書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『死刑』森達也(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「死刑を語るさまざまな声の記述」 これまで死刑についてまともに考えたことはなかった。本書を読み終えたいまはちがう。さまざまな想念が頭を過る。「死刑をめぐる三年間のロードムービー」と帯にある。死刑という言葉の重さと、ロード…

『アメリカン・スクール』小島信夫(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 昭和四十二年に文庫オリジナル作品集として刊行されたものの復刊。 表題作の「アメリカン・スクール」とは、在日米人のための小中学校のことであるが、いま、在日外国人や帰国子女の通う学校というと、「インターナショナル・スクール」…

『古代マヤ文明』 マイケル・D.コウ (創元社)

→紀伊國屋書店で購入 マヤ学の泰斗、マイケル・コウによる入門書で、1966年の初版以来、40年にわたって読み継がれてきたという。邦題に「図説」とはうたっていないが、『図説 アステカ文明』と同じくらい図版が豊富で、やはりアート紙に印刷されている。 こ…

『図説 アステカ文明』リチャード・F.タウンゼント(創元社)

→紀伊國屋書店で購入 アステカ文明を簡潔に紹介した概説書である。著者のリチャード・タウンゼントはメキシコ先史時代美術の専門家で、シカゴ美術院で主事をつとめているということだが、本書のあつかう範囲は美術のみならずアステカの歴史・文化全般におよ…

『孤独の発明』ポール・オースター 柴田元幸訳(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ―狂気の発明― かつてオースターの諸作品を読んだ時、そこに綴られる世界に戦慄に近い感覚を覚えたのを思い出す。そこには、分裂した精神が奇妙な具合に統合されているような独特の空気があった。思考と感覚のあいだの連結が外れたり繋が…

『衝撃の古代アマゾン文明』 実松克義 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 いかにもという題名と著者が考古畑でない点で損をしてるが、南北アメリカ大陸の歴史のみならず、今後の環境問題を考える上できわめて重要な意義をもった本である。 著者の実松克義氏は宗教人類学者で、現代のシャーマンの聞きとり調査を…

『1491』 チャールズ・マン (NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 1492年、コロンブスの率いる船団は大西洋を横断し、カリブ海のサン・サルバドル島に到達した。いわゆる「コロンブスのアメリカ発見」だが、一万数千年前から南北アメリカ大陸に住んでいた先住民にとっては災厄以外のなにものでもなかっ…

『ホーソーン・《緋文字》・タペストリー』入子文子(南雲堂)

→紀伊國屋書店で購入 珍しくヨーロッパ・ルネサンスに通じたアメリカ文学者の大なた 英米文学研究の世界で驚倒させられることはそう滅多にないが、入子文子という名からして優雅で遊びめくこの研究者の覇気は、確かに驚倒すべきものである。御本人があとがき…

『モンスーン文書と日本-十七世紀ポルトガル公文書集』高瀬弘一郎訳註(八木書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 原史料を読むことは、フィールドワーク(臨地研究)に似ている。未知の世界に読者を誘い、好奇…

『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「先見に満ちた旅の記録」 これまで『路上』の名で出ていたジャック・ケルアックの代表作が、原題のまま『オン・ザ・ロード』として新訳で出版された。「オン・ザ・ロード」という言葉には単に道路の上にいるというだけではなく、「旅行…

『人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか』水野和夫(日本経済新聞出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「帝国の奴隷にならないために」 この10年ほど、美しい外見という付加価値をもとに社会が動くことによって、人々が生きづらくなっている現実を書いてきたものの、正直言って、経済や資本主義についてしっかり勉強をしたことはなかった…

『虚妄の成果主義』高橋伸夫(日経BP)

→紀伊國屋書店で購入 「成果主義が組織を壊すまえに」 このコーナーで取り上げた書籍は、格差社会を問題にしたものばかりになった。サブプライム問題による株価の下落、資源争奪戦のなかで発生した原油価格高騰による物価上昇、年金制度の崩壊、そして近い将…

『後ろから読むエドガー・アラン・ポー-反動とカラクリの文学』野口啓子(彩流社)

→紀伊國屋書店で購入 宇宙が巨大なマガザンであるかもしれない夢 アメリカ文学をその狭い守備範囲でやり続けている人たちにとっては大きな衝撃であったかと思われる鷲津浩子氏の『時の娘たち』は、女史自身言うように「『ユリイカ』を西洋知識史の流れのなか…

『荒地の恋』ねじめ正一(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 「詩的、から遠く離れて」 「口コミ読み」は読書の大きな楽しみである。公の場を自覚した「よそ行き」の書評も参考になるが、知り合いが「こんなものがありましてね」というのを、「どれどれ」と手にとるときには、その本に感動したり失…

『I Feel Bad About My Neck』Nora Ephron(Alfred A. Knopf)

→紀伊國屋書店で購入 「ニューヨーク仕込みの乾いたユーモアが楽しめる本」 「If I can just get back to New York, I’ll be fine.(もしニューヨークに戻ることさえできたら私は大丈夫)」 『恋人たちの予感』、『巡り逢えたら』、『ユー・ガット・メール』…

『時の娘たち』鷲津浩子(南雲堂)

→紀伊國屋書店で購入 ひと皮むけたら凄いことになるはずの蓄積 いろいろなところで書いた通り、ぼくの出発点はメルヴィルの『白鯨』(1851)で、その書かれた時代をF.O.マシーセンが「アメリカン・ルネサンス」と呼んだことで田舎者だったアメリカ人たちが…

『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ(集英社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「不可能な恋」 フランスには同性愛者が多い……のかもしれない。かつて、クラシックバレーの世界にいた友人(男性)は、この世界の男性は確かに同性愛者が多いと言っていた。ファッション界の友人(女性)は、街でセンスが良く美しい男性…

『猫のあしあと』町田康(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「愛猫家につける薬」 猫とつく本にはしぜんと手がのび、猫を愛する作家となれば無条件に親近感をおぼえてしまうのは猫好きの性なのだろう。数年前、ある猫雑誌で町田康が取材されているのを読み、自宅で数匹の猫と暮らしているのみなら…

『新編 悪魔の辞典』アンブローズ・ビアス(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 日本人はおしなべて「大人同士の洒落た会話」を楽しむのが下手なようだ。何かの祝賀会のような機会に知らない人と同席しても、そこで会話が盛り上がることはあまり期待できない。 初対面の人との専門外の会話にも気軽に参加し、そこを笑…

『知の版図-知識の枠組みと英米文学』鷲津浩子、宮本陽一郎[編] (悠書館)

→紀伊國屋書店で購入 ルース・ベネディクトの『菊と刀』に心底恐怖した なにしろ凄いタイトル。魅惑そのもののタイトルの一冊。荒木正純氏経由、同じく悠書館ということで続けて読んでみた。編者の一人、鷲津浩子氏は、アメリカ文学をやる人たちに一番欠けて…

『はじめてのジャズ・ギター』天野 丘(リットー・ミュージック)

→紀伊國屋書店で購入 「はじめての」はじめての そういう書棚 新年早々、想像を絶する、ある意味、創造をも絶する忙しさで、らっと言う間に(あっと言う間だろ(サンドウィッチマン))過ぎて行ってしまい、ある意味、今年を象徴するかのような政治的強行軍で…

『母の声、川の匂い----ある幼時と未生以前をめぐる断想』川田順造著(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「名前のなかの記憶」 ぼくがこの本に出会ったのは、この川田の本にも名前が出てくる陣内秀信『東京の空間人類学』や、鈴木理生『江戸はこうして造られた』、富田和子『水の文化史』、中沢新一『アースダイバー』、四方田犬彦『月島物語…

『ルポ 最底辺-不安定就労と野宿』生田武志(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「当事者ジャーナリズムの成果」 当事者がジャーナリストになる。私はこれを「当事者ジャーナリスト」、または「当事者ジャーナリズム」と呼ぶ。 この『ルポ最底辺 不安定就労と野宿』を、その成果の一つとして読んだ。 著者の生田武志…

第1位 『博士の愛した数式』 小川洋子

www.kinokuniya.co.jp あらかじめ失われることが前提の物語は、おとぎ話というにはあまりに切なく暖かい。毎日記憶がリセットしてしまう老数学者と,そこに通うことになった家政婦の私、阪神タイガースファンの息子10歳。3人で過ごした奇跡のような1年とその…

第2位 『クライマーズ・ハイ』 横山秀夫

www.kinokuniya.co.jp 18年前の日航機墜落事故、新聞社での紙面づくり、親子の葛藤を通じ、男の人生とは何か?横山秀夫氏の答がここにあります。仕事に、親子関係に、そして人生に少し疲れた方にこそ是非お薦め。〔本町店・百々典孝〕 友情とは、家族とは、…

第3位 『重力ピエロ』 伊坂幸太郎

www.kinokuniya.co.jp 秩序に対して人はどうあるべきか。なんて、そんな重いことまでも軽く書き上げてしまったすごい小説。主人公と犯罪によって生まれた弟と父と亡くなった母の家族の絆がとてもあたたかい。スタイリッシュでユーモアある文体に冒頭一行目か…

第4位 『デッドエンドの思い出』 よしもとばなな

www.kinokuniya.co.jp 正直、よしもとばななに興味は無かった。実のところこの本を読むつもりも全く無かった。ある書評の一文を目にするまでは。「“ベストセラー作家”というつまらない理由だけで彼女の本を読んでいない人も、この本は読んだ方がいい」。身に…

第5位 『間取りの手帖』 佐藤和歌子

www.kinokuniya.co.jp こんな間取り見たことない!!とりあえず、めくって見て下さい。ほんとに変な間取りばかりです。しかも、そのすべてがこの世に実在するのでびっくり!まず部屋を想像して、人が住んでいると思うとおもしろい。さらに著者の一言コメント…

第6位 『陽気なギャングが地球を回す』 伊坂幸太郎

www.kinokuniya.co.jp 人間嘘発見器、演説名人、天才スリ、精密体内時計。こんな4人が集まれば、そりゃ銀行も襲うでしょ。スカッとしたい方はこれしかおすすめできません。俺も仲間に入れてくれ!〔本町店・百々典孝〕 やっと時代が伊坂幸太郎に追いついた。…

第6位 『14歳からの哲学』 池田晶子

www.kinokuniya.co.jp 幼い頃「わたしは何者だろう…?」「私って、自分って何だろう」と思っていたことを強烈に思い出した。答えはないけれど、だからこそ考えることが大切だと教えてくれました。自分を崇める本、ココにあり。〔梅田本店・中本〕 読み終えた…