書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

プロの読み手による書評ブログ

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

飯田芳弘『忘却する戦後ヨーロッパ』(東京大学出版会)

Theme 8 忘れることで生まれるもの www.kinokuniya.co.jp 政治学は「過去の忘却」を考察してこなかった、それはおもに歴史学や文学が担ってきた、というのが意外だった。戦後のヨーロッパで、民主主義体制に移行するさいに独裁や内戦の過去を忘れる「忘却の…

ダニエル・ヘラー=ローゼン『エコラリアス』(みすず書房)

Theme 8 忘れることで生まれるもの www.kinokuniya.co.jp Echolalias=谺(こだま)する言語、反響言語。それ自体としては姿を消し、忘れ去られた言語がテーマである。読者は10ヵ国語に通じたポリグロットの著者に誘われ、言語哲学、文学、神話、宗教学など…

マシュー・レイノルズ『翻訳 訳すことのストラテジー』(白水社)

Theme 5 未知とのコミュニケーション www.kinokuniya.co.jp 「ブラック・ライヴズ・マター(Black lives matter)」の訳をめぐり「黒人の命も大事」なのか「黒人の命は大事」なのか、議論があった。保守派のいう「すべての命が大事」とセットになるのはどち…

木村大治『見知らぬものと出会う』(東京大学出版会)

Theme 5 未知とのコミュニケーション www.kinokuniya.co.jp 正直なことをいえば、SFというジャンルがすこし苦手です。世界観の設定でさまざまな疑問が湧いてきて、作品に入り込むことができないことが原因ですが、その最たるものが、人知をはるかに超えた地…

マージョリー・シェファー『胡椒 暴虐の世界史』(白水社)

Theme 3 一粒から拡がる世界の歴史 www.kinokuniya.co.jp 対する『反穀物の人類史』が、古代の農業革命に直面した狩猟採集民は穀物の軛から何とかして逃れようとした、というお話なら、こちらは、時は大航海時代、欲にかられた貿易商人たちがピリッと辛い黒…

ジェームズ・C・スコット『反穀物の人類史』(みすず書房)

Theme 3 一粒から拡がる世界の歴史 www.kinokuniya.co.jp 本書のタイトルを目にして連想したのは、『サピエンス全史』にあった、本来人間は穀物食をするようにできてはいないという話だった。実際、本書で出会う数々の驚きのなかに、なぜ多くの地域で穀物が…

宇野重規『未来をはじめる』(東京大学出版会)

Theme 1 他者とともに生きる www.kinokuniya.co.jp 「誰でも、何でもいうことができる。だから、何をいいうるか、ではない。何をいいえないか、だ」。本書を読んで、この長田弘さんの詩を思い出しました(「魂は」『一日の終わりの詩集』みすず書房)。正直…

カス・ミュデ、クリストバル・ロビラ・カルトワッセル『ポピュリズム』(白水社)

Theme 1 他者とともに生きる www.kinokuniya.co.jp ポピュリズムは、需要と供給があるときに初めて力をもつ。この本で強く心に響いた箇所だ。ポピュリストという「供給者」がいるからポピュリズムが蔓延する。そう思い込んでいた。じつは「需要」すなわち人…

ウィリアム・マッカスキル『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房)

Theme 1 他者とともに生きる www.kinokuniya.co.jp 私たちはいま「効果的」という言葉にとても敏感だ。この予防法は、この支援活動は、この政策はほんとうに効果的なのか、という疑いをたえず抱えながら、世界各国の対応から身近な行政の一挙手一投足にまで…