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プロの読み手による書評ブログ

竹内洋

『評伝 野上彌生子』岩橋 邦枝(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「努力型知性という作家ハビトゥス」 評者は、野上彌生子の小説では、岩波文庫上下二巻の『迷路』を読んだのみである。それも野上彌生子への関心というより、満州事変前後から敗戦直前までの学生やインテリ文化がどう描かれてい…

『国家貴族』Ⅰ、Ⅱ ピエール・ブルデュー(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 「鮮やかで華麗な手際」 作家や思想家などの知識人と政治家や官僚・財界人のテクノクラートとでは、ハビトゥスも活動する社会空間=界も大いにちがう。そのせいだろうが、知識人を研究する者はテクノクラートの研究…

『「つながり」の戦後文化誌』長崎 励朗(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「大衆教養主義の顛末」 労音といえば、年配の読者はなつかしいものがあるだろう。わたしは1960年代後半の大学生のとき、3人でないと入会できないからと友人に言われて京都労音に入会した。低料金で音楽を鑑賞できることや…

『新京都学派』柴山 哲也(平凡社新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「学問の世界のフィールドワーク」 京都学派とは、西田幾多郎、田辺元、和辻哲郎など京都帝国大学の哲学科を中心にして集まった哲学者の学風として、昭和初期に生まれた呼称である。戦後になると、桑原武夫に率いられた京都大学…

『近代日本と「高等遊民」』町田 祐一(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「近代日本の宿痾」 芥川龍之介の『侏儒の言葉』に「露悪家」「月並み」などとならべて、「高等遊民」が文壇で流通するようになったのは「夏目先生から始まってゐる」とある。しかし、言葉の誕生だけで言えば、漱石が高等遊民と…

『考証要集』大森 洋平(文春文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「時代劇通になれる」 書物を刊行する者にとっては、校正者は頼みの綱である。400字詰原稿用紙でいえば、300枚以上ときには500枚を超える量を書いていると、念には念を入れたつもりでも思わぬところで、勘違いやケアレ…

『アメリカの反知性主義』リチャード・ホーフスタッター【著】/田村 哲夫【訳】 (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「知性主義・脱知性主義・スーパー知能主義」 橋下旋風は、最近は鳴りをひそめているが、氏の言う「ふあっとした民意」がいまの日本になくなったわけではない。ひとつはポピュリズムであるが、もうひとつは「本を読んで」「くっ…

『懐疑を讃えて』ピーター・バーガーほか著、森下伸也訳(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「福田恆存が快哉を叫ぶ、かも」 本書の訳者とは、関西大学の同じ学部で3年間ほど同僚だった。本書を訳者からいただいて、しばらくたったときキャンパスで訳者に出会った。「売れている?」と聞いたところ、「さっぱり」という…

『物語岩波書店百年史2 「教育」の時代』佐藤 卓己(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「岩波文化の実像と虚像をたっぷりと描く」 本書336頁(第8章「午後四時の教養主義」)に岩波書店主催の文化講演会についてふれられている。1958年6月後半に新潟市・両津市などで開催された、とされている。実はこのと…

『Sの継承』堂場 瞬一(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「IT社会のクーデター」 戦後日本における、もどきをふくめて革命らしきものをひろうと、まず1950年代の火炎瓶闘争や山村工作隊(農民オルグ)を遂行した日本共産党の武闘革命路線。この革命路線は1955年の六全協(日…

『ポピュリズムを考える―民主主義への再入門』吉田 徹(NHKブックス)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ポピュリズムは民主主義の鏡」 ポピュリズムは、アメリカの人民党やアルゼンチンのペロニズムなどのような農村社会から工業社会に移転するときに農民や労働者にあらわれる不利益と不平等の不満を震源地にしてでてくる過度期の…