書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2008-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『ミトコンドリアが進化を決めた』 ニック・レーン (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 『生と死の自然史』の続篇である。進化史と人間の健康の両方をおさえているのは前著と同じだが、両方の鍵となるミトコンドリアに話を絞っているのでまとまりがいい。また書き方が弁証法的というか、ドラマチックであり、劇作家はだしで…

『生と死の自然史』 ニック・レーン (東海大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』に『酸素』という題名でたびたび言及されていた本である。原題は "Oxygen" だが、すでに邦訳が出ていたのだから邦題を示すべきだったろう。 著者のニック・レーンはミトコンドリア研究の第一人者だそうだ…

『恐竜はなぜ鳥に進化したのか』 ピーター D.ウォード (文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 空を飛ぶのは酸素を大量に消費する激しい運動だが、鳥は空気の薄い高空でも難なくやってのける。そんなことが可能なのは、鳥には気嚢システムというきわめて効率のいい呼吸器官があるからだ。 鳥だけでなく、鳥の先祖にあたる恐龍も気嚢…

『じいちゃんさま』梅佳代(リトルモア)

→紀伊國屋書店で購入 「梅佳代「出生の秘密」に迫る」 『うめめ』『男子』と立てつづけに写真集を出してきた梅佳代の第3弾である。彼女のことは新聞雑誌でよく取り上げられ、テレビにも出るので、いまや82歳の私の母までもが「ああ、あの人ね」と言うくらい…

『食べる西洋美術史―「最後の晩餐」から読む』宮下規久朗(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 ロンドンのウォレスコレクションやアムステルダムの市立博物館など、小規模ではあるが好ましいコレクションを持つ美術館を訪れたとき、先ず圧倒され、ついで辟易とさせられるのは、そのおびただしい風景画と静物画コレクションの質量で…

『癒しとしての笑い――ピーター・バーガーのユーモア論――』ピーター・L・バーガー(森下伸也訳)(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「病いを滑稽に語ること」 著者であるピーター・バーガーは、1929年生まれの非常に著名な社会学者です。『日常生活の構成』や『聖なる天蓋』(ともに新曜社)に代表される、個人の意味世界と社会の構造、近代、宗教といった大きなテーマ…

『悩む力』姜尚中(集英社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「異邦人の視点」 岡目八目ではないが、離れたところから見ると、ものの本質が良く見えてくることがある。最近、一般的な「日本人」とは違った「異邦人的視点」を持った人々が多く活躍している。リービ英雄、多和田葉子、水村美苗、楊逸…

『暴走する資本主義』ロバート・ライシュ(東洋経済新社)

→紀伊國屋書店で購入 「お買い得商品を買うごとに、格差が拡大する超資本主義の時代を理解するために」 タイトルからイメージする本書の内容は、左翼的な立場からの資本主義批判ではないでしょうか。しかし、そんなステレオタイプでは収まらないスリリングな…

鴻上尚史 「売店のおばちゃん」

紀伊國屋ホールのロビーの片隅に、売店がありました。一人のおばちゃんが(と言うのも失礼なのですが、でも僕たちは愛着を込めて、『売店のおばちゃん』と呼んでいました)が、飲み物を売っていました。 一坪のスペースもないような小さな売店でした。けれど…

『What Happened : Inside the Bush White House and Washington’s Culture of Deception』Scott McClellan(Public Affairs )

→紀伊國屋書店で購入 「報道官が伝えるブッシュ政権の闇」 この本の著者はスッコット・マクレラン。2003年から2006年まで今のブッシュ政権で報道官を務めた人物だ。アメリカの政治ニュース好きである僕にとってはテレビでお馴染みの人物だ。 200…

『ルポ"正社員"の若者たち』小林美希(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「若い正社員を使い捨てにする日本企業に未来はあるのか」 「正社員になると生活が安定する」という「常識」があります。 格差社会の議論が広がるにつれて、その常識が崩れつつある、と言われています。 しかし、本当はどうなっているの…

『「格差突破力」をつける方法』中山治(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「日本の格差はさらに拡大するだろうが、私と家族だけは生き残るぞ!」 拡大する一方の格差社会を論じる本はあっても、その格差社会の中で、したたかに生き残るための実践的な教えを説く本はほとんどありません。 以前、昨年、東京に住…

宇野亜喜良 インタビュー

1955年にぼくが上京したのは、知り合いの紹介で、恵比寿にあったカルピスの宣伝部に入るためでした。けど、一年近く待たされたかな。この浪人時代、コルゲン・コーワがカエルのシンボルマークのデザインを募集しているのを見つけて、応募したりしていました…

『8 1/2』<br> フェデリコ・フェリーニ【監督・脚本】<br> マルチェロ・マストロヤンニ【主演】<br> (IMAGICA TV(紀伊國屋書店))

→紀伊國屋書店で購入 「無知を宣言してるようなものさ でも時々、それを強いられてることもある (フェデリコ・フェリーニ)」 映画好きか、そうでないか?フェリーニの映画に耐えられるか、そうでないか ・・・かもしれない 岩波ホールのビスコンティでも、…

『クマムシ?!』 鈴木忠 (岩波科学ライブラリー)、『クマムシを飼うには』 鈴木忠&森山和道 (地人書館)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 『クマムシ?!』は出た時から読むつもりだったが、雑事にとりまぎれて放っておいた。目次にアノマロカリスの名前が出ていたのを思い出して、この機会に読んでみた。 クマムシは1mmにも満たない小さな原生動物で、最…

『カンブリア紀の怪物たち』 サイモン・コンウェイ・モリス (講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 バージェス動物群研究の第一人者、サイモン・コンウェイ・モリスによるカンブリア爆発の一般向け概説書である。モリスはウィッチントンを長とするケンブリッジ大学のバージェス頁岩プロジェクトに参加したのみならず、北極圏にあるシリ…

『戦争で死ぬ、ということ』島本慈子(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 帯に「戦後生まれの感性で、いま語り直す戦争のエキス」とある。いわゆる「戦記もの」の著者で、本書の著者島本慈子が生まれた1951年以降の者は、ひじょうに少ない。この世代の役割は、日常的に接してきた戦争体験世代の「戦争のエキス…

『カンブリア爆発の謎』 宇佐見義之 (技術評論社)

→紀伊國屋書店で購入 カンブリア紀は長らく三葉虫の時代と考えられていたが、通常化石にならない軟組織をもった生物が化石になったバージェス頁岩の発見で、多種多様な生物が一挙に出現し、進化の実験室の様相を呈していたことが明らかになった。これをカン…

『苦海浄土 わが水俣病』石牟礼道子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「誰が書いてもいい話」 よく知られた事件についての、たいへん有名な作品である。刊行は1969年だから、ほぼ40年前。 意外とよく知られていないのは、水俣病にかかわる裁判が、2008年の今なお係争中だということである。そこ…

四谷シモン インタビュー

新宿は、20代の頃から「自分の街」という自負がありました。 それ以前からきーよとか風月堂とかヨットなどのジャズ喫茶にはよく出入りしていたんです。コシノジュンコや金子國義と知り合ったもの新宿。 ある日、面白い芝居があるからということで、金子國義…

『凡人として生きるということ』押井守(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「人生とは他者を選択し受け入れること。そこに自由がある。」 私事で恐縮ですが、今年6月に結婚し、同時に小さな会社に正社員として就職しました。執筆活動は収入面でいえば副業です(しかし、いまの会社で担当している業務は広報とか…

『水が笑う』津久井ひろみ(書肆山田)

→紀伊國屋書店で購入 「詩集」というジャンルの書物に、正面から向き合ってみた。一般的な詩とのつきあいは初めてではない。職業柄、歌曲を伴奏する際には、事前のテキスト研究が不可欠だ。しかし“書評”という角度からあらためて詩集を手にしてみると、不思…

唐十郎 「新夜よ」

夕立ちが来ると、新宿風月堂にとび込んで、その二階からコーヒーを注文する。二階はガランとしていて、そこで濡れた服を脱ぎ、ランニングシャツになる。晴れてきた頃合いにノコノコ出て、アートシアターの映画館の前に行き、観ようかどうしようかとためらい…

秋山祐徳太子 エッセイ

50年代後半、私は美術学生であった。戦後の状況がそのまま残っているような復興に活気あふれる新宿、友人たちと帰りに立ち寄るのが風月堂で、広い店内には新鋭画家の絵がかけられ、あちらこちらで文学論や社会分析に熱気ある議論が響いていた。我々も芸術論…

『霧のむこうのふしぎな町』柏葉幸子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「心がやわらかいうちに。」 夏休みも佳境にはいり、子どもたちの宿題がちょっぴり気にかかるようになった今日この頃。本屋さんの児童書コーナーにも、あきらかに読書感想文狙いの親子が出没している。 (あぁ、あれこれ推薦したい) 新…

赤瀬川原平 「文化と冒険」

新宿はいちばん出やすい町だ。若いころ中央線の武蔵小金井や阿佐ヶ谷というところにずっと住んでいたので、出るとしたらまず新宿。あのころ紀伊國屋書店は一階か二階の低い建物だった。若者のサロンみたいな喫茶店の風月堂があったし、新宿第一画廊や椿近代…

『Thriller: Stories to Keep You up All Night』James Patterson (Editor)(Mira Books)

→紀伊國屋書店で購入 「スリラー好きの人々・・・今宵はふるえて下さい」 アメリカある「国際スリラー作家協会(ITW)」をご存知だろうか。 二〇〇四年にアリゾナ州においてアメリカで初めてとなる、スリラー作家だけの会合が開かれた。この会議の最終日…

『婚礼、葬礼、その他』津村記久子(文藝春秋)

→紀伊國屋書店で購入 葬式というものは「ハナシ」になりやすいだけに、小説にはさぞ書きづらいだろうと思いながらも、タイトルに惹かれて手にとった。 主人公・ヨシノは作家と同年代の会社員。楽しみにしていた連休の旅行をキャンセルし、友人の結婚式のスピ…

『学びをつむぐ<協働>が育む教室の絆』金子奨(大月書店)

が育む教室の絆" title="学びをつむぐが育む教室の絆" src="http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4272411969.jpg" border="0" /> →紀伊國屋書店で購入 「学びあう場のデザイン」 けっして、高校の授業に興味があったわけではない。 の文字にひかれた。 …

『The Black Sea: A History』Charles King(Oxford University Press)

→紀伊國屋書店で購入 スキタイの羊をご存知だろうか。バロメッツと呼ばれることもある。大地からすっくと伸びた幹に生る植物羊であって、羊であるからにはときどきメェーと鳴く。植物でもあるがゆえに、自ら移動することなど叶わず、草が周りになくなればす…