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プロの読み手による書評ブログ

2009-06-01から1ヶ月間の記事一覧

消え行く少女 前編・後編 白土三平(小学館クリエイティブ)

→紀伊國屋書店で購入(前編) →紀伊國屋書店で購入(後編) 白土三平が、1959年に発表した『消え行く少女』の貸本単行本完全復刻版である。1999年に『白土三平初期異色作選』(青林工芸舎)に収録され、それが最初の復刻であったが、限定品ということもあり…

テレビの青春 今野勉(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 演出家、脚本家の今野勉が、1959年のラジオ東京(現TBS)入社から1970年にテレビマンユニオンを設立するまでに到った詳細が綴られている。TBS発行の『新・情報調査』に1999年から2007年まで、9年に渡って連載されたテクストがまとめられ…

『「見た目」で選ばれる人』竹内一郎(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「人は足元を見る」弱みに付け込む以前に、人はどんな靴を履いているかを見る まさに語源そのもので、足元は人の値踏みでもある 「人は、物は、布をまとって初めて本質が観える」 昔、クリスト氏に直接聴きました 裸でいるより、衣服を…

『バカと東大は使いよう』伊東乾(朝日選書)

→紀伊國屋書店で購入 「東大とは? 教養とは?」 フランスには「グランゼコール」と呼ばれる学校がある。エコール・ポリテクニック、フランス国立高等師範学校、国立行政学院等だが、これらの学校に入学するには、まずBAC(大学入学資格取得試験)で好成績を…

『さまよえる英霊たち:国のみたま、家のほとけ』田中丸勝彦著、重信幸彦・福間裕爾編(柏書房)

→紀伊國屋書店で購入 序 章:戦歿将兵の霊の呼称 研究史 問題の所在 第一章 戦歿英霊の喪葬 -喪葬儀礼の変化- 第二章 英霊信仰の諸相 -御霊信仰の変移- 第三章 公と死の相剋 -近代思想の変容- 第四章 英霊祭祀の本質 -近代宗教の変質- 終 章 正義の…

『やりたいことがないヤツは社会起業家になれ』山本繁(メディアファクトリー)

→紀伊國屋書店で購入 「社会変革は最高のエンターテインメント事業である」 社会起業家とは、社会問題を事業によって解決する事業家のことだ。 著者の山本繁は、NPOコトバノアトリエの代表。いま、もっとも注目されている社会起業家のひとりといっていいだろ…

『炎の人(ハヤカワ演劇文庫)』三好十郎(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(45)」 古今東西の名作を廉価で読める「ハヤカワ演劇文庫」の刊行が開始されたのは、2006年、アーサー・ミラーの『セールスマンの死』からだった。 70年代には角川文庫や新潮文庫でかなりの数の戯曲を…

『Anansi Boys』Neil Gaiman(Harper Torch )

→紀伊國屋書店で購入 「西アフリカの民話を織り込んだニール・ゲイマンの作品」 幻想小説作家として確たる地位を築いた感のあるニール・ゲイマン。今回紹介するゲイマンの『Anansi Boys』は幻想小説という枠に入れることは難しい。 この作品はもちろん幻想的…

『ゆびさきの宇宙』生井久美子(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「福島智という、盲ろう者の奇跡を描いたノンフィクション」 目が見えない。耳が聞こえない。「盲ろう」の当事者、福島智の評伝ノンフィクション。福島はバリアフリーについて研究をする東京大学の教授です。 「もうろう」とキーボード…

『女三人のシベリア鉄道』森まゆみ(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 与謝野晶子、宮本百合子、林芙美子。かつてシベリア鉄道に乗って旅をした三人の女たちの行程を追って著者は列車に乗り込んだ。 晶子が目指したのは、夫・鉄幹の滞在するパリ。明治四十五年、当時三十三歳の晶子は七人の子の母。かつて師…

『夜想曲集 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語』カズオ・イシグロ(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「定年なしの表現者の人生」 カズオ・イシグロというと長編作家という印象が強い。最初に邦訳された『日の名残り』から、2006年の『わたしを離さないで』まで、これまで翻訳出版された作品はどれも長編だった。だからこの本の広告を見た…

『新「根性」論』辻秀一(マイコミ新書)

→紀伊國屋書店で購入 メンタルトレーニングのセミナーが花盛りだ。しかし社命ならまだしも、自発的に自分のスケジュールを調整してこうした講座を受講するには、勇気が必要だ。その前に「とりあえず本でも読んでみるか」ということになろう。しかし書店に並…

『木の葉の画集』安池和也 (小学館 )

→紀伊國屋書店で購入 「真空パックされた落ち葉のスクラップ帳」 草花の名や特徴を解説してくれる人と野山を歩くのは楽しいが、でもきっとまもなく遅れて歩きたくなる。そういう人はまず見つけるのが早いから、なにもかもがその人の眼で進んでしまう。少しほ…

『新編 日本のフェミニズム10 女性史・ジェンダー史』加納実紀代解説(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 1994年に全7冊、別冊1冊で刊行された「日本のフェミニズム」が、増補新版され全12巻で刊行される。新たに立てられた2巻が「グローバリゼーション」と、本書「女性史・ジェンダー史」である。旧版になかったのは、「ジェンダー概念の女性…

『ストリートワイズ』坪内祐三(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「ちょっとだけ古くさいぞ 私は」 新刊本が苦手だ。著者によって発せられたばかりの言葉が、なまなましく突き刺さってくるような気がして冷静に受け止めることができない。知人に直筆の葉書をもらったときにも、蒸しタオルを冷ますよう…

『Peanuts: a Golden Celebration』 Charles M. Schulz(Harper Resource)

→紀伊國屋書店で購入 「亡きシュルツと過去のアメリカを偲んで」 先日、ある本を読んでいたら、スパーキーという少年のことが書いてあった。 スパーキーは中学生の時に数学、ラテン語、イングリッシュなど多くの教科で不合格となり、高校時代には女の子にデ…

『ミレニアム 1  ドラゴン・タトゥーの女  上』スティーグ・ラーソン (著), ヘレンハルメ美穂, 岩澤雅利 (訳) (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「名誉毀損で敗訴したジャーナリストと、ドラゴン刺青の女が共闘する北欧発のハードボイルド」 スウェーデン発のハードボイルド小説である。ハードボイルド小説といえば英国かアメリカが元祖。めったなことでは英語以外の言語の海外ハー…

『無能の人』つげ義春(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ">―「蒸発」不能者を慰安する水墨漫画― わたしには潜行する癖(へき)がある。石を拾う。随分前のこと、居間に転がった無数の石を一念発起して庭先へ放逐してからというもの、持ち帰る頻度こそ激減したが、石を見ると気がそぞろになる。ポ…

『全国アホ・バカ分布考~はるかなる言葉の旅路』松本修(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「日本人は近代以前からずっとテレビを待ち望んでいた」 テレビと方言では相性が悪いはずだ、と思い込んでいた。中央発信型のテレビ番組は、各地に根付いてきた地方独特の話し言葉を標準語や関西弁によって風化させてきた。だから私も大…

『ベンヤミン―ショーレム往復書簡』ゲルショム・ショーレム(山本尤訳)(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入「終わってしまった歴史のなかに希望を感じる」 法政大学出版局による味気ない装丁の専門書的な雰囲気、400頁を超える分厚さ、そしてユダヤ人学者同士の往復書簡というマニアックな内容など、本書を包み込んでいる秘教的な雰囲気(オーラ…

『朝日新聞の秘蔵写真が語る戦争』朝日新聞社「写真が語る戦争」取材班(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 1年間余にわたって10日ごとに、「富士倉庫資料」のラベルの貼られたファイルが2冊ずつ、朝日新聞大阪本社から宅配便で届けられた。全72冊の点検が終わったとき、ホッとすると同時にがっかりした。東南アジアを専門とする者として、東南…

『1Q84』村上春樹(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入(BOOK 1) →紀伊國屋書店で購入(BOOK 2) 「やっぱりストーンズのおかげ」 絶品の出だしである。渋滞した首都高のタクシーの車内。ラジオからはクラシックの曲が聞こえてくる。誰もが知っているようなポピュラーな曲ではない。でも、シ…

『メイキング・オブ・ピクサー』デイヴィッド・A・プライス(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「アニメーションを織りなす文化的記憶」 ピクサーのCG技術は驚異的である。『トイ・ストーリー』から『ファインディング・ニモ』『モンスターズ・インク』などのヒット作を経て、2008年公開の『WALL・E』に到るまで、ピクサ…

『たのしい写真』ホンマタカシ(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「ホンマタカシの新たなる意思表明」 1990年代後半にホンマタカシが登場したとき、写真界に新しい動きが出てきたのを感じた。それまでのカラー写真では、露出を半目盛り絞ってアンダー気味に撮るのが流行っていたが(代表的な例は藤原新…

『ファンドレイジングが社会を変える』鵜尾雅隆(三一書房)

→紀伊國屋書店で購入 「日本に寄付10兆円市場を2020年までに実現させる!」 ビジネスの手法で社会問題を解決する社会起業というワークスタイルが注目されています。社会起業といっても、その主体は、株式会社からNPO法人(特定非営利活動法人)、法人格を…

『京都の迷い方』(京阪神エルマガジン社)

→紀伊國屋書店で購入 未だ冷めぬ京都ブームを反映して、京都を取り上げた本は数々ありますが、ガイド情報系、セレブリティ押し出し系、歴史などのお勉強に検定モノ…とどれも一様に紋切り型です。特にガイド情報系に顕著ですが、何より語り口にリアリティがな…

『スペインの黄金時代』ヘンリー・ケイメン著、立石博高訳(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「本書が扱う時代のほとんど」は「衰退の時代であった」と、著者のケイメンは、「第1章 序」で述べている。本書のタイトルから、「日の出から日の入りまで、その領土で太陽が輝かないときはない」「一世紀余りにわたって強大な一大帝国…

『たいした問題じゃないが----イギリス・コラム傑作選』行方昭夫編訳(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「プディングの味は食べてみないとわからない」 1980年代以前の大学受験生たちなら、原仙作『英文標準問題精講』(旺文社)という英語参考書の名前ぐらいは知っているはずだ。かくいう筆者もこの本で勉強した。 この「原仙」というのは…

『ctの深い川の町』岡崎祥久(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「不機嫌の作法」 岡崎祥久のデビュー作『秒速10センチの越冬』はいわゆる貧乏小説だった。主人公の青年は仕事がない。就職面接に行ってもいつも落とされる。面接のとき、相手の担当者に「私のどのへんがだめなんでしょう?」などと訊…

『政府系ファンド 巨大マネーの真実-なぜ新興国家が世界を席巻するのか』小原篤次(日本経済新聞出版社)

→紀伊國屋書店で購入 本書が出版されたこと自体が、経済の危機である。一般の人が「政府系ファンド」と聞けば、安定し、安心できるというイメージをもつ。ところが、「政府系ファンド」の定義もできなければ、実態もわからないという。だから、それをわかり…