書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2005-01-01から1年間の記事一覧

『ONとOFF』出井伸之(新潮社)<br>『ソニーが危ない!』荻 正道(彩図社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入BGM (Boston/Don't Look Back) 「出かける時は忘れずに 空白の10年 新しいoff timeスタイル」 006便はロサンゼルスの朝の10時頃に着く。いつもそこから101を90 mileほど北上するが、海岸に抜けるまでは殺風景な景色…

『未完のヴァレリー』 ポール・ヴァレリー (平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 ヴァレリーは半世紀間、毎朝書きとめたカイエのほかに多くの未発表原稿を残した。 本書の前半は新しい世代のヴァレリー研究者である田上竜也と森本淳生による未発表原稿集である。「ジェノヴァの危機」の年に書かれた「死すべきものにつ…

『ヴァレリーの肖像』 清水徹 (筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 作家の原稿には書きたくて書いた原稿と注文で書いた原稿の二種類があり、その比率はさまざまである。 ポール・ヴァレリーは注文原稿の比率が圧倒的に高い作家として知られてきた。注文原稿が作品の大部分を占めることは20代の詩作放棄と…

『サキ短編集』サキ(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 クリスマスソングが流れる頃になると、仮想世界にばかりも没入していられなくなる。何せ、仮想メディアにまでクリスマス情報が氾濫し始めるのだ。オンラインゲームをしている時にまで、「クリスマスの予定はもう決まりましたか?」とい…

『若きパルク/魅惑』ポール・ヴァレリー(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 精神医学者の中井久夫はエッセイの名手であり、詩の翻訳でも知られている。『現代ギリシャ詩選』と『括弧――リッツォス詩集』は名訳の誉れ高く、『カヴァフィス全詩集』は1989年度の読売文学賞を受賞している。 中井は1995年にポール・ヴ…

『体験と経験のフィールドワーク』宮内洋(北大路書房)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 文献史料に乏しく、あっても研究対象を主体的に語っているとは限らない、海域東南アジアの民族…

『人は皆「自分だけは死なない」と思っている』山村武彦(宝島社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 年も押し迫ってくると、今年なくなられた方々の追悼番組などがテレビで放映されたり、新聞でその早すぎる死を惜しむ声などが寄せられたりする。また、思いがげない方からの喪中ハガキに、驚き悲しむことも多い季節…

『ハイデガー哲学の射程』細川亮一(創文社)

→紀伊國屋書店で購入 「ハイデガーと古代哲学」 ハイデガーの『存在と時間』は基礎存在論としても、日常世界でいきる人間の現象学的な考察としても、実存的な考察としても、何度読んでもおもしろい書物だが、細川氏は『存在と時間』の成立の歴史を分析しなが…

『構想日本〈第1巻〉日本再考』構想日本J.I.フォーラム[編](水曜社)

→紀伊國屋書店で購入 構想日本とは、政策の立案・実現を目的として中立的なNPO活動を行っているシンクタンクだそうである。このNPOが、J・I・フォーラム(JIは、構想日本の英語名 Japan Initiative の頭文字を並べたもの)を毎月開催してきており…

『中世イタリア絵画』ルロワ,フランソワワーズ【著】・池上 公平・原 章二【訳】(白水社)

→紀伊國屋書店で購入 本書あとがきにもある通り、フィレンツェ/トスカーナに比べて他のイタリア半島地域は正当な評価を受けていないと思う。美術館収蔵作品は別としてイタリア美術旅行の醍醐味はイタリア半島の中小都市を巡ることにあると言っても過言では…

『小さいことにくよくよするな!愛情編』<br>リチャード・カールソン、<br>クリスティーン・カールソン(著)<br>小沢瑞穂(訳)(サンマーク出版)

→紀伊國屋書店で購入 BGM(Bill Evans/Waltz for Debby) 「正しさよりやさしさ 何も見えなくても 何も言わなくても」 2005年のクリスマスイブ東京が大停電に見舞われた 言葉で言える気持ちよりも、言葉にならない気持ちの方が、実は沢山あるのか もしれない(…

『サンタクロースの大旅行』葛野浩昭(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「サンタは昔、ブタの橇に乗っていた!」 クリスマスという社会現象には以前から多大の関心がある。だから、この季節になると血が騒いで仕方がない。前世はトナカイだったのではないかとおもうほどだ。じじつ、昨年はさる研究会でトナカ…

『刀狩り-武器を封印した民衆』藤木久志(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 著者、藤木久志は、小説や映画・テレビの時代劇に出てくる「丸腰の民衆像」を虚像だという。歴…

『アリラン坂のシネマ通り』川村湊 著(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「[劇評家の作業日誌](11)」 今年は韓国映画の新作旧作の上映がことの他目についた一年だった。 池袋・新文芸座での韓国映画特集に始まり、新宿・シネマスクエアとうきゅうでの連続上映、12月に入って大阪での「韓流エンターテ…

『哲学者エディプス : ヨーロッパ的思考の根源』グー,ジャン=ジョセフ・クロード【著】〈Goux,Jean‐Joseph Claude〉・内藤 雅文【訳】(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「オイディプスのヒュブリス」 あまり期待せずに読み始めたが、意表をつかれた。フロイト以来、オイディプスの神話は人間の心性にとって普遍的なものとされているが、その普遍性がギリシアの神話の普遍性との差異のうちに形成されたもの…

日常に「読点」を打つ~本と珈琲のある場所で憩う

→紀伊國屋書店で購入 ●『ブックカフェものがたり』(矢部智子ほか、幻戯書房) ●『東京古本とコーヒー巡り』 (交通新聞社) ●『東京待ち合わせ案内』 (プチグラパブリッシング) →昨年公開された侯孝賢監督の「珈琲時光」、小津安二郎へのオマージュ、一青…

『ほんとうの社会力』辻 秀一(日経BP社)

→紀伊國屋書店で購入 「ここ一番で力が出せない」という悩みをよく耳にする。職種や年齢には関係ないようだ。当然のごとく、学生たちもぼやいている。私も演奏家である自分の問題として、また指導者の立場からも「どうしたらステージであがることなく、普段…

『ムッシュー・テスト』ポール・ヴァレリー(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 意外なことに、この二年間にポール・ヴァレリーの本が六冊出版されている。 まず、2003年12月に精神医学者の中井久夫氏訳の『若きパルク/魅惑』(みすず書房)の増補新版が出た。2004年には清水徹氏による『ムッシュー・テスト』(岩波…

酒が飲みたくなる3冊

→紀伊國屋書店で購入 正確に言えば「酒浸りになりたくなる」と言ったほうがいいのかもしれない。間違っても「何かをやりとげた後、じっくり味わうシングルモルト」とか「二人で祝うラトゥール何年もの」とかそういう本(ヘミングウェイならどちらも出てきそ…

「かさぶた」の絵本!? 子どもは大好き「医学絵本」の世界

→紀伊國屋書店で購入 ●『 かさぶたくん』(やぎゅうげんいちろう、福音館書店) ● 『 はははのはなし』(かこさとし、福音館書店) ● 『 カユイカユイ』毛利子来(福音館書店) 「絵本」というとまず『ぐりとぐら』のような「物語」の絵本を思い浮かべる人が…

『Freakonomics : A Rogue Economist Explores the Hidden Side of Everything』Levitt, Stephen /Dubner, Stephen J.(Penguin Books Ltd )

→紀伊國屋書店で購入 ここで仕事をしているとインセンティブという言葉に出くわすことが多い。既に日本語化しているので訳語は不要だろう。一応辞書で探してみると「動機付け」の意とあった。ヨーロッパのビジネスマンはこの言葉を魔法の杖のように使う。 本…

『知的生産の技術』梅棹忠夫(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「技術」と「思想」」 ここしばらく日本語ワープロ、いわゆるワープロ専用機について調べていた。ワープロ専用機は世紀転換期を境に相次いでメーカーが生産を止めてしまい、いまではほぼパソコンに吸収された格好になっている。第一号…

『マンガの描き方』手塚治虫(光文社)

大学で教壇に立つ者にとって、何とかしたいと思う問題の一つは、生徒の私語をいかに防止するかである。そのための正攻法はもちろん、私語をするより先生の話を聞く方が得だと思わせるだけの充実した内容を講義することであろう。 しかし、90分の講義時間の…

『比較の亡霊-ナショナリズム・東南アジア・世界』ベネディクト・アンダーソン(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 東南アジア史研究が、世界に誇れる研究がすくなくともふたつある。ひとつが、アンソニー・リー…

『もうひとつの人生』シグロ(編著)(影書房)

→紀伊國屋書店で購入 「記録映画の真骨頂」 私自身は、現在、セルフヘルプ・グループにおける人々の語りを研究テーマにしています。つまり、アルコホリズム(アルコール依存)や死別体験、あるいは吃音といった体験を人々がセルフヘルプ・グループを通じてい…

『パパラギ はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集』岡崎照男訳(立風書房)

→紀伊國屋書店で購入 初めて手に取ったのは、原宿の裏にある図書館の書庫。 高校生だった私は青春特有のなんだかもやもやした感情をもてあまして、よく書庫にこもっていた。 書庫のハシゴに腰をかけてパラパラ読んでいくうちに、自分の今の生活がいかにさま…

『1冊でわかる グローバリゼーション』マンフレッド・B・スティーガー(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 本書評ブログでは、原則としてひとりの著者の単行本を取りあげ、複数の執筆者からなる論文集は…

『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「九マイルは遠すぎる、ましてや雨の中ともなれば」 このフレーズからいったいどれだけの思索を導き出すことができるだろうか。 ミステリに登場する探偵役はいくつかの類型に分類することができる。マッチョもいるし、変人もいる。数多…

『Low : 33 1/3』Wilcken, Hugo(Continuum)

→紀伊國屋書店で購入 レコードのタイトルではなくて、これ、本です。歴史的名盤の中から一冊=一枚で批評するシリーズ企画ですが、その中から個人的に一番良く聞いたDavid BowieのLowを取り上げることにします。 少々飛躍して聞こえるかも知れないですが、イ…

「夢」の語り方

→紀伊國屋書店で購入 ●『 cgi-bin/wshosea.cgi?W-ISBN=4091920217">ねじ式』(つげ義春、小学館文庫)●『 cgi-bin/wshosea.cgi?W-ISBN=4883791688">赤タイツ男』(逆柱いみり、青林工藝舎)●『 cgi-bin/wshosea.cgi?W-ISBN=4757722168">弥冶喜多inDEEP』(し…