書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『5万年前』 ニコラス・ウェイド (イースト・プレス)

→紀伊國屋書店で購入 オッペンハイマーの『人類の足跡10万年全史』と同じく、アフリカを出た人類が世界に拡がっていったグレート・ジャーニーを描いた本であるが、同じ事実から出発しながら解釈がずいぶん違う。 まず「5万年前」という表題からわかるように…

『人類の足跡10万年全史』 スティーヴン・オッペンハイマー (草思社)

→紀伊國屋書店で購入 人類の起源の手がかりはかつては化石しかなかったが、今ではDNA解読と古気候学の進歩によって人類がどのように生まれ、どのように世界に広がっていったか、グレート・ジャーニーの道筋がほぼたどれるようになった。出アフリカをはたした…

『狩りをするサル』 クレイグ・スタンフォード (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 『ヒトは食べられて進化した』は、初期人類は集団による狩りを通じて認知能力や言語を発達させたというヒト=狩人説を完膚なきまでにやっつけたが、否定する立場の本だけでは片手落ちなので、ヒト=狩人説をもうすこし知りたいと思った…

『未完のフィリピン革命と植民地化』早瀬晋三(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「著者のメッセージ」として、つぎのように書いた。「フィリピンは歴史的にアメリカの強い影響を受けながら、経済的に豊かにならず、政治的にも安定していない。アメリカがリードする時代であるなら、フィリピンはアメリカが理想とする…

『ヒトは食べられて進化した』 ドナ・ハート&ロバート・サスマン (化学同人)

→紀伊國屋書店で購入 表題はセンセーショナルだが、論旨は明解である。森を出て、見通しのいい草原で暮らすようになった初期人類は肉食獣のかっこうの餌食にされた。ヒヒのような牙をもたない非力な彼らは生きのびるために知能と言語を発達させるしかなかっ…

『南無阿弥陀仏』柳宗悦著(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「日本仏教のラディカル」 柳宗悦が晩年に書いた仏教入門書。入門書とはいっても、この本はいわば柳の思想の集大成ともいうべき作品であり、「柳宗悦入門」という性格をも持っている。 柳宗悦は美の革命家である。ひとりの卓越した芸術…

『差別論―偏見理論批判―』佐藤 裕(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「理論社会学の醍醐味」 今回は、私と富山大学で一緒に仕事をしている佐藤裕さんの研究をご紹介します。 佐藤さんの研究対象は差別です。ただし、ここでいう「差別」は、一般的にイメージされやすいものと必ずしも一致しません。 私たち…

『The Inheritance : The World Obama Confronts and the Challenges to American Power』David E. Sanger(Harmony Books )

→紀伊國屋書店で購入 「オバマの受継いだアメリカ」 1月20日にオバマ氏がアメリカの新大統領に就任し、8年間続いたブッシュ政権が終わった。この8年間でアメリカと世界の状況は様変わりし、オバマ氏が受継ぐアメリカは、ブッシュ氏がクリントン大統領か…

『大人にはわからない日本文学史』高橋源一郎(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「人はなぜ、文学史を求めるのか?」 ああ、文学史…。誰も教えたくない文学史…。 筆者の勤務先でも、毎年冬になると、「誰が来年の英文学史を教えるのか?」を決める会議が開かれる。「だってさ、オレ、学部長なわけよ。死ぬほど忙しい…

『転生者オンム・セティと古代エジプトの謎 ― 3000年前の記憶をもった考古学者がいた!』ハニ-・エル・ゼイニ キャサリン・ディ-ズ 著 (学習研究社)

→紀伊國屋書店で購入 「前世記憶を持った数奇なエジプト学者」 沖縄に霊能力のある父親をもつ友人がいて、霊力に目覚めるまでの経緯を本人から聞かせてもらったことがある。もっとも印象的だったのは忘れ去られた先祖の墓を探しだしたときのことで、先祖の声…

『ダブルキャリア』荻野進介・大宮冬洋(NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 「副業が新しい人生を見つけてくれる」 ひとつの仕事だけで自己実現をしたい。安定した生活を得たい。こうしたささやかな夢は、昨今の世界金融危機による不況のなかでは、非現実的な選択に見えているのではないでしょうか。 そんな人に…

『森崎和江コレクション 精神史の旅』森崎和江(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 独特の文章で、人生を描きつづける森崎和江さんのコレクションが、昨年11月から毎月刊行されている。当初うかがっていた全8巻の選集ではなく、「すべて作品単位にばらし、また単行本未収録エッセイも考慮に入れて」、「森崎和江の精神の…

『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』萩原朔美(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 萩原葉子が亡くなったのは二〇〇五年の夏。著者が、老いた母の願いを受け入れ、同居をはじめてからわずか百八十六日後のことだった。「親不孝な息子」が、母との「慌ただしい別離」に向かい合うために書かれたのが本書である。 父親が文…

『ちょっと昔の道具から見なおす住まい方』山口昌伴(王国社)

→紀伊國屋書店で購入 「消えたのに忘れることができない道具を巡って」 明治生まれのおじいちゃんの遺品を整理していた友人が言った。「おじいちゃんと一緒に暮らしていたころは食卓に家族それぞれの箸箱を置いていた。大切にしていたんだけれど、いつのまに…

『東京スタンピード』森達也(毎日新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 「人間の愚かさをわかっちゃいるけど、見つめることをやめられない」 ノンフィクション作家、森達也の最新刊。これまでのノンフィクション取材で収集した情報と、森自身の体験と実感をベースに、近未来の東京で発生するジェノサイド事件…

『男道』清原和博(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 昨年10月1日に最後の打席を空振り三振で飾って引退したプロ野球選手、清原和博の自叙伝である。書店の目立つところに平積みされており、この書評ブログで紹介しなくても良さそうに思われる。が、思わず買って読んでみたところ、実におも…

『移民環流』杉本春(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「日系人は日本人。緊急支援がないと難民化する!」 昨年秋に表面化した世界同時金融危機。この影響で日本の自動車産業は壊滅的な打撃を受けています。そのしわ寄せは、日本社会でもっとも弱い人達、外国人に押し寄せています。製造業で…

『すごい本屋!』井原万見子(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「息子と行ける、普通の本屋を探しています」 もうすぐ子供が生まれます。子宮内を撮影した写真にはしっかりキンタマが映っていましたので男の子です。 妻とふたりで考えて昨年末には名前もつけました。 ついさっき妻と電話で話をしたの…

『浅草東仲町五番地』堀切利高(論創社)

→紀伊國屋書店で購入 「懐かしの浅草物語」 飛行機が日常的な「足」となった今では、地方在住の人が「東京」に持つイメージも変わってきたのかもしれない。しかし、以前は地方人にとっての「東京」という幻想が間違いなく存在していた。大きなビルが立ち並び…

『幽霊コレクター』ユーディット・ヘルマン(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「意識の流れに伴走する独特の文体」 旅の意味は、どこかに行って何かを見ることにあるのはたしかだが、それと同じくらい「ここ」を離れることにあるのではないか。住んでいる家を離れ、家族や友人関係を離れ、見慣れた風景を離れ、食べ…

『The Ascent of Money : A Financial History of the World』Niall Ferguson(Penguin)

→紀伊國屋書店で購入 「お金と社会の長い歴史」 ニューヨークに住んでいると、大きな額のお金を実際に見ることが少ない。家のローン、電話代、電気代などはインターネットやチェックと呼ばれる個人小切手を使って支払いを済ませる。入ってくるお金も銀行振込…

『女の庭』鹿島田真希(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 集合住宅での井戸端会議。悪口をいわれることを怖れ、そこに加わることを止められない「私」。いたって普通の主婦、と自らを見積もってみても、子供がいないため、まわりの〝母親〟たちとのやりとりに頷くそのさまはどうしてもぎこちな…

『朗読者』ベルンハルト・シュリンク(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「文字と声」 多くのこどもたちは寝る前のお話を聴きたがる。ところが、そんなに焦がれた枕元の朗読を、こどもたちはいつしか打ち忘れて、ひとりで眠るようになる。多くのおとなは手間の省けたことに安堵し、自分たちの時間を取り戻す。…

『シーボルトの眼 出島絵師川原慶賀』ねじめ正一(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「いま、手元に『紅毛交接図』なる妖しげな絵図をひろげて、異装の男女が荒々しい房事にふける情景を鑑賞している。本書の冒頭にあるシーンをそのまま描いた図を、運よく書棚から拾い上げられたおかげで、本書を読むことが一段と楽しく…

『日本語が亡びるとき』水村美苗(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「帰国」を説明する」 依然として書店の平積みコーナーを占拠し続ける本書。つい最近も「ユリイカ」で水村特集が組まれたりして、日本文学と英語のかかわりにこんなみんなが関心を持つのは良いことであるなあ、と筆者などは職業柄つい…

『どこか或る家』高橋たか子(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「気になる女性」 女性にとってそのような男性が存在するものか分からないが、男にとっては不思議な存在となる女性がいるものだ。たまらなくその人に会いたい、会って色々な事を話してみたい。きっとその時間は素晴らしく甘美なものだろ…

『金融危機の資本論 グローバリゼーション以降、世界はどうなるのか?』本山美彦 萱野稔人(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 【新自由主義は終わるのか?】 「貧乏、恐慌、危機。そんなタイトルのついた本しか売れない」。 出版に携わるすべての友人たちが、そう嘆く。その通りだろう。事実、出版産業の最末端で日銭を稼ぐ私の仕事も壊滅状態である。1月から驚く…

『女装する女』湯山玲子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「よそゆき」や「おめかし」というべきものを、久しくしていないように思う。結婚式などの祝い事、パーティー、目上の人との面会、デート、それなりに考えて装っても、右のような表現にはしっくりとあてはまらないのだ。 NHKアーカイブ…

『肖像のエニグマ』岡田温司(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 肖像画の隠された意味にひとは魅せられてきた。モナリザ、真珠の耳飾りの女、ラ・フォルナリーナ、裸のマハ、マルゲリータ王女、などなど。何れも美しくエニグマティック(謎めいた)な作品であって、その表情、仕草に、モデルの正体や…

『イスラーム金融』櫻井秀子(新評論)

→紀伊國屋書店で購入 石油が高騰し、オイルマネーが日本経済にもあちこちで少なからぬ影響を与えるようになってくると、安直にイスラーム経済について知りたくなる。しかし、本書は、その期待を見事に裏切っている。著者、櫻井秀子は、「はじめに」で、つぎ…