書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

岡嶋裕史

『太陽の塔』森見 登美彦(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 今日はある講義の年内最終日。人が少なかった。昨年は「あいのりスペシャルと時間がバッティングしたのでしかたがないな」と自分を慰めたのだが、今年はそんなめぼしい番組もない。単に人気がないだけである。さみしい。さみしいときに…

『愛人(ラマン)』Marguerite Duras(河出書房新社)

→紀伊國屋書店で購入 もう少しすると就職活動の季節である。もちろん2009年入社の人たちの話である。 私が修士課程にいたときも、1年次の年明け早々には就職活動が始まって、周囲の人に「早いねえ」と言われた覚えがあるが、スケジュールの早期化にはまった…

『羽生善治の終盤術〈3〉堅さをくずす本』羽生善治(浅川書房)

→紀伊國屋書店で購入 削るのは難しい。 何の話か。原稿の話である。今、校正している原稿があり、ざくざくと削らなければならないのだ。 もともとものを書くのが好きなので、「追加で××ページ書く」という仕事はあまり苦にならない。下手をすると楽しいこと…

『アースダイバー』中沢 新一(講談社)

→紀伊國屋書店で購入 中沢先生は修士課程を受験した際の副面接官だった。僕はあまり宗教学には興味がなかったので、いや実は興味はあったのだが難解で歯が立たなかったので、中沢先生と個人的な接点はなかった。せいぜい、格好をつけるために何回か旧約聖書…

『犬はどこだ』米澤 穂信(東京創元社)

→紀伊國屋書店で購入 私語というのは難しいものである。 自分が学生の頃のことを鑑みると、あんまり偉そうなことは言えない。なので、大学で講義をするようになってからしばらくの間は、私語があっても放っておいた。 しかし、これが意外に評判が悪かったの…

『疎結合―Web Serviceの残された課題』Doug Kaye(新紀元社)

→紀伊國屋書店で購入 ここ数ヶ月、Web2.0についての書籍が売上を伸ばしている。もちろん、IT分野に興味のある方であれば、Web2.0という言葉は1年以上前から耳にしていたはずだ。だが、リアルな出版物のタイトルにまでそれが使われ始めたのは、Web2.0がバズワ…

『FINAL FANTASY IXアルティマニア』Studio BentStuff(スクウェア・エニックス)

→紀伊國屋書店で購入 出る。ついにあれが。オフィシャルアナウンスから1年以上、体感的にはもう3年は待たされている気がする、あれだ。 FF12。 媒体がROMからCD、DVDに遷移して以降、発売日の前々日から店頭に並ぶ必要はなくなった。今でも開店前から蓙を敷…

『こんにちはマイコン』すがやみつる(小学館)

→紀伊國屋書店で購入 私がこの業界に足を踏み入れるきっかけになった本である。内容はよくあるハウツーものだが、80年代において小学生向けにマイコン(この言葉自体が泣かせる..)の書籍を出版しようと考えた小学館の蛮勇には頭が下がる。当時、コロコロ…

『アイルトン・セナ 最速のドライビングテクニック』アイルトン・セナ(三栄書房)

→紀伊國屋書店で購入 アイルトン・セナがイモラに散ってから、もう10年以上が経つ。F1の代名詞であった不世出の天才も、若いF1ファンには過去のドライバーとして映るだけになってきた。 私にとってセナは特別なドライバーだった。もちろん、感受性の豊かな時…

『FM‐7 FM‐8 はるみのゲーム・ライブラリー』高橋はるみ(ナツメ社)

→紀伊國屋書店で購入 プログラミングが大好きだった。10歳の時にNECのPC-6001を手に入れて以来、小・中学校時代の生活のテーマは常に「いかにプログラミングの時間を確保するか」だった。先生に怒られて時間を無駄にするほど悪くもなく、かといってクラス委…

『サキ短編集』サキ(新潮文庫)

→紀伊國屋書店で購入 クリスマスソングが流れる頃になると、仮想世界にばかりも没入していられなくなる。何せ、仮想メディアにまでクリスマス情報が氾濫し始めるのだ。オンラインゲームをしている時にまで、「クリスマスの予定はもう決まりましたか?」とい…

『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「九マイルは遠すぎる、ましてや雨の中ともなれば」 このフレーズからいったいどれだけの思索を導き出すことができるだろうか。 ミステリに登場する探偵役はいくつかの類型に分類することができる。マッチョもいるし、変人もいる。数多…

『失敗の本質』野中 郁次郎 ほか(中公文庫)

→紀伊國屋書店で購入 あまりにも有名な書籍なので、このブログの趣旨からは外れてしまうのではないかと思ったのだが、出版後20年を経過したこと、続編が市場に投入されたこともあり、取り上げてみた。 研究のドメインとしては、とてもオーソドックスな組織論…

『マヴァール年代記(全)』田中 芳樹(創元推理文庫)

→紀伊國屋書店で購入 あまりにも有名な田中芳樹の作品であるが、一般的にはどのシリーズを最初に手に取るのであろう? 私の場合は、大学で政治学の講義を取っていたとき「政治を理解したければ、『銀河英雄伝説』か『ゴルゴ13』を読まなければだめだ」と言わ…

『コンピュータには何ができないか―哲学的人工知能批判』Hubert L. Dreyfus(産業図書)

→紀伊國屋書店で購入 「できることの範囲に含まれないこと」=「できないこと」は必ずしも正しい認識ではない。エンジニアは、それがシーズからニーズを作り出すのであれ、その逆であれ、「できること」に着眼して発想する。開発現場で「できないこと」を主…

『グッドラック―戦闘妖精・雪風』神林 長平(早川書房)

→紀伊國屋書店で購入 「人と機械の関係を考える」というと、バイオテクノロジにおける倫理ドクトリンやドイツ観念論哲学のように堅い話を想像してしまう。コンピュータテクノロジに関わる人間としては、「いつかはちゃんと考えなくちゃ」と思いつつ、「辛い…

『複雑な世界、単純な法則』(草思社)

→紀伊國屋書店で購入 「知り合いの知り合いをたどっていくと、6ステップで世界中のどの人とも繋がる」という考え方をご存じだろうか。これを聞くと「そんなばかな」と思う人がほとんどである。6人分の知り合いをたどっていったら伊東美咲やチャン・ツィイー…

『統計でウソをつく法 』ダレル・ハフ・高木秀玄 (講談社 )

→紀伊國屋書店で購入 ネットワークエンジニアは統計情報をよく扱う。ネットワークに限らず、エンジニアはコンピュータと対話しなければならないが、先方は人間の言葉はしゃべれないため、大量のログという形で情報を下達してくる。「ログを大事にしなきゃい…

『ニューメリカルレシピ・イン・シー 日本語版—C言語による数値計算のレシピ 』(技術評論社)

→紀伊國屋書店で購入 数値計算といえば、Fortranですよね!という研究者はまたまだ多い。しかし、Fortranという言語自体の生息例・目撃例が減少していることは周知の事実である。研究者であればまだよい。暇と研究費にものを言わせてどこからでもブツを取り…

『デジタル社会の編成原理-国家・市場・NPO 』(NTT出版)

→紀伊國屋書店で購入 ネットワークはその上でサービスが稼働してはじめてユーザに利用してもらえる。通信が繋がっただけで欣喜雀躍できるのは、パソコンおたくとネットワーク屋だけである。それをベースにWebやメールのシステムが稼働し、そこにお客さんがつ…

『新Perlの国へようこそ』斎藤靖(サイエンス社)

→紀伊國屋書店で購入 Perlといえば軽量スクリプト言語の雄である(最近はあまり軽量ではない)。ちょっとしたCGIを作るのに最適だし、多機能化された現在の実装であれば業務システムだって書けないことはない。しかし、Perlを本格的に学ぼうとすると意外に機…

『伽藍とバザール—オープンソース・ソフトLinuxマニフェスト 』レイモンド,エリック・スティーブン(光芒社 )

→紀伊國屋書店で購入 インターネット上で何らかの業務を行う場合、いや個人の趣味の範囲内でインターネットを利用する場合でも、今や著作権関連のさまざまな知識で武装しておく必要がある。下手に知的財産権を侵害しようものなら、いつ何時訴えられるか分か…

『欺術—史上最強のハッカーが明かす禁断の技法 』ミトニック,ケビン/サイモン,ウィリアム(ソフトバンクパブリッシング)

→紀伊國屋書店で購入 比較的新しい書籍で、しかもかなり売れたので、ここで敢えて紹介する必要はないのかも知れない。しかし、「おれおれ詐欺」(最近の手口と実態に齟齬が生じてしまったので、警察庁は名称を変更するようだ)などが相変わらずはびこってい…

『NPMによる行政革命—経営改革モデルの構築と実践 』大住 荘四郎(日本評論社)

→紀伊國屋書店で購入 「せっかくITを導入したのに、いまひとつ効果のほどが分からない」と悩んでいる人はすごく多い。大抵の企業の社長さんはそう考えているし、官僚も同様だ。これから増税が始まると言われている時期に、延べ何兆円も突っ込んできた行政シ…

『ハッカー認定試験—3級合格標準問題 』日本セキュリティ学院【編】(データハウス ()

→紀伊國屋書店で購入最近、セキュリティ、セキュリティと喧しい。2005年4月には個人情報保護法の完全施行もある。今どきのセキュリティ担当者は過大なストレスを溜め込んで引きこもりになりそうな勢いである。いつも攻撃される立場では精神衛生によくないの…

『1冊でわかる暗号理論 』パイパー,フレッド/マーフィ,ショーン(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 暗号理論をきちんと学ぼうとすると、数学を避けて通ることはできない ~ と、ここまで聞いて暗号の勉強をやめにしてしまう人がほどんどである。結局暗号の概説書は、数式を書かないようにして(書くと売れないから)上っ面だけをなでて…

『データベースの設計 』ティオリー,トビー・J.(勁草書房)

→紀伊國屋書店で購入 ITエンジニアには1つの経験則がある。すなわち、「データベースエンジニアはネットワークが嫌いで、ネットワークエンジニアはデータベースが大嫌いだ」というものである。かくいう筆者もデータベースとはできればお付き合いしたくないの…

『待ち行列理論 』大石進一(コロナ社)

→紀伊國屋書店で購入 ネットワークの性能を見積もるために、待ち行列は避けて通ることのできない理論体系である。しかし、ポアソン分布、アーランB式、呼損率などを前に討ち死にする人が後を絶たない。特にネットワークエンジニアの一大イベントである10月第…

『オブジェクト指向への招待—思考表現のための新しい方法 』春木良且 (近代科学社)

→紀伊國屋書店で購入 オブジェクト指向とは1つの思想である。オブジェクト指向プログラミングを学んでいる人で、この点を勘違いされている方は多い。例えば、C++やJavaは確かにオブジェクト指向プログラミング言語であり、オブジェクト指向の発想をプログラ…

『Solarisシステム管理 』城谷洋司(アスキー)

→紀伊國屋書店で購入商用UNIXとして巨大な成功を収めるSunMicrosystemsのSolaris。本書はSolarisのすべてが分かるリファレンスの決定版である。製本技術者を挑発するようなページ数とあまりの情報量に裏技大全集的な色合いすらある。Solarisは基幹システム向…