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プロの読み手による書評ブログ

管啓次郎

『富士山にのぼる』石川直樹(教育画劇)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「彼の後について、富士に登ろう」 石川直樹といえば、いまや押しも押されもせぬ日本の代表的冒険家のひとり。そして彼には、他の冒険家の追随を許さない点が、少なくとも三つある。まず彼はすぐれた写真家でもある。ついで、文…

『コレクションさん』古川日出男+後藤友香(青林工藝舎)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「絶望を集めてまわる、そんな小学生の冒険は?」 小説家・古川日出男が、マンガ家・後藤友香と組んで、初の絵本を発表した。生まれたのは、東日本大震災以後の日本語の表現世界に独自の位置を占めるにちがいない、感動的な傑作…

『Her Mother’s Face』Roddy Doyle(Scholastic)

→紀伊國屋書店で購入 「少女が反復する顔、言葉」 アイルランドが大好きだがアイルランドに行ったことがないのでSiobhánという女の子の名前をどう発音すればいいのかわからなかった。わからないままに読みはじめ、読み終えて、ぐっと胸を突かれた。なんとも…

『水になった村』大西暢夫(情報センター出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「水が村を沈めた、でも流れはいまもそこに」 計画が発表されたのは1957年だそうだ。それから半世紀以上を経て、2008年、揖斐川水源域に置かれた徳山ダムは完成した。面積でいえば諏訪湖に等しく、浜名湖2つ分の水量をもつダム…

『やさしいベイトソン』野村直樹(金剛出版)

→紀伊國屋書店で購入 「生物+環境こそ生存の単位、それが生き延びる、考える、進化する」 グレゴリー・ベイトソンの思考から、しばらく遠ざかっていることに気づき、あの着想の鉱脈めがけてまた潜っていきたいと思っていたちょうどそのとき、この本に出会っ…

『ぼくは猟師になった』千松信也(リトルモア)

→紀伊國屋書店で購入 「京都でイノシシを狩る日々の充実と真実」 痛快な本だ。ヒトとケモノの関係を、根本的に考え直させる。というよりも、そもそも都市に住む人間が日ごろまったく意識せず、完全に忘却している問いを、つきつけてくる。 本題に入るまえに…

『火を熾す』ジャック・ロンドン(柴田元幸訳)(スイッチ・パブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「犬がついてくる、狼がついてくる」 ジャック・ロンドンといえば『白い牙』。だが、そのストーリーは何にも覚えていない。中学生のころに翻訳の文庫本で読み、それから手にとったことがなかった。狼犬の話だった、たしか。アラスカが舞…

『アフリカ・レポート----壊れる国、生きる人々』松本仁一(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「アフリカはいつもここにある、それなのに」 この世界がアフリカを必要とし、アフリカのおかげでどんなに潑溂としたおもしろく楽しい場所になっているかは、ちょっと身のまわりを見わたしてみただけでわかると思う。われわれの日々の生…