書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

高原基彰

『「統治(ガバナンス)」を創造する――新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』西田亮介・塚越健司【編著】(春秋社)

→紀伊國屋書店で購入 「現実的で漸進的な改革のために」 TIME誌の選んだ2011年のパーソン・オブ・ザ・イヤーは、匿名の「抗議者たち」だった。中東のジャスミン革命に始まり、ヨーロッパ金融危機に際し頻発したデモ、アメリカでのウォール街占拠デモなど、確…

『愛国心―国家・国民・教育をめぐって』市川昭午(学術出版会 日本図書センター〔発売〕 )

→紀伊國屋書店で購入 「「愛国心」をめぐる議論の網羅的な整理」 本書は、教育学の碩学により、「愛国心」をめぐる社会理論、現実政治の動向、および教育を中心としたその制度の来歴など、極めて広範な論点を網羅しつつ書かれた大部の著作である。とりわけ、…

『若者の現在 政治』小谷敏 土井隆義 芳賀学 浅野智彦【編】(日本図書センター )

→紀伊國屋書店で購入 「政治の観点から見た若者・若者論の現在」 若者に関連する本の出版が相次いでいる。若年雇用環境の悪化に関する議論がひとしきり行われ、「可哀想な若者が増えつつある」ことは広く人々に知られることとなった。ではどうするか、という…

『全貌ウィキリークス』ローゼンバッハ,マルセル シュタルク,ホルガー【著】 赤坂 桃子 猪股 和夫 福原 美穂子【訳】(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「ウィキリークスの実態紹介」 朝日新聞が、沖縄の米軍普天間基地移設に関係する、海兵隊のグアム移転費用を水増しする「密約」が存在していたことなどを、アメリカ外交公電から暴露する報道を行った。Wikileaks(以下WL)が2010年に入…

『モノ言う中国人』西本 紫乃(集英社)

→紀伊國屋書店で購入 「中国のインターネット言論についての優れた入門書」 チュニジアやエジプトでの動乱で、ツイッターやフェイスブックによるネットワーキングが大きな機能を果たしたことはよく指摘されている。しかしむろん、こうしたツールがあればすぐ…

『日本人が知らないウィキリークス』小林 恭子 白井 聡 塚越 健司 津田 大介 八田 真行 浜野喬士 孫崎 亨(洋泉社)

→紀伊國屋書店で購入 「多角的なウィキリークスの入門書」 2010年、メディアの世界で最大の話題の一つとなったウィキリークスであるが、いまでもその内実をよく分からない人間は、私自身を含めて多いだろう。本書は、分野を異にする7人の論者たちが、このウ…

『世論(上・下)』リップマン,W.【著】 掛川 トミ子【訳】(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「「合意形成」とは何かを考え直すために」 たとえば今の中国に、やや不穏な空気が満ちているのは確かである。またチュニジアやエジプトで今起きていることを見ても、「民主主義とは何か」という極めて古典的なテーマが新しい形で浮上し…

『反日、暴動、バブル―新聞・テレビが報じない中国』麻生 晴一郎(光文社新書)

→紀伊國屋書店で購入 「中国に胎動する新しい動きの現地報告」 2010年は中国にとっても、日中関係にとっても大事件の相次いだ年だった。劉暁波氏のノーベル賞受賞や、尖閣諸島をめぐる漁船衝突事故、さらには北朝鮮による韓国への砲撃事件など。本書は、中国…

『「科学技術大国」中国の真実』伊佐 進一【著】(講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 「客観的な目でみた中国の科学技術開発と、日本との関係」 日本はいずれ中国に追い越されそうだ、という焦燥感が、今の日本には蔓延している。その懸念にはある程度妥当な側面もあれば、単に隣の芝生を青く見ているだけの側面もあるだろ…

『蟻族――高学歴ワーキングプアたちの群れ』廉思【著】 関根謙【監訳】(勉誠出版)

→紀伊國屋書店で購入 「就職難に直面した中国の地方出身大卒者」 日本で話題になる「高学歴ワーキングプア」は、大学院卒のことである。特に、博士課程修了者や博士号取得者で仕事のない人々のことを指すだろう。 中国の大学院生も、特に文系出身者は、(ま…

『希望難民ご一行様――ピースボートと「承認の共同体」幻想』古市憲寿・本田由紀【解説・反論】(光文社)

→紀伊國屋書店で購入 「豊富な一次資料を用いた若者の『自分探し』分析」 三浦展(『下流社会』)などの著名な論者により、若者が夢の「青い鳥」を追い過ぎているという言説がひとしきり行き渡った。しかし他方で、現在の若者はリスクテイクをせず、本を読ま…

『民族はなぜ殺し合うのか―新ナショナリズム6つの旅』マイケル・イグナティエフ【著】 幸田敦子【訳】(河出書房新社 )

→紀伊國屋書店で購入 「見聞から導き出すナショナリズムの倫理」 本書は、自身が複雑な民族的出自をもつ著者が、1993年の時点で、民族紛争の激しい地域を取材に訪れ、民族・国家とは何かを問うたルポルタージュである。著者はBBCのテレビドキュメンタリーと…

『インターネットと中国共産党―「人民網」体験記』佐藤 千歳(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「中国での記者体験記+α」 本書は、北海道新聞の記者だった著者が、人民日報社のネット部門「人民網」に出向した一年間の記録、および事後談をまとめた滞在記である。 「階層によって見える世界がまったく違う」というのは、インドにつ…

『北京再造――古都の命運と建築家梁思成』王軍,多田麻美訳(集広舎)

→紀伊國屋書店で購入 「北京の都市計画史の最良の入門書」 北京を訪れた者が誰でも驚くのは、いかにも大陸的な、広大な土地を存分に使った巨大建築が立ち並ぶ様だろう。いわゆる高層ビルというより、横に広い感じの建物が並んでいる。再開発ラッシュの際、世…

『チャイニ-ズカルチャ-レビュ- 〈v.3〉 ― 中国文化総覧』大可 張こう(好文出版)

→紀伊國屋書店で購入 「皮肉の利いた現代中国文化事典」 中国の大衆文化はめまぐるしく早い展開を見せている。毎年のように新しい流行語が登場しては消えていく。断片的な情報は流れてくるが、その全体像をつかむのはなかなか難しい。どの国の場合でもそうだ…

『北京論―10の都市文化案内』松原弘典(リミックスポイント 丸善〔発売〕 )

→紀伊國屋書店で購入 「建築家の目で見た北京の都市論」 北京の中心部は、背が低く敷地面積の大きい建物が、地を覆うように建っていて、のっぺりとした印象を与える。また、長安街や環状線などの道幅の広さにも、多くの人が驚かされるだろう。東京やソウルと…

『現代日本人の意識構造(第七版)』NHK放送文化研究所【編】(日本放送出版協会)

→紀伊國屋書店で購入 「「社会意識」を計測する困難な試みの最新版」 『現代日本人の意識構造』は、NHK放送文化研究所が1973年から5年おきに実施している調査の報告書であり、これが第七版となる。古くから多くの場所に引用されているので、おなじみかもしれ…

『中国新声代(しんしょんだい)』ふるまいよしこ(集広舎)

→紀伊國屋書店で購入 「多様な中国を、各界の識者の発言から擬似体験する」 本書は、中国に長く住む日本人の著者が、中国では名の知られた多様な分野の識者に行ったインタビュー集である。もともと、今はなき朝日新聞社の「論座」で連載されていたものに、再…

『ナショナリズムの政治学』施光恒・黒宮一太編(ナカニシヤ出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ナショナリズムとリベラリズムの「規範」の交差」 ナショナリズムとは、捉えどころのない概念であり、論者の立場や専門によって定義はころころと変わる。定義が難しいから、たとえば世論調査によって「実証的」に検証しようと試みるの…

『キャッチアップ型工業化論―アジア経済の軌跡と展望』末廣昭(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 「アジアと開発経済学を通して、日本を捉え返す」 ナショナリズムを論じる際、最もよく参照されるのはE.ゲルナーからB.アンダーソン,A.スミスに至る国民論だと思う。その問題関心をごく簡単に言えば、以下のようになるだろう。「階級」…

『現代日本の中小企業』植田浩史(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「中小企業の慣習・政策・認識枠組みの歴史的変遷」 今回は、日本における中小企業とは何かという重要な論点を、統計的データだけでなく、歴史的背景を踏まえた認識枠組みから論じたこの本を取り上げたい。 本書の本格的な記述が始まる…

『現代朝鮮の歴史―世界のなかの朝鮮』カミングス,ブルース(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 「韓国の現代史を大づかみにするために」 社会学者の高原基彰です。今回からこの「書評空間」に私の担当欄を設けて頂けることになりました。 私は、「分かりやすくて内容の薄い本を何十冊速読するより、濃密で有益な情報のつまった本を1…