書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

今井顕

『今井顕よりごあいさつ』

2005年4月に《書評空間》が開設されて以来、細々とながらも継続して投稿して参りました。 当初は投稿の頻度も文の長さも手探り状態でしたが、そのうち「無理してもしょうがない」と思いなおし、毎月1冊のペースを維持することを目標にしました。月に1冊は決…

『モーツァルト家のキャリア教育』久保田慶一(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 カバーにはかわいいイラストがあしらわれ、副題は「18世紀の教育パパ、天才音楽家を育てる」となっている。思わず「楽しい娯楽本か?」と期待してしまいそうだが、内容はとても手堅い、立派な研究書である。とは言うものの、読…

『わかりやすく〈伝える〉技術』池上彰(講談社現代新書2003)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 テレビのニュース解説でお馴染みの池上彰によるプレゼンテーション指南書だ。「テレビ」という特殊な環境の中での話術は、会社や学校といった一般的な環境における話術と同じではないことは容易に想像できる。その決定的な違い…

『〈第九〉誕生 1824年のヨーロッパ』ハーヴェイ・サックス(春秋社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「第九」とはもちろんベートーヴェンの作曲した交響曲第9番のことである。聴覚を失った最晩年のベートーヴェンが創作した大規模な交響曲だ。最終楽章で混声合唱による「歓喜の歌」が高らかに歌われるこの作品が日本における年末…

『君たちはどう生きるか』吉野源三郎(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「活字離れ」が心配される今どきの小学生や中高生にとって、活字を読んで文脈を理解するのはしんどい事なのだろう(もちろん大学生以上も例外ではない…)。必要に迫られない限り、文字ばかりの本を自発的に読むことは、あまり期…

『ブルクミュラー25の不思議 なぜこんなにも愛されるのか』飯田有抄・前島美保(音楽之友社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 話題となっているのは初心者向けのピアノの教材だ。楽しげな語り口で語られていく内容は、とても充実している。また学術的なリサーチとしても充分な価値がある、貴重な一冊だ。 ブルクミュラーは1806年にドイツで生まれた作曲家…

『バロックとその前後の鍵盤音楽の運指法』橋本英二(音楽之友社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ピアノの勉強方法にはさまざまなパターンがある。それぞれが奥深い。指の訓練も欠かせないが、知識面からのサポートも有用だ。今回は「世の中にはこんなことに興味を持つ人もいるのか」と驚く、限りなくマニアックな本を紹介し…

『カネを積まれても使いたくない日本語』内館牧子(朝日新書413)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「若者言葉と、きちんとした国語と、この二つを使い分けるように教育することが重要であり、必要だと思う。(本書7ページ)」という著者の提言は、まったくその通りだと思う。しかし問題は、いい年をした大人までがこうした言葉…

『「アジア人」はいかにしてクラシック音楽家になったのか?──人種・ジェンダー・文化資本』吉原真里(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 アジア人にとって、西洋音楽であるクラシック音楽は特異なものではない。日本の環境もそうであるように、若者は西洋音楽の中で生まれ、育ち、教育される。彼らにとっての音楽は西洋音楽なのだ。そうした環境の中、音楽にのめり…

『レイヤー化する世界 テクノロジーとの共犯関係が始まる』佐々木俊尚(NHK出版新書410)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 アベノミクス効果によって経済は上向き、給与も上がり、消費は増加し、日本はまた活気を取り戻すのだという。信じたいのはやまやまだが、本当にそんなバラ色の近未来がくるのだろうか。しかし「祇園精舎の鐘は鳴る…」と始まる平…

『ギャンブラー・モーツァルト』ギュンター・バウアー(春秋社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 古今の偉人たちの人生は、とかく神格化されてしまい勝ちだ。自らに課した課題のために他のあらゆることを犠牲にし、天から与えられた使命に没頭する姿が描写され、人並みはずれた集中力について語られる。こうして一旦誰もが納…

『歌うネアンデルタール』スティーヴン・ミズン、熊谷淳子訳(早川書房) & 『言葉と脳と心』山鳥 重(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 最近、気になっていることがある。言語と音楽の共通点だ。双方とも人類ならではのコミュニケーション手段だが、そこにはルールが存在する。言語には「単語」という部品があり、それらを組み合わせるための「文法」…

『ショパン・エチュード作品10の作り方 & ショパン・エチュード作品25の作り方』パスカル・ドゥヴァイヨン(村田理夏子訳、音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 ショパンが作曲した24曲のエチュードは、ピアノを学ぶ者はもちろん、すべてのクラシック系ピアニストが最高の芸術性、技術および明晰な頭脳をもって挑むべき試金石である。若者にとっての登龍門となる国際コンクー…

『お墓に入りたくない! 散骨という選択』村田ますみ(朝日新聞出版)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 人生には、年を重ねてこそ初めてわかることがある。心意気はまだ若くても、体力の衰えを実感するようになり、心配事が増えてくる。二十代の頃には想像できなかった現実にいやおうなく直面させられるのだ。たとえば、なってみな…

『ジュリアードで実践している演奏者の必勝メンタルトレーニング』ドン・グリーン(那波桂子訳、辻秀一監訳、ヤマハミュージックメディア)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 演奏家をめざしつつも、メンタルの問題に悩んでいる人への福音となる本かも知れない。とは言うものの、この本に書かれていることを忠実に守りさえすれば、今抱えている問題への解決が提供されるノウハウ本ではないことは、あら…

『ファジル・サイ』ユルゲン・オッテン(畑野小百合訳、アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今年4月17日の朝刊に掲載された記事である。 「イスラムを侮辱」有罪判決 トルコ 無神論者のピアニスト 世界的に活躍するトルコのピアニスト兼作曲家ファジル・サイ氏(43)がイスラム教を侮辱したとして、イスタンブールの裁判…

『ピアノと日本人』斎藤信哉(DU BOOKS)

→紀伊國屋書店で購入 ピアノを教えることは、私の大切な仕事のひとつだ。そんな時に折に触れて使う表現がある。曰く「そんなふうにピアノの調律師みたいな弾き方で音を出してはいけません」。感性の良い学生はこの言葉だけで納得し、音の響きが即座に変わる…

『ウィーン・フィルとともに』ワルター・バリリ著、岡本和子訳(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 「古き良き時代」という言葉がある。自分の人生をふり返ったときに多くの人が感じる、「あのころは良かった」「あの時は幸せだった」という郷愁に似た思い出だ。辛かったこと、不自由だったこともたくさんあったはずだし、おそらく幸せ…

『知って得するエディション講座』吉成順(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 興味深い内容には違いないが、どういう人にお薦めしたものか、迷うところだ。とりあえずはピアノを弾ける人、それもある程度のレベルに到達した人にとって有意義な参考書となるだろう。しかし音楽学生やピアニスト向きに書かれてはいる…

『ドビュッシーと歩くパリ』中井正子(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 昨年のコンサートステージでは積極的にクロード・ドビュッシーの作品がとりあげられていた。パリを愛し、フランス印象派を象徴する魅力的な作品を数多く創作したドビュッシーの生誕150周年を意識してのことである。ドビュッシーが創作し…

『僕らが育った時代1967-1973』武蔵73会(れんが書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 手前味噌ながら紹介させていただきたい本がある──というのは、本書には私自身が担当した部分(“武蔵の時代──親子関係のひずみ”)も含まれているからだ。いや、それだけではない。書評空間の評者のひとりである西堂行人(舞台芸術)も貴…

『ベートーヴェン』平野昭(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 「作曲家 人と作品シリーズ」の中の一冊だ。9月に刷り上がったばかりだから、ベートーヴェンの伝記として、現時点では世界でもっとも新しいものだろう。ベートーヴェンの生涯を追った伝記の部分とともに活気にあふれた言葉でまとめられ…

『ピアニストになりたい!』岡田暁生(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「芸術家である」ということには、単に一芸に秀でているだけでなく、人間としてのバランスがとれていることも含まれるのではないだろうか。「エキセントリックな」という評価が先行するアーティストは別にしても、人生をかけてひとつの…

『どうして弾けなくなるの? 〈音楽家のジストニア〉の正しい知識のために』J. ロセー、S. ファブレガス(音楽之友社)

→紀伊國屋書店で購入 演奏家に特有な局所性ジストニアという病気をご存知だろうか。4月の書評『ピアニストの脳を科学する』でも触れた病名だが、この疾患に関するきわめて詳細な書籍が出版された。バルセロナ(スペイン)にある音楽家専門治療施設「テラッサ…

『安倍圭子 マリンバと歩んだ音楽人生』レベッカ・カイト(ヤマハ・ミュージック・メディア)

→紀伊國屋書店で購入 マリンバという楽器をご存じだろうか。平たくいえば大型の木琴だが、木製の鍵盤ひとつひとつに共鳴パイプがつけられ、ふくよかな、味わい深い音が出るように設計されている。もともとはアフリカの民族楽器だったものが、さまざまな工夫…

『チェンバロ』久保田彰(ショパン)

→紀伊國屋書店で購入 まずは単純明快に感想から述べよう。コンパクトながらも手にした時に充実した質感を感じられる、とても美しい本である。内容もこの本ならではの貴重なもので、クラシック音楽ファン、とりわけバロック音楽愛好家にとっては愛蔵して決し…

『来世は野の花に』秋山豊寛(六耀社)

→紀伊國屋書店で購入 「鍬と宇宙船 II」 2007年に出版された『鍬と宇宙船』の続編である。ジャーナリストだった秋山は1990年12月に日本人初の宇宙飛行士としてソ連の宇宙船ソユーズに乗り組んで宇宙ステーション・ミールに行き、そこから美しい地球の姿を報…

『教養としてのバッハ』礒山雅・久保田慶一・佐藤真一編著(アルテスパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 「生涯・時代・音楽を学ぶ14講」 私が教鞭を執っている国立音楽大学には、いくつか自慢できるものがある。そのひとつは図書館だ。http://www.lib.kunitachi.ac.jp/にアクセスした後にページ下部のWebOPACというバナーを押すと、誰でも簡…

『ピアニストの脳を科学する』古屋晋一(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「脳科学・身体運動学からひもとく、音楽する脳と身体の神秘」 ピアノストの指の動きと、それをコントロールする脳の活動の関連が、とてもわかりやすく書かれている。「練習して弾けなかったことが弾けるようになると、脳や身体はどう変…

『TPP知財戦争の始まり』渡辺惣樹(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 最近の日本の政治は、どうなってしまったのだろう。「昔は良かった」とはつゆとも思わないが、何も決まらない、前に進まない。「末期的」という言葉が脳裏に浮かぶ。「政権交代によって世の中が変わるかもしれない」という期待は、もは…