書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

福嶋亮大

『文学のレッスン』丸谷才一(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「文学の組み換えのために」 1980年代頃から、日本の文芸批評では「近代文学の終わり」が公然と指摘されるようになった。日本社会の大衆化・メディア化が進むなかで、明治以来の文学世界――本書の言い方を借りれば「安下宿に住んでいる文…

『アンフォルム:無形なものの事典』イヴ=アラン・ボワ+ロザリンド・E・クラウス(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「絵画の水平性とその先」 本書は、二人の美術批評家(ロザリンド・クラウスとイヴ=アラン・ボワ)が1996年にパリのポンピドゥー・センターで組織した展覧会のカタログとして書かれた。しかし、一読して明らかな通り、その内容は通り一…

『切りとれ、あの祈る手を――<本>と<革命>をめぐる五つの夜話』佐々木中(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「情報と文学の関係」 著者の佐々木中氏は『夜戦と永遠 フーコー・ラカン・ルジャンドル』(2008年)という大部の思想書で、注目を集めた。本書でも特にルジャンドルが重要な導きの糸となっているものの、主題はあくまで「文学」に据え…

『Pictures for Use and Pleasure: Vernacular Painting in High Qing China』James Cahill(University of California Press)

→紀伊國屋書店で購入 「中国絵画史を書き換える画期的な著作」 欧米の中国美術史研究は、ここ二〇年ほどのあいだに瞠目すべき成果を挙げた。巫鴻(Wu Hung)、クレイグ・クルナス(Craig Clunas)、ロータ・レダローゼ(Lothar Ledderose)、白謙慎(Bai Qi…

『ロボット兵士の戦争』P・W・シンガー(NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ロボットのもたらす戦争の革命」 先ごろアカデミー賞作品賞ほか6部門で賞を獲得したキャスリン・ビグロー監督の『ハート・ロッカー』は、イラク戦争に従軍する爆弾処理兵を扱った映画である。これまでは戦争映画の主人公というと、前…

『中国近世文芸論:農村祭祀から都市芸能へ』田仲一成他編(東方書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中国大衆文化の底面」 巷には「中国四千年の歴史」などという表現があるが、これはいささか誤解を招く言い方である。というのも、こうした言い方は、中国の文明がずっと等質の歴史を刻んできたような印象を与えてしまうからだ。しかし…

『知能の原理:身体性に基づく構成論的アプローチ』R・ファイファー&J・ボンガード(共立出版)

→紀伊國屋書店で購入 「身体性と結びついた知能」 本書は、知能を「身体性」との関わりから問おうとする研究書である。著者たちは、思考が行われる場を脳の外に、具体的には、身体と環境の接面において見ようとする。彼らによれば、空間的認知や社会的認知は…

『上原正三シナリオ選集』上原正三(現代書館)

→紀伊國屋書店で購入 「特撮のパトリオティズム」 脚本家・上原正三は、日本の特撮の歴史を語る上で不可欠の存在である。上原は、円谷プロダクション制作の『帰ってきたウルトラマン』でメインライターを務めた後、いわゆる「戦隊モノ」の草分け的存在にあた…

『出口王仁三郎 帝国の時代のカリスマ』ナンシー・K・ストーカー(原書房)

→紀伊國屋書店で購入 「起業家としての宗教家」 日本では、ベンチャー起業家はしばしば宗教家のように、つまり熱狂的な支持を集めるが、同時にきわめてうさんくさい存在であるように見られている。しかし、本書が示すのは、その逆も言えるということである。…

『ミドルワールド』マーク・ホウ(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「休みなきランダムな世界」 本書の表題である「ミドルワールド」は、素粒子レベルのミクロワールド(ナノメートル以下)と、人体や動植物、宇宙といったマクロワールド(ミクロン以上)の中間にあるスケールの領域を指している。具体的…

『水の彼方』田原(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「中国新世代の文学」 現代中国が未曾有の経済的発展を遂げていることは、周知の通りである。その発展のなか、文学の領域においても、2000年代以降はこれまでにないタイプの作家が続々と現れてきた。「80後世代」(1980年代生…

『格安エアラインで世界一周』下川裕治(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「LCCの台頭」 本書はいわゆるLCC(ローコストキャリア)を乗り継いで、地球を一周してみるという趣旨の旅行記である。LCCはここ30年ほどのあいだに出てきた、格安を売りにする航空会社の総称で、サービスや人件費を徹底して削…

『IN』桐野夏生(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「『OUT』から『IN』へ」 桐野夏生は、一九九七年に出た『OUT』で大きな注目を集めた。工場の深夜パートに出ている団地の主婦たちが、夫の暴力や介護、貧困でじりじりと心身をすり減らすなか、ほんのささいな偶然からバラバラ殺人の…

『メイキング・オブ・ピクサー』デイヴィッド・A・プライス(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「アニメーションを織りなす文化的記憶」 ピクサーのCG技術は驚異的である。『トイ・ストーリー』から『ファインディング・ニモ』『モンスターズ・インク』などのヒット作を経て、2008年公開の『WALL・E』に到るまで、ピクサ…

『市場の変相』モハメド・エラリアン(プレジデント社)

→紀伊國屋書店で購入 「社会を組み込む市場」 サブプライムローン問題とそれに続く世界不況については、大量の書籍が刊行されており、もはや汗牛充棟の感もある。そのなかで本書は、不況が本格化する前に着想されたにもかかわらず、現代の金融市場の持つ独特…