書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

近代ナリコ

『ALL ABOUT ALASKA アラスカへ生きたい 』石塚元太良 井出幸亮 (新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 古代より多くの人間たちがその厳しい自然の中に何とか爪痕を残そうと悪戦苦闘を続けてきたこの土地は、一筋縄ではいかない。簡単に商業化され、レジャーランドになってしまうようなヤワなエリアではない。もちろん、世界屈指の…

『ファストファッションークローゼットの中の憂鬱』クライン,エリザベス・L【著】鈴木 素子【訳】(春秋社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ここ10年あまりのあいだにファッション業界を席巻したファストファッションブランド店や、ディスカウントストアばかりで買い物をしつづけ、気がつけば、クローゼットの中の服の平均価格が30ドルほどだったという著者。不景気の…

『皇居東御苑の草木帖』木下栄三 (技術評論社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 京都から越してきたばかりのころ、東京の街には緑がすくないと嘆くと、大阪市出身の友人はおどろいて、東京は緑だらけじゃないかという。大阪にくらべれば、東京は緑地面積の多い都市なのだ。たしかに、自宅近くの大学の構内は…

『亜米利加ニモ負ケズ』アーサー・ビナード(新潮文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに」。この歌をはじめて読んだとき、著者は桜ではなく、赤い薔薇を思い浮かべたのだそうだ。 それは、著者がいつか読んだ詩の記憶のためだった。雨にぬれた薔薇が登…

『ママだって、人間』田房永子(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 先日、ベビーカーマーク導入のニュースをテレビで観ていたら、子育てしやすい社会に、と謳いつつ、それでも迷惑という声もある、との言説も周到に付け足されていて、その報道側の当然の配慮にカチンとくる。 このときはじめて、…

『パン語辞典―パンにまつわることばをイラストと豆知識でおいしく読み解く』ぱんとたまねぎ 監修・荻山和也(誠文堂新光社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 おもてなしとかクールジャパンとか、賑やかに言われている昨今だが、パン(とケーキ)もまた、世界に誇れるニホンの文化だろう。ヨーロッパ各国の伝統的なものが本場とくらべても遜色ないレベルで再現され、さまざまなオリジナ…

『雑誌倶楽部』出久根達郎(実業之日本社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「泥つきの掘りたて根菜もろもろ詰め合わせ」。選りすぐられても、磨きをかけられてもいない。食べてみないことには、うまいかまずいかもわからない(なかには有毒なものもあるかもしれない)。泥つきだから、種にもなるので育…

『ふだん着のデザイナー』桑沢洋子(桑沢学園)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 デザイナーであり、桑沢デザイン研究所・東京造形大学を有する桑沢学園を設立した教育者である桑沢洋子。戦前から『婦人画報』の編集者として服飾の仕事に関わり、戦後大きく様変わりした日本人女性の暮らしを衣の側面から見据…

『宮沢賢治の菜食思想』鶴田静(晶文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ベジタリアン」=「野菜を食べる人」と思われがちだが、ベジタブルからベジタリアンという言葉が生まれたのではなく、両者は「……に生命を与える、活気づける」という意味のラテン語を語源にもつ言葉同士なのだという。日本語…

『今を生きるための現代詩』渡邊十絲子(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 小遣いをためて買った『谷川俊太郎詩集』、七百ページにもおよぶその本をはじめてひらいたとき、13歳だった著者がもっとも衝撃を受けたのは、そこに収められた詩篇「六十二のソネット」の〝目次〟の部分だった。 25 世界の中で…

『エプロンおじさん 日本初の料理研究家 牧野哲大の味 』高原たま 編著(国書刊行会)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 男性料理研究家のさきがけ、NHK「きょうの料理」には1962年から出演する最古参の先生である牧野哲大さん。学生時代にテレビで牧野氏を知り、その後、氏を訪れては、料理のもてなしを受けつつ、その話に耳をかたむけてきた著者が…

『 食魔―岡本かの子食文学傑作選』岡本かの子 大久保 喬樹・編(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 いのちの糧を超えて 菊萵苣と和名はついているが、原名のアンディーヴと呼ぶ方が食通の間には通りがよいようである。その蔬菜が姉娘のお千代の手で水洗いされ笊で水を切って部屋のまん中の台俎板の上に置かれた。 […] 妹娘の…

『水の旅 日本再発見』富山和子(中公文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 先人の暮らしと水とのかかわり合いの跡を各地に訪ねたルポルタージュ。皇居のお堀の水はどこからやってくるのか。伊勢神宮の式年遷宮と森林伐採の関係、ことに興味深いのは、日本列島の山々を覆う森林が、祖先たちによっていか…

『青鞜の冒険 ―女が集まって雑誌をつくるということ―』森まゆみ(平凡社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「東京本郷区駒込林町九番地」、現在の文京区千駄木五丁目三番地十一で、女性たちの手による雑誌『青鞜』が発刊されたのが明治四十四年。その七十三年後の昭和五十九年、著者の森まゆみと、山崎範子、仰木ひろみの三人が、地域…

『家と庭と犬とねこ』石井桃子(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 私は、元来、巾のせまい人間で、清濁あわせ呑むというわけにはいかないので、じぶんでもこまったものだと思っているけれど、こんな人間にとって、じぶんと波長のあう友人、波長のあう本を見いだしたときの喜びは、格別である。 …

『科学以前の心』中谷宇吉郎(河出文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今週、わが家では、起き抜けに「怪奇大作戦」が一話ずつ再生された。そのタイトルを、DVDを借りてきた夫の口から聞いたとき、私は「怪奇」ということばの響きに引きずられて、そんなおどろおどろしげなものをわさわざ朝から? …

『江戸の献立』福田浩 松下幸子 松井今朝子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 日本橋「にんべん」の髙津家に伝わる『家内年中行事』、尾張徳川家の御畳奉行の残した『鸚鵡籠中日記』、水戸光圀が生母のために建立した久昌寺住職・日乗上人の日記、伊勢参りの道中記、大名の献立表等、江戸時代の記録に残された献立…

『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』寄藤文平(美術出版社)

→紀伊國屋書店で購入 著者は広告のアートディレクションやブックデザインを手がけるデザイナー、イラストレーター。本書は、それまでの仕事をまとめたギンザ・グラフィック・ギャラリーでの展覧会「寄藤文平夏の一研究」と連動し、著者が、その生業において…

『ぼくは猟師になった』千松信也(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 狩猟というと「特殊な人がする残酷な趣味」といった偏見を持っている人が多いです。 また、狩猟をしていると言うと、エコっぽい人たちから「スローライフの究極ですね!」などと羨望の眼差しを向けられることがあります。でも、こういう…

『私の献立日記』沢村貞子(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 今夜の献立をどうするか。 ご飯のしたく=料理をすること、と、人のつくったものを食べるだけの人は考えるようだが、献立の決定と材料の調達からそれははじまっていて、しかも、連綿とつづく日常生活のなかで、栄養が偏らないよう、飽き…

『石井好子のヨーロッパ家庭料理』石井好子(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 四十年ちかい歳月を経て復刊した本書のオリジナルは昭和五十一年、文化出版局刊。 石井好子の代表作『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』といえば、パリ暮らしのなか、フランス人のくいしん坊ぶりに触れ、食べることの楽しみに開…

『家族の勝手でしょ!―写真274枚で見る食卓の喜劇』岩村暢子(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 2011年同社刊の単行本の文庫化。 著者は、98年より、〈食DRIVE〉調査という定性調査を実施し、食卓を通して現代の家族の実態を研究・考察している。前著、『変わる家族 変わる食卓 ―真実に破壊されるマーケティング常識』(中公文庫)、…

『True Prep―オフィシャル・プレッピー・ハンドブック』リサ・バーンバック、チップ・キッド 篠儀直子・訳 山崎まどか・日本版監修 Pヴァイン・ブックス

→紀伊國屋書店で購入 アイビー・リーグに属する名門大学入学を目指す、良家の子女たちが通う私立高校「プレップ・スクール」。その、プレップ・スクール出身者、伝統的かつ格式の高いお家柄の人びと「プレッピー」の生態をつぶさに、そして諧謔をこめて綴り…

『上海、かたつむりの家』六六 青樹明子・訳(プレジデント社)

→紀伊國屋書店で購入 中国では知らない人はいないというほどの大ベストセラー小説らしい。テレビドラマにもなり、こちらもたいへんなな人気を博したという話題作である。 原作は2007年刊、ドラマ化は2009年だが、一部の局では内容が過激すぎるとの理由で放映…

『ニセ札つかいの手記―武田泰淳異色短篇集』武田泰淳(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 一日おきに三枚ずつ、「源さん」からニセの千円札を渡される「私」。使った札の額の半分は、「源さん」に渡すことになっている。たとえば、ある日に渡された三千円のニセ札をすべて使ったら、千五百円(本物)を「源さん」へ、「私」の…

『小川洋子の偏愛短篇箱』小川洋子・編著(河出文庫)

→紀伊國屋書店で購入 ふだんはあまり読まないミステリやSF、長編の翻訳物などを、汗だくになりながら一気読みする。今の私には夏休みなどないけれど、そんな、ただ読むことを楽しむための読書で、夏休みらしい気分を味わうというのが、いつの頃からかのなら…

『東北おやつ紀行』市川慎子(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 餅状の皮のなかに黒蜜とくるみのつまった花巻の「経木まんじゅう」。うす小豆色で持ち重りのする青森の「久慈良餅」。最中の皮にしゃりしゃりと砂糖で固めた小豆がのった酒田の「豆皿」。三角に折りたたんだクレープのような生地にあん…

『青い絵具の匂い―松本竣介と私』中野淳(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 昭和23年に三十六歳で逝った松本竣介との交流をめぐる、著者の戦中・戦後史である。 著者と竣介との出会いは昭和18年、「新人画会展」というグループ展に出品されていた作品がきっかけだった。この在野の展覧会は、美術展といえば戦争画…

『一葉のポルトレ』小池昌代【解説】(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 一葉を見知った人たちによる、作家の肖像(ポルトレ)。 研究書のみならず、彼女にまつわる書物は数しれず、映画にもなり、お芝居にもなって、それでもなお、一葉の世界に惹かれる者にとって、その人となりへの興味は尽きることがない。…

『東京バス散歩』白井いち恵(京阪神エルマガジン社)

→紀伊國屋書店で購入 京都という、平坦な碁盤の目状の町に長らくいた。移動手段はもっぱら自転車、バスを使うことはあっても、それは大抵、大通りをまっすぐに進み、一度だけ直角に曲がってさらにまっすぐ、はい到着! ただひたすら、「運ばれている」という…