書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『子供失格<1>』松山花子(双葉社)

→紀伊國屋書店で購入 「笑うだけでは済まされないブラックユーモア4コマ」 本作は、生まれながらに厭世的な気分を持ちあわせた幼稚園児「生留希望(いくとめ・のぞみ)」を主人公に、彼の家庭や幼稚園での様子を、ブラックユーモアたっぷりに描いた四コママ…

『進撃の巨人』諌山創(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 強大な怪物。宇宙人。自然災害。大事故。ある日突然人類を襲う災厄。私はパニック映画が大好きです。抗うすべもなく逃げ惑う登場人物たちがむかえる残酷な行方をじっと観察するのが好きなのです。悪趣味でしょうか。しかし私は知りたい…

『スカイツリー 東京下町散歩』三浦展(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「「厚みのある再帰的近代」を生きるために」 本書は、『下流社会』(光文社新書)などの著作で知られる三浦展氏が、東京の下町を丹念に歩きながら記した著作である。下町といっても、浅草や神田といった典型的な地域ではなく、むしろ、…

『〈女中〉イメージの家庭文化史』清水美知子(世界思想社)

→紀伊國屋書店で購入 よく、戦前の新婚の家庭に、「夫婦+お手伝いさん一人」が住むという描写を本で読んだり、大正から昭和はじめ頃の住宅関係の本などで、夫婦と子供二人が住む程度の小さな家の間取りにも三畳ほどの女中部屋があるのを見て、不思議な気が…

『地方食ぶらり旅 駅前グルメの歩き方』森田信吾(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「「常食」を巡る旅」 旅行に行った際、みやげ物を買いに、スーパーマーケットに行くことが多い。特に海外旅行ではよくあることなのだが、いわゆるみやげ物屋に並べられているのは、まさに観光客だけをターゲットにした法外な値段の品物…

『「反戦」と「好戦」のポピュラー・カルチャー―メディア/ジェンダー/ツーリズム』高井昌吏編(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 「二重にメタレベル化する「戦争語り」に対する意欲的な論文集」 私が小学生だった頃といえば、今から25年ほど前である。その頃は、「戦争体験」を伝えるテレビ番組が今と比べると随分多かったように思う。やや記憶が定かではないが、た…

『That Used to Be Us』Thomas L. Friedman, Michael Mandelbaum (Thorndike Press)

→紀伊國屋書店で購入 「アメリカに未来はあるかを検証した本」 この約10年間、アメリカは失策に継ぐ失策を続けてきた。バブルがはじけ、無理矢理始めた2つの戦争には「勝利」がなく、リーマンショックを引き起こし、経済刺激政策でお金をつぎこんでも経済…

『「大東亜共栄圏」経済史研究』山本有造(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 著者、山本有造が選んだ基本的な方法は、「数量経済史的方法」だった。20世紀半ばの経済史で、この方法をとることに疑問をもつ者はいないだろうが、扱う時期が戦争中で、しかも「大東亜共栄圏」と組み合わせるとなれば、話は別である。…

『兄 小林秀雄との対話 ― 人生について』高見沢潤子(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「鉄の胃」 小林秀雄に「母」がいたのは有名だが、妹がいたとは知らなかった。その妹が、兄秀雄とかわした会話をまとめたという本書を読み始めて、筆者は衝撃を受けた。何しろ、あの小林秀雄がこんなしゃべり方をしているのだ。 「なん…

『永遠の0(ゼロ)』百田尚樹(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「痛切なる愛の物語」 先日知人から熱心に紹介された本を借りて読んだ。タイトルが『永遠の0(ゼロ)』であり、第二次世界大戦の名機である零戦にまつわる物語であることは知人から聞いた。だが作者の百田尚樹を知らなかったし、戦争物…

『ほまれ―なでしこジャパン・エースのあゆみ』澤穂希(河出書房新書)<br>『なでしこ力』佐々木則夫(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 2011年夏のFIFA女子サッカーワールドカップで見事優勝した、なでしこジャパン。並みいる強豪、それもドイツを下し、最終戦では今まで1度も勝ったことのないアメリカとの息詰まるゲームとなった。ロスタイムで同点に…

『Crime Wave』James Ellroy(Vintage Books )

→紀伊國屋書店で購入 「ロサンゼルス・アンダーワールドのレポと短編」 ボストンの大学を卒業して、ニューヨークで編集の仕事をみつけるまでの3年間、僕はロサンゼルスで暮らした。 ロサンゼルスでは大学院に通ったが、お金が無くなり大学院を卒業をする前…

『凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦』日々野 真理(ベストセラーズ )

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(58)」 今夏に開催された女子ワールドカップ(以下W杯)で日本女子サッカーチームは初めて世界一に輝いた。この快挙は日本中を熱狂させた。女子サッカーがこれほどまでに注目を集めたことはかつてなかったし…

『イスラームから見た「世界史」』タミム・アンサーリー著、小沢千重子訳(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 著者は、「アフガニスタン出身、サンフランシスコ在住の作家」、「アメリカにおける複数の世界史の教科書の主要執筆者である」。著者は大人になってから気づくのだが、「驚くほどヨーロッパ中心的な歴史叙述で、無神経な人種差別に満ち…

『羆嵐』吉村昭(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 札幌市の住宅街にヒグマが現われました。テレビで報道されたのでご存知の方も多いでしょう。付近の公園や自然歩道は閉鎖されたそうです。札幌市中央区役所のホームページでも「クマやクマの足跡などを見つけたらすぐに110番通報しましょ…

『鉄は魔法使い』畠山重篤(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「好奇心あふれる鉄の巡礼者」 東海道線の小田原の先にある真鶴は、地名は知っていたが訪ねたことはなく、あるとき仕事で行くことになってはじめて駅に降り立った。目的は中川一政美術館の取材で、彼の力強い作品にも感動したが、それと…

『民俗学とは何か―柳田・折口・渋沢に学び直す』新谷 尚紀(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 「柳田国男による新しい歴史学」 本書は民俗学の素晴らしい解説書である。評者は長年にわたり、民俗学周辺の著作を食い散らかしながら、民俗学とは何か、はっきりと分からないままできた。民俗学と文化人類学・民族学とはどう違うのか、…

『風のCafé アラブの水音』西野鷹志(響文社)

→紀伊國屋書店で購入 「洒脱なフォト&エッセイ」 西野鷹志さんと初めてお会いしたのは、20年ほど前だろうか。日本に一時帰国した際に、当時パリで親しかったファッションジャーナリストの竹花さんの縁で、FMいるかというラジオに出演したことがあった。その…

『Call If You Need Me : The Uncollected Fiction and Other Prose』Raymond Carver(Vintage)

→紀伊國屋書店で購入 「苦しかった昔を思い出させる本」 以前、と言ってももう十年以上も前のことだが、僕は住み慣れたアメリカ東海岸を離れ、西海岸に引っ越しをして、南カリフォルニアに暮らしたことがある。 僕が住んだ場所はロサンゼルスからずっと東に…

『笛吹川』深沢 七郎(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「夢もない、希望もない、オールもない」 武田信虎、信玄、勝頼らが治める甲州の石和(いさわ)、笛吹川のそばに「ギッチョン籠」と呼ばれる掘っ建て小屋が立っていた。「笛吹川」はそこに住む農民一家を描いた深沢七郎の長編小説だ。 …

『昭和の読書』荒川洋治(幻戯書房)

→紀伊國屋書店で購入 「こわい批評家」 もう十年以上前になるが、あるパーティで荒川洋治さんをお見かけしたことがある。「下手に俺に話しかけるな」という風情が漂っていて、いい意味で「こわい人」だなと思った。もちろん、筆者は話しかけなかった。 文章…

『Why Mahler?: How One Man and Ten Symphonies Changed the World』Norman Lebrecht(Faber and Faber)

→紀伊國屋書店で購入 「いま、なぜマーラーか?」 生誕150周年、没後100周年と、二年連続のマーラー・イヤーである。音楽界はさぞや盛り上がっただろうと思うが、あまりチェックしていない。日本でも公開された映画「マーラー 君のためのアダージョ」(原題…

『聖なる学問、俗なる人生-中世のイスラーム学者』谷口淳一(山川出版社)

→紀伊國屋書店で購入 朝、アザーン(礼拝への呼びかけ)で目が覚める。なんだか心地よいひびきで、睡眠を妨げられたことも忘れてしまう。クルアーン(コーラン)の朗誦のコンテストもさかんだ。クルアーンはアラビア語で、ムハンマドが属していたクライシュ…