書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2005-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『戦後批評のメタヒストリー』佐藤 泉(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「戦後」観を再審に付す」 いよいよ憲法改定が政治のスケジュールにのぼってくるようだ。憲法を守るか、改めるか、いずれにしても戦後60年の歴史をどうとらえるかが焦眉の課題だといえる。しかし、戦後とひとくちに言っても単純ではな…

『複製技術時代の芸術』ヴァルター・ベンヤミン(晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 「メディアは「遊び」である」 迷ったとき、行き詰まったとき、見通しが利かなくなったとき。そんなとき、幾度も読んだ本をまた開いてみたくなる。ぼくにとって、それはしばしばベンヤミンの著作だ。先日も「複製技術時代の芸術作品」を…

『いま、この研究がおもしろい』岩波書店編集部編(岩波ジュニア新書)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 テレビや新聞の「子どもニュース」を見たり読んだりすると、ハッとさせられることがある。もの…

『パレスチナとは何か』エドワード・サイード(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「ディアスポラを生きる」 岩波の現代文庫として文庫化されたのをきっかけに、サイードの『パレスチナとは何か』を読み返した。この本はサイードがスイス人の写真家ジャン・モアの撮影した写真の中からパレスチナについて考えるために役…

『三四郎』夏目漱石(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「完璧な小説」 私は、漱石の小説は大抵何冊ずつか所有している。すでに持っていても、旅先などで発作的に読みたくなり、ふと見かけた書店で再び買い求めてしまうからだ。 持っている冊数が一番多いのはおそらく『吾輩は猫である』と『…

『グッドラック―戦闘妖精・雪風』神林 長平(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「人と機械の関係を考える」というと、バイオテクノロジにおける倫理ドクトリンやドイツ観念論哲学のように堅い話を想像してしまう。コンピュータテクノロジに関わる人間としては、「いつかはちゃんと考えなくちゃ」と思いつつ、「辛い…

『夢をつかむイチロー262のメッセージ』<br> 編集委員会 (ぴあ)

→紀伊國屋書店で購入 「部活、夏合宿、 今になって分かる事 リミックス・バージョン」 今月号の「VS.」(光文社) は創刊1周年記念もあってか読み応えがある。グラビアも力作揃いで感動ものが並ぶ。高橋尚子がうつむき加減に走り始める。為末大が400mハードル…

『開かれ 人間と動物』アガンベン(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「剥き出しの生を作るマシン」 人間は動物とどこまで異なるか。この問いはドイツの哲学的な人間学の中心的なテーマだった。しかしよく考えるとこの問いは奇妙である。人間が動物ではないかのように、人間と動物を対立させる。カテゴリー…

『ビジョン』マー(産業図書)

→紀伊國屋書店で購入 心理学を学ぼうと考え文学部に入学した後、研究室に配属された際に先輩から最初に薦められて読んだのが、D.マーの「ビジョン」であった。当時の心理学の状況は、ちょうど行動主義から認知科学的な情報処理アプローチへの転換期で、みな…

『インドネシアを齧る-知識の幅をひろげる試み』加納啓良(めこん)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 わたしの研究室の机の横の書棚には、事典・辞典類が置いてある。椅子に座ったままか立てば、事…

『表象としての身体』鷲田清一、野村雅一編(大修館書店)

→紀伊國屋書店で購入 「目配りのよい身体論の論文集」 本書は「身体と文化」という叢書の一冊として慣行された論文集であり、叢書の残りの二冊は「技術としての身体」と「コミュニケーションとしての身体」というタイトルになっている。心理学、美術、生物学…

『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』群ようこ(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 別れた夫から「妖怪」といわれた女性作家がいる。平林たい子である。小説『妖怪をみた』を書いたのは小堀甚二。戦前、プロレタリア文学の代表的な雑誌『文芸戦線』同人のひとりである。平林たい子は林芙美子の同時代人。小堀と同様に、…

『モーツァルト 演奏法と解釈』(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 モーツァルトのピアノ作品をモーツァルトらしく弾けるようになるための指南書だ。読んでおもしろい、という本ではないが、奥が深い。難解な学術書とは違って実践のためのアドヴァイスがたくさん掲載されている。ここから得られる知識は…

『半島を出よ〈上〉』村上龍 (幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「[劇評家の作業日誌](8)」 小説を読むことが少なくなった。演劇書以外の評論やエッセイに比べると、小説の読書量はほんとに微々たるものにすぎない。それでも同時代の作家のなかには目を離せないと思う者も何人かいる。その一人が…

『ボードリヤールという生きかた』(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ボードリヤール入門に最適」 『ボードリヤールという生きかた』(NTT出版) →紀伊國屋書店で購入 「ボードリヤール入門に最適」 日本では初めてのボードリヤール論である。考えてみると、あれほどまでに名高くなったボードリヤールのモ…

『思考のフロンティア 法』(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 前近代から近代へ法観念が根本的に変わったのであれば、いまわたしたちは近代からどのような新…

『その日のまえに』 重松清 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「私の老後の夢は案外単純だったりします」 こうして窓からマンチェスターの風景を見ていると、日本でのバタバタの生活を恥ずかしく感じたりします。最近は何だか、慌ただしい殺人的なスケジュールの生活にドップリで、頭に浮かぶ無数の…

考える脳 考えるコンピューター

→紀伊國屋書店で購入 「スーパーエンジニアが脳を解明!」 脳関連の書籍が激しい勢いで多数出版されているが、脳の知性を実現する実装手法まで示唆したものは少ないだろう。 本書の著者Jeff Hawkinsは、圧倒的シェアを誇る携帯端末「Palm」の生みの親であるス…

『来たるべき世界のために』(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「デリダの思考のプロセスを追うために」 フランスの哲学者、ジャック・デリダと精神分析家のエリザベト・ルディネスコの長~い対話だ。ルディネスコには、フランスにおける精神分析の歴史についての著書があり、ラカンの伝記『ジャック…

『掠奪の法観念史-中・近世ヨーロッパの人・戦争・法』(東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 人はなぜ、平気で他人を殺し、平気で他人のモノを奪うことができるのだろうか。今日でも、わた…

『現代医学のみた大作曲家の生と死 ハイドン、モーツァルト』(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 「死に様」の話題は人の注目を集めやすい。殺人事件の顛末を憂い、闘病記のたぐいに心を痛める裏には、死に関する興味がひそんでいる。それもそのはず、誰もが避けて通れないのが死である。自分にどんな死が準備されているかは、その時…