書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2012-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『自動車と移動の社会学―オートモビリティーズ』M.フェザーストーン/N.スリフト/J.アーリ 編著   近森高明 訳(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「移動研究(モビリティスタディーズ)の新たなる成果として」 モビリティスタディーズという研究が注目されている。『Mobilities』という学術雑誌まで刊行されているこのジャンルを、日本語に訳そうと思うとなかなか難しい。おそらく、…

『仕事するのにオフィスはいらない―ノマドワーキングのすすめ 』佐々木 俊尚(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「モバイル社会の働き方を考えるために」 メディアを研究している身ではあるが、恥ずかしながらその変化の速さについていけない思いをすることが多々ある。 本書もそんな折に手に取った。著者は、ITジャーナリストとして著名な佐々木俊…

『Pop Culture and the Everyday in Japan : Sociological Perspectives』Katsuya Minamida & Izumi Tsuji eds (Trans Pacific Press)

→紀伊國屋書店で購入 「本当の「文化の時代」を考えるために」 「文化の時代」というキャッチフレーズがもてはやされたことがある。大平内閣のころ、1980年代の初めごろである。 いわく、これからはお金では買えない満足感の時代、そういうライフスタイルが…

『テレビは原発事故をどう伝えたのか』伊藤守(平凡社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「原発報道をめぐる/からの根源的な問い」 本書は、東日本大震災と原発事故が発生した3月11日から17日までのNHKと民放キー4局の報道番組を著者が精緻に検証したものである。「テレビ分析は、あくまでテレビテクストで起きたことがらに…

『シズコさん』佐野洋子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 生者の務め 本書は、題名が端的に示すように、著者の母親佐野シズコを描いたものだ。母親への積年の恨み辛み、無念と自己嫌悪など一切合財の想いを宿すシコリが、シズコの認知症と死を経て氷解するまでを描いたのが、『シズコさん』のあ…

『いのち運んだナゾの地下鉄』野田道子 作 /藤田ひおこ 絵(毎日新聞社)

→紀伊國屋書店で購入 「新しい「空襲」の語り継ぎ方として」 3月11日で、東日本大震災から1年が経過した。 その記憶を風化させてはならないと思うし、メディアが大々的に取り上げることで語り継いでいくことも重要だろう。一方で、少し気にかかることもあっ…

『Once upon a Secret』Mimi Alford(Random House)

→紀伊國屋書店で購入 「19歳でケネディ大統領の愛人となった少女の自伝」 今回読んだのは19歳から、ケネディ大統領が暗殺されるまで彼と性的関係を持ったミミ・アルフォードの自伝。 彼女は、ミス・ポーター校(コネチカット州の名門プレップ・スクール…

『蛇・愛の陰画』倉橋由美子(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「「どこにもない場所」とはどこか?」 パリでは先日「Salon du livre」という書籍展が開かれていた。今年の招待国が日本で、大江健三郎、辻仁成、平野啓一郎等の作家や、萩尾望都、ヤマザキ マリ等の漫画家まで、多彩な顔ぶれが来仏し…

『ベリーダンスの官能――ダンサー33人の軌跡と証言』関口義人(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「ベリーダンスの多様性と」 ベリーダンスをめぐる個人的な経験からはじめたい。評者にとってベリーダンスとは、テレビや映画やアニメ、ゲームなどのサブカルチャーを通じた皮相の視覚経験でしかなかった。それは例えば、映画やアーティ…

『表参道のヤッコさん』高橋靖子(河出文庫)

→紀伊國屋書店で購入 著者は日本におけるスタイリストの草分け的存在。6、70年代、カメラマンや編集者など、多くのクリエイターたちが事務所をかまえていた伝説的アパート、原宿セントラルアパートにあった広告代理店から彼女のキャリアはスタートした。 あ…

『経済大国インドネシア-21世紀の成長条件』佐藤百合(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 タイトルから当然インドネシアのことが書いてあると思っていても、帯にある「アジアの臥龍が いま、目覚める」とは、いったいどこのことだろう、と思った人がいるかもしれない。背には「中国、インドのあとを追え」とあり、帯の裏には「…

『小児がんを生きる――親が子どもの病いを生きる経験の軌跡―― 』鷹田佳典(ゆみる出版)

→紀伊國屋書店で購入 「病いの語りへの実直な応答」 今回は、最近出版された、小児がんをもつ子供の親に関する研究をご紹介します。この本は、著者の鷹田さんが、2009年度に提出した博士論文(法政大学大学院)を、内容的にわかりやすい筋道になるようまとめ…

『日本地図史』金田章裕・上杉和央(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 東南アジアでフィールドワークをしているとき、現地の人びとが地図が読めないために、難儀をしたことが何度かあった。地図が読めるようになる日本の地理教育は、すごいとも思った。だが、あるとき、現地の人が地図を指してなにやらつぶ…

『楽譜を読むチカラ』ゲルハルト・マンテル (久保田慶一訳 音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 演奏家としての将来を夢みつつ練習に余念がない音楽学生たちが「よりよい演奏を目指したい」と思いたった時には何に注目すべきか、そしてそれをどのように実践したらよいのかを懇切丁寧に解説した指南書である。いわゆる「演奏論」のジ…

『猫語の教科書―共に暮らすためのやさしい提案 』監修・野澤延行(池田書店)

→紀伊國屋書店で購入 旅、料理、手芸、ファッション、健康や自己メンテなど、最近の実用書には、いかにも実用書然としたのではない、おしゃれなデザインのものがおおい。 実用書といえば!の池田書店のものにもその手の本がいろいろとある。そういえば、現在…

『安部公房の都市』苅部直(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「安部公房は苦手ですか?」 安部公房が苦手、あるいは手に取ったことがないという人にこそ読んでもらいたい本だ。よくできた評論というのはたいていそうなのだが、本書もこちらに何かを強制するということがない。「まあ、こんな話もあ…

『オオカミの護符』小倉美惠子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 きっかけは、一枚の護符だった。「武蔵國 大口眞神 御嶽山」という文字の下に、黒い犬のような獣の図像が描かれているその紙切れは、生家の土蔵の扉に貼られていた。 著者はそこから、地元でひっそりと受け継がれている「御嶽講」の歴史…

『山賊ダイアリ- ― リアル猟師奮闘記』岡本健太郎(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 とある平日の午後、私は紀伊國屋書店新宿南店の漫画フロアをフラフラと歩いていました。たまには大型書店もいいものです。棚が広いので置いてある漫画の数が半端ではありません。普段目にしないマイナーな漫画に出会えます。掘り出し物…

『バターン 死の行進』マイケル・ノーマン/エリザベス・M・ノーマン著、浅岡政子/中島由華訳(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 タイトルの「バターン」と帯の「日米両軍を公正な視点で徹底的に検証した衝撃の書!」、そして訳者名を見て、本書に期待するものはあまりなく、しばらく書棚に放っておいた。読んでみて、思った通りの内容だった。 期待しなかったのは、…

『Nickel and Dimed 』Barbara Ehrenreich(Picador)

→紀伊國屋書店で購入 「アメリカの貧困生活体験談」 一度読み始め、四十ページほどで読むのを止めてしまったこの本。 本の内容は、生物学の博士号を持ち『タイム』誌にも記事を書き、自著も出版している著者が、いまのアメリカ低所得者の現実を探るため実際…

『俺に似たひと』平川克美(医学書院)

→紀伊國屋書店で購入 「親の介護・・・その意味は後から遅れてやってくる」 『俺に似たひと』。最初このタイトルを見た時は昔の歌謡曲のタイトルかと思った。著者の平川克美さんはリナックスカフェの創始者で、『小商いのすすめ』など著作も多数。内田樹さん…

『痕跡本のすすめ』古沢 和宏(太田出版)

→紀伊國屋書店で購入 「《書き込みあり》に魅力あり」 【痕跡本 KONSEKI-BON】前の持ち主の痕跡が残された古本のこと。(本書の帯より) 古本を買うと、たまに出会うことがある。 私が出会った「痕跡本」で印象に残っているのは、十年ほど前に福岡の古書店か…

『リスクの誘惑』宮坂敬造・岡田光弘・坂上貴之・坂本光・巽孝之 編(慶應義重大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「リスクに寄り添う」 リスクとは何だろうか。試みに手元にあるリーダーズを引いてみる。「危険、冒険、危険性(度)、損傷(損害)のおそれ、リスク、危険要素 保険対象としての危険、事故、危険率、保険金、被保険者…」といった語義が…

『戦争の記憶を歩く 東南アジアのいま(3刷)』早瀬晋三(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 ちょこっと4頁ほど、増補した。だが、この差は大きい。 本書の英訳A Walk Through War Memories in Southeast Asia (Quezon City: New Day Publishers)を2010年に出版し、それを読んだアテネオ・デ・マニラ大学の学生(20歳前後)51人か…

『脳を創る読書―なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』酒井邦嘉(実業之日本社)

→紀伊國屋書店で購入 「「考える」読書を手離さないために」 「電子書籍」をめぐる議論は過熱している。しかし、肝心の「読書」の内実はどうなっていくのか。そこをきちんと考えないと、何のための「電子化」かわからなくなりそうだ。 本書『脳を創る読書―な…

『Country Matters 』Michael Korda(Perennial )

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーク編集者の田舎暮らし」 僕は以前、ロサンゼルスのダウンタウンから車で四〇分ほどの町で一軒家を買ったことがある。その家に、兄と僕のガールフレンドとで二年ほど住んだ。 家は、しょっちゅうどこかが壊れ、僕たちは毎週…

『世界は文学でできている ― 対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義』沼野充義(編著)(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「聞き上手不要」 沼野充義という名前をよく見かけるが、どこから読み始めていいかわからないという若い人には、案外この本はいいかもしれない。これは沼野氏が〝書いた〟というよりは〝しゃべった〟ものだが、濃密な沼野トークがたっぷ…