書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『トオヌップ』小栗昌子(冬青社)

→紀伊國屋書店で購入 「遠野郷のはるか昔に眼差しを注ぐ」 まず目を引かれたのは、写真集の表紙に載っている男の顔だった。眼光が鋭く、見るものをはっとさせる凄みがある。ただ「濃い」とか「個性的」とか表現されるものとはちがう、生活の起伏や歴史が刻ま…

『アウシュヴィッツの音楽隊』シモン・ラックス/ルネ・クーディー(大久保喬樹訳、音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 第二次世界大戦が終結してから65年。戦闘員としての体験を自分の声で語れる人も少なくなりつつある。敗戦国となった大日本帝国とともに、ナチス・ドイツの行為を記した書籍は数多い。そうした中で、フランクルの『夜と霧』(筆者の2007…

『安部公房全集〈30〉1924.03 - 1993.01』 安部公房 (新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 1997年に刊行のはじまった『安部公房全集』がこの3月7日、最終巻の刊行にこぎつけ、12年ぶりに完結した。 27巻まではほぼ毎月出たが、28巻から間隔が開き、29巻から最後の30+巻までは8年以上かかっている。しかし、補遺篇が182頁、書誌…

『罪と罰』本村洋 宮崎哲弥 藤井誠二(イーストプレス)

→紀伊國屋書店で購入 「犯罪被害者遺族を代表することになった一人の父親が10年の戦いを振り返る」 妻と愛娘との幸福な生活をしていた平凡な夫、父親。本村洋さん。本村氏は、1999年4月、当時18歳の少年によって妻子を惨殺された。ほどなく警察は少…

『The Book of Fate』Brad Meltzer(Grand Central Pub.)

→紀伊國屋書店で購入 「大仕掛けのスリラーを読む醍醐味が味わえる作品」 面白いスリラーというのは、一度読み始めたらなかなか本を離すことができない。今回読んだのはブラッド・メルツアーの『The Book of Fate』。 ペーパーバックとはいえ600ページあ…

『遣唐使』東野治之(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 冬の嵐のなかを、長崎県五島列島福江島の三井楽町にある「遣唐使ふるさと館」を訪ねた。平日午前中ということもあり、わたしひとりで「史実を参考にして創作した三井楽オリジナルの映像ソフト「遣唐使ものがたり」」を鑑賞した。パンフ…

『向田邦子との二十年』久世光彦(筑摩書店)

→紀伊國屋書店で購入 久世光彦が向田邦子について書いた本二冊があわせて文庫化された。そのうちの一冊『触れもせで―向田邦子との二十年』というタイトルについて、著者は「思わせぶりで気が進まなかった」と書いているが、書店でそのタイトルひと目見て、こ…

『魂の歌手』澤田展人(共同文化社)

→紀伊國屋書店で購入 「思想の香り」 1981年の7月、私は始めてパリの地を踏んだ。3ケ月余りフランス語学校へ通い帰国した、というより資金不足のため帰国せざるを得なかった。進学塾の講師をしながら、アテネ・フランセでフランス語を学び続けた。その時身体…

『エリック・クラプトン自伝』<br> エリック・クラプトン(著)中江昌彦(訳)(イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 「私はどこにいても違和感を感じて」 (BGM: Truth Be Told & Serendipity (Tal Wilkenfeld)) 夢の中で花言葉を教えてくれた人は 何の違和感もなく 私の横でこうして普通にしていてくれる だから、夢から覚めた世界では 本当はもういい…

『堕ちてゆく男』ドン・デリーロ(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「「揺らぎ」と「非揺らぎ」のはざまで」 9.11の同時多発テロが欧米の作家にとっていかに大きな出来事だったかは、事件後に書かれたいくつかの作品を読んでみるとわかる。書評空間でも、これまでイアン・マキューアン『土曜日』(2008…

『アジア海賊版文化-「辺境」から見るアメリカ化の現実』土佐昌樹(光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 まず、タイトルに惹かれた。つぎに、各章のタイトル見て期待した。そして、カバー見返しの要約を読んで楽しみになった。 各章のタイトルは、つぎのとおりだが、節や見出しからも、いろいろな現実を教えてくれるのではないかと期待はふく…

『Handle With Care』Jodi Picoult(Atria Books)

→紀伊國屋書店で購入 「家族の愛の形を考えさせられる作品」 僕の通ったマサチューセッツ州の大学では、2年生から3年生にあがるとき論文ライティングの技能試験があった。大きな講堂に集まり、渡された命題と資料をもとに論文を仕上げるというもので、回答…

『奇跡のリンゴ』 石川拓治(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 よく売れている本だと聞いて読んでみたのだが、うわさどおりにすごい本であった。青森県津軽平野のリンゴ農家の木村秋則さんという方が、無農薬農業というものがあることを偶然に知って、自分もそれをリンゴ栽培でやってみようと思い立…

『白川静―漢字の世界観』松岡正剛(平凡社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「巫の書」 本書の仕立ては、博覧強記の鬼才松岡正剛にしては驚くほど抑制が利いている。舞台裏の編集者としての器量が存分に発揮された名著だ。碩学を一般読者へ紹介するために要する膨大な知識と情報は惜しみなく割愛され、白川学のツ…

『寺山修司のいる風景 母の蛍』寺山はつ(中央公論社)

→紀伊國屋書店で購入 先だって逝った一人息子を、母は誕生のその日から回想する。 その頃、東北あたりでは病院で産む習慣はなく、みんな自宅で産婆さんに助けられて産むのがふつうでした。このときは私の祖母が青森から手伝いに来てくれていて、出産のまぎわ…

『東大英単』東京大学教養学部英語部会(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「受験生のみなさまへ」 ほほ~。いいんですかねえ、こんな本を東大の先生が出しちゃって? という声が聞こえてきそうな本である。実際、冒頭はふるっている。すなわち、 これは受験参考書ではありません。 いやいや、そんなこと言った…

『歴史和解と泰緬鉄道-英国人捕虜が描いた収容所の真実』ジャック・チョーカー著、根本尚美訳(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 正直言って、この手の本はあまり好きではない。まず、主題の「歴史和解」は、いくらがんばっても無理だというのが、わたしの基本的な考えだ。つぎに、副題にある「真実」というものもないのが大前提で、ある一定の見方で「真実」だと思…

『33個めの石 傷ついた現代のための哲学』 森岡正博(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「なにげないエピソードを糸口に」 バージニア工科大学でおきた無差別な銃乱射によって、32名の大学生の命が奪われた。犠牲者を悼んでキャンパスには32個の石が置かれ、花や手紙で飾られていたが、ある日、33個目の石が置かれてい…

『在留日本人の比島戦:フィリピン人との心の交流と戦乱』藤原則之(光人社)

→紀伊國屋書店で購入 光人社はといえば、多くの「戦記もの」を出版してきたことで有名で、かつてこれらの「戦記もの」は書店の1階に大きなスペースを確保していた。その光人社が、終戦50年を機に刊行をはじめたのが、NF文庫である。自費出版の復刻を含め低価…

『後手という生き方-「先手」にはない夢を実現する力』瀬川昌司(角川書店)

→紀伊國屋書店で購入 「情熱を燃やし続けて」 必ずしも、「先手必勝」ではないらしい・・・ 先日、webニュースを見ていたらこのような報道があった。 将棋のプロ公式戦で08年度の先手勝率が、 日本将棋連盟が統計を取り始めた1967年度以降、初めて5割…

『行動ファイナンスで読み解く投資の科学』大庭昭彦(東洋経済新報社)

→紀伊國屋書店で購入 だまし絵や立体錯視を研究している私の経験では、人は目の前の状況をありのままに見ているようでも、さまざまな思い込みをそこに投入して“勝手に”見ている場面が驚くほど多い。いわゆる錯覚現象である。聴覚や味覚でも同様の錯覚がたく…

『評論家入門』小谷野敦(平凡社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「好きなことを書いて稼ぐ、という職業の現実」 どうしたら自分の書いた原稿を商業出版できるのか? そのために、どうしたら優秀な編集者と会えるのか? どうしたら文筆だけで食べていけるのか? どうしたら知識人として生きることがで…

『リリィ、はちみつ色の夏』<br> Sue Monk Kidd(著)小川高義(訳)(世界文化社)

src="http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4418055142.jpg" border="0" /> →紀伊國屋書店で購入 「Lily Dakota Fanning こんな女の子が同じクラスにいたらどうしよう」(BGM: If I Ain't Got You (Alicia Keys)) 映画で、思わぬ所で涙が出てしまう経験…

『文芸誤報』斎藤美奈子(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ちょい怖」 斎藤美奈子と言えば、ここ何年か、もっともノっている批評家のひとり。本書は「週刊朝日」と「朝日新聞」に連載された文芸時評書評を、多少の編集を加えてまとめたものだが、通読してみると、その勢いの元がわかる。 汗水…