書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2007-03-01から1ヶ月間の記事一覧

『言語類型の起源と系譜』 近藤健二 (松柏社)

→紀伊國屋書店で購入 著者の近藤健二は古英語関係の著作のある言語学者だが、本書は言語の古層に測深鉛をおろし、アジア太平洋諸語の底流をさぐろうという壮大な試みである。 近藤が探求の手がかりとするのは能格言語だが、一般にはなじみがないと思われるの…

『言語のレシピ』 ベイカー (岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 明治以来、日本人は日本語を特殊な言語と思いこんできたが、日本語が特殊だというのは欧米の言語や中国語と比較するからであって、世界的に見れば決して特殊というわけではない。 本書は文の作り方という視点からまとめた言語類型論だが…

『英語にも主語はなかった―日本語文法から言語千年史へ』 金谷武洋 (講談社叢書メチエ)

→紀伊國屋書店で購入 金谷武洋は三上文法を発展させて主語否定三部作を発表したが、本書は『日本語に主語はいらない』(叢書メチエ)、『日本語文法の謎を解く』(ちくま新書)につづく三作目で、おそらくもっとも重要な著作である。前二作では英文法引き写…

『主語を抹殺した男―評伝三上章』 金谷武洋 (講談社)

→紀伊國屋書店で購入 刊行から半世紀たった現在でも版を重ねている『象は鼻が長い』を書いた三上章の評伝である。 著者の金谷武洋はカナダのモントリオール大学で20年以上日本語を教えている言語学者で、日本語教育という実際上の必要に迫られて三上文法に関…

『物語 マニラの歴史』ニック・ホアキン著、宮本靖介監訳、橋本信彦・澤田公伸訳(明石書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 こういう本を、どう評価していいのかわからなかった。だから、某新聞社から書評を頼まれたとき…

『わたしは血』ヤン・ファーブル著、宇野邦一訳(書肆山田)

→紀伊國屋書店で購入 [劇評家の作業日誌](24) 胸倉を鷲づかみにされ、激しく殴打されるような感覚に襲われた。甲冑を身にまとった男たちとウェディングドレスに包まれた女性たち。だが彼(女)らは耽美的に舞台にいるわけではなかった。拷問に近い肉体の酷…

『日本人の忘れもの』中西進(ウェッジ)

→紀伊國屋書店で購入 WEDGEという月刊誌をご存じだろうか。東京近辺を中心に販売されている月刊の経済誌だ。JRの子会社が出版している。JR東海系の駅の売店には必ず置いてあるし、最近は私鉄の売店でも見かけるようになった。しかしJR東日本の駅のキオスクで…

『これでいいのか市民意識調査――大阪府44市町村の実態が語る課題と展望――』大谷信介編著(ミネルヴァ書房)

→紀伊國屋書店で購入 「社会調査の質と目的」 「社会学って何?」という疑問に対する一つの答えになるのが「社会調査」です。アンケートやインタヴューのことだと言えば、ほとんどの人がイメージできるでしょう。社会調査は、社会学の専売特許ではありません…

『戦争の記憶を歩く 東南アジアのいま』早瀬晋三(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書評は、早瀬晋三著『歴史空間としての海域を歩く』または『未来と対話する歴史』(ともに法政大学出版局、2008年)に所収されています。 本書は、以下にシラバスを掲載するように、大阪市立大学全学共通科目、総合教育科目A、主題「…

『人生のほんとう』池田晶子(トランスビュー)

→紀伊國屋書店で購入 間に合わなかった。 池田晶子さんが亡くなった、ということを、たった今、知った。 池田さんの言葉は、とても優しくココロにしみるのだけれど、本当にていねいに、ゆっくり読まないと 私には難しかった。うかつに「読んでいます」なんて…