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プロの読み手による書評ブログ

西堂行人

『李康白戯曲集 ホモセパラトス』李康白著、秋山順子訳(影書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 <劇評家の作業日誌>(63) 韓国を代表する劇作家・李康白(イ・カンベク)氏が来日し、池袋の劇場で講演会を行なった(6月25日)。今回の来日は、彼の戯曲集『ホモセパラトス』の刊行を祝ってのものである。 講演の中で氏…

『あの人の声は、なぜ伝わるのか』中村明一(幻冬舎エデュケーション)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 <劇評家の作業日誌>(62) 本書は『密息』と『倍音』の著者がこれまでの成果を踏まえた上で、他者との根源的なコミュニケーションを探ろうとした本である。著者の中村明一氏は国際的に活躍する作曲家・尺八奏者であり、同時…

『六〇年代演劇再考』岡室美奈子+梅山いつき編著(水声社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(61)」 「現代演劇」はいったいいつから始まったのか。果たして「現代」を規定する時代区分はどこにあるのか。 そこで1960年代に始まった「アングラ演劇」あるいは「小劇場演劇」を「現代演劇」の出発点…

『唐十郎論 逆襲する言葉と肉体』樋口良澄(未知谷)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(60)」 唐十郎について書かれた評論は多い。近年では、扇田昭彦著『唐十郎の劇世界』(右文書院、2008)という決定版がある。唐作品と40年にわたって伴走し、時代を共有した著者による劇評集だ。 だが…

『乱歩・白昼夢/浮世の奈落』斎藤憐(而立書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(59)」 音楽劇『上海バンスキング』で知られる劇作家・演出家の斎藤憐さんが、2011年10月12日、食道腫瘍による肺炎で亡くなった。享年70歳だった。 本書は死後、最初に出された戯曲集である。この…

『凛と咲く なでしこジャパン30年目の歓喜と挑戦』日々野 真理(ベストセラーズ )

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(58)」 今夏に開催された女子ワールドカップ(以下W杯)で日本女子サッカーチームは初めて世界一に輝いた。この快挙は日本中を熱狂させた。女子サッカーがこれほどまでに注目を集めたことはかつてなかったし…

『詩の邂逅』和合亮一(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(57)」 3・11以後に書かれた文章は、震災と原発の状況から無縁でなくなった。それはある意味で窮屈なほどに、「状況の言葉」として読まれてしまう。 震災直後からツイッターに詩を書き続け、それが反響を…

『マイ・バック・ページ ある60年代の物語』川本三郎(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(56)」 この本の初版は1988年、河出書房新社から刊行された。それが昨秋、22年ぶりに新装版で再刊された。復刊のきっかけは、この5月に公開された映画(山下敦弘=監督)である。妻夫木聡と松山ケンイ…

『ドラマトゥルク』平田栄一朗(三元社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(55)」 近年、日本の演劇界でしばしば耳にする言葉に、「ドラマトゥルク」がある。それを自称する者たちも少しずつ出てきた。日本語に置き換えると「文芸部員」となるドイツ語だが、その実態は今一つ摑みがた…

『ポスターを貼って生きてきた―就職もせず何も考えない作戦で人に馬鹿にされても平気で生きていく論』笹目浩之(PARCO出版)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(54)」 おもしろい人間がいたものだ。“おもしろい”という言い方が乱暴なら、“よくぞこんな風に生きてきた人間がいたものだ”と言い換えてもいい。誰も考えもしなかったことを思いつき、後先考えず大胆に実行し…

『寺山修司に愛された女優――演劇実験室◎天井桟敷の名華・新高けい子伝』山田勝仁(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(53)」 寺山修司は生きている。本書を読み終えて、最初に感じたのはこのことだった。 もちろんこの本は、寺山修司を主役として書かれたものではない。「演劇実験室◎天井桟敷」の主演女優であり、劇団の名華だ…

『新宿八犬伝 (完本)』川村毅(未来社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(52)」 伝説の『新宿八犬伝』が完結した。 1980年代の小劇場を賑わした川村毅率いる第三エロチカの代表作が、この秋、第五巻「犬街の夜」をもって、シリーズの幕を下ろしたのだ。同時に、80年に創設さ…

『蜷川幸雄の劇世界』扇田昭彦(朝日新聞出版)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(51)」 本書は先年刊行された『唐十郎の劇世界』(右文書院、2007年)に続く、演劇評論家扇田昭彦による演劇作家論の第二弾である(続編として『井上ひさしの劇世界』も予定されている)。 本書には著者…

『演劇のポ・テンシャル(エクス・ポ テン/ゼロ)』(HEADZ)<br>『ニッポンの思想』佐々木敦(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(50)」 これは雑誌なのだろうか、それとも単行本なのか。書店の演劇書コーナーでこの分厚い本を手にした時、わたしは一瞬戸惑いを覚えた。そして一度棚に戻したが、ここで買わなければ一生手に取ることもある…

『「出会う」ということ』竹内敏晴(藤原書店)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(49)」 竹内敏晴さんが亡くなった(9月7日)。享年84歳だった。 演出家であり、教育者としても大きな足跡を残した彼は、死後、一冊の本を残した。それが「出会い」をテーマにしたこの本で、文字通り遺著…

『父と子の思想』小林敏明(筑摩書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(48)」 この本は小品であるが、実に射程の広い、深い思考をもった書物である。 著者は現在、ドイツのライプチッヒに住み、哲学や思想を論じるアカデミシャンだ。そのバックグランドには西田哲学や広松渉の政…

『新日本現代演劇史〈2〉安保騒動篇 1959‐1962』大笹吉雄( 中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(47)」 大笹吉雄氏の『新日本現代演劇史』の刊行が始まった。すでに2冊まで出版され、今後も4ヵ月に1冊のペースで続き、来年の上半期には全5巻が完結する予定である。 本演劇史は、実は8年前にひとまず…

『僕と演劇と夢の遊眠社』高萩 宏(日本経済新聞出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「劇評家の作業日誌 (46)」 1976年に野田秀樹とともに創設し、やがて80年代の若者文化をリードした超人気劇団・夢の遊眠社の元プロデューサーによる回顧録である。著者の高萩宏は現在、東京芸術劇場の副館長を務めるが、本書…

『炎の人(ハヤカワ演劇文庫)』三好十郎(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(45)」 古今東西の名作を廉価で読める「ハヤカワ演劇文庫」の刊行が開始されたのは、2006年、アーサー・ミラーの『セールスマンの死』からだった。 70年代には角川文庫や新潮文庫でかなりの数の戯曲を…

『土方巽 絶後の身体』稲田奈緒美(NHK出版)

→紀伊國屋書店で購入 「[劇評家の作業日誌] (44)」 昨年は暗黒舞踏の創始者・土方巽の23回忌だった。また彼の舞踏の出発点を1959年の『禁色』初演とするなら、今年は「暗黒舞踏50年」に当たる。いろいろな節目になる時機を得て刊行されたのが、…

『街場の大阪論』江 弘毅(バジリコ)

→紀伊國屋書店で購入 「[劇評家の作業日誌](43) 」 大阪の大学に来てから12年目になる。その間、毎週のように東京-大阪を行き来してきた。だから純粋に大阪に住んでいるわけではなく、年の3分の1ほど大阪に滞留しているにすぎない。しかし、生活者と…

『遺言-アートシアター新宿文化』葛井欣四郎 聞き手=平沢剛(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](42) この一年出会った本のなかで、時代の「証言」という性格を帯びたものに心が動かされることが多かった。今、何とかして語っておかねばならないことがある--そうした気迫が書物という形をとって伝わってきたの…

『おかしな時代』津野海太郎(本の雑誌社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](41) この本の題名『おかしな時代』とは何を意味しているのだろうか。まずこのタイトルに、わたしは引っかかりをおぼえた。 本の原形は「本の雑誌」に4年にわたって連載(2004年4月号~2008年7月号)さ…

『わたしの戦後出版史』松本昌次(トランスビュー)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](40) この本の著者・松本昌次氏は、わたしにとってあまりに身近な方なので、書評の対象とすることに当初ためらいをおぼえた。だがここで語られている出版史や編集者の生き方は、わたし個人の事情や抑制をはるかに超…

『太田省吾劇テクスト集(全)』太田省吾(早月堂書房)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](39) 劇作家・太田省吾さんが亡くなられてから、早いもので一年余が経った。その追悼の意もこめて、この8月、金沢の前衛劇集団新人類人猿による『プラスチック・ローズ』(若山知良演出)が金沢芸術村で上演された…

『老嬢は今日も上機嫌』吉行和子(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](38) 女優吉行和子のラストステージを見に、六本木・俳優座劇場に出かけた。タイトルは『アプサンス~ある不在~』(ロレー・ベロン作、大間知靖子演出)。この女優にふさわしい舞台だった。決して派手ではなく、ひ…

『ベケット巡礼』堀真理子(三省堂)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](37) 演劇とは旅に似ている。あるいは旅こそが演劇のメタファーなのかもしれない。人々は冒険の旅に出る。そこで出会った者たちと対立が起こり、決定的な行為がなされ、劇が生れる。これがいつに変わらぬ演劇の原型…

『演劇論の変貌-今日の演劇をどうとらえるか』毛利三彌・編(論創社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](36) 先日、ブルガリアのソフィアで開かれた演劇批評の世界会議に参加した(4月14日~18日)。30か国、約100名の演劇批評家が集まる大会の今回のテーマは「暴力と人間性」。3日間、30人以上のスピーカーがひっきり…

『沖縄映画論』四方田犬彦・大嶺沙和編(作品社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](35) この2月、約10年ぶりに沖縄を訪れた。このところ何かと「沖縄」が目に止まる。沖縄には「沖縄芝居」や「組踊り」という土地に根付いた芝居や芸能があるが、それ以外にも沖縄を素材とした舞台は数多くあり、現…

『21世紀を憂える戯曲集』野田秀樹(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](34) 2007年はまさに野田秀樹の一年だった。この年、野田地図(NODA MAP)の『THE BEE』で彼の受賞した演劇賞は主だったものだけで四つに及ぶ。第42回紀伊國屋演劇賞(団体賞)、第49回毎日芸術賞、第7回朝日舞台芸…