書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『幼なごころ』ヴァレリー・ラルボー著、岩崎力訳(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「ローズ・ルルダン」がいい!」 ぼくが高校生の頃は、まだ旺文社がたくさん文庫本を出していた。田村義也の装丁で内田百閒を出していたのもこの文庫だったし、海外文学のほうでも、ブラジルの作家ジョルジュ・アマード『老練なる船乗…

『戦後腹ぺこ時代のシャッター音 岩波写真文庫再発見』赤瀬川原平(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「単純で切実で実直」 学生のころはカメラをぶら下げて歩いては写真を撮り、現像と紙焼きまでしていたのに、いまではすっかり写真ばなれしてしまった。思えば、デジタルカメラがあたりまえになるにつれて、写真を撮ることも、またみるこ…

『1984年』ジョージ・オーウェル(ハヤカワ文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「ジョージ・オーウェルの予言」 フランスでも携帯電話を持つ人の数が増えた。しかし、まだマナーは徹底していないので、電車やバスの中で携帯を使って大声で話している人もいる。パソコンも随分普及した。少し前になるが、数人の見知ら…

『村上春樹短篇再読』 風丸良彦 (みすず書房)/『越境する「僕」』 風丸良彦 (試論社)

→『村上春樹短篇再読』を購入 →『越境する「僕」』を購入 村上春樹は多くのすぐれた短編小説を書いているが、『若い読者のための短編小説案内』という本を出していることからもわかるように、短編小説という形式の愛好者で、短編小説の技巧に意識的である。…

『病いの語り――慢性の病いをめぐる臨床人類学』アーサー・クラインマン(江口重幸・五木田紳・上野豪志訳)(誠信書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「病いの語り(illness narrative)」研究の産声」 この本は、「病いの語り(illness narrative)」研究の道を切り開いた記念碑的な一冊です。著者は1941年生まれで、研究者であると同時に精神科医としての臨床経験を持っています。真…

『イギリス風景式庭園の美学-「開かれた庭」のパラドックス』 安西信一 (東京大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 そうか、パラドックスを考えるのに庭以上のものはないわけだ 文化史家としてのぼくは、自分では娯しみのために何かの論を始めたつもりが、少し時間が経ってみると意外に大きな問題の糸口だったのかと知れてくる、といった位置づけにある…

『村上春樹のなかの中国』 藤井省三 (朝日選書)

→紀伊國屋書店で購入 著者の藤井省三氏は中国語圏の現代文学を専門とする研究者で、『世界は村上春樹をどう読むか』の編者の一人でもある。現在、中国語圏の日本文学者とともに東アジアにおける村上春樹受容を共同研究しているということで、その成果の一端…

『ハルキ・ムラカミと言葉の音楽』 ルービン (新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 『ねじまき鳥クロニクル』の英訳者であり、『世界は村上春樹をどう読むか』にも参加しているジェイ・ルービン氏による本格的な村上春樹論である。表題は軽めだが、中味はオーソドックスな伝記批評であり、アメリカの文学研究の水準で書…

『世界は村上春樹をどう読むか』 国際交流基金:企画/柴田元幸・沼野充義・藤井省三・四方田犬彦:編 (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 国際交流基金は2006年3月に、世界16ヶ国から村上春樹の翻訳者19名を招いて、「村上春樹をめぐる冒険―世界は村上文学をどう読むか」というシンポジュウムとワークショップをおこなったが、本書はその記録である。 シンポジュウムというと…

『貧しい音楽』大谷能生(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「複製技術を介した音楽体験を考察する」 私は本書にインタビューが載っているミュージシャンをひとりも知らず、しかもテクノやアブストラクト・ヒップポップやミュジーク・コンクレートなるジャンルにもうとい。 書評するのははなはだ…

『The Zoo Father』Pascale Petit(Seren)

→紀伊國屋書店で購入 「英詩の二大派閥」 筆者の専門は英米詩研究なので、たまにはこの方面の本を取り上げてみよう。 英詩の言葉遣いを思い切り単純化して、ざっくりふたつの流派に分けるとどうなるか。一方は滑らかでつるつるして口当たりの良い「流麗派」…

『花の都パリ「外交赤書」』篠原孝(講談社+α新書)

→紀伊國屋書店で購入 「パリを通してみる官僚の内幕話」 パリに暮らしていると、日本ではお会いできないような人たちと出会うことがよくある。かつて日本レストランでアルバイトをしていた友人は、その店で大島渚に出会い、知人は故ミッテラン大統領が孫娘を…

『空間の文化史』(時間と空間の文化:1880-1918年/下巻) スティーヴン・カーン[著] 浅野敏夫、久郷丈夫[訳] (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 第一次大戦は「キュビズムの戦場」だった ヴォルフガング・シヴェルブシュに次いで、今一番あざやかに文化史の現場を伝えてくれる相手としてスティーヴン・カーンの名をあげたい。随分前に文化放送開発センタ-という聞き慣れない版元か…

『大大阪モダン建築』 監修:橋爪紳也 編著:高岡伸一・三木学 (青幻舎)

→紀伊國屋書店で購入 「大大阪ふたたび」 京都在住の私にとって大阪は近くて遠い街である。出かけるのは月にいちどあるかないか。しかもたいてい、用事を済ませてしまえば寄り道するでもなく帰路についてしまう。京阪電車の特急で五十分、この、いつでも行け…

『音楽でウェルネスを手に入れる』市江雅芳(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 演奏家として活動するためには、日々の練習が欠かせない。器楽奏者の練習時間は日々数時間というところだろうか。身体そのものが楽器である歌手は、器楽奏者よりもっと短時間で終えるのが一般的だ。私の専門はピアノだが、「何時間も続…

『一六世紀文化革命. 1 』山本義隆(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「メディアとしての書物の力」 一五世紀の半ばに印刷書籍が一般に流通するようになったことが、科学の世界にどれほど大きな影響を与えたかを詳しくたどるこの著書は、書物論としても読み応えのあるものだ。それまで手書きで筆写していた…

『The Brief Wondrous Life of Oscar Wao』Junot Diaz(Riverhead Books)

→紀伊國屋書店で購入 「待ったかいがあったディアズのトラジ・コメディ長編作品」 1996年に出版された短編集『Drown(邦題:ハイウェイとゴミ溜め)』から約10年、待ちに待ったジュノ・ディアズの最初の長編作品が出版された。 『Drown』が発表された…

『〈病〉のスペクタクル 生権力の政治学』 美馬達哉(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 「「健康」は義務なのか?」 今回も神経内科医が書いた本を紹介する。 著者の美馬先生とは先日、某書店が企画したイベントで久しぶりにお会いしてその後、飲みに行ったが、正面に座られた美馬さんのステキなネクタイ、よく見ればアニメ…

『人種概念の普遍性を問う-西洋的パラダイムを超えて』竹沢泰子編(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 以前にも書いたことがあるが、基本的に論文集は、単著であっても編著であっても、この書評ブロ…

『鉄道旅行の歴史-19世紀における空間と時間の工業化』 ヴォルフガング・シヴェルブシュ[著] 加藤二郎[訳] (法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 マルクスもフロイトもみんなみんなレールウェイ 文化史を名のる本の例に漏れず注が充実して面白いので、そちらを読むうちに、シャルル・ボードレールを「チャールズ・ボードレール」とした表記に繰り返し出合うので、その程度の訳なんだ…

現代詩文庫『続・渡辺武信詩集』渡辺武信(思潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「詩でなければならないとき」 詩人であるとは知っていたが、渡辺武信を読んだ最初は彼が建築家として書いたものだった。住宅に関する本を好んで読んでいた一時期があり、借家住まいで、家を建てることなど夢のまた夢、それは今も変わっ…

『華より幽へ-観世榮夫自伝』 観世榮夫[著] 北川登園[構成] (白水社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](31) 6月8日に亡くなった観世榮夫氏の“死”は、なんとも痛ましいものだった。彼は5月2日に自ら運転する自家用車で事故を起こし、長年行動をともにした敏腕プロデューサー、荻原達子さんを死に追いやってしまったのだ…

『昭和30年代スケッチブック-失われた風景を求めて』文:奥成 達 絵:ながた はるみ (いそっぷ社)

→紀伊國屋書店で購入 なつかしく、なりたい 詩人でエッセイストの奥成達と、イラストレーターのながたはるみによるなつかし図鑑シリーズの、7冊目である。これまでの6冊、『昭和こども食べもの図鑑—卓袱台を囲んで食べた家族の味、その思い出の味覚たち』 …

『思索日記. 1(1950-1953) 』ハンナ・アーレント(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「アレントとともに考える」 よく無人島に一冊の本だけ持っていくとした何にするかという問いが冗談のように問われる。「あなたの心が何を食べているか、いってごらんさない、あなたがどんな人か、説明してあげましょう」というわけだ。…

マリオ・プラーツ編 『文学、歴史、芸術の饗宴』 全10巻 (うち第1回配本・全5巻) 監修・解説:中島俊郎/発行:Eureka Press

A Symposium of Literature, History and Arts. Edited by Mario Praz [English Miscellany所収論文集] 詳細はこちら--> ■第1回配本 (1950年-1967年) 全5巻 税込価格¥102,900 (本体¥98,000) 在庫あり 書誌確認・購入は--> ■第2回配本 (1968年-1982年) …

『シェリング哲学 : 入門と研究の手引き』H.J.ザントキューラー編(昭和堂)

→紀伊國屋書店で購入 「シェリングの位置」 しばらくチェックしないでいるうちに、シェリング研究がずいぶんと盛んになっていることに気付いて驚いた。なんと邦訳のシェリング全集の刊行まで始まっているのだ。パリのポンピドゥー図書館で、フランスでのシェ…

『高校生のためのメディア・リテラシー』林直哉(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「メディア使い」のススメ」 林直哉『高校生のためのメディア・リテラシー』(ちくまプリマー新書)は、コンパクトにまとまっていて読みやすく、そのうえ個性鮮やか。つまり、好著である。 著者は長野県内の高校の先生だ。いくつかの…

『名編集者エッツェルと巨匠たち-フランス文学秘史』私市保彦(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 編集とは発明、と言うのはなにも松岡正剛さんだけではなかった フランス19世紀文化史には「発明」という観点からみて実に面白い画期的な着想がいくつもあって、ロビダの『20世紀』などいってみればその滑稽な集大成、かつそもそも「発明…

『NEW DIMENSION』石川直樹(赤々舎)

→紀伊國屋書店で購入 「平面と直線の世界以前の記憶」 北海道のプゴッペ洞窟にはじまり、南米のパタゴニアに終る旅の記録写真である。 旅の目的は壁画と洞窟を訪ねることだが、目的地だけでなく、 そこに行着くまでの過程も一緒に撮られていて、 気がつくと…

『アザンデ人の世界―妖術・託宣・呪術』エヴァンズ=プリチャード(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「妖術の論理学」 出版年は少し古くなるが、アザンデ人の世界における呪術の意味を詳細に考察したエヴァンス・プリチャードの古典的な著作で、いまなお読み応えがある。ヨーロッパの世界の住人であれば、偶然としか考えないところで、ア…