書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

紀伊國屋書店ロンドン事務所

『肖像のエニグマ』岡田温司(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 肖像画の隠された意味にひとは魅せられてきた。モナリザ、真珠の耳飾りの女、ラ・フォルナリーナ、裸のマハ、マルゲリータ王女、などなど。何れも美しくエニグマティック(謎めいた)な作品であって、その表情、仕草に、モデルの正体や…

『聖女・悪女伝説 神話/聖書編』喜多尾 道冬(音楽之友社 )

→紀伊國屋書店で購入 聖女にまるでおなじみはないが、もう一方はとても気になるところである。悪女はどうしていつも魅力的なのか。 「音楽の友」誌連載の単行本化であって、神話や聖書に登場する女性を題材としたオペラ作品や絵画作品を紹介し、夫々のキャラ…

『悪魔という救い』菊地 章太(朝日新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 なにも渋沢龍彦まで遡るまでもなく、キリスト教こそが悪魔を必要としているのだ。でなければ、スポンサーがいなくなってしまって、システィーナ礼拝堂に描かれた有名なミケランジェロの「最後の審判」も、オルビエートのルカ・シニョレ…

『シチリアへ行きたい』小森谷 慶子 小森谷 賢二(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「とんぼの本」が創刊25周年ということで慶賀の至りである。便利でハンディな出版形態であって、写真がふんだんに含まれている。雑誌-特に女性誌-の旅行特集などより内容としてずっとよいし、何より情報としてより正確である。コロナ…

『ロンドンの公園と庭園』門井 昭夫(小学館スクウェア)

→紀伊國屋書店で購入 ごく大雑把に言って、ロンドンとその周辺の公園はすごくフツーである。何かスペシャルなものを期待する向きであればがっかりするかも知れない。奇を衒ったものがない。ケントの城と名園(シシングハースト、ノール、スコトニ城、ヒーバ…

『日本のコンテンツビジネス―ネット時代にどう変わる』猪熊建夫(新風社)

→紀伊國屋書店で購入 外国に住んで新聞を読む程度ではどうもその意図や感覚がピンと来なかったが、かつて小泉旧政権下ではコンテンツ立国などということが言われていたように思う。例年その多忙さと、ミーティングに次ぐミーティングの連続に疲労困憊してし…

『大衆音楽史』森正人(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 ロンドンは世界で最も人種多様性が高い街だ。ウィンブルドン化のジレンマも随分前から叫ばれているが、その中にあって今も最もイギリスらしさを残すものといえば、クリケット、パブ、そしてrock musicだろうか。この街で聴く音楽は、そ…

『狩猟と編み籠―対称性人類学〈2〉』中沢新一(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 宗教なかんずくキリスト教と映画の類似性を考察する書物であるが、そうした題材としてなら誰しも思いつく定番名画のいくつか<「十戒」(デミル)、「奇跡の丘」(パゾリーニ)、「ラルジャン」(ブレッソン)>に続いて、おこちゃま映…

『風景の意味―理性と感性』山岸 健【責任編集】(三和書籍 )

→紀伊國屋書店で購入 「策謀と誠実の両立」 全18考の収載論文の中で、北澤裕「インターフェイスと真正性」について考えてみたい。ヘルメス主義から新プラトン主義、策謀のマキャベリ主義と誠実さの相克。合理的ルネサンスの虚像があり、オカルト的ルネサン…

『南方熊楠日記2(1897‐1904)』南方熊楠(八坂書房)

→紀伊國屋書店で購入 毎日、とても長い距離を歩いた。お金がなかったせいだ。キュー植物園からアールズ・コートまで、或いはノッチンガムヒルから大英博物館、翌日はバタシーからブルームズベリーへと。ほとんどの場合、深夜遅く、へべれけに酔いながら。わ…

『ヨーロッパの庭園―美の楽園をめぐる旅』岩切 正介(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 。。。王はよくみて感心し、内心怒った。すべてが王のもつものを越えていた。それは本来、王にこそふさわしいものであった。王は嫉妬で苦しみ、怒りでのどがつまりそうであった。(本書92頁) 太陽王に嫉妬される機会などそうそうあるも…

『食べる西洋美術史―「最後の晩餐」から読む』宮下規久朗(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 ロンドンのウォレスコレクションやアムステルダムの市立博物館など、小規模ではあるが好ましいコレクションを持つ美術館を訪れたとき、先ず圧倒され、ついで辟易とさせられるのは、そのおびただしい風景画と静物画コレクションの質量で…

『The Black Sea: A History』Charles King(Oxford University Press)

→紀伊國屋書店で購入 スキタイの羊をご存知だろうか。バロメッツと呼ばれることもある。大地からすっくと伸びた幹に生る植物羊であって、羊であるからにはときどきメェーと鳴く。植物でもあるがゆえに、自ら移動することなど叶わず、草が周りになくなればす…

『処女懐胎―描かれた「奇跡」と「聖家族」』岡田温司(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 第一子を身ごもった女性は美しい、と思う。救世主の受胎を天使に告げられたときのマリアの当惑―この神聖にして人間らしい感情の表出が、受胎告知(the annunciation)という絵画テーマの妙味であり、謎である。しかし、男には男の見方があ…

『魂(ソウル)のゆくえ』ピーター・バラカン(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「祝!復刊!」 改訂復刊に際し、言を極めて慶びたい。青春の書であって、ソウル・ミュージックのみならず、ポピュラー・ミュージック全領域における名著の改訂新版。買うべし、としかいいようがない傑作。音楽なしでは生きていけないよ…

『学校文化の比較社会学-日本とイギリスの中等教育』志水宏吉(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 外国に移住したひとならば、赴任地でのわが子の教育について、少しくらい余計な心配を抱いたとしてもやむを得ぬことだろう。イギリスに引越してもっと強く感じた印象は、学校の質の違いだった。「フラットな社会は適切な知識と技術と発…

『Landscape and Memory』Simon Schama(Harpercollins Pub.)

→紀伊國屋書店で購入 テームズ河口域は不思議な地域だ。たしかにロンドンは、その程良い外海からの距離に守られ、テームズ川の輸送力に支えられ発展した町であって、もしもこれが外海にその扉を曝した町であったなら、スペイン艦隊であれ、ジャンヌ・ダルク…

『異教的ルネサンス』アビ・ヴァールブルク(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 だれしも、自らの旅を楽しく思い出す。アルバムを眺めたり、パソコンで写真を見たり。切符や入場券のスクラップ帳をつくるアナクロなひと(私だ)もいる。はじめてローマに行ったとき、蜂の噴水やトリトーネのあるバルベリーニ広場近く…

『Architecture : A Very Short Introduction (Very Short Introductions Series) 』Ballantyne, Andrew(Oxford Univ Press)

→紀伊國屋書店で購入 「建築学超入門」 ゴダールの映画「軽蔑」の後半シークエンス全面に使用されている非常にインパクトのある建物が、カプリ島のマラパルテ荘である。イタリアの有名建築雑誌「Domus」の過去50年間イタリア建築ベスト選でも第一位に選ばれ…

『魔術から数学へ』森毅(講談社学術文庫)

→紀伊國屋書店で購入 Francis Yeatsの古典的名著Giordano Bruno and the Hermetic Traditionはわたしには難しい本で、なかなか読み進めない。内容に途中でついてゆけなくなり、各章のはじめに何度も戻ったり、行きつ戻りつしている。第三章「フィチーノと魔…

『ピサネロ装飾論』杉本秀太郎(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 「異教的ルネサンス その1」 ピサネロは謎の多い画家だ。残存点数は極めて少ない。ブリティッシュミュージアムにメダルのコレクションがあり秀逸。父親に倣いピサネロを名乗るが、ヴェローナの生まれ。当地の聖アナスタシア教会に聖ゲ…

『In the Company of the Courtesan』 Sarah Dunant (Little Brown)

→紀伊國屋書店で購入 In the Company of a Courtesan is Sarah Dunant’s second novel after the very successful Birth of Venus. Mid 16th century Rome is being sacked by protestant Spaniards and Germans. In the middle of this bloodshed we have F…

『The Story of San Michele』Axel Munthe(John Murray)

→紀伊國屋書店で購入 今春、イタリア・カプリ島にあるサン・ミケーレ荘を訪れたのがきっかけである。言語を失わせるほどに美しすぎる場所は人を狂気に陥らせることもあるだろう。鷹や鳶が眼下を舞い、頭上を小鳥が飛び交い、花が咲き乱れた庭園は彫像に囲ま…

『Asiles de Fous』Régis Jauffret (Gallimard)

→紀伊國屋書店で購入 Tout commence par une histoire banale, la séparation entre Gisèle et Damien. Lâchement, Damien envoie son père annoncer la nouvelle a Gisèle ; il utilise le stratagème de venir changer un robinet et soudainement se lanc…

『A Year in the Life of Richmond』Jackson, Joanna(Frances Lincoln Ltd Published )

→紀伊國屋書店で購入 リッチモンドはロンドン南西郊外のテムズ川沿いにある町。かつてリッチモンド・グリーンの位置にはヘンリーⅦ世やエドワードⅢ世などの歴代イギリス王が住んでいた王宮があり、エリザベスI世はここで他界しました。今はただ門構え一基だけ…

『Possibilité d’une Ile -Prix Interallié 2005- 』 Michel Houellebecq (Editions Fayard):English translation 『The Possibility of an Island』 (Translated by Gavin Bowd)

→紀伊國屋書店で購入(英訳版) Michel Houellebecq is a provocative and direct author. Possibility of an Island is his latest novel for which he has won the 2005 “Prix Interallie” which rewards novels written by journalists. After reading Fre…

『Strange Histories』Darren Oldridge(Routledge)

→紀伊國屋書店で購入 グロテスクな表紙だが内容は理性的な一冊である。魔女狩りは現代の目から見れば狂信が生んだおぞましい現象に思えるが、当時の人々にとってみれば至極まともな考えに基づいている。中世の人が現代人の行動を見たとしたら、我々の日常は…

『菊の花道』Yampo(書肆侃侃房)

→紀伊國屋書店で購入ローリングストーンズのデッカ時代の全作品が1980年代はじめに再発されたとき、まだ高校生だった僕はお小遣いをはたいて「ギミー・シェルター」を買った。その後も、友達と分担して幾つか買い集めていった。多分全盤に詩人の宮原安春によ…

『オランダ・ベルギ-絵画紀行ー昔日の巨匠たち』(フロマンタン)(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 私の友人が異種格闘技ワールドカップを考案した。「哲学者ワールドカップ」ではー彼はフランス人なのでーデカルト、ルソー、サルトル、ディドロの屈強なフォーバックを揃えた彼の母国は世界最強だが、コンビネーションの悪さから失点す…

『Bestiary』Barber, Richard(TRN)(Boydell & Brewer)

→紀伊國屋書店で購入 「ベスティアリ」は13世紀に流行した動物譚のひとつ。イギリスで書かれた。著書の目的は自然科学の探求では毛頭ない。創造主が創りあげた自然の姿を通じて、原罪から逃れられない人間という存在を、神の体系内部へ誘うというもの。善性…