書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

キノベス!2010

第1位『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ/岸本佐知子・訳

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,995円) 「さみしい」という孤独な四文字のことばに、嘘ややましさ、なにかごちゃごちゃとしたどぎつくカラフルなもの、たくさんの不純物を混ぜてこねると、この小説が生まれる気がします。もちろんその「さみしい」はとて…

キノベス!2010 第1位に輝いた ミランダ・ジュライさん メールインタビュー

----Your book has been very well-received in Japan. Did you have other countries in mind when you wrote the stories? Do you think there are elements in the stories that may cross over to other cultures? I don't think about this specificall…

『親戚のおばちゃんより、口上』

キノベス!2010 第1位『いちばんここに似合う人』 翻訳者・岸本佐知子さん特別寄稿 本を読んで「面白かった」と感じるのに、私の場合は三つの段階があります。第一段階では、本を閉じて「ああ面白かった・・・・・」としみじみ幸せな余韻に浸る。第二段階だと、本…

第2位『切りとれ、あの祈る手を』佐々木中

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,100円) 歴史が終わった。文学が、藝術が終わった。一体いつから言われているだろう。でも僕たちは今も本を読み、書き、音楽やアート、ファッションを愛して生きている。読むこと、語ること、作ることにある“革命の力…

第3位『シューマンの指』奥泉光

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,680円) 幸福の絶頂にあってさえ「喜びがそのまま悲しみであるような」音楽を書いた、悲劇の天才作曲家。その危険な美に魅入られた美少年天才ピアニストの運命もまた?!音楽の美しさと怖ろしさがあますことなく表現された…

第4位『流跡』朝吹真理子

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,365円) 自意識のえぐみがない水のような文体を豊穣な言葉が流れ、時も空間もさまざまなイメージが翻る。物語のための言葉を携えて生まれてきた新人。デビュー作からこんなものを書いて、どんなところへ行くのだろうと畏怖…

第5位『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』ジェレミー・マーサー/市川恵里・訳

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,730円) 「寝食を忘れて読む」というのを久し振りに味わった。ラストシーンはもったいなくて、左手でページを隠しながら読んだ。驚くべきはこれが良くできたフィクションではなく、実際にパリの片隅で起こった(そし…

第6位『ツリーハウス』角田光代

→紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/1,699円) 武勇伝はもういい。悲惨な場面は見たくない。苦労話も聞きたくない。でも、歴史は繰り返す。だから、歴史は語り継がれる必要がある。教科書では語られない、けれど、無数にある、あった戦中戦後史がここにある。 …

第7位『煙滅』ジョルジュ・ペレック/塩塚秀一郎・訳

→紀伊國屋書店で購入 (水声社/3,360円) フランス語で「e」の文字を使わずに書かれた20世紀最高に酔狂な小説を「イ」段の文字「イ・キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リ」を使わずに翻訳した21世紀最高に酔狂な1冊。「イ・キ・シ・チ・ニ・ヒ・ミ・リ」使わずに会…

第7位『絶叫委員会』穂村弘

→紀伊國屋書店で購入 (筑摩書房/1,470円) 「歌人の本」というと上品でおカタそうなイメージですが、実はそうじゃない。日常、電車の中や街角で目に耳に飛び込んでくる「なんでやねん!」な言葉たちに、読者のかわりにツッコみ、叫んでくれる。それがこの…

第9位『ふがいない僕は空を見た』窪美澄

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,470円) この本を読んだ時のことは忘れない。なんだかよくわからない熱いものがこみあげてきて、何度も涙がにじんだ。厄介なことから生まれて厄介なことを抱えて生きていく、きれいごとでは終わらない存在。だからこそ人間…

第10位『桐島、部活やめるってよ』朝井リョウ

→紀伊國屋書店で購入 (集英社/1,260円) この小説、瑞々しさで破裂しそう!今の自分にはない、登場人物たちの若々しさに嫉妬さえ覚えた。それがありありと書ける、作家の表現力にも感服。高校時代をもう一度味わいたければ、ぜひこの小説を! 〔新宿本店・…

第11位『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル/鬼澤忍・訳

→紀伊國屋書店で購入 (早川書房/2,415円) 複雑多様化する現代社会で「これが正義だ!」と胸を張って主張できるものが、一体どれだけ残されているのでしょうか。「正義」と「独善」の曖昧な境界線を、今こそはっきりさせようじゃないか。というマイケル・…

第12位『女ぎらい』上野千鶴子

→紀伊國屋書店で購入 (紀伊國屋書店/1,575円) 頭上にたらいが落ちてきたほどの強い衝撃のなかで読んだ一冊。男は女を嫌い、女は女である自分を嫌悪する。誰もが内に抱えるミソジニーを見事に射抜いているがゆえに、読まずにいることのほうが恐ろしい。 〔…

第13位『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』万城目学

→紀伊國屋書店で購入 (筑摩書房/903円) 小学校にあがったばかりのかのこちゃん。雷雨によって出会うマドレーヌ夫人と玄三郎。かのこちゃんのフンケーの友、すずちゃん。みんながみんな大切な人のことをおもう、考える。真剣に。やさしい気持ちとしずかな…

第14位『ピストルズ』阿部和重

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/1,995円) わかりやすい狂気も、あからさまな暴力も、そこそこの混沌ももう飽きた!・・・・・とでも言うのか、阿部和重は淡々と、ですます調で、魔法を操る一族の奇想天外な歴史を語ります。静かに、端正に、丁寧に構築された、し…

第14位『メイスン&ディクスン』トマス・ピンチョン/柴田元幸・訳

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 (新潮社/各3,780円) これはまさに今年の重大事件。ピンチョンの作品を現代の訳で読むことができるなんて。3,780円×2と時間を費やす以上の価値がここにはあると断言できます。ピンチョンって、そんなに難しくない…

第16位『地を這う祈り』石井光太

→紀伊國屋書店で購入 (徳間書店/1,680円) 知りたくなかった・・・見るんじゃなかった・・・ そう感じるほど衝撃的なむき出しの写真とエッセイ。だが同時にそこから目を背けさせない力もある。目を背けることが、無関心がこの現状を生み続けるのだと伝わり、響く…

第17位『星座から見た地球』福永信

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/1,575円) 美しい物語を読んだ。これは小説なのかなどと野暮なことを訊いてはいけない。何が言いたいのかわからないなどと些細なことを嘆いてもいけない。ただ書かれてある言葉の連なりに身をゆだねる。もっと深く潜っていく…

第18位『マリアビートル』伊坂幸太郎

→紀伊國屋書店で購入 (角川書店/1,680円) 元・殺し屋「木村」&狡猾な中学生「王子」、腕利きの二人組「蜜柑」&「檸檬」、ツキのない殺し屋「七尾」&彼と電話でつながる「真莉亜」、一つのトランクをめぐり、物騒な3組が北へ向かう東北新幹線を舞台に…

第19位『うんこ!』サトシン・文/西村敏雄・絵

→紀伊國屋書店で購入 (文渓堂/1,365円) 数えてみました。この絵本を読み聞かせすると「うんこ」18回、「くっそー」4回、「ふん」18回、「うん」を5回も声に出して言うことに(笑)。そこがお子様に大人気! くっさーいと言われてもなんのその! た…

第20位『悪の教典』貴志祐介

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 (文藝春秋/各1,799円) 殺人鬼のハスミンに惚れてしまった。そんな自分がサイコパスなのではないかと心配になった。誰もが抱いている心の闇の部分を鋭くえぐる問題作。 〔京橋店・此川裕子〕 →紀伊國屋書店で購入

第21位『コミュニケーションするロボットは創れるか』谷口忠大

→紀伊國屋書店で購入 (NTT出版/2,730円) 「俺のいっている意味、本当に分かっているか?」「分かるわけないじゃない! あなたの頭の中を覗けるわけじゃないし!」その通りだ。ではいったい「コミュニケーション」とはどのように成り立つのか? 今話題…

第21位『日本辺境論』内田樹

→紀伊國屋書店で購入 (新潮社/777円) おもわず頷く。とにかく面白い。そうか、こういう見方/考え方があったのか。内容には賛否両論あるだろうし、必ずしも100%正しいわけじゃないだろうが、これほど説得力があって引き込まれる日本論は久しぶり。白眉。 …

第23位『異邦の香り』野崎歓

→紀伊國屋書店で購入 (講談社/2,940円) 異邦について書かれた文章を読む内、すっかりその地に魅了される。でもそんな土地はもう失われたも同然だという事実に最後で気づかされ、魅了から解き放たれた後、ハテ私は夢でも見てたのかな、と思わず周囲を見回…

第23位『さすらう者たち』イ-ユン・リ-/篠森ゆりこ・訳

→紀伊國屋書店で購入 (河出書房新社/2,310円) 戦争や革命のさなかにある市井の人々というと、イコール善良な人々、として描かれることが多いけれど、この小説はそのような綺麗事に唾を吐きかける。騙したり憎んだり、邪な心をもつ人々、そして食い物にさ…

第25位『ペンギン・ハイウェイ』森見登美彦

→紀伊國屋書店で購入 (角川書店/1,680円) よちよちペンギン! 小4の少年! 探検と地図づくりと夏休みと研究ノートと仲間たち、ジャイアン、歯医者の受付のおねえさん! この最強の組み合わせに、かわいいーと鼻息も荒く読み進んでいた私を、一気にセンチ…

第26位『おべんとうの時間』阿部了・写真/阿部直美・文

→紀伊國屋書店で購入 (木楽舎/1,470円) ふたを開けるようにぱっと開くと、左ページにおべんとう、右ページにそのおべんとうを食べる人の笑顔があります。形も中身も開ける場所も人それぞれ。おべんとうについて語れば、いつの間にかその人の生き方が語ら…

第27位『味写入門』天久聖一

→紀伊國屋書店で購入 (アスペクト/1,050円) 立派な一眼レフじゃなくても神がかり的な写真は撮れるのだっ!! プロの写真家には撮れない、セミプロだって撮れないであろう、絶妙な一枚を、捨てずにとっておいた(たまたまのこっていた・・・?)素晴らしきご…

第28位『漂砂のうたう』木内昇

→紀伊國屋書店で購入 (集英社/1,785円) なんてかっこいいんだろう! 小説やっぱりこうでなくちゃ! 時代に取り残された遊郭の華やかさとわびしさ、変わらずに在る人と変われずにいる人の迷いや息苦しさが行間から立ちのぼります。ああ、巧いなあ。古くか…