書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『記号の経済学批判』 ボードリヤール (法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ボードリヤールの初期論文集である。 原著は1972年刊行だが、最初の三編は1969年から70年にかけて「コミュニカシオン」などに発表した旨の注記があり、内容的にも『物の体系』と『消費社会の神話と構造』と平行している。四番目…

『メディアと日本人―変わりゆく日常』橋元良明(岩波新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「実証的なデータからメディア社会の変容を読み解く」 本書は、東京大学大学院情報学環橋元良明研究室を中心に、1995年以来5年おきに行われてきた「日本人の情報行動」調査の結果を元にして、メディア社会の変容を読み解いた著…

『UFOとポストモダン』木原善彦(平凡社新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「UFO論と社会の変容をパラレルに追求した傑作」 本書は、UFOやそれに乗ってくる宇宙人を題材としてはいるものの、その存在の真偽を問うことを目的としたものではない。 むしろアメリカをフィールドとしながら、そうした…

『根津権現裏』藤澤清造(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「読んでも大丈夫」 いよいよこの作品をとりあげる時がきた。NEZU-GONGEN-URAというタイトルの響きからしていかにも物々しいこの長編小説は、かの西村賢太が一方的に脳中で師事してきた大正期の作家・藤澤清造の代表作である。…

『検証・若者の変貌』浅野智彦(編)(勁草書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「90年代における日本の若者の変容を振り返る」 本書は、1990年代を中心とする若者文化における変容について、実証的な質問紙調査の結果に基づいて論じたものである。 第1章で編者の浅野智彦も記しているように、1990年代は「失…

『テレーズ・デスケルウ』モーリアック(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「テレーズは誰なのか?」 テレーズは何者だろうか。『テレーズ・デスケルウ』の序文で、作者モーリアックは「テレーズ、あなたのような女がいるはずがないと多くの人がいう。だがぼくには、あなたは存在しているのだ。」と告白…

『物の体系』 ボードリヤール (法政大学出版局)/『消費社会の神話と構造』 (紀伊国屋書店)

→『物の体系』を購入 →『消費社会の神話と構造』を購入 ボードリヤールの第一作と第二作で、どちらも消費社会を解明した基本図書としてロングセラーをつづけている。大昔に読んだことがあるが、付箋を貼りながら読みかえしてみた。 以前は緻密に書かれた本だ…

『Mastermind : How to Think Like Sherlock Holmes』Maria Konnikova(Viking Press)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「シャーロック・ホームズを副読本とした脳科学書」 テレビを観ないはずだった私にも、毎週楽しみにする番組ができた。『ドクター・ハウス(House M.D.)』も、そのひとつで、かつて観た『ER』よりも遥かに面白い。医療ドラマに…

『エッチのまわりにあるもの――保健室の社会学』すぎむらなおみ(解放出版社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「無条件の承認でもなく、まったくの否定でもなく」 この本の著者であるすぎむらなおみさんは、高等学校に勤務する養護教諭(いわゆる「保健室の先生」)です。定時制高校に赴任し、なかなか心を開いてくれなかった生徒たちと文…

『After Visiting Friends』Michael Hainey(Scribner)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「父の死の謎を追ったメモワール」 僕の父は49歳で死んだ。僕がまだ18歳のときだった。僕はときどき自分が大人になってから父と話すのはどんなふうなのだろうかと考える。特に20代後半や30代と社会と真っ正面から戦って…

『新自由主義の帰結』服部茂幸(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”新自由主義" への戦闘宣言」 著者(服部茂幸氏)はポスト・ケインズ派経済学の研究や最近の量的緩和政策批判などで極めて精力的な活動を続けている経済学者だが、本書(『新自由主義の帰結―なぜ世界経済は停滞するのか』岩波新…

『「八月の砲声」を聞いた日本人-第一次世界大戦と植村尚清「ドイツ幽閉記」』奈良岡聰智(千倉書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「本書で取り扱うテーマは一見マイナーかもしれない」。しかし、マイナーだからこそ、重要な意味をもってくることがある。とくに本書で扱う第一次世界大戦は、「総力戦」として知られる。研究のほうも、マイナーなテーマを含め…

『顕示的消費の経済学』 メイソン (名古屋大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「顕示的消費」とはヴェブレンの『有閑階級の理論』で広く知られるようになった言葉で、ブランド品や贅沢品を社会的地位を誇示するために買うことをいう。要するに無駄遣いだが、今日の消費社会は無駄遣いで回っており、顕示的…

『黄禍論と日本人-欧米は何を嘲笑し、恐れたのか』飯倉章(中公新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「さて、お楽しみいただけたでしょうか。「面白くなければ歴史ではない」などというつもりはもちろんないのだが、諷刺画を扱っているからには、読者の皆さんにはその皮肉や諧謔を味わってもらいながら、当時の歴史を実感してい…

『ケネー 経済表』ケネー(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「経済学の真の天才の作品」 フランソワ・ケネー(1694-1774)の『経済表』が岩波文庫に収録された(『ケネー 経済表』平田清明・井上泰夫訳、岩波文庫、2013年)。喜ぶべきことである。なんとなればケネーは経済学の創設期を飾る…

『The Lovely Bones』Alice Sebold,(Back Bay Books)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「スーパーナチュラルな設定の優れた文学作品」 今回紹介するのは、2002年6月に出版され。その後わずか2カ月間で130万部を売り上げた小説『The Lovely Bones』。2009年には映画化もされている。 『The Lovely Bone…

『ヴォルガのドイツ人女性アンナ―世界大戦・革命・飢餓・国外脱出』鈴木健夫(彩流社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ヴォルガ・ドイツ人女性の苦難の物語」 本書(鈴木健夫著『ヴォルガのドイツ人女性アンナ--世界大戦・革命・飢餓・国外脱出』彩流社、2013年)の主人公アンナ・ヤウク(1889-1974)は、ロシア・ヴォルガ地方のドイツ人移民の…

『あの人の声は、なぜ伝わるのか』中村明一(幻冬舎エデュケーション)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 <劇評家の作業日誌>(62) 本書は『密息』と『倍音』の著者がこれまでの成果を踏まえた上で、他者との根源的なコミュニケーションを探ろうとした本である。著者の中村明一氏は国際的に活躍する作曲家・尺八奏者であり、同時…

『ファジル・サイ』ユルゲン・オッテン(畑野小百合訳、アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今年4月17日の朝刊に掲載された記事である。 「イスラムを侮辱」有罪判決 トルコ 無神論者のピアニスト 世界的に活躍するトルコのピアニスト兼作曲家ファジル・サイ氏(43)がイスラム教を侮辱したとして、イスタンブールの裁判…

『フィリピンBC級戦犯裁判』永井均(講談社選書メチエ)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本と日本が植民地にしたり占領したりした国や地域との歴史認識問題は、なぜいつまでもつづくのだろうか。その理由の一端が、本書からわかる。それは、日本とそれらの国・地域の責任の考え方が違うからである。日本人は戦争に…

『英語は科学的に学習しよう』白井恭弘(中経出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「英語教育の大騒ぎ」 うわっ、これはひどい。みなさん先週の朝日新聞をお読みになっただろうか。オピニオン欄の「大学入試にTOEFL」特集(5月1日朝刊)で、「TOEFL導入」の旗振り役の自民党教育再生実行本部長・遠藤利明先生が…

『ヨーゼフ・ラスカと宝塚交響楽団』根岸一美(大阪大学出版会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ヨーゼフ・ラスカ(1886-1964)という名前を聞いて、一体どれくらいの人がどんな人物だったか、知っているだろうか。本書(『ヨーゼフ・ラスカと宝塚交響楽団』大阪大学出版会、2012年)は、ブルックナー研究家としても知られる…

『The Power of Habit 』Charles Duhigg(Random House)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「習慣の力を語った本」 まず初めに人間の自制心についての質問をひとつ。 自制心というのは生まれながら遺伝的に各人それぞれ違うレベルで備わっているものだろうか。それとも、技術のように訓練を積めば習得できるものだろう…

『実験室からの眺め』 『サン・ルゥへの手紙 (新装版)』 森山大道(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 →紀伊國屋ウェブストアで購入 「写真の聖地へ」 昨夏、サン・ルゥに行ってきた。パリから南東へ350キロ、ブルゴーニュ地方にあるこの小さな村の名を記憶したのは、森山大道の『サン・ルゥへの手紙』という写真集によってだった…