書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

『新日本人の起源』 崎谷満 (勉誠社)

→紀伊國屋書店で購入 著者の崎谷氏はもとはウィルス学が専門ということだが、日本人の成り立ちをさぐるために、分子遺伝学、人類学、言語学までを射程におさめ、京都大学の伝統である学際的なとりくみをおこなっている研究者である。本書も第一章はDNA、第二…

『Y染色体からみた日本人』 中堀豊 (岩波科学ライブラリー)

→紀伊國屋書店で購入 ミトコンドリアDNAが母系で受け継がれるのに対し、Y染色体は父系で受け継がれる。ミトコンドリアDNA解析は過去10万年の人類の移動を明らかにしたが、正確には女性の移動なので、ヨーロッパ人のアメリカ大陸侵略のような男性主体の移動は…

『不純なる教養』白石嘉治(青土社)

→紀伊國屋書店で購入 『不純なる教養』は、フランス文学者の白石嘉治によって書かれた大学と思想をめぐるテクストをまとめた書物である。大学あるいは大学という運動、そしてその無償化を中心に、フランスの大学ストライキ、札幌・トリノの大学サミット、洞…

『監獄ビジネス-グローバリズムと産獄複合体-』アンジェラ・デイヴィス(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「監獄ビジネスの危険性」 グローバリゼーションの時代に、資本が国内市場で新たな市場を開発するための重要な手段の一つが、公的な領域で行われるべき業務を民営化することにあるのはよく知られていることだろう。 公共機関は、税金で…

『「私」を生きるための言葉』泉谷閑示(研究社)

→紀伊國屋書店で購入 「ゼロ人称集団という世間からの解放の書」 ユニークフェイス当事者と話をしていると避けがたい苦悩として、他者からどう思われているのか、という「とらわれ」がある。気にすることはない、といくら言っても効果はない。その人は、他者…

『世に棲む日々』司馬遼太郎(文春文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「幕末は面白い!」 フランス人が日本人より読書量が多いかどうかは知らない。ただ、こちらの書店を覗くと、いつでも歴史文学が置いてあり、歴史に対する関心の高さが分かる。日本でも歴史文学は常に一定の読者を持っているように思える…

『日本人になった祖先たち』 篠田謙一 (NHKブックス)

→紀伊國屋書店で購入 母系で伝えられるミトコンドリアDNAで日本人の成り立ちをさぐろうという本である。 この分野ではブライアン・サイクスの『イブの七人の娘』というベストセラーがあるが名著があるが、ヨーロッパ人に多い七つの変異型(ハプロタイプ)し…

『人類史のなかの定住革命』 西田正規 (講談社学術文庫)

→紀伊國屋書店で購入 縄文時代を人類学の視点から研究してきた碩学による論集である。原著は1986年に出たが、2006年に講談社学術文庫にはいっている。松木武彦氏の『進化考古学の大冒険』でも大きくあつかわれていたが、有名な本らしく、おもしろくて一気に…

『排除と差別の社会学』好井裕明・編集(有斐閣)

→紀伊國屋書店で購入 「私たちは差別の当事者だが、善意の第三者の演技をしているだけだ。」 障害学の研究会を、私が生活している浜松(静岡県)で立ち上げようと思っている。 障害をめぐる現実や言説を、社会学の視点で読み解き、差別や排除をなくすための…

総合ランキング途中経過 他

とうとう4月も下旬です! 以前から予告していた途中経過を、 ここに発表致します! ■ワールド文学カップ世界ランキング集計方法 参加している作品の売上冊数を文庫本1冊=1ポイント、単行本1冊=3ポイントとしてそれぞれの所属チームの得点を集計し、世界ラ…

『進化考古学の大冒険』 松木武彦 (新潮選書)

→紀伊國屋書店で購入 「進化考古学」とは聞きなれない言葉だが、著者流にとらえなおした認知考古学のことだそうである。もともとは発表を意図しない勉強ノートだったというが、論文と違って奔放というか連想のおもむくまま無防備に思いつきを語っていて刺激…

『先史時代と心の進化』 コリン・レンフルー (ランダムハウス講談社)

→紀伊國屋書店で購入 本欄では以前、ミズンの『心の先史時代』と『歌うネアンデルタール』をとりあげたが、認知考古学をより広い視点から見直すために本書を読んでみた。 著者のレンフルーはケンブリッジで長く教鞭をとった世界的な考古学者で、『考古学―理…

『シンプルな情熱』アニー・エルノー(ハヤカワepi文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「自己の被写体化、パッションの外在化」 出たときに読んでとても刺激を受けたが、なにに惹かれたのかうまくことばにできずに無念な思いがした本である。編集者や作家が集まっている場でこの作品の「特別さ」を主張したときも、だれも賛…

『ミクロコスモス ― 初期近代精神史研究第1集』平井浩ほか(月曜社)

→紀伊國屋書店で購入 「近代初期の思想の多彩な研究」 最近には珍しい作りの本だ。近代初期のさまざまな思想的な思想についての研究を集めて一冊にしたものであり、パラケルスス、デュシェーヌ、画家コペルニクス、ニコラウス・ステノなどの研究、さらに百科…

『「戦争経験」の戦後史-語られた体験/証言/記憶』成田龍一(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 本書は、「序章 「戦後」後からの問い」で問題提起した後、時系列的に4つの章に分けて、「戦争そのものだけではなく、帝国-植民地関係をめぐっての体験/証言/記憶についても、考察」したものである。4つの時代区分は、実際に戦争状態…

『マキァヴェッリの生涯―その微笑の謎』ヴィローリ,マウリツィオ(白水社 )

→紀伊國屋書店で購入 「実にヴィヴィッドに描かれた生涯」 マキアヴェッリの肖像画はたしかに、口元に皮肉な、そしてどこか悲しげな微笑を浮かべている。本書は、マキアヴェッリの生涯のさまざまな出来事と、彼の野心の蹉跌の歴史をたどりながら、その微笑の…

ブックレット掲載:最終回

前回から随分と間が空いてしまいましたが、 これが最後のブックレット掲載となります! 新宿まで来られない方々、大変お待たせ致しました! 最後は「日本文学代表選抜会」と「あとがき」、 そしてこれを作るため丸一日を棒に振った「索引」です! 冊子となっ…

売上ランキング:第三週

さあ、今週もこの時がやって参りました。 第三週のランキング発表です! 世界王者への道は長く険しく、 どの国が栄冠を手にするのか、 開催者も全く予想が立ちません! ■ワールド文学カップ世界ランキング集計方法 参加している作品の売上冊数を文庫本1冊=1…

『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』礒山雅(講談社学術文庫1991)

→紀伊國屋書店で購入 バッハ生誕から300年たった1985年に上梓された『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』が、このたび改訂された。著者の礒山は音楽研究の世界では誰もが一目置く存在だが、とりわけバッハ研究家として八面六臂の大活躍中だ。 原著は礒山にとって…

『No One Would Listen : A True Financial Thriller』Harry Markopolos(John Wiley & Sons)

→紀伊國屋書店で購入 「バーニー・メイドフのポンジ詐欺を見抜いた男の回想録」 僕の知り合いにユダヤ人の歯医者と結婚した女性がいる。彼らはニューヨーク州ロングアイランドにあるロズリンという町に暮らしている。 毎年クリスマスカードをやりとりするぐ…

『気候と人間の歴史・入門 ― 中世から現代まで』ル-ロワ-ラデュリ,エマニュエル(藤原書店 )

→紀伊國屋書店で購入 「スパンの長い歴史研究」 二〇一〇年の四月の半ばに、アイスランドの氷河の下の火山が噴火し、空に噴煙を吹き上げた。航空機が飛行する高さまで吹き上がったので、ヨーロッパの空からはほぼ一週間にわたって航空機が姿を消すことになっ…

円城塔先生がご来店!

紹介が大変遅くなってしまいましたが、 円城塔先生がワールド文学カップにご来店、 サイン本を大量に作って下さいました! 円城先生の作品は二作品が参戦中。 こちらは最新作の『後藤さんのこと』、 「Road to 2014現代日本」にエントリーしています。 文庫…

『サンパウロへのサウダージ』レヴィ=ストロース,クロード、今福龍太(みすず書房)

→紀伊國屋書店で購入 「レヴィ=ストロースの「郷愁」」 サウダージとはある特定の場所を回想したときなどに、「この世に永続的なものなどなにひとつなく、頼ることのできる不変の拠り所も存在しないのだ、という明白な事実によって私たちの意識が貫かれたと…

『せめぎあう地域と軍隊-「末端」「周辺」軍都・高田の模索』河西英通(岩波書店)

→紀伊國屋書店で購入 「軍隊が在駐している時に「軍都」は経済的に安定し、外征している時に「軍都」は危機に直面した」。つまり戦争のない平時に、多くの兵士をかかえる地方都市は、兵士の消費によってうるおうが、戦争になって兵士が戦場に行けば、とたん…

『この世は二人組ではできあがらない』山崎ナオコーラ(新潮社)

→紀伊國屋書店で購入 「センテンスの魔術師」 ゆるゆるの恋愛小説だと思ったら大まちがいである。 この作家は言葉にとてもこだわる。プロだなあ、と思う。下手すると小説であることさえ、二の次なんじゃないかというくらいまっしぐらに言葉に立ち向かってい…

『山のパンセ』串田孫一(岩波文庫)

→紀伊國屋書店で購入 「人にとって山とは何か」 先日休暇で地中海方面へ出かけた時に、なぜか山の本を持っていった。海を見ながら山について思いをめぐらすのも悪くないと思ったのだ。串田孫一を教えてくれたのは、自身も詩を書いていた文学少女だったが、も…

『技術への問い』M.ハイデッガー(平凡社)

→紀伊國屋書店で購入 「技術と科学の本質」 「技術への問い」は、ハイデガーが戦後の思想的な世界に復帰するきっかけとなった重要な講演の記録である。戦争責任を問われていたハイデガーが、一九五一年にやっと教職への復帰を認められた後、一九五三年にこの…

解説者による戦力分析:国書刊行会樽本さん

今回の「解説者による戦力分析」では国書刊行会編集部の樽本さんにお話を伺います。「未来の文学」や「短篇小説の快楽」といったシリーズで海外文学ファンの涎をだらだらと流れさせ続けている樽本さん。彼の選ぶベストイレブンは必見です。樽本さん、今日は…

『Son of Hamas』Mosab Hassan Yousef(Saltriver )

→紀伊國屋書店で購入 「イスラエルのスパイとなったハマス幹部息子の回想録」 ニューヨークで暮す者にとって9・11連続爆破テロ以降、中東の抱える問題は大きな関心事となってきた。 その中でも、パレスチナ問題は解決不可能にみえる問題でありながら、この問…

『ただいま おかえりなさい』作・戌井昭人 絵・多田玲子 (ヴィレッジブックス)

→紀伊國屋書店で購入 「ただいまと言ってページを開こう」 戌井昭人さんを初めて見たのは、東京・初台のLIVE-BAR The DOORS に「ボヘミアン・カフェ 〜ケルアック・トリビュート・ビートニク・2001〜」を聞いた日だ。ムロケンさん、ロバート・ハリスさん、ビ…