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プロの読み手による書評ブログ

2007-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『高い城・文学エッセイ』 スタニスワフ・レム (国書刊行会)

→紀伊國屋書店で購入 レムの自伝『高い城』に10編のエッセイをくわえた本で、「レム・コレクション」独自の編集である。 まず『高い城』だが、自伝といってもギムナジュウムまでで、普通の自伝を期待すると肩すかしをくらわされる(普通の自伝を読みたい人に…

『大失敗』 スタニスワフ・レム (国書刊行会)

→紀伊國屋書店で購入 昨年亡くなったレムの最後の長編小説である。1986年に発表されていたが、原著出版21年たった今年、邦訳がやっと出た。 後期レムはメタ・フィクションに傾いていたが、この作品はばりばりのハードSFであり、あふれんばかりのアイデアを盛…

『東京ミッドタウンのアートとデザイン』清水敏男【監修】(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 「体がよじれる時 四人囃子の復活 空を見上げる時」 かつて私が日本に住んでいた頃、六本木にお気に入りの奇妙なテラスがありました。右はリッツカールトン、少し右奥には東京タワーの先っぽだけが見え、正面にはカタツムリのようなオブ…

『ソラリス』 スタニスワフ・レム (国書刊行会)

→紀伊國屋書店で購入 スタニスワフ・レムの『ソラリス』はSFのみならず、20世紀文学の古典といっていいが、沼野充義氏によるポーランド語原著からのはじめての直接訳が2004年に国書刊行会の「レム・コレクション」の一冊として出版された。 この作品がはじめ…

『少子社会日本』山田昌弘(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「開国した都市に少子化問題はない」 結婚、そして恋愛が経済状況と密接に関係しているということを説得力のある論理構成で世に問うた名著『結婚の社会学』http://www.arsvi.com/b1990/9608ym.htm がある。その山田昌弘による今年4月に…

『Wonderful Tonight』Pattie Boyd(Harmony Books)

→紀伊國屋書店で購入 「いとしのレイラよいつまでも」 パティ・ボイド。彼女のためにジョージ・ハリソンが「サムシング」を書き、エリック・クラプトンが「いとしのレイラ」を歌った。 僕は、ビートルズの映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」…

『ダ・ヴィンチ 天才の仕事-発明スケッチ32枚を完全復元』 ドメニコ・ロレンツァ、マリオ・タッディ、エドアルド・ザノン[著] 松井貴子[訳] (二見書房)

→紀伊國屋書店で購入 現代アニメの描画法もマニエリスムの末裔と知れた 『十六世紀文化革命』(〈1〉/〈2〉)、そして『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』と読み継いで、知識と絵、というかグラフィズムとの関係が、ルネサンス、とりわけレオナルド・ダ・ヴ…

『石原吉郎詩文集』石原吉郎(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「失語者の発想」 石原吉郎はもっと読まれるべき詩人である。 石原といえばソ連での長期にわたる抑留体験が知られており、作品としても「位置」、「事実」、「馬と暴動」、「葬式列車」といった、囚人としての体験を多少なりとも雰囲気…

『ハンナ・アーレント -- 〈生〉は一つのナラティヴである』ジュリア・クリステヴァ(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 「やわらかに描き出されたアレントの生と思想」 クリステヴァの女性評伝三部作のうちの一冊で、ほかの二人はメラニー・クラインとコレットだ。ある種の女性は、「精神生活の生き方の天才」(p.11)でもありうるという視点から、この三人が…

『なんにもないところから芸術がはじまる』椹木野衣(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](30) ジャンルに囚われているところに批評はない。批評とは、自分の拠って立つジャンルへの安住が奪われる時に始まるのではないか。批評が「危機」と同義の critical という形容詞を持つのは、おそらくそこに理由が…

『レオナルド・ダ・ヴィンチの世界』池上英洋[編著](東京堂出版)

→紀伊國屋書店で購入 レオナルドを相手に本を編むことのむつかしさ 山本義隆氏の大労作『十六世紀文化革命』(〈1〉/〈2〉)の読後、その勢いのまま読むに格好の大冊が出た。レオナルド・ダ・ヴィンチの「多岐にわたる活動を、あますところなく網羅したはじ…

『新安保体制下の日米関係』佐々木隆爾(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 本書は、1935年生まれの著者、佐々木隆爾の「体験」を、客観的に見つめ直した書である。「六〇…

『日本ロボット戦争記 1939~1945 』井上晴樹 (NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ロボット」に希望をつないだのは子ども ロボット体験の最初の記憶は、古田足日と堀内誠一版の絵本『ロボット・カミイ』だった。空き箱を集めては、作った作った、わたしのカミイ。かまぼこ型の目をしたかぶりもの系で、動力はもちろん…

『呪術化するモダニティ 』阿部年晴,小田亮,近藤英俊編(風響社)

→紀伊國屋書店で購入 「アフリカ呪術の「現代性」」 本書は、さまざまな視点から、アフリカの呪術と宗教的な現象を考察しようとしたものだ。とくに千年紀資本主義の議論、現代における呪術分析の三つの落とし穴、そして後背地的なものについての考察を面白く…

『一六世紀文化革命』〈1〉〈2〉山本義隆(みすず書房)

→一六世紀文化革命〈1〉を購入 →一六世紀文化革命〈2〉を購入 それって要するに職人たちのマニエリスムなのである 17世紀の「科学革命」(トマス・クーン)を大掛かりに論じた『磁力と重力の発見』(〈1〉古代・中世/〈2〉ルネサンス/〈3〉近代の始まり)で…

『午前4時、東京で会いますか?-パリ・東京往復書簡』シャンサ、リシャール・コラス(ポプラ社)

→紀伊國屋書店で購入 「越境という生き方」 パリに住む作家と東京にいる作家が往復書簡を交わすというのは、 取り立てて珍しいことではないかもしれないが、 在パリの作家が中国人女性で、在東京のほうがフランス人男性となると、 にわかに謎めいてくる。 パ…

『民主主義の逆説』シャンタル・ムフ(以文社)

→紀伊國屋書店で購入 「多元主義的な民主主義のための戦略」 ラディカル・デモクラシーの理論を構築するムフのこの書物の議論の中心は「政治」と「政治的なもの」の分離にあると言えるだろう。ムフはシュミットに依拠しながら、「政治的なもの」を、「人間関…

『The Films of Luc Besson:Master of Spectacle』Susan Hayward and Phil Powrie(Manchester Univ Press)

→紀伊國屋書店で購入 「Re: 休暇中」 メイルありがとう。何か健康そうで何よりです。 私も先月人間ドックにかかりましたが、特にこれと言って大きな問題はなさそうですが(そうでもないですけど)年々数値が年相応になっていくような感じです。 (何か低血糖…

『マンガを読んで小説家になろう!』大内明日香・若桜木虔(アスペクト)

→紀伊國屋書店で購入 「小説を書き続ければ、小説家になれるんです」 小説を書きもしないのに、「小説作法」や「小説の書き方」を論じた本をつい読んでしまう。 そんな癖をもっている人にとって、本書は見のがすことができない本である。「また、同じような…

『住まいと家族をめぐる物語―男の家、女の家、性別のない部屋』西川祐子(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「「部屋」育ちのこれから」 「日本型近代家族モデルと、その容器としての住まいのモデルの変遷」をたどる本書は、「住むこと」すなわち「生きること」ととらえ、容れものとしての「家」とその中身である「家族」のありかたを相互から照…

『風邪の効用』野口晴哉(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「40分で終わる風邪」 たとえばチャレンジ精神に溢れた出版社があったとして、「人生前向きシリーズ」と称し以下のようなタイトルの本を次々に刊行したとしよう。 『下痢の快楽』 『歯痛は嬉しい』 『実は儲かる失恋』 『頭痛の晴れが…

『シンボルの修辞学』 エトガー・ヴィント[著] 秋庭史典、加藤哲弘、金沢百枝、蜷川順子、松根伸治[訳] (晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 読む順序をまちがわねば、笑う図像学、きっと好きになる 絵の意味がわかる、と簡単に言うが、そもそも絵に、ちょうど小説や詩に意味を求められるのと同様のレヴェルで<意味>を求めることができるようになったのは、一代の歴史家・美術…

『High and dry (はつ恋)』よしもとばなな(文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「日本版『星の王子様』!」 私の学校は国際バカロレア(International Baccalaureate)というカリキュラムを導入している。「全人教育」を目指す画期的なプログラムだが、高校3年生の時点で必修課題となっているのがExtended Essayだ…

『ヒロシマ独立論』東琢磨(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「場所」について語ること 東琢磨の転換点」 「独立宣言や憲法草案をひとりでコツコツ書いているあいだは俺は狂人か?という気持ちでいたが、これで晴れておおっぴらに狂人だ」と、著者は後書きに書いている。これを読んで私は思った。…

『On the Road--The Original Scroll』Jack Kerouac(Viking)

→紀伊國屋書店で購入 「アメリカ文学史に残る『On the Road』のオリジナル・スクロール版」 僕はアメリカ文学を取り巻く状況や、アメリカで出版される洋書の紹介雑誌『アメリカン・ブックジャム』を出してきたが、記念すべき創刊号のタイトルは『On the Road…

『地平線に』前田隆平(幻冬舎ルネッサンス)

→紀伊國屋書店で購入 某内閣は「戦後レジームからの脱却」というスローガンを掲げ、「原爆投下はしょうがない」という某大臣の発言が徹底的に糾弾されるなど、いまだに第二次世界大戦の記憶が私たちの意識下にくすぶっているのは、紛れもない現実だ。 私自身…

『マルチチュードの文法--現代的な生活形式を分析するために』パオロ・ヴィルノ(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「現代における労働の意味」 ネグリ/ハートの『帝国』以来、流行になってきたマルチチュードの概念は、政治や文化などのさまざまな次元で考察すべきものだと思うが、本書が語るように、現代における労働の概念とも切り離すことができな…

哲学の歴史〈4〉「ルネサンス 15-16世紀」伊藤博明(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 哲学されなかったもののなかった三世紀をねじふせる 不況の時には哲学がブームになるとは昔からよく言われてきたことだが、若い人に哲学を教える名手だった池田晶子氏の茫然自失させる急逝が契機になり、松岡正剛氏が今時の「17才」には…

『網野善彦著作集〈第10巻〉海民の社会』網野善彦(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「知られざる海の民の顔」 網野善彦の著作集の刊行が始まっている。この第一〇巻は、「海民の社会」に関連した論文を集めたものだ。網野の史論のおもしろさは何よりも。日本の古代から近世までの社会が農民を中心とした社会であるという…

『ミクロコスモス』〈1〉〈2〉中沢新一(四季社)

→ミクロコスモス〈1〉を購入 →ミクロコスモス〈2〉を購入 アナロギア・エンティスの天才と同じ時代に生きていることに感謝 ほとんどが今世紀になってからあちこちの媒体に中沢新一の書いた中小掌編エッセーの集成。これからもⅢ、Ⅳ・・・と続いていくことが第…