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プロの読み手による書評ブログ

2007-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『根源の彼方に―グラマトロジーについて』 ジャック・デリダ (現代思潮社)

→『根源の彼方に―グラマトロジーについて』上 →『根源の彼方に―グラマトロジーについて』下 デリダを一躍有名にした初期の代表作である。ロゴス中心主義批判とか、フォネー批判とか、原エクリチュールなど、デリダのおなじみのスローガンはこの本に登場する。…

『Writing Systems』 Florian Coulmas (Cambridg University Press)

→紀伊國屋書店で購入 欧米人の書いた文字論は、ゲルプの先駆的かつ過激な仕事を別格とするとたいしたことはなく、特にインド以東の文字が弱いが、その中ではじめて納得できる本に出会った。フロリアン・クルマスの "Writing Systems"で、河野六郎の『文字論…

『長新太―ナンセンスの地平線からやってきた』土井章史・編(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「チョーさんに恋する」 先日、長新太の回顧展をみた。題して、〈ありがとう!チョーさん 長新太展ナノヨ〉(於・大丸京都店 九月八日~十月八日まで、横浜そごう美術館にて開催)。 デビュー当時の漫画など初期の資料をはじめ、『はる…

『さかさまの世界-芸術と社会における象徴的逆転』 バーバラ・A・バブコック[編] 岩崎宗治、井上兼行[訳] (岩波モダンクラシックス)

→紀伊國屋書店で購入 人文学生のだれかれに、コピーして必ず読ませてきた バーバラ・A・バブコック(Barbara A.Babcock)という人類学者に興味を惹かれた頃のことが懐かしい。近代オリンピック成立の神話的背景を扱った大冊で騒がれたマカルーンという人が…

『Writing Systems』 Geoffrey Sampson (Stanford University Press)

→紀伊國屋書店で購入 "A Linguistic Introduction"と副題にあるように、アメリカの言語学者が言語学的視点から書いた文字の概説書である。 最初のページからジャック・デリダの『グラマトロジーについて』が出てくることから察せられるように、著者のジョフ…

『文字をよむ』 池田紘一&今西祐一郎編 (九州大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 九州大学の先生方を中心とした文字に関する論集で、20本の論文がおさめられている。話題は文字の起源から漢字学、日本語の表記史、世界各地の文字、文字の脳科学まで多岐にわたる。カバーする範囲が広いので、すべての論文に興味がもて…

『藝大生の自画像』河邑厚徳(日本放送出版協会)

→紀伊國屋書店で購入 「気がかりでミーハーで文化の香り」 嫉妬に満ちた、それ以上に恐れに近い一番の気がかりは、攻撃的な松井冬子さんです。女子美のスキンヘッド時代にお会いしたかったものです。彼女の「この疾患を治癒させるために破壊する」は圧巻です…

『アントニオ・カルロス・ジョビン』エレーナ・ジョビン(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「ボサノヴァの創始者と、彼の母国の魅力を伝える」 ふとした出来心で買って開かないまま、古本屋行きになる本があるが、この本は幸いそういう運命を免れ、いつか読むだろうと、そのいつかがいつになるかわからないまま、手元に置かれて…

『開かれ--人間と動物』ジョルジョ・アガンベン(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「人類学的機械の産物」 うーん、うまいなぁ。出だしの三つの章で、一三世紀のヘブライ聖書の挿絵に描かれた天国で食事する聖人たち(動物の顔が描かれている)、動物の頭部をもつアルコンたちを描いたグノーシス派に衝撃をうけたバタイ…

『いい子は家で』青木淳悟(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「いい子はたいへん」 主人公が、「そこそこの関係」をつづけてきた「女ともだちのマンション・ルームにたどり着いたのだった」との冒頭の、その筆の矛先は「女ともだち」との「関係」へは向かわず、くるりとまわれ右して「家」へと戻る…

『南の探検』蜂須賀正氏(平凡社ライブラリー)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 帯に「最後の殿様博物学者によるフィリピン探検記 60年ぶりに復刊!!貴重図版多数!!」とある。…

『道化と笏杖』 ウィリアム・ウィルフォ-ド[著] 高山宏[訳] (晶文社)

→紀伊國屋書店で購入 人文学が輝いた栄光の刹那をそっくり伝える聖愚著 『老愚者考』のグッゲンビュール=クレイグが神話をめぐる日常的エピソードをスイスのローカルな話からとるのが珍しく、面白かったのだが、要するにスイスの心理療法家だし、チューリッ…

『分野別実践編 グラウンデッド・セオリー・アプローチ』木下 康仁編(弘文堂)

→紀伊國屋書店で購入 「グラウンデッド・セオリー・アプローチを物語論的に読む」 前回はグレイザー&ストラウス『質的研究の基礎』を取り上げました。これはグラウンデッド・セオリー・アプローチの方法論に関しては必読の一冊ですが、経験的研究にこのアプ…

『『薔薇族』編集長』伊藤文学(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 「同伴者としての栄光」 職業柄、編集者が書いた本は気になる。名編集者として知られいまは作家となった高田宏さんの『編集者放浪記』。「哲ちゃん」の名前でテレビでもおなじみの筑摩書房の松田哲夫さんの『編集狂時代』。最近のもので…

『寺山修司と生きて』田中未知(新書館)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](29) この夏、当書評ブログで取り上げた二人の著者が亡くなった。一人は、劇作家で演出家の太田省吾さん。『なにもかもなくしてみる』(第13回)という不思議なタイトルを持つ演劇エッセイ集の著者である。もう一人…

『To the Lighthouse』Virginia Woolf(Penguin)

→紀伊國屋書店で購入 「ご婦人対おやじ」 日本でもファンの多いヴァージニア・ウルフ。神経を病み自死を遂げた悲劇の小説家というイメージが強いが、いたずらっぽくておしゃべり好きなところもあった。『灯台へ』は『ダロウェイ夫人』とならんでその代表作。…

『生きることを学ぶ、終に』 ジャック・デリダ[著] 鵜飼哲[訳] (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 デリダを読み、「生き残り」をどう生きるか考えよう. 都内は先週、記録的猛暑で最高気温を更新したが、昨日も、そして明日もあさっても、私はALSの人たちの付き添い(目撃者として)である。彼らの生き方は真夏も真冬も関係ない。む…

『働かない-「怠けもの」と呼ばれた人たち』 トム・ルッツ[著] 小澤英実ほか[訳] (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「働いて自由になれ」、アウシュビッツの門にそう書いてあった グッゲンビュール=クレイグの『老愚者考』は、老人は老い故の愚行にどっぷりで少しも構わないのに何でこんなに「若いもんに負けるか」と気張るのか、と言う。「彼らは方向…

『古典期アテナイ民衆の宗教』ジョン・D.マイケルソン(法政大学出版局)

→紀伊國屋書店で購入 「民衆の宗教心の解読方法」 古典期のアテナイの民間宗教をとりだすというのは、想像以上に困難な仕事である。今から二千五百年も昔、紀元前五世紀から四世紀にかけての大衆の宗教心を解明しようとするのに、当時の文学的な仕事や哲学の…

『整体。共鳴から始まる 気ウォッチング』片山洋次郎(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「「気と共鳴」=「自然」?」 1994年刊『気ウォッチング』(日本エディターズスクール出版部)に加筆、再編集をしたものの文庫化。 野口整体の考えに基づき、自らの整体法を確立した著者が、整体における「気」と「共鳴」を手がかりに…

『日本人はなぜ英語ができないか』鈴木孝夫(岩波新書)

→紀伊國屋書店で購入 この本のタイトルを見て、興味を惹かれると共に、すぐに疑問が心に宿った。「日本人は英語ができない」という前提自体、事実に反するのではないか。そう思ったからである。私は日本語圏で育ち、その後40年近くを英語圏で暮らしたので、…

『「気づき」の幸せ』木村藤子(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 「もっと静かで激しい音楽を もっと穏やかで過激な生活を Frail, Wretched, Closer」 ある本にこう書かれていました。 「たとえ何かを感知しても、許可されていないかぎり、それを明らかにする権利はあなたにはありません」 歩くスピ−ト…

『滝山コミューン一九七四』原武史(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 「学園は天国でしたか?」 作詞家の阿久悠が亡くなった。追悼番組では70年代のヒット曲が次々と流されていて、この曲もあの曲も阿久悠だったのかと驚かされる。さらに驚いたことに、ぼくはそれらの曲をほとんど空で歌えるのであった。70…

『民衆防衛とエコロジー闘争』ポール・ヴィリリオ(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「われら哀れな人質たち」 現代のいくつかの出来事は、ぼくたちがある種の戦争状態に置かれていることを示している。想定を数倍も上回る揺れに見回れ、いまだに格納容器を開けることもできず、IAEAの検査官から「寿司を食べた」とい…

『老愚者考-現代の神話についての考察』 A.グッゲンビュール=クレイグ[著] 山中康裕[監訳] (新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 痴愚礼讃、あとは若いのにまかせりゃいい ちょっとした機縁なのだが、この本を読みだし読み終った一日は、臨床心理学という何だかよくわからない世界に、ユング心理学を介して形を与えた河合隼雄文化庁長官の訃報が新聞に載り、中沢新一…

『千年の祈り』イーユン・リー(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「ことばの「引っ越し」と潔い孤独」 イーユン・リーというはじめて名前を聞く作家の短編集を手にとる。 中国系の女性作家であることが、カバーの著者紹介からわかる。1972年に北京で生まれ、96年に渡米し、 現在はカリフォルニアのオー…

『観る─宇宙からの出発─』大野一道(芸術現代社)

→紀伊國屋書店で購入 著者の大野は歌手である。円熟の境地にさしかかる50代で、すばらしい声の持ち主だ。もともとは西洋音楽のジャンルからスタートしたものの、そこに自分自身と融合しきれない一種異質なものを感じ、日本語で歌う、日本人としての表現を追…

『大発作-てんかんをめぐる家族の物語』 ダビッド・ベー[作] 関澄かおる[訳] (明石書店)

→クリックして画像を拡大 『大発作』pp.304-305 →紀伊國屋書店で購入 フランス版『ガロ』が、ベー・デーを転倒させてのデー・ベー 日本のマンガ、アメリカのコミックスとともに20世紀漫画史のひとつの極とされてきたフランスのバンド・デシネ、いわゆるB.D…

『中世とは何か』J.ル=ゴフ(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中世に魅せられて」 中世史家ジャック・ル=ゴフの「専門家以外の一般読者をも対象とする……ほぼ初めての邦訳書」(p.306, 訳者解説)であるが、インタビュー形式で、ル=ゴフが自分のそれまでの生涯を振り返りながら、仕事について語る…

『図説 着物柄にみる戦争』乾淑子(インパクト出版会)

→紀伊國屋書店で購入 戦争柄の着物をつくり、着物柄に戦争をみる 骨董市に出かけて手ぶらで帰ってはつまらないから、収穫のないときには山積みされた葉書や端布まで戻っていって、ひっくり返してながめてみる。「赤い鳥」から飛び出たような男の子がまるまる…