書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-01-01から1ヶ月間の記事一覧

『歌うネアンデルタール』 スティーヴン・ミズン (早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 認知考古学の視点から音楽と言語の起源に切りこんだ画期的的な本である。ルソーは『言語起源論』で「最初の言語は、単純で、方法的である前に歌うような情熱のこもったものだった」とし、言語と音楽は同じ起源から生まれたと述べている…

『心の先史時代』 スティーヴン・ミズン (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 考古学の立場から人類の心の進化に切りこんだ本である。 考古学というと物証絶対主義の学問という印象があるが、1990年代から出土物を通じて先史時代人の知的能力や世界観、認知枠の問題をあつかう認知考古学が勃興した。原著は1996年に…

『心・脳・科学』ジョン・サール(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「サールの古典的な議論」 本書はジョン・サールが心身問題という哲学の古くからの問題について考察した六回の連続講演の記録であり、今回モダン・クラシックとして版が改められたものだ。この書物は二つの部分で構成される。前半の三回…

『ネアンデルタール人の正体』 赤澤威 編 (朝日選書)

→紀伊國屋書店で購入 2004年1月に開かれた『アイデンティティに悩むネアンデルタール――化石人類研究の最前線』というシンポジュウムを活字化した論集で、11人の研究者が参加している。座長で編者の赤澤威氏は1993年にシリア北部のデデリエ洞窟で完全に近いネ…

『明治の音』内藤 高(中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 「西洋人が聴いた日本の文化」 1853年7月、久里浜に上陸したペリー提督に伴って、軍服に身を包んだ軍楽隊が上陸行進の中にいた。このとき日本人たちが初めて眼にした金管楽器や打楽器は、さぞかし煌びやかに映ったであろう。日本初…

『なぜヒトの脳だけが大きくなったのか』 濱田穣 (講談社ブルーバックス)

→紀伊國屋書店で購入 表題の通り、なぜ人類の脳だけが異常に大きくなったのかという切口から書かれた異色の人類進化史である。著者の濱田穣氏は東南アジアをフィールドにサルの身体面の進化を研究している人だそうで、人類(ホモ属)段階の進化だけでなく、…

『フィールドワークの技法――問いを育てる、仮説をきたえる――』佐藤郁哉(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「物語としての質的調査法テキスト」 東京大学大学院(社会学専門分野)に進学した1994年、私はどうやって研究を進めてよいのか分からず、悶々としていました。というのも、そこは「理論社会学の総本山」という雰囲気が濃厚で、後に私が…

『ファミリービジネス論−後発工業化の担い手』末廣昭(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「専門が違うので読まない」、という人がいる。そういう人の書いたものの書評や査読を頼まれる…

『人類進化の700万年』 三井誠 (講談社現代新書)

→紀伊國屋書店で購入 コンパクトにまとめれた人類進化の概説書である。著者は読売新聞の科学記者だけに目配りがよく、しかも最新の情報を集めている。新発見があいついでいる分野だけに、知識が古くなっていたと教えられる箇所がすくなくなかった。本書の発…

『はだかの起源』 島泰三 (木楽舎)

→紀伊國屋書店で購入 人類と他のサルとの一番はっきりした違いは裸だという点である。体毛がうぶ毛にまで退化していて、皮膚が剥きだしになっているのだ。 人間は裸になったために、体温や水分を保ち、皮膚をすり傷や打撲から守るために衣服や住居や火が必要…

『親指はなぜ太いのか』 島泰三 (中公新書)

→紀伊國屋書店で購入 マダガスカル島にアイアイという不思議なサルがいる。どこが不思議かというと、中指だけが異様に細く、針金のようなのだ。 アイアイの中指はなぜ一本だけ細いのか? 謎が解けたのは1984年のことだ。本書の著者、島泰三氏が、それまで昆…

『歴史を知ればもっと面白い韓国映画』川西玲子(ランダムハウス講談社)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](22) あなたは韓国という国を好きですかと聞かれると、なかなかうまく答えられない自分に気づく。好きでもあれば嫌いでもある。いや、そういう答え方では何も言ったことにならない唯一の国が「韓国」ではないか。…

『斬首の光景』ジュリア・クリステヴァ(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「顔の恐怖」 ルーヴル美術館のデッサン部が外部からゲストを招いて企画する展覧会シリーズ「パルティ・プリ」のシリーズの一冊だ。この企画ではすでに盲目にする絵画を扱ったデリダの『亡者の記憶』があり、大型本で贅沢な作りのものら…

『絵本の心理学〜子どもの心を理解するために』佐々木宏子(新曜社)

→紀伊國屋書店で購入 美術大学を卒業するためには四年間の勉強の成果を作品というカタチにまとめることが必要です。武蔵野美術大学には日本画、油絵、彫刻といったファインアート系の学科や工芸、建築、映像、グラフィックスなどのデザイン系など合計11学科…

『日本音楽の再発見』小泉文夫・團伊玖磨(平凡社ライブラリー)

→紀伊國屋書店で購入 「欧米の後を追いすぎる日本」 1983年に急逝した小泉は「伝統音楽」に造詣が深い音楽学者だった。日本はもちろんアジアやアラブ諸国の音楽を詳細に研究し、それまで常識だったクラシック音楽崇拝の風潮に大きな波紋を投げかけた。小泉の…

『スラヴォイ・ジジェク』トニー・マイヤーズ(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 「ジジェクを楽しむためのガイドブック」 ジジェクはたしか一回セミナーでの講演を聞いたことがある。髭の濃い人物が話し始めると、ある種の異様な熱気のようなものが放射されるような印象をうけた。かなり訛が強く、ある一つの母音の発…

『鉄道忌避伝説の謎-汽車が来た町、来なかった町』青木栄一(吉川弘文館)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 「鉄道」と聞いただけでワクワクし、物知り顔に蘊蓄を語る鉄道ファンが、きっとあなたの身近に…

『フロイト 2』ピーター・ゲイ(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「本格的なフロイトの伝記」 この原書が刊行されたのは一九八八年のことで、ぽくも原書はずいぶんと参考にさせてもらった。日本でもやっと読みやすい鈴木晶訳で刊行されたことを祝いたい。少し古くなってきたジョーンズのフロイト伝三巻…

『ハワイ音楽パラダイス』山内雄喜・サンディー(北沢図書出版)

→紀伊國屋書店で購入 「ハワイの風が吹く本」 ハワイに一度でも行った人は、あの島に吹く不思議にやさしい心地よい風を覚えているだろう。まさにあの風がこの本の中に吹いている。 この本は、ハワイ音楽のエキスパートでスラックギター奏者の山内と、フラダ…

『ヴァーチャルとは何か?: デジタル時代におけるリアリティ』ピエール・レヴィ(昭和堂)

→紀伊國屋書店で購入 「人間の文化のヴァーチャル性」 ヴァーチャルという語は、仮想の、虚像のという意味に使われることが多い。ヴァーチャルな体験とは、実際にぼくたちが生身で経験したわけではないのに、あたかも経験したように感じる体験のことだ。もし…

『森のうた』岩城宏之(講談社文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「忘れかけていた青春をイヤという程思い出させられた」 岩城宏之と山本直純という二人の指揮者が過ごしたハチャメチャで、だけどかけがえのない学生時代を岩城さん自身が回想して書いた本である。そこには、青春というひとことではかた…

『アンコールの近代-植民地カンボジアにおける文化と政治』笹川秀夫(中央公論新社)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 本書を読んで、まず考えさせられたのは、文化遺産はなにに帰属するのだろうか、ということだっ…