書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2014-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『光秀の定理』 垣根涼介 (角川書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 さわやかな読後感に驚いた。 光秀ものというか本能寺ものの小説の結末は重苦しいと相場が決まっている。討たれた信長も無念、討った光秀も無念、そこに大の大人が殴る蹴るのイジメを受ける場面がくわわったり、どす黒い陰謀がく…

『夏の流れ 丸山健二初期短編集』丸山健二(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「日常と非日常の狭間」 ホッとしてしまう。何故だろう。世代の近い作家だからだろうか。いや、そんなことではないはずだ。自分では気づかないうちに、その頃の文学の流れにゆったりと浸かって心地よかった時を反芻しているのだ…

『とまどい本能寺の変』 岩井三四二 (PHP)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 本能寺の変はもちろん謎だが、変の後に起こった出来事もよくわからないことが多い。 毛利は一杯食わされて領土割譲を含む和議を結ばされたとわかったのに、なぜ秀吉軍を追撃しなかったのか? 信長の三男の信孝は四国攻めのため…

『光の子ども』小林エリカ(リトルモア)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「マンガという形式の強さ」 形式は表現に先行するものではない。表現したいもののために形式が選ばれるのであり、形式のために表現が存在するわけではない。 表現の歴史は長くさまざまな形式が生み出されてきたが、それでも収…

『光秀曜変』 岩井三四二 (光文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 表紙には二代目中村鴈治郎のような陣羽織を着た老人が描かれている。ずいぶん老けた光秀だなと思ったが、本作は光秀の享年として67歳説をとっており、老けているのがポイントなのだ。 二つのストーリーを平行して語るカットバッ…

『David and Goliath』Malcolm Gladwell (Penguin Books)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「有利さは本当に有利か」 お金をたくさん持てば幸せになれるのだろうか。 これは、微妙な質問で、著者マルコム・グラッドウェルはこの本のなかで次のように答えている。 「幸福について調査した研究者たちによれば、(アメリカ…

『王になろうとした男』 伊東潤 (文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 織田家を社員を使いつぶすブラック企業にたとえた人がいたが、ブラック企業でもすべての社員がつぶされるわけではなく、出世の道をひた走って高い地位にのぼりつめる社員もいれば、カリスマ経営者に心服して、出世とは関係なし…

『渋沢栄一』鹿島茂(文春文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「官尊民卑と闘った男」 渋沢栄一には以前から興味を持っていたが、なかなかその人となりを詳しく知る機会はなかった。20年ほど前に古牧温泉を訪れたときに、そこに移設されていた旧渋沢邸を見たことがあっただけだ。書店で『渋…

『織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代』 武田知弘 (ソフトバンク新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 武田知弘氏は国税庁職員から物書きに転じた人で、『ヒトラーの経済政策』や『史上最大の経済改革“明治維新”』などの経済的視点の歴史物で知られている。 本書も信長の天下統一を経済的視点から見直そうという試みであり、経済力…

『凡人でもエリートに勝てる人生の戦い方。』星野明宏(すばる舎)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「定石破りのコツ」 絵に描いたようなストーリーだ。華やかなテレビ業界で活躍していた電通マンが、ある日一念発起し、会社を辞めて教育系の大学院に入り直した。そして教員資格を得ると、地方の名も無い私立校に教師として赴任…

『信長の政略 信長は中世をどこまで破壊したか』 谷口克広 (学研)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 谷口克広氏は『 " target="_blank">織田信長合戦全録』や『信長と消えた家臣たち』、『織田信長家臣人名辞典』など、信長関係のレファレンス本を精力的に執筆してきた人である。本欄でも『検証 本能寺の変』をとりあげたことが…

『神話論理〈2〉蜜から灰へ』 レヴィ=ストロース (みすず書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 『神話論理』の第二巻である。表題の「蜜」とは蜂蜜、「灰」とはタバコの灰をさす。 レヴィ=ストロースは本巻では「神話の大地は球である」ことを証明すると大見えを切るが、その前に蜂蜜について説明しておかなくてはならない…

『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』高瀬毅(文藝春秋)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「廃墟の時間性」 昨年の収穫の一つと紹介されていたのを目に留め、急いで読んだ。もとは2009年に平凡社から出ていたものの文庫化。五年近く前からの話題作に、やっと気づいた自分の迂闊さが情けない。気を取り直して思うに、何…

『「つながり」の戦後文化誌』長崎 励朗(河出書房新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「大衆教養主義の顛末」 労音といえば、年配の読者はなつかしいものがあるだろう。わたしは1960年代後半の大学生のとき、3人でないと入会できないからと友人に言われて京都労音に入会した。低料金で音楽を鑑賞できることや…

『ラオスを知るための60章』菊池陽子・鈴木玲子・阿部健一編著(明石書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「エリア・スタディーズ」シリーズも、2013年に126冊になった。とりあげる国や地域は、「現代」を冠したものもあり、その目的や読者対象がさまざまで一律ではない。本書は、日本で「ニュースになる機会は多くない」「ラオスを知…

『徳川慶喜』家近良樹(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”捉え難き”最後の将軍」 徳川慶喜(1837-1913)という江戸幕府「最後の将軍」は、日本史上あまり人気のある人物ではない。鳥羽伏見戦争のあと、江戸に「逃げ帰った」とみえる彼の行動がマイナスのイメージを創り出すのに大い…

『バロックとその前後の鍵盤音楽の運指法』橋本英二(音楽之友社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 ピアノの勉強方法にはさまざまなパターンがある。それぞれが奥深い。指の訓練も欠かせないが、知識面からのサポートも有用だ。今回は「世の中にはこんなことに興味を持つ人もいるのか」と驚く、限りなくマニアックな本を紹介し…

『Weight : The Myth of Atlas and Heracles』Jeanette Winterson(Canongate Books Ltd)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「神話を下敷きに語られる人の心」 1959年英国のマンチェスターで生まれたジャネット・ウィンターソン。英国の文芸誌『グランタ』から「優秀英国若手作家20人」のひとりに選ばれた経歴がある彼女は、長編小説、短編作品ば…

『夜中に犬に起きた奇妙な事件』マーク・ハッドン(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「読んで学ぶ自閉症」 昨年、アメリカの精神科診断基準DSMが19年ぶりに改訂され、自閉症スペクトラム障害(Autistic Spectrum Disorder: ASD)という新たな診断基準が登場した。アスペルガーの呼称も抹殺され、あれだけ世間を騒…

『物語 ビルマの歴史-王朝時代から現代まで』根本敬(中公新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 現在の国名は、ミャンマー連邦共和国。2010年からの正式名称である。1989年に国名がビルマからミャンマー、首都名がラングーンからヤンゴンに変わったことは知っていても、1948年の独立後正式名称が何度も変わり、国旗のデザイ…

『昭和の子供だ君たちも』坪内祐三(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「シャイな私の昭和論」 「力がこもっている」という形容がふさわしい本ではないだろう。文章は力感があってぐいぐい読まされるが、たっぷり力をためた上で「えいや!」と投げ落とすようなスタイルは坪内氏には似合わない。 た…

『ベンジャミン・ブリテン』デイヴィッド・マシューズ/中村ひろ子訳(春秋社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ブリテンと無垢の世界」 2013年が、英国の作曲家、ベンジャミン・ブリテンの記念の年(生誕100周年)であったことは記憶に新しい。それを記念して、彼がかつて契約していた Decca レーベルを所有するUniversal は自作自演を中…

『グローバル・スーパーリッチ 超格差の時代』クリスティア・フリーランド(早川書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「”プルトクラート文化”とは何か」 経済格差について書かれた本は多いが、本書(クリスティア・フリーランド著『グローバル・スーパーリッチ~超格差の時代』中島由華訳、早川書房、2013年)は、「フィナンシャル・タイムズ」の…