書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『モノローグジェネレーション』小坂俊史(竹書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「誰もが、「よそ者/観察者化」する中で、織りなされるモノローグの饗宴」 本作は、漫画家小坂俊史のモノローグシリーズの最終作にあたる。前作の『遠野モノがたり』、前々作の『中央モノローグ線』と書評を書かせていただいた…

『神の手』久坂部羊(幻冬舎文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「安楽死は必要か?」 安楽死を見届けた人を二人知っている。一人はご主人の、もう一人は友人の安楽死を経験していた。もちろん合法化されているオランダでの出来事だ。それを話してくれた二人の表情に曇りはなかった。家族や友…

『科学以前の心』中谷宇吉郎(河出文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 今週、わが家では、起き抜けに「怪奇大作戦」が一話ずつ再生された。そのタイトルを、DVDを借りてきた夫の口から聞いたとき、私は「怪奇」ということばの響きに引きずられて、そんなおどろおどろしげなものをわさわざ朝から? …

『反市民の政治学-フィリピンの民主主義と道徳』日下渉(法政大学出版局)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 リピーターが多く、やみつきになる国や地域、社会がある。そんな国のひとつがフィリピンで、著者もその虜になった。「あとがき」で著者は、その理由をつぎのように述べている。「私は、フィリピンをこよなく愛している。いつも…

『ビッグデータ時代のライフログ―ICT社会の”人の記憶”』安岡寛道 編(東洋経済新報社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ライフログはいかに活用されるか=便利でお得で、安心安全な社会は築けるか」 本書は、近年注目を集めつつある「ライフログ」に関する総合的な研究の成果である。ここでいうライフログとは、「人間の行い(Life)をデジタルデ…

『テレビという記憶―テレビ視聴の社会史』萩原滋 編(新曜社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「歴史化されるテレビ」 本書のサブタイトルは、「テレビ視聴の社会史」であり、テレビを歴史的な視点からとらえようとする先鋭的かつ意欲的な論文からなる論文集となっている。 評者は、まずこの、テレビという存在が歴史化さ…

『ぽちゃまに』平間要(白泉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「太めの少女がヒロインのラブコメ少女マンガ」 本作は、「ぽっちゃりな女子校生」本橋紬が、ある一点で「残念なイケメン」と噂される田上幸也に告白され、その後、様々な恋愛模様を繰り広げるラブコメ少女マンガである。そして…

『天安門』リービ英雄(講談社文芸文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「かれ」は何者なのか?」 リービ英雄はアメリカ人だが、長年日本に住んで日本語で作品を書いていることは知っていた。だが、彼が少年期に台湾に住んでいたことは知らなかった。『天安門』は5つの短編が載っている作品集だ。…

『自選 谷川俊太郎詩集』谷川俊太郎(岩波文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「現代詩と匂い」 現代詩の書き手として、谷川俊太郎はおそらくもっとも有名な人だ。ほとんど詩など置いてないような町の本屋さんでも、谷川詩集だけは何冊も置いてある。ふだんは滅多に詩など載らない新聞でも、谷川の詩だけは…

『The Great Gatsby』Scott Fitzgerald(Scribner)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ディカプリオ主演の映画となるアメリカの傑作」 この5月10日にレオナルド・ディカプリオ主演の映画「The Great Gatsby」がアメリカで封切られる。監督はバズ・ラーマン。ディカプリオとクレア・デーンズが共演した「ロミオ…

『ハイエク 「保守」との訣別』楠茂樹 楠美佐子(中央公論新社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ハイエク社会哲学への招待」 ハイエクは現代経済思想史においてケインズとともに最も有名な名前のひとつだが、彼の思想は経済学というよりは社会哲学全般にまで及ぶ広さをもっている。一昔前は、ハイエクよりもケインズのほう…

『充たされざる者』カズオ・イシグロ(ハヤカワepi文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「「充たされない者」は誰か?」 「才能」という言葉が好きではない。これは「才」ある者の真の価値を隠してしまうからだ。あの人は才能があると言った時点で、何か納得してしまい、その人の能力に関しそれ以上考えることをやめ…

『螺旋海岸 notebook』志賀理江子(赤々舎)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「写真の混沌を全身全霊で受けとめる」 この本について書きたいとずっと願っていたが、書き出せなかった。時間がとれないせいではない。この本の内容のためである。自分のなかのあらゆる問いを引き出し、刺激し、考え込ませる。…

『皮膚感覚と人間のこころ』傅田光洋(新潮選書)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ハード・サイエンスの彼岸」 皮膚は気になる存在として、臨床の随(まにま)に立ち現れる。著者が強調するように、発生学上、皮膚は脳や感覚器同様、外胚葉由来の臓器である。脳と皮膚は同郷の好(よしみ)なのだ。しかも、自己意…

『ゲーム理論と共に生きて』鈴木光男(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「ゲーム理論にかけた人生」 ゲーム理論はいまや経済学に限らず他の社会科学や自然科学でも広く使われるようになっているが、本書(『ゲーム理論と共に生きて』ミネルヴァ書房、2013年)の著者(鈴木光男・東京工業大学名誉教授…

『グローバル社会を歩く-かかわりの人間文化学』赤嶺淳編(新泉社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 フィールドワーカーの本音が聞こえてくる。それは、編者の赤嶺淳が執筆者に、「「わたし」という一人称を主語に文章を綴ってほしい」とお願いしたためである。かつてのお行儀のいい研究成果報告ではなく、現地の人びとと苦労や…

書物復権によせて

佐野 衞 [元東京堂書店神保町店店長] 専門書と書店 専門書は刷部数がさほど多くはないので、ベストセラーにはならないし、書店の店頭で新刊台に大量に平積みされるということもない。探求の経過や研究の成果が書物となって出版されるいわゆる専門書の刊行…

あいさつ

2013年、第17回9社共同復刊、多数のリクエストをいただきありがとうございました。2月28日までの期間中に、FAX、紀伊國屋書店内公式サイト、復刊ドットコムの特設サイトで、受けつけたリクエストは総数3,441票と去年より約1割の増加、最多書籍には164票のリ…

〔2013復刊書目〕 哲学・思想・言語・宗教

『ギリシア語文法』高津春繁(岩波書店) →紀伊國屋ウェブストアで購入 初版1960・最終版2010年◆A5判◆496頁◆税込7,875円(本体7,500円) ISBN4-00-000342-9 引例が豊富で、精密なギリシア文法書である本書は、文章論に詳しく、方言も取り入れ、ギリシア文学…

〔2013復刊書目〕 社会

『政治論集1』マックス・ヴェーバー/中村貞二ほか訳(みすず書房) →紀伊國屋ウェブストアで購入 初版1982・最終版1983年◆A5判◆344頁◆税込5,250円(本体5,000円) ISBN978-4-622-01762-2 ヴェーバーによる政治へのあつい関心と冷徹な分析。教授就任講演か…

〔2013復刊書目〕 歴史・民俗

『アフリカの創世神話』阿部年晴(紀伊國屋書店) →紀伊國屋ウェブストアで購入 初版1965・最終版1981年◆四六判◆222頁◆税込2,730円(本体2,600円) ISBN978-4-314-01108-2 ディンカ族、ルグバラ族、ドゴン族……アフリカの諸部族が語り伝えた「創世神話」をも…

〔2013復刊書目〕 文学・芸術

『源氏物語と白楽天』中西進(岩波書店) →紀伊國屋ウェブストアで購入 初版1997・最終版1998年◆A5判◆520頁◆税込8,715円(本体8,300円) ISBN4-00-000643-6 『源氏物語』に引用される白楽天の詩文が、物語の主題や構想とどう関わるのか。物語の展開に沿って…

〔2013復刊書目〕 法律・経済・政治

『現代外交の分析』坂野正高(東京大学出版会) →紀伊國屋ウェブストアで購入 初版1971・最終版1991年◆A5判◆452頁◆税込7,140円(本体6,800円) ISBN978-4-13-030025-4 国家間の複雑な利害を調整するための「外交」が、どのような仕組み、プロセスで行われる…

〔2013復刊書目〕 オンデマンド書目

【オンデマンドとは】 ※書籍の内容をデジタル・データで保存し、注文をいただいた時点で印刷・製本するシステムです。内容はオリジナル本と変わりはありませんが、装丁、外見などが異なります。 ※ご注文の際には、以下の点にご注意ください。 1) 注文による…

読者からのメッセージ

■たまたま紀伊國屋書店のホームページを見たとき<書物復権>を見て興味をもったためリクエストさせてもらいました。私が高校生、大学生、社会人となったときに周りへの視野を広げてみたいと思いこれらの本をリクエストしました。 (14歳・男・学生) ■書名…

『ぼくたちの外国語学部』黒田龍之助(三修社)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「その他の外国語」の話をしよう」 新学期、語学を新しく始めた人も多いだろう。もっとも、「外国語」というと今日も世間は「英語」「英語」と喧しい。猫も杓子もTOEICやTOEFLの点数を気にする世の中では、「その他の外国語」の…

『私の昭和史 ―二・二六事件異聞』末松 太平(中公文庫)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 →紀伊國屋ウェブストアで購入 「昭和史の第一級史料」といわれる末松太平著『私の昭和史──二・二六事件異聞』が先の2月、遂に中公文庫のラインナップに加わった。中公文庫は昭和史資料の採録をテーマの一つとするので、加わるべ…

『Odd Girl Out』Rachel Simmons(Mariner Books)

→紀伊國屋ウェブストアで購入 「アメリカ女子学生のいじめの形」 『Odd Girl Out』はアメリカの10代の女の子がいかにいじめをおこなうかについて書かれた本だ、 著者のレイチェル・シモンズは1996年生まれ。ニューヨーク州にあるバッサー・カレッジ卒…

『フルトヴェングラーと私-ユピテルとの邂逅』ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 「大声楽家、大指揮者を語る」 大指揮者ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886-1954)の名前をタイトルに含む本がどれほどあるか知らないが、私自身が過去に新聞や雑誌に取り上げた本だけでも最低4-5冊はあるはずだから、わが国にもいま…

『MARIO GIACOMELLI - 黒と白の往還の果てに (新装版)』ジャコメッリ,マリオ(青幻舎)

→紀伊國屋書店で購入 「時間の痕跡こそが彼を魅了した」 写真が力を発揮する領域には、大別してふたつある。ひとつは肉眼では見えにくい対象を見せること。もうひとつは時間を停止させて人の記憶や意識に働きかけること。前者の典型は軍事目的で撮られる空撮…