書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『雑誌の人格』能町みね子(文化出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「雑誌を元にした人格類型論」 とにかく楽しい一冊である。 『装苑』の人気連載が書籍化されたものだが、まえがきにもある通り、その内容は、女性向けの雑誌を中心としながら、その読者像を、著者の「独断と偏見で想像」したも…

『JR崩壊―なぜ連続事故は起こったのか?』梅原淳(角川書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「長期スパンで考えるべき重要な社会問題」 かつて山本七平は、この国の行く末に大きな影響を及ぼすような重要な選択が、しばしばその場の雰囲気(=空気)に流されて決められてきたことを指摘した(『空気の研究』)。 思い返…

『我妻さんは俺のヨメ』原作:蔵石ユウ/漫画:西木田景志(講談社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「再帰的な自己形成という新たな成長物語」 本作品は、講談社の『マガジンSPECIAL』で2011年から連載が開始されたのち、現在は『週刊少年マガジン』で連載中の少年マンガである。 主人公の青山等は、バレー部でも補欠のさえない…

『「親活」の非ススメ―“親というキャリア”の危うさ』児美川孝一郎(徳間書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「親になるのが困難な時代の到来」 成人式が終わり、センター試験も過ぎ、いよいよ大学入試本番に突入すると、まさに本書が扱っているようなテーマを、考えさせられる季節が今年も来たなと実感させられる。 現在の勤務先が大学…

『ナチュラル・ナビゲーション』トリスタン・グーリー(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「世界とのつながりを取り戻す旅」 「旅」の感覚がわからなくなった。いまや行き先を入力するだけで手取り足取りのカーナビや、スマホのアプリが、たいていのところへは連れて行ってくれる。ナビゲーション技術の進歩にはどんな…

『私は写真機』片岡義男(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ホラーは曇りの日に起きる」 小説家で写真を撮る人はほかにもいるが、片岡義男ほど熱心にそれをおこない、かつ成果を写真集にまとめている人は少ないだろう。単著の写真集として10冊目に当たる本書のタイトルにまず目を惹かれ…

『母』三浦綾子(角川文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「無償で無限な母の愛」 以前、なぜか小林多喜二の『蟹工船』がブームとなったことがあった。格差社会が広がり、生活保護を求める人が増え、低所得者にとって辛い世の中になったことが原因であるとの分析も見られた。授業で扱っ…

『フルトヴェングラーを追って』平林直哉(青弓社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「フルトヴェングラーの真の音を求めて」 著者の名前は、Grand Slamのフルトヴェングラーの復刻盤CDで知っていたが、改めて本書(平林直哉著『フルトヴェングラーを追って』青弓社、2014年)を読んで、フルトヴェングラーのCDを…

『新京都学派』柴山 哲也(平凡社新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「学問の世界のフィールドワーク」 京都学派とは、西田幾多郎、田辺元、和辻哲郎など京都帝国大学の哲学科を中心にして集まった哲学者の学風として、昭和初期に生まれた呼称である。戦後になると、桑原武夫に率いられた京都大学…

『ラオス史』マーチン・スチュアート-フォックス著、菊池陽子訳(めこん)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 日本の約3分の2の国土に、わずか632万人(2008年)が居住するラオスに注目するのは、それなりに訳がある。因みに、ラオスは、6億を超す東南アジアのなかでも、シンガポール、ブルネイ、東ティモールを除けば、人口のもっとも少…

『Goodbye to All That : Writers on Loving and Leaving New York』Sari Botton(編集)(Seal Press)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ニューヨークを去っていった作家たちの思い出」 1967年、作家ジョーン・ディディオンは愛するニューヨークを去る気持ちを語ったエッセイ『Goodbye to All That』を書いた。 彼女はニューヨークにいた自分を「stayed too l…

『なぜフランスでは子どもが増えるのか フランス女性のライフスタイル』中島さおり(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「フランスに学ぶ少子化対策」 日本で少子化が問題となってすでに久しい。ところが、同じ経済先発国でもフランスでは子どもが増えている。私も長年フランスに住んでいて、子どもを持つ両親に対する保護政策が功を奏しているのだ…

『渡良瀬』佐伯一麦(岩波書店)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「毒を呑む」 記念すべき本である。仙台在住の佐伯一麦は、このところ大震災とのからみで話題になることが多かった。背景には作風の変化もあるだろう。染織家の妻との結婚生活を描いた作品は葛藤を抱えつつも深い静けさをたたえ…

『反コミュニケーション』奥村隆(弘文堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「よい」コミュニケーションをイメージする功罪」 「私はコミュニケーションが嫌いだ。できれば人と会いたくない。ひとりでいたい。電話もメールもしたくない・・・・」。こんな意外な(あるいは、図星を突いた)言葉で、この…

『近代日本と「高等遊民」』町田 祐一(吉川弘文館)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「近代日本の宿痾」 芥川龍之介の『侏儒の言葉』に「露悪家」「月並み」などとならべて、「高等遊民」が文壇で流通するようになったのは「夏目先生から始まってゐる」とある。しかし、言葉の誕生だけで言えば、漱石が高等遊民と…

『すっぽん心中』戌井昭人(新潮社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「戌井節とは?」 戌井昭人は独特な節回しを持った作家だ。ぱっぱっと投げやりに話を進める語り口には、馴れ馴れしいような、あつかましいような、ぐりぐりと物語を押しつけてくる強引さがあり、それがとても心地良い。かと思う…

『自由論』J・S・ミル(光文社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「改めて「自由」を考える」 J.S.ミル(1806-73)の『自由論』(1859年)の新訳が出ている(斉藤悦則訳、光文社古典新訳文庫、2012年)。後期に一年生向けの少人数ゼミを担当したので、ミルを取り上げることにした。翻訳は数種類…

『カネを積まれても使いたくない日本語』内館牧子(朝日新書413)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「若者言葉と、きちんとした国語と、この二つを使い分けるように教育することが重要であり、必要だと思う。(本書7ページ)」という著者の提言は、まったくその通りだと思う。しかし問題は、いい年をした大人までがこうした言葉…

『海洋境界画定の国際法』村瀬信也・江藤淳一編(東信堂)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「陸は海を支配する」「国際法が主権国家の合意により形成される」ということを、基本に本書は書かれている。この大前提が近代の所産であり、これを変えなければならないと思う。「近代国際法の父」といわれるオランダのグロテ…

『ウィーン楽友協会二〇〇年の輝き』オットー・ビーバ イングリード・フックス(集英社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ウィーン楽友協会の200年」 ウィーン楽友協会といえば、その合唱団を20世紀の名指揮者ヘルベルト・フォン・カラヤンがベートーヴェンの第9などの名曲の録音に起用したことが思い浮かぶが、本書(オットー・ビーバ、イングリー…

『Reporting Vietnam : American Journalism』Library of America(Library of America)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「 ジャーナリストたちが見たベトナム戦争」 アメリカのジャーナリズムを語るのに欠かせないものがある。それはベトナム戦争。60年代から70年代という時代もあったが、戦地に赴いたリポーターたちはそれまでの「アメリカが…

『フィクションの中の記憶喪失』小田中章浩(世界思想社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 記憶喪失や殺人といった非日常的なことが、テレビドラマなどで頻繁に都合よく使われる。現実味の乏しい設定に、うんざりすることもある。そんな記憶喪失も、「虚構の世界、たとえば小説に描かれるようになったのはさほど古いこ…

『対人恐怖』内沼幸雄(講談社現代新書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「羞恥の発掘」 今回の枕の一冊は、”Seeing and Being Seen: Emerging from a Psychic Retreat” (John Steiner, Routledge, 2011) 。防衛の牙城に引き籠る心的事態(Psychic Retreat)の解明に勤しんできたシュタイナーの第二作…

復刊リクエスト募集のご案内

◉ご案内 毎年恒例の〈書物復権〉共同復刊は2014年で18回を数えます。今回は、昨年までの9出版社に歴史書専門出版の吉川弘文館を加え、さらに充実した計139点140冊の復刊候補をそろえることができました。参加各社がそれぞれの長い出版活動の歴史のなかで、再…

復刊候補一覧① 《哲学・思想・言語・宗教》

哲学・思想・言語・宗教 1 岩波書店 デカルトの自然哲学 小林道夫 初版1996・最終版2001年◆B6判◆232頁◆予価2808円(本体2600円) デカルトは敗北したのか──形而上学と自然学からなる「哲学の樹」を解明する。コギトが、その宇宙論的思考のうちでもった意義と…

復刊候補一覧② 《社会》

社会 39 岩波書店 テレビは戦争をどう描いてきたか 映像と記憶のアーカイブス 桜井均 初版2005・最終版2005年◆四六判◆486頁◆予価4536円(本体4200円) テレビはいかにして過去の声をモノローグからポリフォニーへと変えてきたか。現役プロデューサーが半世紀…

復刊候補一覧③ 《歴史・民俗》

歴史・民俗 43 岩波書店 近代天皇制と古都 高木博志 初版2006・最終版2006年◆四六判◆442頁◆予価3564円(本体3300円) 近代天皇制のもとではじめて奈良と京都が「古都」として表象されたのはなぜか。文化的表象形成の深部に働く政治を鋭く抉り出す。 44 岩波…

復刊候補一覧④ 《心理・教育》

心理・教育 84 紀伊國屋書店 ボディ・コード からだの表情 ウォレン・ラム、エリザベス・ウォトソン/小津次郎、大橋洋一、秋山嘉、村上健訳 初版1981・最終版1987年◆四六判◆300頁◆予価3888円(本体3600円) われわれの「談話」の大半は、実際に言葉を発する…

復刊候補一覧⑤ 《文学・芸術》

文学・芸術 92 紀伊國屋書店 幻想芸術 マルセル・ブリヨン/坂崎乙郎訳 初版1968・最終版1992年◆A5判◆498頁◆予価9504円(本体8800円) 暗黒の中世から、破滅に慄く現代までの芸術表現に表れた不安、異常、怪奇のイメージ。諸作品から「幻想」の変容を追い、…

復刊候補一覧⑥ 《法律・経済・政治》

法律・経済・政治 123 岩波書店 モダン・エコノミックス(1) ミクロ経済学 I 奥野正寛、鈴村興太郎 初版1985・最終版2009年◆A5判◆318頁◆予価3888円(本体3600円) モダン・エコノミックス(2) ミクロ経済学 II 初版1988・最終版2009年◆A5判◆448頁◆予価4968…