書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『上海、かたつむりの家』六六 青樹明子・訳(プレジデント社)

→紀伊國屋書店で購入 中国では知らない人はいないというほどの大ベストセラー小説らしい。テレビドラマにもなり、こちらもたいへんなな人気を博したという話題作である。 原作は2007年刊、ドラマ化は2009年だが、一部の局では内容が過激すぎるとの理由で放映…

『歴史を考えるヒント』網野善彦(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「「日本」という国名はいつできたのか?」 「日本」という国の名前が決まったのはいつか? 一体どれだけの人がこの基本的な質問に対して正確に答えられるだろうか。網野善彦の体験によると、大学生の解答は「紀元前一世紀から始まって十九…

『メディア文化とジェンダーの政治学-第三波フェミニズムの視点から』田中 東子(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 「新たなジェンダー論からメディア文化をとらえた待望の一冊!」 本書は、十文字女子学園大学講師の田中東子氏によって書かれたアンソロジーである。評者は、本書を著者よりご恵投にあずかったが、無論、それだからと言ってここで取り上…

『文化と外交-パブリック・ディプロマシーの時代』渡辺 靖(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「立ち遅れる日本の文化外交に対する警告の書」 先日、とある大学で文化社会学について話をしていたとき、受講生から次のようなコメントをもらった。 すなわち、その概略を記すと、「文化のような表層的な現象を研究することに何の意義…

『北朝鮮の軍事工業化』 木村光彦&安部桂司 (知泉書館)

→紀伊國屋書店で購入 李榮薫『大韓民国の物語』で知った本で「帝国の戦争から金日成の戦争へ」という副題がついている。 日本は日中戦争継続のために朝鮮半島と満洲を兵站基地にしたが、特に現在の北朝鮮地域には多数の鉱山を開き最先端の重化学工業地帯を建…

『おそめ』石井妙子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「伝説の銀座マダムの新たな伝説」 「伝説の○○」という言葉はよく見かける。しかし、石井妙子の著した『伝説の銀座マダム おそめ』の、おそめほど「伝説」にふさわしい人はいないのではないか。そもそも「伝説」は噂によって形作られる…

『カーボン・アスリート――美しい義足に描く夢』山中俊治(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「義足が有機体となる過程――義足ランナーをめぐる語りの中で」 2012年ロンドン五輪とパラリンピックの両方に出場した両足義足のランナー、オスカー・ピストリウス選手の躍動感、レース後半の超越的な速さを評者は鮮明に記憶している。五…

『メディアオーディエンスとは何か』カレン・ロス/バージニア・ナイチンゲール 著  / 児島和人・高橋利枝・阿部潔 訳(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「メディア論を通した、「われわれとは誰か?」という問いの軌跡」 「われわれとは誰か?」という問いが、急速に重要なものになりつつある。それは、「日本人である」「労働者(サラリーマン)である」「○○党支持者である」「若者である…

『仕事を遅くする7つの常識-「やめる」だけでスピード10倍アップ』松本幸夫(経済界)

→紀伊國屋書店で購入 「「忙しい病」の方々に贈りたい、「手抜き」のコツ」 「『忙しい忙しい』って言っていれば、なんでも許されると思っているんじゃないの?」と言われ、ドキッとする人は少なくないだろう。評者もその一人だ。 「忙しさ」を美徳とし、で…

『Home Town』Tracy Kidder(Washington Square)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューイングランド地方のカレッジ・タウンが舞台となった小説」 ピューリッツァ賞作家、トレーシー・キダーの小説『Home Town』はニューイングランド地方の小さな町を舞台とした小説だ。ニューイングランド地方とは、ニューハンプシ…

『知っていますか、朝鮮学校』 朴三石 (岩波ブックレット)

→紀伊國屋書店で購入 朝鮮学校に批判的な立場の『朝鮮学校「歴史教科書」を読む』(以下、萩原・井沢本とする)だけでは片手落ちなので朝鮮学校側の本も読んでみた。著者の朴三石氏は朝鮮大学校授で無償化問題で論陣を張っている人である。 本書も朝鮮学校無…

『朝鮮学校「歴史教科書」を読む』 萩原遼&井沢元彦 (祥伝社新書)

→紀伊國屋書店で購入 韓国の歴史教科書を読んだので北朝鮮のも読んでみようと思ったが、邦訳は「星への歩み出版」から出ているものの書店ルートでは流通しておらず、ホームページもないので(ブログはあるが放置状態)、通信販売で買うしかない。昔ながらの…

『韓国近現代の歴史 検定韓国近現代史教科書』 三橋広夫訳 (明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 韓国の高校では一年の時に必修の「国史」を教え、二、三年では「深化選択科目」の「近現代史」を週に4時間かけてみっちり学習させる。教科書も『高等学校国定国史』と『検定韓国近現代史教科書』にわかれている。本書は選択科目の方の教…

『韓国の高校歴史教科書 高等学校国定国史』 三橋広夫訳 (明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 昨今なにかと話題の韓国の歴史教科書を読んでみた。高校一年で必修で教える「国史」の『高等学校国定国史』と、高校二、三年で「深化選択科目」として教える「韓国近現代史」の『検定韓国近現代史教科書』である。どちらも明石書店の「…

『医療的ケアって大変なことなの?』下川和洋編(ぶどう社)

→紀伊國屋書店で購入 「生きるための医療的な行為をめぐる1990年代の動き」 この本のタイトルは「医療的ケアって大変なことなの?」という問いかけになっています。この問いかけ自体が、この本全体の主張を示しているのですが、それはまた現在の社会の姿を映…

『世宗大王のコリア史』 片野次雄 (彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 最近は韓流ドラマの主人公になり日本でも知名度の上がっている李朝第四代世宗を事績を紹介する歴史読物である。本書は1985年に誠文堂新光社から出た本の再刊で別に韓流ドラマの流行にあてこんで書かれたわけではないが、巻末に網谷雅幸…

『大韓民国の物語』 李榮薫 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 韓国で2006年に日本とアメリカの研究者も参加した『解放前後史の再認識』(以下『再認識』)という論集が出版された。専門的な学術書だったが、実証的な研究にもとづいて従来の通説、特に日本の植民地支配によって韓国の近代化が抑圧さ…

『三つの旗のもとに-アナーキズムと反植民地主義的想像力』ベネディクト・アンダーソン著、山本信人訳(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 日本人にはちょっとわからない著者の博識を背景に、独特の言い回しがあって理解するのが困難な本書を、日本語で読むことできるようにしてくれた訳者に、まず感謝したい。著者アンダーソンは、その著書『想像の共同体』(原著1983年)で…

『日本帝国の申し子』 エッカート (草思社)

→紀伊國屋書店で購入 著者のカーター・J・エッカートは朝鮮史を専門とするアメリカの歴史学者でハーバード大学コリアン・インスティチュート所長をつとめている。本書は韓国近代史の基本図書とされている本で、副題に「高敞の金一族と韓国資本主義の植民地起…

『<small>哲学の歴史 07</small> 理性の劇場』 加藤尚武編 (中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 中公版『哲学の歴史』の第7巻である。このシリーズは通史だが各巻とも単独の本として読むことができるし、ゆるい論集なので興味のある章だけ読むのでもかまわないだろう。 本巻は18世紀後半から19世紀にかけて隆盛したドイツ観念論をあ…

『ニセ札つかいの手記―武田泰淳異色短篇集』武田泰淳(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 一日おきに三枚ずつ、「源さん」からニセの千円札を渡される「私」。使った札の額の半分は、「源さん」に渡すことになっている。たとえば、ある日に渡された三千円のニセ札をすべて使ったら、千五百円(本物)を「源さん」へ、「私」の…

『稲の大東亜共栄圏-帝国日本の<緑の革命>』藤原辰史(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 いままでいちばんおいしかったコメは、フィリピン南部ミンダナオ島ダバオ市街地から少し内陸に入ったカリナンで食べた陸稲の赤米ジャバニカだ。日本人が普通に食べる白米ジャパニカより粒が大きく、香りとともにじっくり味わうことがで…

『雲をつかむ話』多和田葉子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「つべこべの行方」 筆者のまわりにも多和田葉子ファンがけっこういて、そういう人たちは『雪の練習生』を絶賛する。あれを読んでしまうとホッキョクグマに対し、もぉ、ただではすまないような感情が湧いてしまうのだ!とみな熱弁を奮う…

『評伝ナンシー関 「心に一人のナンシーを」』横田増生(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「サブカルという枠組みから抜け出すために」 本書を最初に書店で見つけたとき、軽い警戒感を抱いた。あのナンシー関の「評伝」だって?それはちょっとおかしくないか? ナンシー関と言ったら、テレビの表層を読み取ることに長けた批評…

『その日東京駅五時二十五分発』西川美和(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「19歳の”されこうべ”」 広島に暮らす飛行機好きの「ぼく」は19歳で召集され大阪の陸軍通信隊に配属される。数日後には東京の通信隊本部へ転属となり、無線送受信の練習中にアメリカの短波放送を受信してポツダム宣言の内容を聞いてしま…

『どうして弾けなくなるの? 〈音楽家のジストニア〉の正しい知識のために』J. ロセー、S. ファブレガス(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 演奏家に特有な局所性ジストニアという病気をご存知だろうか。4月の書評『ピアニストの脳を科学する』でも触れた病名だが、この疾患に関するきわめて詳細な書籍が出版された。バルセロナ(スペイン)にある音楽家専門治療施設「テラッサ…

『 Pasquale’s Nose: Idle Days in an Italian Town』Michael Rips(Back Bay Books)

→紀伊國屋書店で購入 「イタリアのおかしな田舎町」 今回紹介するのは、イタリア紀行。ニューヨークにあるチェルシー・ホテルに住んでいた著者は、毎日カフェで無駄な時間を過ごしている。しかし、その無駄な時間の多い生活に満足していて「こちら側の枯れて…

『はるまき日記―偏愛的育児エッセイ』瀧波ユカリ(文藝春秋 )

→紀伊國屋書店で購入 「母親になっても女を捨てたくない」と言ってる女性、いますよね。「子供を生んでもきちんとメイク」「羞恥心だけは捨てたくない」実際に死守している人もいます。すごいと思います。でも大概の女性は努力を放棄してしまうようです。な…

『ヒューマニティーズ 文学』小野正嗣(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 このシリーズ、全冊を読む人のことを考えているのだろうか。5章の章立ては守られているが、その内容は各執筆者に任されているようだ。頁数も、もっとも多い200頁ほどのものともっとも少ない100頁ほどのものとで倍ほど違う(定価は同じ)…

『Still Practicing : The Heartaches and Joys of a Clinical Career (Psychoanalysis in a New Key)』Sandra Buechler(Routledge )

→紀伊國屋書店で購入 「精神分析家の二つのS」 「先生のしている治療法は50年後も存在していると思いますか?」どうして、今、この質問を?表情や口調には糾弾や嫌味もない。顎をやや上げて視線を下げる、かつての彼に時折見られた不遜なジェスチャーもない…