書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『フィギュールⅡ』 ジェラール・ジュネット (書肆風の薔薇)

→紀伊國屋書店で購入 1969年に刊行されたジュネットの第二評論集である。『フィギュールⅠ』から3年しかたっていないが、方向性がずいぶん違っている。Ⅰでは18編中12編が作品論・作家論で、6編が批評論だったが、Ⅱでは比率が逆転し作品論・作家論は10編中3編…

『起業のファイナンス ベンチャーにとって一番大切なこと』磯崎哲也(日本実業出版社)

→紀伊國屋書店で購入 「気合いのはいった失業者に一番必要な書籍」 本書を読んで、起業するときに必要な知識・常識がやっと分かった!! 著者の磯崎哲也氏は、公認会計士であり、日本のベンチャー起業家を財政面で支えてきたプロ。ビジネスやファンナンスを…

『災害ボランティアの心構え』村井雅清(ソフトバンク新書)

→紀伊國屋書店で購入 「ボランティアの背中を押してくれる良書」 いい新書だと思った。 新書ブームの昨今、新しい事象に関する手短な分析を手軽に読むことの恩恵をこうむってきたのも確かだが、安直な著作の多さにうんざりしかけてもいた。 だが本書は、まさ…

『必要か、リニア新幹線』橋山禮治郎(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「今、求められるべき思考法を教えてくれる良書~リスク社会論の実用的な好例として」 いい本に出会ったと思った。論ずべきテーマについて、今まさに求められるべきスタンスから論じている良書だと思った。 昨今、ワンショットのテーマ…

ジンピクフェア 中間売り上げ発表

どうも。ピクウィック・クラブです。 今回も人文書宣言×ピクウィックフェア、通称ジンピクについて紹介していきたいと思います。 早いもので今年も既に半分が経過してしまいました。 6月はじめより開催しておりますジンピクフェアも無事一ヶ月を迎え、先週発…

『手招くフリーク 文化と表現の障害学』倉本智明 編集(生活書院)

→紀伊國屋書店で購入 「アルビノの「美」は本当に発見できたのか。」 障害者を巡る言説について障害学の立場からアプローチした論文・批評集である。ここでいう障害学とは、障害者をめぐる社会現象を、障害者という当事者の立場から研究しようという学問的な…

『鉄道と日本軍』竹内正浩(ちくま新書)

→紀伊國屋書店で購入 「鉄道は国家なり」 学問上の恩師とも言うべき人にこう言われたことがある。「社会(科)学を学ぶものは、一度は軍隊と戦史について学んでおくべきだ。なぜなら、軍隊は合理的な近代組織の一つの典型であり、戦史はその実地における活動…

『フィギュールⅠ』 ジェラール・ジュネット (書肆風の薔薇)

→紀伊國屋書店で購入 フランスの批評家は自らの批評原理をあらわす言葉を評論集の総題にすることがすくなくない。ヴァレリーの『ヴァリエテ』、サルトルの『シチュアシオン』、バルトの『エッセ・クリティック』などである。ジュネットが自分の評論集のタイ…

『「モノと女」の戦後史―身体性・家庭性・社会性を軸に』天野正子・桜井厚(有信堂高文社)

→紀伊國屋書店で購入 「ジェンダーを「立体視」する先駆的試み」 ある時期、ジェンダー論とはなんてつまらない学問なのだろうかと思っていたことがある。自分が浅学であることも大きいが、その内容が、とても平板に感じられたのだ。 例えば、「男は仕事、女…

『ザ・ママの研究』信田さよ子(理論社)

→紀伊國屋書店で購入 先日観た映画〈ブラック・スワン〉は、「白鳥の湖」の主役に抜擢されたバレリーナが、そのプレッシャーに絶えかねて破滅してゆくさまを描いたスリラー。世代交代の波に押しやられた前・プリマの絶望、配役をめぐってのバレエ団員同士の…

『A Singular Woman : The Untold Story of Barack Obama’s Mother 』Janny Scott(Riverhead Books)

→紀伊國屋書店で購入 「オバマ大統領の母親の伝記」 海外で子供を育てることにはいろいろな悩みがつきものだ。言葉の教育をどうするか、その子の子供時代の生活場所を最終的にどこにするか、自分の仕事と子供の暮らしに矛盾がでてきてしまった場合、どちらを…

『フィクションとディクション―ジャンル・物語論・文体』 ジェラール・ジュネット (水声社)

→紀伊國屋書店で購入 本書はジュネットがテクスト論三部作の後、1991年に出した文学論集である。表題にある「フィクション」とはもちろん虚構のことだが、「ディクション」diction とは語り方、言葉づかい、措辞をあらわす普通名詞である。 『虚構と語り方』…

『秘花』瀬戸内寂聴(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「恋は秘すれば花」 瀬戸内寂聴の『秘花』は、何とも艶な作品だ。観阿弥、世阿弥親子の名前は、能楽の完成者として教科書にも必ず出てくるので、能のフアンでなくとも聞き覚えのある人が殆どだろう。だが、現在能は歌舞伎ほど人口に膾炙…

『インドネシアと日本-桐島正也回想録』倉沢愛子(論創社)

→紀伊國屋書店で購入 1960年代のインドネシアと日本との関係といえば、賠償ビジネスをめぐって汚職の噂が飛びかい、かかわった人びとが謎の死を遂げたり、心身に異常をきたしたりしたことが語られ、深田祐介の小説『神鷲(ガルーダ)商人』(新潮社、1986年…

『スイユ―テクストから書物へ』 ジェラール・ジュネット (水声社)

→紀伊國屋書店で購入 ミシェル・ビュトールはどこでだったか、作品はタイトルと本文という二つの要素からできていると語っている。ほとんどの場合、われわれは本文より先にタイトルでその作品を知るわけだし、タイトルいかんによって本文の意味がまったく変…

『パランプセスト―第二次の文学』 ジェラール・ジュネット (水声社)

→紀伊國屋書店で購入 『アルシテクスト序説』にはじまるテクスト論三部作の第二作で、文学テクストの相互関係を論じている。ジュネットは文学テクストの関係を五つの類型に分類している。 1 相互テクスト性(intertextualité)引用、剽窃、暗示のように他のテ…

『力道山をめぐる体験――プロレスから見るメディアと社会』小林正幸(風塵社)

→紀伊國屋書店で購入 「力道山をめぐるイメージはいかに構築されたのか」 力道山をめぐる体験―。力道山が行った生涯最後の試合は、テレビ放送が始まって10年が経過した1963年の12月7日だった。ちなみにその後15日に暴漢に刺された傷がもとで死去している。 …

ジンピクフェア 第3週経過!

こんばんは。ピクウィック・クラブです。 只今開催中の人文書宣言×ピクウィック・クラブフェア、通称ジンピクフェアも第三週目に突入いたしました。さっそく作家紹介に移りたいと思いますが今回はその前に重大発表があります。 ジンピクフェア、会期延長! 7…

『ジョルジョ・モランディ ― 人と芸術』岡田温司(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「モランディを観るための人」 絵画を前にすると、人は多弁になる。〝寡黙〟な作品ほどそうかもしれない。自分から前へ前へと出て行くような、派手で押しの強い作風のものなら放っておいてもいいのだが、いつまでも後ろに引っ込んでいて…

『ミャンマー概説』伊東利勝編(めこん)

→紀伊國屋書店で購入 画期的な本である。いままで靄がかかってすっきりしなかったミャンマーが、ところどころ一気に澄み渡ってくっきり見えるようになった感じがした。まず、数々の苦悩の末に「強権的に介入」をして、1冊にまとめた編者の伊東利勝に、お礼を…

『親愛なるキティーたちへ』小林エリカ(リトルモア)

→紀伊國屋書店で購入 「これから生まれ来るキティーたちに向けて」 この本は旅をする。2009年の東京から、1945年を経て、1929年のフランクフルトと弘前へと。その旅の途中で訪れる場所と時間は、さまざまに交錯しながら、現在のわたしたちへと繋がっている。…

『Hooking Up 』Tom Wolfe(Farrar Straus & Giroux)

→紀伊國屋書店で購入 「子供の喧嘩のようなトム・ウルフの作品」 アメリカの作家トム・ウルフ が小説『Man in full』を出したのは1998年11月だった。出版元のファーラ・ストラウス&ジローは『Man in Full』の初版を120万部とすると発表した。 注目を集めた…

『仕事がない! 求職中36人の叫び』増田明利(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「失業したときこそ、失業ノンフィクションを読もう!」 先日、失業した。45歳の中年。妻1人、子ども2人(2歳児とゼロ歳児)。こういうときこそ、失業ノンフィクションを読むときだ。 本書のタイトルは「仕事がない!」。ストレー…

『3.11 絆のメッセージ』被災地復興支援プロジェクト(東京書籍)

→紀伊國屋書店で購入 「被災地から遠い「私」と「あなた」が、被災地とつながるために」 東日本大震災から3ヶ月。震災と原発の書籍が書店の店頭に並んでいる。震災と原発というテーマは、311前には「売れない」とされて、出版店数が少なかった。天災は忘…

『平行植物(新装版)』レオ・レオーニ 著、宮本淳 訳(工作舎)

→紀伊國屋書店で購入 「活版本の楽しみ方」 久々に「印刷買い」をした。このブログで最初に書いた『池田学画集1』以来だから、ほぼ半年ぶりだ。 書店で平積みになっている『平行植物(新装版)』のジャケットを見たとき、タイトル文字がギザギザした輪郭だっ…

『キミは知らない』大崎 梢(幻冬舎)

→紀伊國屋書店で購入 小学校の頃はほんとにテレビにワクワクした。 もちろん特撮シリーズやアニメが中心だったのだが、今もイメージだけが妙にくっきりと心に残る番組にNHKの『少年ドラマシリーズ』がある。平日の夕方6時台、30分に満たない枠で2週間…

人文書宣言×ピクウィック合同フェア(通称ジンピク) 第2週経過!

こんにちは。紀伊國屋書店新宿本店5階で絶賛開催中の「ジンピク」こと人文書宣言×ピクウィック合同フェア『小説と思考の繋留――〝気づき〟の先を想像する』ですが、今日は作家紹介の第二回として、J.G.バラードと阿部和重を紹介させていただきます。 ジェー…

『ふたすじ道・馬 他三編』長谷川如是閑(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 明治二九年、二十一歳の如是閑が初めて書いたという小説「ふたすじ道」をはじめ、「お猿の番人になるまで」「馬」「象やの粂さん」「叔母さん」の五編を収録。 スリの少年、元軍人、露天商の男など、市井の人々を描いた四編とは異なり、…

『高橋悠治 対談選』小沼純一編(ちくま学芸文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「希望は自分で作り出すもの」 『高橋悠治対談選』は面白く刺激的だ。作曲家、作家、研究者等との対談なのだが、実に見事に高橋の姿が立ち上がってくる。約450ページと、文庫本としては厚い方だが、一気に読ませてくれる。何がそんなに…

『AQUIRAX CONTACT ぼくが誘惑された表現者たち』宇野亞喜良(ワイズ出版)

→紀伊國屋書店で購入 文庫本大の箱のなかに、リアルな極小の世界を作り出す桑原弘明。正確さの極みが、薔薇という対象への特別な愛を醸し出す豊永ゆきの植物画。シュルレアリスムというイズムを超えて、軽やかな即物性と偶然性を放つ勝本みつるのオブジェ。…