書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『ニーズ中心の福祉社会へ 』上野千鶴子+中西正司(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「当事者主権の次世代福祉戦略」 2008年は波乱万丈の年だったが今まさに暮れようとしている。こうして今年を振り返ってみると、まず新年早々から中医協の診療報酬改定があった。後期高齢者医療の終末期相談支援料案が浮上し、驚いて…

『としょかんライオン』ミシェル・ヌードセン さく ケビン・ホークス え 福本友美子 やく(岩崎書店)

→紀伊國屋書店で購入 「あなたの図書館をみつけて。」 忘れもしない、小学校1年生のとき。 実家から歩いて5分もかからないところに、図書館ができた。 嬉しかった。 年子でひとつ下の妹と、ひたすら通った。 夏休みは朝ごはんを食べたらでかけ、 お昼になっ…

『マーケティング・リテラシー』谷村智康(リベルタ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「広告が効かない時代のマーケティングとは」 世界の金融危機によって、輸出に依存してきた日本を代表するグローバル企業群(とくに自動車、家電)の凋落が始まりました。その恩恵を受けてきた産業である、メディア産業も危機に瀕してい…

『トヨティズムを生きる 名古屋発カルチュラル・スタディーズ』鶴本花織・西山哲郎・松宮朝(せりか書房)

→紀伊國屋書店で購入 「東海地方というモータウンの衰退が、日系ブラジル人を直撃する」 08年9月にアメリカの大手証券会社リーマンブラザーズが倒産。このリーマンショックからはじまった世界金融危機が日本経済に大打撃を与えています。とくにその利益の…

『見えない音、聴こえない絵』大竹伸朗(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「「衝動」の因って来たるところ」 東京都現代美術館の全館を、子供時代から現在までの作品で埋め尽くした大竹伸朗の「全景」展が開かれたのは、2006年秋。もう2年もたったのかと思う。「なに」と一言でいえない事件に遭遇したような生…

『しあわせの王様――全身麻痺のALSを生きる舩後晴彦の挑戦――』舩後晴彦・寮美千子(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「病いの物語を支える他者の存在」 前回(2008年10月)のこのブログで、神経難病ALSを持つ人々による自己物語集『生きる力』を取り上げましたが、それに連なる一冊が最近出版されました。『生きる力』の寄稿者の一人でもある舩後晴彦…

『タイの開発・環境・災害-繋がりから読み解く防災社会』中須正(風響社)

→紀伊國屋書店で購入 「災害を天から降ってくる天災とせず、人災の部分に絞り込むことによって、抑止・コントロールし得る可能性を探る」という著者、中須正の立場に、まず賛同し拍手を送りたい。たしかに人間は無力で、神に祈るしかないときがある。しかし…

『文明崩壊』 ジャレド・ダイアモンド (草思社)

→上巻を購入 →下巻を購入 『銃・病原菌・鉄』で世界的に注目されたジャレド・ダイアモンドがふたたび文明論に挑んだ本である。『銃・病原菌・鉄』は人種間に差がないことを強調するあまり過激な地理決定論になっていたが、本書では文化的な差を重視し、環境…

『歴史を変えた気候大変動』 ブライアン・フェイガン (河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 『千年前の人類を襲った大温暖化』の8年前に上梓された本だが、内容的には補完しあう関係になっている。『大温暖化』では同時代という切口で切り、中世温暖期はヨーロッパと北米以外の地域では大旱魃期だったことをあきらかにしたが、本…

『千年前の人類を襲った大温暖化』 ブライアン・フェイガン (河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 温暖化懐疑論にくみするわけではないが、昨今のエコの大合唱には首をかしげたくなるところがある。古今未曾有の大惨事が起きるかのような騒ぎになっているが、地球はこれまでにも温暖期と氷河期をくりかえしてきたのである。 北極の氷が…

『ニッポンの小説 百年の孤独』高橋源一郎(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 高橋源一郎は「Provocateur」である。「挑発者、扇動者」とでも訳すのだろうが、こちらの心を落着かなくさせる。私たちが普段意識的または無意識的に心の片隅に追いやっているものに光を当てようとする。触れてはいけないものではなく、…

『帰って来た猫ストーカー』浅生ハルミン(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 世にあふれるあまたの猫本のなかでも、孤高の輝きを放つ猫エッセイの第2弾。 自由とはなにかを知り、身の程をわきまえ、ただしやるときはやる! しかも気高く美しい。猫とは生まれながらにしてそうした美点を兼ね備えた生き物で、でき…

『ケータイ小説は文学か』石原千秋(ちくまプリマー新書)

→紀伊國屋書店で購入 「ケータイ小説とは何か?」 「ケータイ小説」という言葉は聞いていたが、それほど読みたいとも思わなかったし、フランスで使っている携帯はインターネットの契約をしていないので、携帯では読めない。そんな時新聞で、瀬戸内寂聴さんが…

『Outliers: The Story of Success』Malcolm Gladwell(Little, Brown)

→紀伊國屋書店で購入 「成功の要因を探った本」 『The Tipping Point』『Blink』とベストセラーを発表してきた、『ニューヨーカー』誌のライター、マルコム・グラッドウェルの新刊。 以前の2作を紹介すると、『The Tipping Point』はある考えや行動が社会的…

『第2の江原を探せ!』渡邉正裕・山中登志子+MyNewsJapanスピリチュアル検証チーム(扶桑社)

→紀伊國屋書店で購入 「全否定できない事実! スピリチュアル問題をジャーナリズムが初めて検証」 スピリチュアルカウンセラー江原啓之さんの人気が衰えません。テレビ番組「オーラの泉」は相変わらず高視聴率をたたき出しているようです。江原さんを信じる…

『過去を忘れない 語り継ぐ経験の社会学』桜井厚・山田富秋・藤井泰編(せりか書房)

→紀伊國屋書店で購入 「マイノリティの語り手には、それを興味深く耳を傾ける聴き手が必要だ」 人の話を聞く、それに基づいて何かをする。それが人間の社会的な活動なのだろう、と思います。それは仕事であったり、家庭での会話であったり、職業的なインタビ…

『国民語が「つくられる」とき-ラオスの言語ナショナリズムとタイ語』矢野順子(風響社)

→紀伊國屋書店で購入 「国民語が「つくられる」とき」? いつの時代の話なの? 「ラオス」? どこにあるの? そう思ってくれるだけでも、著者、矢野順子は、救われる思いがするかもしれない。著者は、「あとがき」で、つぎのように述べている。「筆者の研究…

『聖女・悪女伝説 神話/聖書編』喜多尾 道冬(音楽之友社 )

→紀伊國屋書店で購入 聖女にまるでおなじみはないが、もう一方はとても気になるところである。悪女はどうしていつも魅力的なのか。 「音楽の友」誌連載の単行本化であって、神話や聖書に登場する女性を題材としたオペラ作品や絵画作品を紹介し、夫々のキャラ…

『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』佐野眞一著(集英社インターナショナル)

→紀伊國屋書店で購入 「『噂の真相』沖縄特別篇、のようなもの」 学生のころ、小説や詩などにくらべて、ノンフィクションは程度の低いものだと思っていた。「事実」などにかかずらっているノンフィクションは、絵空事こそ真実であると信じている文学青年にと…

『良い支援?』寺本晃久、末永弘、岡部耕典、岩橋誠治 (生活書院)

→紀伊國屋書店で購入 「”たいへんな人”の自立生活っ?」 昨日、中野サンプラザでJALSA講習会が行われた。富山県から患者会研究の伊藤さんも参加され賑やかな会になった。 うちの患者会では年に一度、有志が集まってこのような勉強会を開いてきたが、年…

『和の切り絵』我那覇 陽子(雄鷄社 )

→紀伊國屋書店で購入 「新しい年への準備」 新しい年を迎える準備をするということは、 今年一年の自分を振り返り、 新たな気持ちで目標をたてることにもなりますね。 大切な、大切な、一年のはじまりを どう、すごすか。 大事だからこそ、準備をするのです…

『品川に百人のおばちゃんみ~っけ!みんなで子育てまちづくり』丹羽洋子(ひとなる書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「おばちゃん」というステイタス」 おばちゃんになろう。 女性は、年をかさねれば自然におばちゃんになれると思っている人が多いと思いますが、それは単なる経年変化であり、熟成した姿ではないのです。笑 世の中にはいろんなオトナが…

『どうで死ぬ身のひと踊り』西村賢太(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 ―空虚を許さないエゴ・ゲロ私小説― 或る友人によれば、わたしはエロ・グロ趣向なのだという。わたしにはこの評価を受け入れる気は毛頭なくて、エロ・グロにナンセンスを加えれば同意しなくもないという保留で応酬してきた。勿論、友人は…

『生かされて。』イマキュレー・イリバギザ(PHP)

→紀伊國屋書店で購入 ルワンダはアフリカ中東の内陸にある小さな国だ。アフリカとは言え高原に位置するため、年間平均気温は19℃と過ごしやすい土地だという。ここに住んでいるフツ族とツチ族の間では、しばしば部族対立が起こった。1994年にはフツ族によるツ…

『白暗淵』古井由吉(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「古井由吉を読んでみよう」 古井由吉と言えば、かつての文学的青年にとっては神様のような存在であった。「杳子」、「妻隠」、「円陣を組む女たち」といった初期の傑作短篇にしてすでに、一行々々筆写しながら嘗めるように読みたくなる…

『American Wife』Curtis Sittenfeld(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「結婚に幸せを見いだせない女性の物語」 人は自分の人生を悲観的にみたり、楽観的に感じたりするが、それはその人が送ってきた人生のありかたによるのだろうか。 よい人生が送れれば、物事を楽観的にみられるのだろうか。また、それま…

『恋と股間』杉作J太郎(理論社)

→紀伊國屋書店で購入 「恋愛って修業ですよね」 恋愛についての心構えから具体的な実践、めでたく恋愛が成就されてのちの問題の対処法からなる、恋愛&セックス論。ただし、絶望的にモテない男子用。 彼女が欲しいが出会いがない、ならば、「親やきょうだい…

『世界がキューバの高学力に注目するわけ』吉田太郎(築地書館)

→紀伊國屋書店で購入 「バークにまかせろ ハニーにおまかせ スマートさん、あとはあなたにおまかせよ」 2009年はこれで始まる何でこれが来たか?これには因果と必然がある http://che.gyao.jp/ *** 私の右目の右端の方、そう、ロドプシンのレチナールの光…

『新聞と戦争』朝日新聞「新聞と戦争」取材班(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 日本ジャーナリスト会議大賞、石橋湛山賞、早稲田ジャーナリズム大賞、受賞おめでとうございます、といえばいいのだろうが、手放しで祝辞を贈れないものがある。いまごろになって、本書のような本が受賞すること自体、戦後日本のジャー…

『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』水村 美苗(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「翻訳を切り口に国語の成立をたどる」 東京育ちで、両親も、その親も東京の人で田舎というものを持ったことのない私には、方言で育った人が標準語をしゃべるときの違和感は実感としてわからない。でも英語を話しているときは、それに似…