書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2006-12-01から1ヶ月間の記事一覧

『批評と真実』 ロラン・バルト (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 本書は20世紀フランス批評の分水嶺となったヌーヴェル・クリティック論争の渦中に書かれた本であり、現代批評を切り開いた一冊といっていい。 ヌーヴェル・クリティック論争とは何か? 実存主義の流行がおさまった1950年代後半から、文…

『ラシーヌ論』 ロラン・バルト (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 ロラン・バルトの本を一冊あげろといわれたら『ミシュレ』か『ラシーヌ論』を選ぶと思う。どちらを選ぶかはその日の体調による。めげている日は『ミシュレ』、元気のある日は『ラシーヌ論』だ。 バルトを読みこんでいる人ならどちらも初…

『サド、フーリエ、ロヨラ』 ロラン・バルト (みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 ちょっと大袈裟なことをいうと、本書はわたしにとって青春の書である。学生時代に読んでガーンとやられてしまい、その後、英訳で読み、気にいったところだけだがフランス語で読み、多くのものを学んだと思っている。 しかし、青春の書な…

『霊操』 イグナティウス・デ・ロヨラ (岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 イエズス会の創始者、イグナティウス・デ・ロヨラが後進の指導のためにまとめた瞑想の指導書である。カトリックにはこれだけ具体的・組織的に書かれた本が他にないので、イエズス会以外の修道会や一般信徒も本書を使って瞑想しているそ…

『十二支のお節料理』川端誠(BL出版)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 年末の、それはそれはあわただしい時期。 大掃除、食材の調達、帰省の準備、あぁ、年賀状は・・・ あれ?ちょっと待って。あわただしいのは、大人だけ。 子どもたちにはいつもの時間が流れている。 ごめんごめん。…

『悲しい本』マイケル・ローゼン作、クェンティン・ブレイク絵(谷川俊太郎訳)(あかね書房)

→紀伊國屋書店で購入 「物語の両義性」 東京に出張したとき、空き時間に絵本売り場をうろうろしていると、子供向けの絵本としてはちょっと変わった本を見つけました。この本は、単に死別という避けられがちなテーマをストレートに扱っています。 主人公は、…

『愛の新世界』 シャルル・フーリエ (作品社)

→紀伊國屋書店で購入 「空想的社会主義」という言葉がある。マルクス主義を差別化するために作られた言葉で、他の社会主義が「空想的」(原語ではユートピア的)なのに対し、マルクス主義は「科学的」だというのである。 自分の思想がエセ科学なのをさしおい…

『ソドムの百二十日』 サド侯爵 (青土社)

→紀伊國屋書店で購入 サドの未完の大作で、四人の道楽者(リベルタン)がそれぞれの妻と、選りすぐりの美少女8人、美少年8人、海千山千の娼婦あがりの語り女4人、巨根が売りの馬蔵4人をともなって山奥の城に閉じこもり、11月1日から2月28日までの4ヶ月間、あ…

『ソフィストとは誰か?』納富信留(人文書院)

→紀伊國屋書店で購入 「反哲学者、ソフィスト」 ソフィストという呼び名は、軽蔑的に使われることが多い。ギリシアで誕生した頃からすでにそうだったようにもみえる。もともとは知者(ソフィステース)という褒め言葉であったはずなのに、ソクラテスとプラト…

『渋谷』藤原新也(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 「死んでもええやん!」渋谷にたむろする少女たち 過日わが国におけるドイツ文学研究の大御所であられる某先生と、音楽の話を交えながら酒を酌み交わす機会に恵まれた。その席には他のお歴々もおられ、楽しい一時だった。私にとってラッ…

『お父さんはやっていない』矢田部孝司 矢田部あつ子(太田書房)

→紀伊國屋書店で購入 「この人、痴漢です。」という一言がすべてを変えてしまう。今まで築いてきた名誉、信用、家庭、すべてにその一言が亀裂を入れてしまうのである。 「お父さんはやっていない」は、通勤途中で痴漢冤罪に会った人間が無実を証明するまでの…

『ダール、デモクラシーを語る』ロバート・ダール(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「デモクラシーの可能性と不可能性」 ロバート・ダールはアメリカの政治哲学者で、デモクラシーの理論の専門家といっていいだろう。ぼくがこれまで読んだのは『ポリアーキー』の一冊で、すっかり過去の人かと思っていたが、今回イタリア…

『夢に日付を!~夢実現の手帳術~』渡邉美樹(あさ出版)

→紀伊國屋書店で購入 著者は、居食屋「和民」チェーン店をはじめとするワタミグループを作り上げた今をときめく実業家である。著者の主張は、タイトルに端的に要約されている。すなわち、夢を、漠然としたものではなく、いつまでに実現するという期限付きで…

『翻訳教室』柴田元幸(新書館)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 数年前に、もう英語の論文は書かないと決めた。時間がかかるわりにうまく書けないからで、時間…

『サイード自身が語るサイード』エドワード・サイード、 タリク・アリ(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 「知識人の三つの顔」 サイードが親しい友人のタリク・アリと交わした対話の記録。一九九四年にドキュメンタリー番組として放映されたものの「元版」である。まだ病もそれほど重くない時期に、親しい友人とかわしたうちとけた対談だけに…

『ペール・ギュント』ヘンリック・イプセン[作]/毛利三彌[訳](論創社)

→紀伊國屋書店で購入 「劇評家の作業日誌(21)」 演劇や文学にあまり知識がなくとも、イプセンの名前を知らない日本人は、きわめて少ないだろう。イプセンはチェーホフと並んで、シェイクスピアの次に日本に翻訳された劇作家であり、明治以降の歴史の教科書…

『アメリカ人であるとはどういうことか 』M.ウォルツァー(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「共同体形成の稀有な実験」 アメリカという国はユニークな国だ。訳者は一組ずつの動物を選びだして乗せたノアの箱船をイメージしているが、アメリカに移民として訪れた人は、だれもが希望してもとのアイデンティティを放棄して、アメリ…

『海峡を渡るバイオリン』陳昌鉉(鬼塚忠・岡山徹聞き書き)(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 フジテレビ開局45周年記念企画として草彅剛の主演で2004年にテレビドラマ化されたので、それをご覧になった方も多いだろう。原著を構成した鬼塚と岡山の語り口は秀逸で、読み始めたらそのまま最後のページまで一気に読ませてしまう勢い…

『近代日本と戦死者祭祀』今井昭彦(東洋書林)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 研究蓄積の少ない東南アジア史の本を読んで、連続してため息が出ただけに、本書は安心して読む…

『アドルノの場所』細見和之(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 講談社の『現代思想の冒険者たち』シリーズで『アドルノ』を著している著者によるアドルノ論集である。この著書を読むと、改めてアドルノにおけるベンヤミンの影の強さを実感せざるをえない。とくにそれが顕著に感じられるのは、第一論…

『子育ての変貌と次世代育成支援』原田正文(名古屋大学出版会)

→紀伊國屋書店で購入 →紀伊國屋書店で購入 子育て支援にかかわる人の必携の書。と、勝手に思っている。 このごろでは行政の職員研修などにもよんでいただく機会が増えたので、せっせと紹介している。 子育て支援の担当者や専門家は、ちゃんと購入して活用す…

『どっちがへん?』岩井俊雄(紀伊國屋書店)

→紀伊國屋書店で購入 何が一番気に入ったかって、 どっちがへんかを聞いてくれるところ。 だって、いつもどっちが正しいかを聞かれて生きてるじゃない、私たちって。 変なほうを答えて当たり~! ってできるのは、本当に楽しい。 子どもたちはげらげら笑って…