を手にとる…

石原千秋×紅野謙介 対談「今、「教養」を呼び戻すために」その2

河出ブックス創刊に際して行われた『文藝』誌上での対談の第2回です。 ::::: 【連鎖する読書としての役割】 紅野●今までの総合雑誌というのは、様々な事象がセグメント化されながら載っていて、それらを投げ与えられながら自分で取捨選択して読んで考…

『けい子ちゃんのゆかた』庄野潤三(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「日常を描く、日常を考える」 2009年9月21日、庄野潤三は亡くなった。享年88。はかったかのようなタイミングで翌月刊行されたのが、『けい子ちゃんのゆかた』の文庫版(新潮文庫)である。 この作品は2004年に文芸誌に連載され、翌春に…

『石を聞く肖像』木之下晃(飛鳥新社)

→紀伊國屋書店で購入 おもしろい本に出会った。写真集だ。世界的に活躍している200人の音楽家のポートレートである。撮影は木之下晃。音楽家の撮影においては誰もが一目を置く写真家だ。1984年から85年にかけて小学館より出版された『世界の音楽家』という全…

石原千秋×紅野謙介 対談「今、「教養」を呼び戻すために」その1

河出ブックス創刊から2週間、おかげさまで早々に重版が決まったタイトルもございます。 さて、今回は、この創刊に際して弊社の『文藝』(2009年冬号)誌上で行われた、『読者はどこにいるのか』の石原千秋さんと、『検閲と文学』の紅野謙介さんの対談をお送…

『東京骨灰紀行』小沢信男(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「過去の死者たちを慰霊することが未来を開く」 畏怖すべき傑作である。私のような無知・無粋な人間に本書を書評する資格があるのか、何度も躊躇してしまったほどだ。いや、別に難しい本というわけではない。いま流行りの、東京の歴史を…

『ハロルド・ピンター〈1〉温室/背信/家族の声』ハロルド・ピンター 貴志哲雄(ハヤカワ演劇文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ―「現実」をめぐる劇作家の支配― 戯曲を読むことは小説を読むのとは違った体験となる。当然のことながら、戯曲では、台詞が物語の構成要素のすべてといっても過言ではない。それに比べれば、小説はトガキで埋め尽くされているようなもの…

『ルードウィヒ・B』 手塚治虫 (潮出版社)

→紀伊國屋書店で購入 『ル-ドウィヒ・B』は「コミックトム」に1987年6月号から1989年2月号まで連載された未完の長編である。2月号が店頭にならんだ一ヶ月後、手塚治虫は61年の生涯を閉じている。『ル-ドウィヒ・B』は手塚の絶筆作品の一つとなった。 「…

『ネオ・ファウスト』1&2 手塚治虫 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 手塚が三度試みた『ファウスト』の漫画化の最後で、絶筆作品の一つでもある。 亡くなる前年の1988年1月から「朝日ジャーナル」に連載をはじめ、同年11月11日号で第一部が完結している。一ヶ月あけて12月9日号から第…