書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

紀伊國屋書店スタッフ

『ナチュラル・ナビゲーション』トリスタン・グーリー(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「世界とのつながりを取り戻す旅」 「旅」の感覚がわからなくなった。いまや行き先を入力するだけで手取り足取りのカーナビや、スマホのアプリが、たいていのところへは連れて行ってくれる。ナビゲーション技術の進歩にはどんな…

『日本の起源』東島誠・與那覇潤(太田出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「変わらない、変われない日本」のための歴史的思考力」 日本史は、「わたしたちの歴史」だから、かえってややこしい。巷に「歴史好き」はけっこういても、「日本人」であることに誇りが持てる「歴史」だから好き、という人が…

『経済人類学』『栗本慎一郎の全世界史』『栗本慎一郎最終講義』栗本慎一郎

→紀伊國屋ウェブストアで購入 →紀伊國屋ウェブストアで購入 →紀伊國屋ウェブストアで購入 2013年の前半、経済人類学者・栗本慎一郎氏の新刊が立て続けに三冊上梓された。栗本氏のデビュー作で復刊となる『経済人類学』、「最後の一冊」で「遺書」という『栗…

『言語学の教室―哲学者と学ぶ認知言語学』西村義樹・野矢茂樹(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「哲学と言語学の幸福な対話」 今年は現代言語学の祖フェルディナン・ド・ソシュールの没後百年。大学で言語学を勉強したわけではないけど、『一般言語学講義』を読むゼミに参加したのは楽しい体験だった。担当の先生がよく言っ…

『Le Petit Prince』Antoine de Saint-Exupéry(Gallimard)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「『星の王子さま』を四ヶ国語で読む」 誰もが知っているのに、実は読めていない。そんな「名著」を挙げればキリがないが、今年は『星の王子さま』をやっと読んだ。後で気づいたことに、原書が作者のアメリカ亡命中にニューヨー…

『ぼくたちの外国語学部』黒田龍之助(三修社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「その他の外国語」の話をしよう」 新学期、語学を新しく始めた人も多いだろう。もっとも、「外国語」というと今日も世間は「英語」「英語」と喧しい。猫も杓子もTOEICやTOEFLの点数を気にする世の中では、「その他の外国語」の…

『私の昭和史 ―二・二六事件異聞』末松 太平(中公文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 →紀伊國屋ウェブストアで購入 「昭和史の第一級史料」といわれる末松太平著『私の昭和史──二・二六事件異聞』が先の2月、遂に中公文庫のラインナップに加わった。中公文庫は昭和史資料の採録をテーマの一つとするので、加わるべ…

『Antifragile : How to Live in a World We Don't Understand』Nassim NicholasTaleb(Penguin Books)

→紀伊國屋書店で購入 「「ブラックスワン」を超える知恵」 ナシーム・ニコレス・タレブ。不確実な世界に生きる知恵を語らせたら今、最高の書き手だろう。分野を超えて話題をさらったベストセラー”The Black Swan”(原書2007年、邦訳『ブラックスワン』2009年…

『江戸の読書会』前田勉(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「近世にあった「創造的な場」」 『ジェイン・オースティンの読書会』みたいなものを連想すると、大分ちがうようだが、江戸時代の日本にも「読書会」があったらしい。『江戸の読書会』という書名をはじめて見たとき、山田風太郎の小説『…

『昭和二十年 13巻 さつま芋の恩恵』鳥居 民(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 「思索、真理の探究、詳細な説明、深い知識」 『昭和二十年』の最新刊、第13巻『さつま芋の恩恵』を読んで、あらためて感銘を深くした。 『昭和二十年』は在野の近現代史家・鳥居民氏による歴史ノンフィクションである。敗戦の年「昭和2…

『生きる技法』安冨歩(青灯社)

→紀伊國屋書店で購入 「自己嫌悪ワールド」からの脱出」 今年話題を集めた『原発危機と「東大話法」』(明石書店、2012年1月) という本は、あの「3.11」であぶりだされた日本社会の病理を「言語」の問題として看破したのが衝撃的だった。自らの「立場」のた…

『植物はすごい―生き残りをかけたしくみと工夫』田中 修(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 現代日本のビジネス社会は、前に進むことが良しとされ、その結果として続々と発生する矛盾や問題に直面しては、毎日毎日ソリューションの発明を強いられる社会である。私が属しているのはそういう社会である。 立ち止まって考えることさ…

『Before and After Superflat : A Short History of Japanese Contemporary Art 1990-2011 』Adrian Favell(Blue Kingfisher)

→紀伊國屋書店で購入 「「アート」から見た「現代日本の転機」論」 わたしたちは今でも「ジャポニスム」の夢を見たいのだろうか。その21世紀版たる「クール・ジャパン」は、ここ数年来、日本政府も旗振り役を務めている。そんな「クール・ジャパン」に冷や水…

『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』木暮 太一(星海社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「マルクス『資本論』から考えるこれからの働き方」 ホントに見事なタイトルである。思わず肯いてしまう人もいることだろう。 しかし本書は、ありがちな「転職」や「独立」や、ましてや「サボリ」を勧めるような類の本ではない。マルク…

『Knappe Zeit』Harald Weinrich(C. H. Beck)

→紀伊國屋書店で購入 「生は短いが、本を読む時間は欲しい(笑)」 昔よりずっと豊かで長生きのはずなのに、なんだか物足りない。そう感じている人が多いのでないだろうか。ますます急がされている一方で、生きる意味や目的がよくわからなくなっている。昨年…

『脳を創る読書―なぜ「紙の本」が人にとって必要なのか』酒井邦嘉(実業之日本社)

→紀伊國屋書店で購入 「「考える」読書を手離さないために」 「電子書籍」をめぐる議論は過熱している。しかし、肝心の「読書」の内実はどうなっていくのか。そこをきちんと考えないと、何のための「電子化」かわからなくなりそうだ。 本書『脳を創る読書―な…

『暇と退屈の倫理学』國分功一郎(朝日出版社)

→紀伊國屋書店で購入 紀伊國屋じんぶん大賞2011『大賞』、 キノベス!2012『第14位』、 阿部公彦先生による書評(書評空間)と、紀伊國屋では大評判の本書を、さらに推薦したい。 偉大なる先人たちによって自由を求める闘争が成し遂げられた後、私たちはいっ…

『海に降る』朱野帰子(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 面白いお話の要素というものを考えてみると、大筋として何か困難が乗り越えられていくプロセス、個性きらめくキャラクター、それから、その話で初めて知る豆知識というか新奇な知見や薀蓄の体系、といったところが、まずは鉄板ではない…

『日本近世の起源 戦国乱世から徳川の平和(パックス・トクガワーナ)へ』渡辺京二(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「日本近世は何を護ったか」 驚くべき本を読んでしまった。 著者・渡辺京二(敬称を略します。以下同じ)には、江戸後期のユートピア社会を描いた名著『逝きし世の面影』があるが、本書も『逝きし世』に遡る作品として当初は構想された…

『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る』高井 研(幻冬舎新書)

→紀伊國屋書店で購入 昔から恐竜や生き物が好きだった。 与えられた図鑑や絵本の影響が大きかったのだと思うけれど、まあでも男の子としてはごくまっとうな趣味として虫捕りやトカゲ(うちの近所ではカナヘビが主流でした)に凝った。 中学に行って友だちの…

『革新幻想の戦後史』竹内洋(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「新しい「教養」のために必読の書」 一気に読み終えた。もう十年近く前の大晦日、小熊英二氏の名著『<民主>と<愛国>』を読んで徹夜したのを思い出すが、それ以来の知的興奮。こちらも500頁を超える大著だが、文字通り「厚み」の…

『不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生』レベッカ・スクルート著 中里京子訳(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 1951年にヘンリエッタ・ラックスという名の黒人女性が子宮頸癌により死亡した。 治療の際、本人の同意なしに採取された彼女の癌細胞は、自ら増殖し続け、世界で初めて培養に成功したヒト細胞となった。これがヒーラ細胞である。 ヒーラ…

『民俗学とは何か―柳田・折口・渋沢に学び直す』新谷 尚紀(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 「柳田国男による新しい歴史学」 本書は民俗学の素晴らしい解説書である。評者は長年にわたり、民俗学周辺の著作を食い散らかしながら、民俗学とは何か、はっきりと分からないままできた。民俗学と文化人類学・民族学とはどう違うのか、…

『Why Mahler?: How One Man and Ten Symphonies Changed the World』Norman Lebrecht(Faber and Faber)

→紀伊國屋書店で購入 「いま、なぜマーラーか?」 生誕150周年、没後100周年と、二年連続のマーラー・イヤーである。音楽界はさぞや盛り上がっただろうと思うが、あまりチェックしていない。日本でも公開された映画「マーラー 君のためのアダージョ」(原題…

『バターン 死の行進』ノーマン,マイケル ノーマン,エリザベス・M.【著】 浅岡政子 中島由華【訳】(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「日米戦争を交互の視点から捉える」 アジア太平洋戦争におけるフィリピンでの日本人戦没者は50万人超であるという。凄まじい数字である。ただ、日本人は忘れがちだが、フィリピン人の犠牲はさらに上回り、当時の人口の7%に当る110万人…

『Short Stories in Japanese (New Penguin Parallel Text)』(Penguin Books)

→紀伊國屋書店で購入 「タテとヨコの出会い」 ペンギン・ブックスから、「日本語の短編小説」アンソロジーが出た。左側の頁に英訳、右側の頁に原文を配した対訳だ。本を開いて驚くのは…日本語がタテ書き!今まで見たことのない洋書のすがたにワクワクする。 …

『博士漂流時代―「余った博士」はどうなるか?』榎木英介(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

→紀伊國屋書店で購入 「博士課程と科学技術振興」 1950年代以降、科学技術振興政策によって大量に生まれた「博士」は、不安定な任期付きの職で研究を続ける若手研究者として「ポストドクター」(ポスドク)と呼ばれ、大きな問題を起こしている。増えすぎ…

『キミは知らない』大崎 梢(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 小学校の頃はほんとにテレビにワクワクした。 もちろん特撮シリーズやアニメが中心だったのだが、今もイメージだけが妙にくっきりと心に残る番組にNHKの『少年ドラマシリーズ』がある。平日の夕方6時台、30分に満たない枠で2週間…

『猫とあほんだら』町田 康(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 『猫にかまけて』(2004/11) 『猫のあしあと』(2007/10)) に続く、著者と猫達との暮らしを描いたエッセイ、待望の三作目。 今回は著者が東京から伊豆半島へ引っ越す。 新居を探すうち、たまたま捨て猫を発見する。 引越し先を探す旅…

『高峰秀子との仕事〈1〉初めての原稿依頼』<br>『高峰秀子との仕事〈2〉忘れられないインタビュー』斎藤明美(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 昨年の大晦日に飛び込んだ訃報に目を疑った。遂にそのときが来てしまった。その八十六年の生涯の最後のほんの少しだったけれど、暇さえあればその出演映画を観て歩き、著書の多くを読み耽った「最後の大女優」が永…