書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『新装版 鴨居羊子とその時代 下着を変えた女』武田尚子(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 下着デザイナーであるとともに、下着会社の社長でもあった鴨居羊子は、絵を描き、エッセイを書き、動物を愛し、各国を旅してまわり、フラメンコに熱中し、と、さまざまな顔を持つ女性であった。そんな多面性が魅力であることはたしかだ…

『世論(上・下)』リップマン,W.【著】 掛川 トミ子【訳】(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「合意形成」とは何かを考え直すために」 たとえば今の中国に、やや不穏な空気が満ちているのは確かである。またチュニジアやエジプトで今起きていることを見ても、「民主主義とは何か」という極めて古典的なテーマが新しい形で浮上し…

『フェイスブック 若き天才の野望<br> 5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた』<br> David Kirkpatrick【著】滑川海彦・高橋信夫【訳】(日経PB社)

5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた" title="フェイスブック 若き天才の野望5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた" src="http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/4822248372.jpg" border="0" /> →紀伊國屋書店で購入 「Fr…

『ワインが語るフランスの歴史』山本博(白水Uブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「ワイングラスの中に見える世界」 パリでワインクラブを主宰して15年ほどになる。その間かなり多くのワインを飲んできたが、まだまだ飽きは来ないし、ワインの世界のほんの一部分を垣間見ただけに過ぎない。ただ言えることは、ワインは…

『私語り樋口一葉』西川祐子(岩波現代文庫)

→紀伊國屋書店で購入 明治二十九年の夏、本郷丸山福山町の崖下の家で、病床にある一葉がおもいめぐらすさまざま。樋口家の来歴、いく度も住みかえた家、歌塾・萩の舎での日々、兄と父の死、母と妹との困窮生活、小説の師・半井桃水、龍泉町での商売……。一葉…

『フェルメールのカメラ』ステッドマン・フィリップ著 鈴木光太郎訳(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 恐るべき実験精神の持主フェルメールの「絵画芸術」が国立西洋美術館に来たとき、半時間ほどその前に立って眺めていたことがある。フェルメールの絵には必ず光源が示されているが、歴史の女神クリオを前に筆を動かす画家を描いたこの絵…

『Autobiography of Mark Twain: Volume 1』Mark Twain(University of California Press)

→紀伊國屋書店で購入 「100年の時を超え出版されたマーク・トウェインの自伝」 昨年の11月にマーク・トウェインの自伝が出版された。これはトウェインが残した5000ページに上る自伝の原稿を出版したものだ。 トウェインは1910年の4月にこの世を去った…

『ロシアとサンボ――国家権力に魅入られた格闘技秘史』和良コウイチ(普遊舎)

→紀伊國屋書店で購入 「サンボの通史であり、国家と格闘技をめぐる優れた論考」 本書は、ロシアで生まれ謎のベールに覆われた格闘技・サンボについて、その成り立ちに始まり、柔術・柔道との関係、メディア言説、国家体制や軍隊との関係、技術論などまで広く…

『たった一人の30年戦争』小野田寛郎(東京新聞)

→紀伊國屋書店で購入 「小野田元少尉の野生」 刀の切っ先がこちら側に向けられたかのような恐怖心を覚えることが何度かあった。そのとき私は、本書の筆者に対して曰く言い難い違和感を持たざるを得なかった。だから安易な共鳴を与えられるような書物では決し…

『ライティング・マシーン ウィリアム・S・バロウズ』旦敬介(インスクリプト)

→紀伊國屋書店で購入 「常に自分の意識を壊し超えようとした人」 ビートニクの作家というと、アレン・ギンズバーグ、ジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズの3人が代表的だが、そのなかでいちばんカッコいいとかねてより思っていたのはバロウズである…

『泰緬鉄道-機密文書が明かすアジア太平洋戦争(再版)』吉川利治(雄山閣)

→紀伊國屋書店で購入 本書が、再版されるのに際して、以下のような「解説」を書いた。 本書は、再版ではなく、新版になるはずだった。二〇〇九年五月七日の日付の入った「まえがき」に、そのことが記され、「なるべく現地の立場から泰緬鉄道像を眺めてみよう…

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「人間の究極のエゴイズム」 作年末はフランス西部のブルターニュにある漁港で過ごした。温和な気候で知られる町だが、新鮮な魚が手に入るのは嬉しい。どんな旅行にも何冊か本を抱えて行くが、昨年最後に読んだこの作品は、色々と考えさ…

『自分をいかして生きる』 西村佳哲(basilico)

→紀伊國屋書店で購入 「自分の仕事を考える3日間」 あけましておめでとうございます。 今年は頻繁にブログ更新したいと思いま~す。どうぞよろしくお願いします♪ 1月8日、奈良県立図書館情報館は年明け早々面白いイベントを開催。 今年で3回目。でもこれ…

『百日紅』杉浦日向子(ちくま文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「本郷もかねやすまでは江戸の内」 住まいにほど近い本郷三丁目の交差点、その角にある洋品店「かねやす」の店先に掲げてある川柳である。これによれば、現在の私の暮らす地域は、かろうじて江戸の町に含まれていたことになる。上り下り…

『自立と支援の社会学――阪神大震災とボランティア――』佐藤恵(東信堂)

→紀伊國屋書店で購入 「現場に学び、の核心に迫る」 今回は、いつも研究会でご一緒させていただいている先輩の佐藤恵さんの本を紹介します。 この本で取り上げられているのは、阪神大震災以後のプロセスにおいて、とりわけ障害者や高齢者といった(いわゆる…

ピクベス!2010

みなさま、こんにちは。 本日は2011年、第一弾企画のお知らせです。 どどーん! その名も「ピクベス!2010」。 一年間で出会う本の数は、人それぞれです。 「今年はたくさん読んだ!」という一年、「あまり読めなかったなあ」という一年、それぞれが大切な一…

第1位『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ/岸本佐知子・訳

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,995円) 「さみしい」という孤独な四文字のことばに、嘘ややましさ、なにかごちゃごちゃとしたどぎつくカラフルなもの、たくさんの不純物を混ぜてこねると、この小説が生まれる気がします。もちろんその「さみしい」はとて…

キノベス!2010 第1位に輝いた ミランダ・ジュライさん メールインタビュー

----Your book has been very well-received in Japan. Did you have other countries in mind when you wrote the stories? Do you think there are elements in the stories that may cross over to other cultures? I don't think about this specificall…

『親戚のおばちゃんより、口上』

キノベス!2010 第1位『いちばんここに似合う人』 翻訳者・岸本佐知子さん特別寄稿 本を読んで「面白かった」と感じるのに、私の場合は三つの段階があります。第一段階では、本を閉じて「ああ面白かった・・・・・」としみじみ幸せな余韻に浸る。第二段階だと、本…

第2位『切りとれ、あの祈る手を』佐々木中

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,100円) 歴史が終わった。文学が、藝術が終わった。一体いつから言われているだろう。でも僕たちは今も本を読み、書き、音楽やアート、ファッションを愛して生きている。読むこと、語ること、作ることにある“革命の力…

第3位『シューマンの指』奥泉光

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) 幸福の絶頂にあってさえ「喜びがそのまま悲しみであるような」音楽を書いた、悲劇の天才作曲家。その危険な美に魅入られた美少年天才ピアニストの運命もまた?!音楽の美しさと怖ろしさがあますことなく表現された…

第4位『流跡』朝吹真理子

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,365円) 自意識のえぐみがない水のような文体を豊穣な言葉が流れ、時も空間もさまざまなイメージが翻る。物語のための言葉を携えて生まれてきた新人。デビュー作からこんなものを書いて、どんなところへ行くのだろうと畏怖…

第5位『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー/市川恵里・訳

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,730円) 「寝食を忘れて読む」というのを久し振りに味わった。ラストシーンはもったいなくて、左手でページを隠しながら読んだ。驚くべきはこれが良くできたフィクションではなく、実際にパリの片隅で起こった(そし…

第6位『ツリーハウス』角田光代

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,699円) 武勇伝はもういい。悲惨な場面は見たくない。苦労話も聞きたくない。でも、歴史は繰り返す。だから、歴史は語り継がれる必要がある。教科書では語られない、けれど、無数にある、あった戦中戦後史がここにある。 …

第7位『煙滅』ジョルジュ・ペレック/塩塚秀一郎・訳

→紀伊國屋書店で購入 (水声社/3,360円) フランス語で「e」の文字を使わずに書かれた20世紀最高に酔狂な小説を「イ」段の文字「イ・キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リ」を使わずに翻訳した21世紀最高に酔狂な1冊。「イ・キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リ」使わずに会…

第7位『絶叫委員会』穂村弘

→紀伊國屋書店で購入 (筑摩書房/1,470円) 「歌人の本」というと上品でおカタそうなイメージですが、実はそうじゃない。日常、電車の中や街角で目に耳に飛び込んでくる「なんでやねん!」な言葉たちに、読者のかわりにツッコみ、叫んでくれる。それがこの…

第9位『ふがいない僕は空を見た』窪美澄

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,470円) この本を読んだ時のことは忘れない。なんだかよくわからない熱いものがこみあげてきて、何度も涙がにじんだ。厄介なことから生まれて厄介なことを抱えて生きていく、きれいごとでは終わらない存在。だからこそ人間…

第10位『桐島、部活やめるってよ』朝井リョウ

→紀伊國屋書店で購入 (集英社/1,260円) この小説、瑞々しさで破裂しそう!今の自分にはない、登場人物たちの若々しさに嫉妬さえ覚えた。それがありありと書ける、作家の表現力にも感服。高校時代をもう一度味わいたければ、ぜひこの小説を! 〔新宿本店・…

第11位『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル/鬼澤忍・訳

→紀伊國屋書店で購入 (早川書房/2,415円) 複雑多様化する現代社会で「これが正義だ!」と胸を張って主張できるものが、一体どれだけ残されているのでしょうか。「正義」と「独善」の曖昧な境界線を、今こそはっきりさせようじゃないか。というマイケル・…

第12位『女ぎらい』上野千鶴子

→紀伊國屋書店で購入 (紀伊國屋書店/1,575円) 頭上にたらいが落ちてきたほどの強い衝撃のなかで読んだ一冊。男は女を嫌い、女は女である自分を嫌悪する。誰もが内に抱えるミソジニーを見事に射抜いているがゆえに、読まずにいることのほうが恐ろしい。 〔…