書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『それからのエリス』 六草いちか (講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『舞姫』のエリスのモデル、エリーゼ・ヴィーゲルトをつきとめた『鷗外の恋 舞姫エリスの真実』の続編である。著者がついにエリーゼの写真にまで行き着いたことは新聞の報道などでご存知だろう。本書はこの奇跡ともいえる発見の…

『森鷗外の『うた日記』』 岡井隆 (書肆山田)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 森鷗外は明治37年4月、第二軍軍医部長として日露戦争に出征した。以後2年近くを満洲の荒野ですごすが、そのおりおりに書きとめた詩歌をまとめ、明治40年に『うた日記』を出版した。 本書は『鷗外・茂吉・杢太郎 「テエベス百門…

『凍』沢木耕太郎(新潮文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「闘うことの楽しみ」 手足の指の感覚がなくなっていく。休憩所に戻り手袋を脱ぐと、すぐにストーブにあたってはいけない。指を一所懸命こすり、感覚が少し戻ってきてから、遠くから少しずつストーブに近づいていく。酷い時には…

『キャラクターとは何か』小田切博(ちくま新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「キャラクターの/をめぐる社会史」 本作は、キャラクターそのものの歴史と、それをめぐる社会背景とが手際よくまとめられ、かつハンディで読みやすい著作である。 キャラクターについての著作はいくつかあるものの、その登場…

『鷗外・茂吉・杢太郎 「テエベス百門」の夕映え』 岡井隆 (書肆山田)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 医者にして文学者を兼ねた三大家――鷗外・茂吉・杢太郎――の明治の終りから第一次大戦にいたる10年に思いをはせた随想である。 副題の「テエベス百門」とはルクソール神殿や死者の谷があるエジプトの古都テーベのことで、木下杢太…

『ネメシスの杖』朱戸アオ(講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「個人への報復か、システムの改善か」 いきなり私ごとで恐縮だが、実験的なマンガが好きである。本作についていえば『アフタヌーン』(講談社)に、あるいは最近でいえば『COMICリュウ』(徳間書店)などに掲載されているよう…

『PiNKS』倉金篤史(徳間書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「“異床異夢”な日本の男女に対する問題提起作」 エロ本がなぜか落ちている、という光景を見なくなって久しい。 評者の実家近くには大学があり、その構内の雑木林には、きまってエロ本が捨てられていたのを思い出す。見つけた所…

『危機の女王 エリザベスⅡ世』黒岩徹(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「英女王を知らずして英国社会は語れない」 長く毎日新聞のロンドン特派員や欧州総局長として英国社会を観察してきた著者によるエリザベス女王論が登場した(黒岩徹『危機の女王 エリザベスⅡ世』新潮選書、2013年)。著者はすでに…

『演劇場裏の詩人 森鷗外―若き日の演劇・劇場論を読む』 井戸田総一郎 (慶應義塾大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 鷗外は芝居好きの家に育った。千住時代は家族そろって近所の芝居小屋や寄席にくりだすことがよくあった。弟の篤次郎は三木竹二の筆名で歌舞伎評論の草分けとなった。 ドイツ留学時代も鷗外はオペラから場末の見世物まで、さまざ…

『ドイツと日本「介護」の力と危機――介護保険制度改革とその挑戦――』斎藤義彦(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ドイツを「鏡」に日本の介護保険制度を考える」 2000年に導入された日本の介護保険は、ドイツの例を参考にしたと言われています。もともとドイツは、1880年代に、帝政ドイツの宰相ビスマルクの主導によって、世界に先駆けて三…

『親族の基本構造』 レヴィ=ストロース (青弓社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『親族の基本構造』は1947年に刊行されたレヴィ=ストロースの主著である。レヴィ=ストロースの名を文化人類学の世界で一躍高めるとともに、構造主義の出発点ともなった。 日本では刊行から40年もたった1987年になってようやく…

『宮沢賢治の菜食思想』鶴田静(晶文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ベジタリアン」=「野菜を食べる人」と思われがちだが、ベジタブルからベジタリアンという言葉が生まれたのではなく、両者は「……に生命を与える、活気づける」という意味のラテン語を語源にもつ言葉同士なのだという。日本語…

『懐疑を讃えて』ピーター・バーガーほか著、森下伸也訳(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「福田恆存が快哉を叫ぶ、かも」 本書の訳者とは、関西大学の同じ学部で3年間ほど同僚だった。本書を訳者からいただいて、しばらくたったときキャンパスで訳者に出会った。「売れている?」と聞いたところ、「さっぱり」という…

『文部科学省 ― 「三流官庁」の知られざる素顔』寺脇研(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「文科省の「うるさい伝説」」 →紀伊國屋ウェブストアで購入 著者はかつて「ミスター文科省」と呼ばれた有名人。そこへ来て副題が「三流官庁」なので、新書特有のうすらいかがわしさを嗅ぎ取る人もいるかもしれない。しかし、本…

『ケネーからスラッファへ―忘れえぬ経済学者たち』菱山泉(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「経済学における客観主義―スラッファ没後30年」 今年は、イタリア出身の経済学者ピエロ・スラッファ(1898-1983)没後30年の年でもある。彼は若き日にイギリスの経済学界を揺るがした論文「競争的条件の下での収穫の法則」(1926…

『虹の少年たち』アンドレア・ヒラタ著、加藤ひろあき・福武慎太郎訳(サンマーク出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 校長先生の自転車をくせ毛の細身の少年が懸命にこいでいる。荷台には、小柄な少年が顔を空に向け、目をつむって両手を広げている。右手には、チョークの箱を持っている。こいでいるのが、本書のおもな語り部であるイカル、荷台…

『Eminent Hipsters』Donald Fagen(Viking)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ドナルド・フェイゲンの作家デビューとなる本」 1980年、僕はその4年前にアメリカでのビザ無し不法労働で米国移民局に捕まり、その後のややこしい裁判を経て、何故か移民局がくれるというアメリカの永住権をもらうために…

『EYEMAZING』アイメージング・スーザン(青幻舎)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「すべての境界が溶解している」 私が写真のことを考えはじめたのは1993年、『芸術新潮』で「眼の狩人たちの軌跡」という連載をもったときだった。5センチの厚みのある『アイメージング』を繰りながら、この20年のあいだに写真…

『今を生きるための現代詩』渡邊十絲子(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 小遣いをためて買った『谷川俊太郎詩集』、七百ページにもおよぶその本をはじめてひらいたとき、13歳だった著者がもっとも衝撃を受けたのは、そこに収められた詩篇「六十二のソネット」の〝目次〟の部分だった。 25 世界の中で…

『宮澤賢治の聴いたクラシック』萩谷由喜子(小学館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「宮澤賢治とクラシック音楽との接点」 宮澤賢治(1896-1933)について書かれた本は多いが、賢治の生涯や作品とクラシック音楽との接点に的を絞った本を初めて読んだ(萩谷由喜子『宮澤賢治の聴いたクラシック』小学館、2013年)。…

『サイコバブル社会―膨張し融解する心の病―』林公一(技術評論社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「精神科医、快刀乱麻を断つ!」 最近、『それは「うつ」ではない』(A・ホーウィッツ / J・ウェイクフィールド著 伊藤和子訳 阪急コミュニケーションズ 2011)を読んだ。うつ病の歴史・社会的背景を綿密に追跡し、精神医学のア…

『植民地近代性の国際比較-アジア・アフリカ・ラテンアメリカの歴史経験』永野善子編著(御茶の水書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 朝日新聞DEGITALは、10月23日につぎのように報じた。「韓国教育省は21日、いったん検定に合格した8社の高校用歴史教科書について、日本の植民地支配や北朝鮮などに関する記述を変更するよう求めた。合格後、一部の教科書につい…

『インパラの朝』中村安希(集英社文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「日本の進むべき道を考えるための一冊」 パリでメトロに乗っていると、小銭をもらうために車内を回ってくる人によく出会う。歌を歌ったり詩を朗読したり人形劇を演じたりして何か芸を見せてくれる人もいれば、自分は失業者で今…

『物語岩波書店百年史2 「教育」の時代』佐藤 卓己(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「岩波文化の実像と虚像をたっぷりと描く」 本書336頁(第8章「午後四時の教養主義」)に岩波書店主催の文化講演会についてふれられている。1958年6月後半に新潟市・両津市などで開催された、とされている。実はこのと…

『Corrections』Jonathan Franzen(Picador USA)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アメリカ文学界のふたりのジョナサンの話」 僕はこれまで多くの編集者に会ったけど、ファーラ・ストラウス・アンド・ジローのジョナサン・ガラッシとのインタビューはとても印象的だった。いま、ガラッシはファーラー・ストラ…

『存在と時間(一)』ハイデガー著 熊野純彦訳(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「4つのハイデガー体験」 四分冊で刊行中の新訳『存在と時間』。いよいよ完結が間近に迫った。こういうお偉い本は自分には縁がないと思っている人もいるかもしれないが、この熊野純彦氏による新訳にはいろいろ趣向が凝らされて…

『マルクス 資本論の思考』熊野純彦(せりか書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「時間のエコノミー、時間のテクノロジー」 今どき七百頁余のマルクス論を書き下ろす。しかもカントやハイデガーの主著の翻訳を完成させる片手間に、である、いや、ひょっとすると『純粋理性批判』や『存在と時間』の訳業のほう…

『わたしのリミット』松尾由美(東京創元社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「物語はひとつではない」 わたしの実家は戦前に立てられた古い平屋建てである。おそらく当時はちょっと珍しかったかもしれない洋風の部屋もあり、文化住宅風の家といえるかもしれない。そういえば少しは聞こえがいいが、なにし…

『レイヤー化する世界 テクノロジーとの共犯関係が始まる』佐々木俊尚(NHK出版新書410)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 アベノミクス効果によって経済は上向き、給与も上がり、消費は増加し、日本はまた活気を取り戻すのだという。信じたいのはやまやまだが、本当にそんなバラ色の近未来がくるのだろうか。しかし「祇園精舎の鐘は鳴る…」と始まる平…

『サンリオデイズ 〈いちご新聞篇〉 - sweet design memories 『いちご新聞』から生まれたキャラクターのヒミツがいっぱい』竹村真奈(ビー・エヌ・エヌ新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 70~80's生まれ女子の皆さん。心の準備はいいですか? まず表紙を見てください。雲の泡風呂で遊ぶキキとララ。ふたりの髪の色が今と違いますね。キキは茶色、ララは黄色です。このふたり、79年まではこの色だったのです。…